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第81話 6.17騒動④~虎の爪牙VS餓狼の群れ~後半 ☆星加流視点

前回に引き続き、鎌瀬高の狂犬にして期待の新人格闘家星加流視点です。


 そいつはまさに黒い巨獣だった。


 人というにはあまりに大きすぎた。

 鍛え上げられた筋肉は分厚く、そしてどこか大雑把だった。

 ブーメランパンツの様にぴちぴちのブルマーのみを穿き、そして顔を見られるのが恥ずかしいとばかりにブルマーを被っていた。


 だからそいつは――紛うことなく変態だった。

 むしろそんなものを被ってる方が恥ずかしくないか?!


「あ、アイツは……ッ?!」

「主将、何か知っているのか?!」

「ブルマーの股下、下着ならクロッチ部分が丁度鼻にくるように被っている!」

「なんだと?! なんてスタイリッシュなんだ……ッ!」


 そしてオレの周囲も変態だった。

 彼らのファッションセンスは理解できなかった。



「おいおい、不意打ちかよ」


「「「「なっ?!」」」」

「Uh huh」



 壁にまで吹き飛ばされた爪牙の虎太郎が、ゆっくりと起き上がる。

 やれやれと言った様子で砂埃を払う様は、まるでダメージを受けた形跡が無い。


 マジか……アレを食らって無傷だって?!



「くく、遊んでやるよ、変態」

「Okay」


 巨獣と対峙した爪牙が、構えを見せる。

 若の時には構えさえ見せていなかったというのに――


「オラァッ!」

「WoOoOOuuUoOoOO!!」



 スパパパパパァン!


 大きな乾いた音を立て、巨大な質量同士のモノがぶつかり合う。

 目に見えぬ速度で繰り出される爪牙の拳は、まるで機関銃をもった突撃兵だ。

 それらをまともに受けながら、大砲の如き反撃を放つ黒き巨獣は動く要塞さながら。


 これは砦を攻める者と守る者の闘争であり、幾多の常識外の拳戟が飛び交うそれは、まさしく戦争だった。


 なにあれおっかない。

 一撃かすっただけでも骨折するんじゃねぇか?



「ははっ! この技のキレ、そして力! わけがわからねぇ、だが今までの比じゃねぇ!! オラオラオラ、まだまだいくぜぇえぇっ!!」

「HuuooOooOOuuUUuu!!!」


 ブルマー仮面は善戦していた。


 だが着実にヒットさせてダメージを与える爪牙と、大振りで当たらないブルマー仮面の攻撃。

 防戦一方というのは否めなかった。

 このままだと若の時同様、押し切られるかもしれない。



「くっ、すごい!」

「ブルマー仮面を援護したいが……」

「あの中に飛び込むなんて、逆に足を引っ張りかねん……」

「オレ達はただ見ているだけしか出来ないっていうのか!」


 皆もそれがわかっているのか、遠巻きに見ているだけだった。


「ブルマー仮面……彼との出会いは宍学との試合、夏実様と出会った日の帰りの事だった」

「主将、何を?」


「彼はまるで捨てられた子猫の様に、雨の街外れで小さくなっていた」

「その日は晴れてたよね? あとそんな可愛いもんじゃないよね、あれ?」


「まるで脱獄犯の様に警戒心も露なアイツは、ナツミサマコワいとその巨体を小さくして呟き……どうしても他人と思えなかった」

「それ脱獄じゃないの? 警察に連絡した? あと変なシンパシー感じないで?」


「色々あってブルマーの力に目覚めた彼は、共に夏実様に忠誠を誓う同志になったのだ!」

「色々って何だよ?!」


 ダメだ!

 主将の言ってる事がまったくわからん!


 ほら、他の皆もわけが――


「くっ、わかるぞその気持ち!」

「ブルマーを出されたらわからざるを得ないッ」

「だが、わかるだけに悔しい……」

「ブルマー仮面を見ているだけしか出来ないなんて!」

「せめて、この声を届けるんだ……ッ!」


「「「「負けるなブルマー仮面ーっ!!!!」」」」


 ――わけがわからない反応をしていた。まるでヒーローショーを見る幼児たちの様な、純粋な声で応援していた。

 もしかしてオレの方がおかしいの? ねぇ?!


 そして声援を受けたブルマー仮面は、ニヤリと笑う。



「オマエは確カニStrongダ。シカシ、オマエは1人ダ。Zeroだと言ッテもイイ……ソウ、カツテのオレのヨウニ」

「何を?」

Pack(群れ)ヲ知ッタ! ナツミ様ヲ知ッタ! オレはモゥ1人ジャナイッ!!」


 そう言って距離を取ったブルマー仮面は、無防備にも両手を挙げ奇妙な構えを取る。

 おいおい、それじゃ簡単に追撃を……って、何だあれ?!

