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ある朝ツン過ぎる妹が急にデレ始めたので、幼馴染と後輩に相談したら(※物理的に)修羅場になったんだけど!?  作者: 雲雀湯@てんびん2026年アニメ化決定
第4章

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第88話 変わる距離感

今回から新章始まります。



 今日はとても天気がいい日だ。


 あの騒動から数日、"獣"絡みの事件と共にジメジメしていた梅雨が明け、空は雲一つ無い晴天。気分もどこか清々しい。

 太陽も張り切っているのか、制服のシャツも汗ばむ陽気だ。


 昼休みの中庭には、待ってましたとばかりに日差しに誘われ出てきた人が多い。


 ここのところ雨ばっかりだったしな、皆も外に出たくもなるのだろう。


 俺もそんな太陽に誘われて中庭に出てきた1人だ。


 手には購買1番人気のカツサンドとパックのミルクティー。

 この青空で食べるお昼は、さぞかし美味しいに違いない。

 買う時、何故かモーセの如く人波が割れたのが気になるが……あ、うん。パシリとかいらないから。そういうの求めてないから。


 とにかく、今日のお昼は俺1人だった。

 それがなによりも、俺の開放感を高揚させていた。


 別に小春や美冬、夏実ちゃんが嫌だとか、そういうわけじゃない。


『お兄ちゃん、お昼どうする? 学食?』

『大橋さん! 学食の席は既に良い場所を5箇所キープしています! 押忍!』


『あきくん、購買で限定の海老カツサンドが入ってるんだって~』

『おい、お前ら! 死ぬ気で海老カツサンド入手してきやがれ!!』


『先輩、今日はお弁当っすか?』

『誰か学校に掛け合って、静かに食べられる空教室に校長室のソファー借りて来い!!』



 だって最近、こんなのばっかだったし……

 一体俺が何をしたというのか。


 ともかく、たまに一人になりたくなる時ってあるだろう?


 ちなみに小春は教室へ顔を出しに来たが、咲良ちゃんと宇佐美さんの後輩にどこか連れていかれた。夏実ちゃん達は昼練で、美冬も会合があるらしい……会合って何だ? 深くは考えまい。


 ま、いいや。


 空いてるベンチに腰掛けて、鼻歌混じりに包みを開ける。

 いただきますと頬張れば、ふわふわのパンとさっくりとした衣、冷めても美味しい分厚いカツが口の中に広がる。ソースはちょっと濃い目だ。


 うん、美味い!


 このクオリティとボリュームで180円は、納得の人気だ。


 中々入手できないのが欠点――


「えっとね、今日はお弁当作ってきたんだ。はい、あ~ん」

「ちょっと恥ずかしいな、あ~ん……って卵焼きに殻入ってらぁ」

「え、うそ?! ごめん……って、食べちゃったの?!」

「カルシウム足りてないし、丁度いいや」

「もぅ、馬鹿」


 ……


 うん、久々の天気だもんね。

 カップルのテンションも上がっちゃうよね。


 よくよく見れば他にも何組か似たような光景が広がっている。


 なんだか1人だと、何となく居心地が悪い。


 いやまて、別にカップルばかりがいるわけじゃない。

 ほら、あそこなんか男だけの集団でむさ苦し――


「おい、元気出せって!」

「女子なんてあの子以外にもいっぱいいるしさ」

「よし、今度の週末カラオケでも行って叫ぼうぜ、おごるよ!」

「そこで全部吐き出して、すっきりしちゃえ!」


 ……


 ああ、うん。青春だね。

 何があったか大体想像がつくというか……べ、別に男同士の友情が羨ましいとか思っていないし!


 ほ、ほら向こうには女子のグループが――


「ほら、あの人って美少女3人侍らしてる……」

「ちょっと、やめなよ! 目が合うだけで妊娠させられちゃうよ!」

「女子だけじゃなく、一部男子も絶対服従させてるとか」

「やだ嘘、そっちも?!」


 ……


 ああ、うん。傍からそう見えちゃうかもね。

 違うから。侍らしてなんかないから。俺はごく普通の一般男子だから。


 何も中庭に居るのは知らない人ばかりじゃない。

 ほら、あそこに柔道部員が――


「大橋さんが1人だけど、傍に誰か仕えてなくていいのか?」

「バカ、空気を読めって! どう見ても何か思案を巡らされている状況だろう?」

「す、すまん。そうだな、きっと今後の計画について考えていらっしゃるに違いない」

「きっとオレ達凡人には思いも寄らないことをな――だから、その邪魔をしてはいけない」

「そうだな……あ、こないだ言ってた画集持ってきたぜ」

「マジか! 楽しみにしてたんだ、昭和ブルマー史大全・完全版!」


 あ、はい。何も考えてないですけど!

