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第82話 6.17騒動⑤~龍虎相対~前半 ☆龍元結季視点

ファンタジー作品を書いている火乃虎様からレビューを頂きました! ありがとうございます!


今回は地元名家のお嬢様、龍元結季視点です。


 その男の子は、()からちょっと変わったところがあった。


 そしてあの頃、『私』は『ボク』だった。



『あなた、どうして?!』

『うるさい! お前が男児を産んでいれば!』


 当時、私の家庭は完全に崩壊していた。

 両親というのは罵詈雑言と失望した視線を、私に向けるだけの存在だった。

 息苦しかった。窒息しそうだった。


 唯一、 屋敷を抜けて出して()と遊んでいる時だけが安らぎだった。

 それが現実逃避だとわかっていたとしても……


 彼と一緒にいる時間は楽しかった。全てを忘れられた。それは確かに癒しの時間だったのだろう。


 その男の子は、当時からちょっと変わっていた。

 時折強引な所もあった。


『なぁユーキ、ちょっと気になるところがあるんだ。一緒に来てくれよ!』


 その時も、無理矢理手を引いて連れてこられた。

 たどり着いたのは田んぼ等で使う用水池。

 もしもの事故を危険視されて、学校などでは近寄らないようにと言われている場所だ。

 当然、フェンスや柵で覆われている。


 一体ここに何が……?


『見ろよ、あそこ』

『あ!』


 フェンスが一部が何かがぶつかった様にひしゃげ、子供なら易々と通れそうになっていた。

 確かにこれは気になる。早く何とかしな――え?!


『ふんぬぅううぅうぅううぅっ!!!』

『何をしているんだい、アキト?!』

『こんな歪んでたらダメだ! ユーキ、手伝ってくれ!』

『む、無理だよ! 大人にだって無理だ!』


 アキトは骨組みからすっかり歪んでしまったフェンスを、無理やり力づくで直そうとしていた。

 その表情は必死だ。本気で戻そうとしている。

 誰かが事故に会うのを危惧しているのだろうか?


 自分の事ばかりのボク(・・)と違ってアキトは……

 1つ年下の少年は自分より随分と大きく見えた。


『くそう、この歪みが気になってしかたがない!』

『ボク達子供には何にもできないよ……あきらめよう?』

『大人になったら何とかできるのかな? 大人……大人って何だろう? 飲むふくしを苦いとか思わず飲めるようになることかな……』

『それは……』

『ちくしょうっ!』


 アキトは自分の無力さが嘆かわしいとばかりに地面を打つ。

 その気持ちはよく分かった。


 自分ではどうしようもない事がある。


 生まれとか、両親の事とか……


『あきくん、じちかいの人とかしやくしょ? に電話したらね、きけんだから見にきてくれるって』

『えっ?!』

『えへへ』


 その子には見覚えがあった。

 もさもさの髪に大きな眼鏡。手には携帯を持っている。

 よくアキトと一緒に来ている地味な女の子だった。


『りようできる力や権力はつかわないとね、これからはじょーほーがモノをいう時代だよ、あきくん』

『おう、よくわからないがでかしたぞ、みふゆ!』


 くしゃくしゃと、アキトが女の子の頭を乱暴に撫でる。

 随分と仲が良さそうだ。


 仲が良い男の子と女の子……

 それを見て複雑な気持ちになる。

 両親も元は幼い頃からの知り合い――幼馴染だったという。

 それが今では……



 ――男女の間で友情なんてない



 父が良く言い聞かせてきたセリフだ。

 その意味は今でもよくわからない。


 アキトの前の『ボク』が『私』だったら――

 想像をめぐらすと、言い知れぬ恐怖を感じたりもした。


 アキトはそんなんじゃない!