 身体から黒い煙?! いや、オーラ?!






「届ケ、コノ思イ! Great Howling!!!」

「ぐっ、ぅおおぉおおおおぉおぉおぉっ!!」






 それは黒い野獣――いや、狼だった。

 可視化したオーラが獲物をよこせとばかりに、爪牙の虎太郎に襲い掛かる。


 なんだよ、それ?! 何の手品だ?!


 爪牙は堪らず両手を交差しガードをするが……服があちこち破れ、その衝撃の大きさを物語っていた。



「久々に見たぜぇ、遠当て使いとはなぁあぁ!」

「無理スルナ、足にキテるダロウ?」

「はっ! 抜かせ! 気が減ったお前ほどじゃねぇよ!」

「Do you try it?(ためすか?)」



 いやいやいや。

 遠当てって。

 そんな言葉で片付けられるような現象だったか?!



「遠当……触れずに倒す武道の深奥」

「そういや夏実様や小春様がたまに、気のようなものを漏らして……」

「だけど、さっきので気が減ったと」

「ああっ、ブルマー仮面がっ?!」


 再度繰り広げられた会戦は、終始攻め手側の旗色が鮮明だった。

 ()が減ったブルマー仮面は、どこか精彩を欠いていた。


 まずいな、このままだと――


「なら俺たちの気をブルマー仮面に届ければ良い!」

「一体どうやって?!」


 突如、主将がそんな事を言った。


「届ける方法は――ある!」

「それは一体……ッ!」

「教えてくれ、主将!」


「歌だ!」


「「「「何だって?!」」」」


 本当、何を言っているんだ?


「俺たちの思いを歌に乗せるんだ!!」


「そうか、普段訓練中に歌ってるあれなら!」

「ああ、厳しい訓練も力が沸いて乗り越えてきた!」

「共に歌いあったからこそ、その心は届く!」


「さぁみんな! 立ち上がり歌うときは今だ!」


「「「「うぉおおぉぉおおおぉおぉんっ!!!!」」」」



 あの、みんな何を言って……








 ★☆ Striking Bloomer Hearts ☆★


 作詞・作曲♪ 綿毛☆らいおん

 歌♪:夏実様親衛隊一同♪


 紺色の思い 臀部に纏い

 滾る思いを 拳に乗せて

 その一撃は 主のために

 いざ進め ペットと認知される日まで


 Your Highness, Summer berry 萌え上がれ

 熊と虎は 私のお姉様

 繰り出すおみ足 岩をも砕く

 なによりも尊い ストンピング(我々にとってご褒美です!!)


 濃紺ブルマー 機能性重視

 臙脂ブルマー 魅惑のライン

 夏実様ブルマー たまらんです




 黒き衝動 腿まで覆い

 隠れるフェチズム 想像膨らむ

 ブルマーもいいけど スパッツも捨てがたい

 だけど首輪は外せない 想いを鎖で縛り付けて


 I'll follow you, Summer berry 胸の奥

 仲間(群れ)と共に 思いを乗せて

 振りぬく拳 常識すら砕く

 気合が入る スラッピング(ありがとうございます!!)


 濃紺ブルマー パンチラ防止

 臙脂ブルマー 秘密の花園

 夏実様ブルマー 公式写真あります!



(セリフ)

 例え社会的信用を失ったとしても、決して諦めはしない!

 この街に夏実様を仰ぐ群れの心がある限り

 萌えあがれッ! 浪漫のッ! たましいぃいいぃいぃい(※このへん裏声)


 説明しよう! 餓狼達の群れで訓練を積んだ同志達は、夏実様の下で心を1つにあわせることによって己の潜在能力を何倍にも引き上げることが出来るのだ!


 うぅぉおおおぉおおぉおおぉっ!!!

 ラィズァーーップ、ブルマァアアアァァアァー!!!(※こんへんで全員ブルマーを掲げる)



(間奏:※中西君の口笛独奏)



 濃紺ブルマー 機能性重視

 臙脂ブルマー 魅惑のライン

 夏実様ブルマー たまらんです


 濃紺ブルマー パンチラ防止

 臙脂ブルマー 秘密の花園

 夏実様ブルマー 公式写真あります!(※2回ループ)

(※写真は1枚1500円です、詳しくは綿毛☆らいおんまで!)








「な、何なんだお前らは?!」


 そのセリフには全くの同意しかなかった。

 いや、ホント何なんだろうね?