 ていうか計画って何それおっかない。

 一体俺を何だと思ってるんだ?


 ははっ、おかしいな……このカツサンド随分しょっぱいや。


 別に悲しくなんてな――


「秋斗君、隣は空いているかい?」

「っ?! たっ……じゃない、結季先輩。えぇ、空いてますよ」

「ふふ、じゃあ失礼するよ」


 中庭で1人浮いている俺に話しかけてきたのは結季先輩だった。


 先日、名前で呼んでくれと言われたことが頭をよぎる。

 あれはどういうつもりだったのだろう?


 どことなく機嫌の良さそうな表情で、俺の隣に座ってきた。

 手を動かして、互いの肘が当たるか当たらないかの微妙な距離だ。

 思ったよりも近い距離感にドキドキしてしまう。


 結季先輩といえば文武両道、容姿端麗、その上名家のお嬢様という学内で知らぬ者がいない有名人だ。

 俺はといえば小春や美冬、夏実ちゃん達に加え、群れとかいう連中のおかげで不本意ながら有名人だ。


 そんな結季先輩と2人でいると、それはよく目立つ――悪い意味で。


 ほら、今も周囲から「ついに龍元先輩も毒牙に」「いや龍元先輩がハーレム野郎を窘めているんだ」とか興味津々の囁き声が聞こえる。

 まったくの誤解だというのに。小心者の俺としては、周囲の視線や声が気になって仕方がない。


「……? どうかしたのかい?」

「いえ、別に」


 流石と言うべきか、結季先輩はそんな視線を気にしていない様子だった。

 人に見られるのに慣れているのだろう、堂々としたものだ。


 取り出したのは、飾り気の無いお弁当箱。その中身は鮭の切り身に卵焼き、里芋の煮物にヒジキ。

 お嬢様と言う割には質素で、だが質実剛健といった感じが、結季先輩のイメージに不思議と似合っていた。

 小さな声でいただきますの合掌の後、綺麗な所作で口に運んでいく。


 それは随分と上品で、絵になる光景だった。


 思わず見惚れてしまったのは俺だけじゃないようで、周囲の視線や声は感嘆したものに変わっていた。


 なにこれ凄い。

 ただお弁当を食べただけなのに、周りの空気を変えてしまうなんて。


 ……


 あれ?

 昔、これと似たような事があったような?


 小学生の頃、買い食いしたおやつか何かでアイツが――


「そういえば"獣"と銀塩が壊滅したにも関わらず、街の治安と経済の状況があまりよくないらしい」

「へ?」


 既視感めいたものの正体を探ろうと記憶の引き出しを漁っていたら、突如話しかけられて変な声が出てしまった。


「どうやら裏社会を纏め上げていた組織が潰れたことによって、外部から新規のそういった組織が街へと流――」

「は、はぁ」


 どうやら、街の事情について話してくれているようだ。

 一応、"獣"や銀塩とは全くの無関係というわけじゃないが……詳細を説明してくれているが、正直俺にはよくわからない。だって、いつの間にか収束していたし。


 う~ん、困ったな。

 話してくれても知らない事だらけで、生返事で返すことしか出来ない。

 ほら、そんな俺の表情を読み取ったのか、結季先輩もどこか困った顔を――


「……ごめんなさい」

「え?」


 何故か謝られた。

 悪いのは話を理解していない俺じゃ?