 そう否定したくて心が叫んでいた。

 だけど――


『だけど、歪んだのをもどせないとモヤモヤする。こーえんの砂場に行ってわざと歪んだ城をつくって直そうぜ!』

『アキト、それに何か意味はあるのかい?!』

『あぁ~まって~、あきく~ん』


 アキトには人を引き付ける何かがあったと思う。

 先ほど電話してアキトを助けた女の子もそうなのだろう。


 他にも、今みたいに突拍子もない事を言いだすこともあった。

 だけど不思議とそれに惹き付けられ、付いて行ってしまう。


 そして見てるだけの周囲を巻き込み――


『おーい! そこで見てるだけじゃなくて一緒にあそぼう!』

『え、えぇ~あんちゃんこのいびつな城、どうすればいいの?! え、なおす?!』

『わ、わたしはみてるだけで……』

『うふふ、じゃあ女の子ぐるーぷはあたしと泥団子作っておままごとしよ? あたし、うわきして夫をねとったどろぼうねこやくね「おくさん、あのひとはあたしにむちゅうなの、わかれてください」』

『え? え? え? あんちゃんたすけ――』

『みふゆ、ほどほどにな~』

『は~い「かれはわたしにむちゅうなの、おばさんなんてきょうみないって」』

『ふ、ふぇぇ』


 ――いつも人が集まっていた。


 ボク(・・)の、()の周囲にも人はいた。

 だけど、彼とは全然違って……


 だから、強烈に憧れた。親友であることが誇らしかった。たとえ歪な友だとしても。


 アキトから離れていったのは、父に言われたからだけではなかった。

 自分を偽り隠している歪な己に、ボク(・・)が耐えられなかったからだ。


 後悔はある。

 あの時、全てを告げていたらどうなっていただろう?


 きっと秋斗君のことだから――




 ――――



 ――



「お嬢様は最近はよい顔をなされるようになった」

「仙じい」


 過去を思い出してぼーっとしていた私に、痩躯で眼光鋭い老人が話しかける。

 だが表情と裏腹に、その声色は優し気だった。

 仙じいは戦前から龍元家に仕えてくれている、信頼できる人物の1人だ。


 他にも御庭番衆や宍学柔剣道部の精鋭が一緒だ。


「美冬嬢からの連絡で電子ロックは解除され、拳帝の孫娘からの連絡で運搬中の薬物、爆発物を押さえたとのこと」

「そうか、万事順調。後は私たちだけか」

「いやはや、それにしても凄いですな」

「そう、だな」


 私たちは今、宍戸の地下百数十メートルにまで潜っていた。

 目の前にあるのは鋼鉄製の分厚い扉。

 本当か嘘か、かつて東西冷戦時代に作られた大型シェルターの跡地だという。


 どうやらここで秘密裏に"獣"が生産されているらしい。


「これほどのものを我ら御庭番衆の目を掻い潜り、こしらえていたとは」

「だが、見つけてしまえはこちらのものだ」

「よろしいので? 後はお嬢様が出張らずとも、警察などに任せても良いのですぞ?」

「いいや、それじゃダメだ……秋斗君が倒れるまで急いで調査していたんだ。彼らに任せる間に手の届かないところに逃げてしまうに違いない」


 だからこそ、あんな無茶をしたんだろう。


 くっ。


 もし私が……ボクがユーキだったら相談してくれただろうか?


「ロック解除確認、開きます!」

「……おお!?」

「これは……ちょっとした工場だな」


「待ってたぜぇ、案外早かったな!」


 しかし、秋斗君も秋斗君だ。

 ボクがユーキだっていうのは分からないのは仕方ない。

 しかし何も一人で全てやろうとしなくてもいいんじゃないか?

 秋斗君が声を掛ければ一緒に行ってくれる人はいっぱい居たはずだ。


 わ、私だって言ってくれれば……


「案の定待ち伏せか!」

「あいつ豪傑熊……軍隊格闘術のプロフェッショナルにして凄腕の暗殺者!」

「くっ、他にも数も多い!」

「って、お嬢様?! そんな無防備な!」


 そもそもだ!

 昔から強引で一人で突っ走ることも多かった!

 特に、納得できない事とか曲がったもの(※主に物理的なもの)を見つけたら周りを見やしない!


 そ、そこが秋斗君の良い所だし、そういう性格だから皆も付いて行くんだろうけど、うぅぅ……


「お嬢ちゃん、そんな玩具振り回して危ないぜぇ?」

「こいつもしかして龍元のお嬢様じゃないか?」

「オイタするお嬢様には俺達が教育してやらんとなぁ」

「こんなところまで来るお嬢ちゃんが悪――へぶっ?!」

「なにしやが――おばっ?!」


 とにかく、秋斗君が起きたら一言びしぃって言わないと!

 周りをもっとよく見て、頼れって!

 あ、でもそれは私も人の事言えないか……


 だけど! だけどだけど、うぐぅぅ~っ!


「お嬢様?! 一人で全員の相手を?!」


「舐めやがっ――あばばっ!」

「こいつ、つよ――うげぇっ!」

「この豪傑熊が相手――ひぎぃっ?!」

「ちょ、やめ! 降さ――ぎゃぁあっ!」


 そ、そうだ!

 今回に関しては倒れるまで頑張った秋斗君が悪い。

 年長者として叱らなきゃね、うん!

 それに、秋斗君の代わりに色々片付けたんだ。ちょっとは褒めてくれるだろうか?

 ほら、その、妹君や幼馴染の子達やペットにやってるみたいに頭をなでなでしてくれても別に構わな――


 きゃーーっ!! きゃーきゃーきゃーっ!


 頭なでなでか! 秋斗君に!

 そ、想像しただけでその……っ!

 わ、私の方がお姉さんだぞ?!

 それをっ――


「お嬢、もう十分です! 相手は完全に白目向いて気絶しています!」


「や、やっぱダメだ!!」


「お嬢ッ?!」


 とにかく、ここを制圧するのが先だな!

 終わらぬうちからご褒美を考えるなんて、捕らぬ狸の皮算用だ。


 よし、気合を入れなおして――あれ?


「お嬢様、まさかペンライト1本で……」

「豪傑熊に獣兵団30人を一人でだと?!」

「しかも情け容赦ないな……」

「さすが武門の名家龍元の血筋……」


 目の前には流血し、倒れている男達。

 1人はわかる。裏の世界で有名で、要注意人物とされていた豪傑熊だ。


 さっき騒がしかったから、準備体操代わりに運動したと思ったが……


「ほっほ、お嬢様、また一段と腕を上げられたな。その雄姿、しっかりカメラに収めさせていただきましたぞ」

「仙じい!」


 仙じいは昔から事あるたびに写真を撮る癖がある。

 孫の成長を記録するような感覚なのだろう。


 くぅっ!

 撮られるのはいいけれど、意識が完全に外だった。

 変な顔を撮られてないだろうか?


「ど、どんなのを撮ったか見せて欲しい!」

「お嬢?! 今まで気にした事なかったのに……まさか?!」


 もし不細工な顔を取られて秋斗君に見られでもしたら――

 あれ、仙じいの顔が物凄く穏やか……涙?!


「だ、大丈夫でございます、お嬢……ッ! どれも……どれも凛々しく、そしていつもより可憐でございま……そう……そういうことじゃったか……っ!」

「仙じい?!」

「大人に……いや、その心が女子(おなご)になられて……」

「な、ななな何を言って!」


 予想外の仙じいの反応にこちらが戸惑ってしまう。

 くっ、他に誰か……って御庭番の面々もしたり顔?!


 ど、どういう――




「ここにいたのね」


「え?」



 シュッ、パンッ!


 突然の出来事だった。

 一人の少女が現れたと思えば、鋭い打撃を私に打ち放ってきた。

 それを間一髪で受け止める。


 ……いいパンチだ。受け止めた手が痛い。


 クリッとしたツリ目勝ちにスッキリとした鼻筋は可愛いと言うより綺麗な感じ。

 手足もスラっとしていて、そのくせ胸は(私と違って)随分大きい。


 私から見ても美少女だと思う。


「何のつもりだ、大橋小春!?」


 その少女は秋斗君の妹、大橋小春だった。

 一体何故……?


「小春様、龍元先輩に何を?!」

「小春嬢、お嬢様に何を?!」


 周囲の面々も動揺して、様子を伺っている。


「わたしはね、ずっとお兄ちゃんを見てきた。その周囲も見てきた」


 俯き、そして拳をぷるぷると震わせる。

 まるで重大な秘密を告白するかのように見える。

 一体、急に殴りかかって来てどういうつもりなんだ?


「今の私ならわかる……皆、1つの目標を見ていた。何のために動くかの視線は一緒だった。だけど――あなただけは違う」

「何をっ?!」


 私だけが違う……どういうことだ?


「龍元結季、あなたは――歪みが漂っている」


 そういって、大橋小春は拳を構えた。


次回も楽しみにしてね!

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