「こういう時、友人とどういう話を……その、共通の話題といえばこれしか知らなくて……うぅ……」

「っ!」


 そう言って恥ずかしそうに俯き、まつげを震わせた。

 幼子がどうしていいかわからないといった様子に似ている。


 だが何より、友人だと言う台詞が胸に刺さった。


 なるほど、きっと名前で呼んで欲しいと言ったのは、そういう意味だったのだろう。


 結季先輩といえば真性のお嬢様だ。

 良くも悪くも周囲から一際浮いているところがある。

 今まで友人らしい友人が居なかったのだろう。


 何故俺が? という思いはある。

 だけど、まるで迷子の様に不安げな様子の結季先輩をこのままにしておくことは出来ない。


 しかし残念ながら、俺は女子と話すことに慣れていない。

 小春は実妹、美冬はほぼ身内、夏実ちゃんは近所や親戚の小さな子という感じだ。

 だから、こういう時なんて声を掛けていいかわからない。


 自分の経験値の低さが恨めしい。



「すまない、つまらない女で……ははっ、迷惑かけ――」

「別に、何も話さなくてもいいんじゃないかな?」

「――え?」


 気付けば、そんな事を言っていた。


「いや、ほら。無理して話をしなきゃならないって事はないでしょう? 友人ならさ」

「秋っ、斗、くん……ッ!」


 そうだ、似たような事が昔もあった。

 そいつはよく喋るくせに、どこか怯えてる節があった。


『たまには何もせずボーっとするのもいいもんだよな』


 無理して話さなくても、居心地が悪くならないのが友達だ。

 アイツにそんな風なことを言った覚えがある。


 ()は今頃何をしているだろうか?


「キミは時々ズルイね」

「へ? どういう……」

「秋斗君はアキト君ということさ」

「むぅ??」


 結季先輩はそんな事を言い、形の良い眉の端を下げながら俺の顔を覗いてきた。

 それは俺の中の何かを見定めるようで、それでいて無邪気な瞳だった。


 どういうつもりでそんな事をしているかわからない。


 だが俺にとって、綺麗な顔をした美少女に見つめられている事実は変わらない。

 唯でさえ女子に慣れていないのだ。

 結季先輩に無防備に見つめられるとドキドキしてしまい、どうして良いかわからない。


 自分の異性経験値の低さが恨めしい。


 さっき言った台詞はどこへやら、必死に何か話題が無いものかと思考を巡らせる。


 共通の話題、共通の話題……


「あ、そういえば、小春と何かあったんですか?」

「小春君とかい?」

「最近、やたらと結季先輩の事を気にしているようでして」

「うぅん、彼女にはちょっと恥ずかしい姿を見せてしまってね……」


 そういって、頬を赤らめて恥ずかしそうに目をそらす。

 小春とまた何かあったのだろうか?


 二徹で倒れた日から、何故か小春の口に上ることが多くなったのだ。

 話題を振られても、よく知っているわけでもないので困るのだが……


「小春君はね、私に本気でぶつかってきたんだ。私を龍元家の人間だとか、そういう事とか関係なく、真っ直ぐに懐に飛び込んできて、そして胸を抉るほどの言葉と共に……ははっ、そして醜態を晒してしまったよ」

「そう、ですか……」


 あれ、どうしてだろう? きっと話し合いとかのはずなのに、小春が拳を構えて襲撃する姿しか想像できないのだが……


 ははっ、困った妹だなぁ。


「やはり、秋斗君と兄妹だなって思ったよ」

「ええっ?」

「彼女に教えられたよ。自分を誤魔化すのはよくないって。だから、その……ッ」

「ゆ、結季先輩……?!」


 結季先輩はぐいっと身を乗り出し、肩を震わせ必死の表情だ。

 どこか幼げな印象を受け、可愛いなんて思ってしまう。


 やばい。


 この距離感はやばい。

 何度も言うけれど、俺は女子に慣れていない。

 予想もしてなかった行動に、頭の中が真っ白になっていく。


「今はその……だけどいつかキミに聞いて欲しいことがあるんだ」

「えっと――」


「――何やってるの、お兄ちゃん? それに先輩?」


 そこには夜叉の如き様相をした(小春)が居た。


 まるで浮気現場を発見した彼女のような形相だ。

 いや、誰とも付き合った事無いから想像だけど。


「小春、咲良ちゃん達と一緒だったんじゃ?」

「こんな目立つ事されたら、話どころじゃなくなったわ!」


 校内でも人気の結季先輩と悪目立ちしている俺が中庭で2人……なるほど、それはよく目立つだろう。

 話を聞きつけてやってきたのだろうか?


「だとしても、キミには関係ない事じゃないかな?」

「へぇ?」


 ゴォッと、冷気が周囲を駆け抜ける。

 汗ばむ陽気はどこへやら、冷やりとした汗が背筋を伝う。


 あの、結季先輩? 焚き付けないで?


 俺は何かを誤魔化すかのように、ミルクティーを呷った。


 ――塩味がとても利いていた。


3章は長すぎた感じがしたので、4章は軽めにしたい……と思いつつ、本筋を外れた書きたいネタがいっぱいあったり。

今章もまた、お付き合いお願いしますね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] たぶん、今回が初めての感想だと思う。 この小説、最高! 面白い!
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