 そして、その光景は群れを幻視した。


 歌と共に何か得体の知れない力がブルマーを通じて流れ込み、彼らは一体となっていた。


 爪牙の虎太郎は驚き怯む。


 何あの歌? いつもそんなの歌って練習してんの??



 しかし今までの劣勢はどこへやら、完全に流れがブルマー仮面(変態共)の方に傾いていた。



「言ッタダロウ? オレガ、オレ達ガ――Pack(群れだ)! 」

「くぉぉおおのぉおおおおっ!!」



 負けじと気勢を上げて反撃をする虎の爪牙、それに比例して大きくなる餓狼の群れの合唱。

 完全にオレの理解を超えていた。


 ていうか、むしろ理解しちゃいけないと思った。


 ここに居てはオレも染まってしまうかもしれない……


 『ブ・ル・マー! ブ・ル・マー!』そんなシュプレヒコールを背中で聞きながら、そっとその場を去る。



 そうだ、死神童女や龍元のお嬢に関わると碌なことがない。

 幸いにして、彼らの目は戦争じみた戦いに夢中だった。


 だが厄介ごとというのは、向こうからやってくる。


 その場から少し離れた時の出来事だった。


「き、貴様は!」

「くそ、感付かれたか!」

「どうやって、こっちが」

「さすが拳姫四天王の1人ッ」


「いや、オレは……」



 そいつらは、先ほど戦った獣兵団の一部だった。

 どうやら何かを輸送しようとしている。

 容量にして1m四方の小さなコンテナみたいなもの。

 彼らの言葉から察するに、何か大切なものを運んでいるのだろう。


 だが、オレには関係無かった。

 というか、一刻も早く去りたかった。

 そもそも、アイツらがしてる事に興味も無いし――



「うわっ?!」


「チッ!」

「一人で来たのが運の尽きだな!」

「こちらは20人だ」


「まて、話し合――」


 問答無用、とはこの事か。

 奴らはこちらの弁に聞く耳持たずと言わんばかりに襲い掛かってきた。

 さすがにこの人数相手だと厳しい。


 ああ、くそっ!


 まったくもって、死神童女や龍元のお嬢に関わると碌なことがない。

 だが――






『『『『Your Highness, Summer berry 萌え上がれ♪!!!!』』』』





 突如、ひと際大きい合唱がここまで聞こえてきた。

 佳境だろうか?

 何が起こっているかは知りたくもないが。


「チッ! さっきからあいつら何なんだ?」

「変なのを歌いやがって」

「キモイんだよ!」


「それは……」


 まったくもって言い返せない。

 正直オレもキモいと思う。


 だが、それよりもオレは自分の変化に混乱していた。


「てめぇはここで潰す!」

「さっきは仲間がしてやられたしなっ」

「このちょこまかと……さっきより数倍早いんじゃ?!」

「あの時も俺達を弄んでたっていうのかよ、くそっ!」


「待ってくれ――オレは!」


 仕方なしに、やられちゃ堪らないと反撃していく。

 その一撃は想定以上の威力を誇り、繰り出す速度は己の目でも追いつけぬほど。

 一体何故……いや、これはまさか……


「こいつ、あの歌の声援を受けて力が増している?!」

「馬鹿な! そんな出鱈目な!」

「くそ、20人いるんだぞ、こっちは!」


「あぁあああぁあぁあっ!!」


 オレは、その答えを聞きたくないとばかりに咆哮を上げ、その拳を振るっていった。





  ◇  ◇  ◇  ◇




「はぁっ、はぁっ!」


 荒い息を上げる。

 その消耗具合を表すかのように、地べたに這いつくばる20人の獣兵団。


 これをオレが……?



「大丈夫か、孤高の凶拳?!」

「ッ?!」


 誰だと思って身構えるも、声を掛けたのは例の若だった。

 他にも主将や当宇麻、ブルマー仮面たち変態共もいる。


 何故こんなところに……


「これは……まさかアナタが?!」

「コンテナ……まさか手りゅう弾や爆発物が?!」

「爪牙のやつらは囮だったってことか?!」

「さすが拳姫四天王の一人」


 え? 何か変に解釈されてない?

 こいつらに出会ったのは偶然だったんだけど。


「違っ、それは……あ! 爪牙のあいつは?」

「拳姫様が現れて一撃で……じきにこちらに追いつ……くそっ!!」

「わ、若?!」


 突然、剛心空手会の若が滂沱の涙を流しながら床を打つ。

 ドシンと想定外のビックリする音を立てながら、その変化に驚く。


「俺は……俺は何をやっているんだ?! 試練で心が負け薬に手を出そうとし、宿敵には負けブルマー仮面に窮地を救ってもらい、それでも勝てぬ相手を拳姫様に制裁してもらって……!」

「い、いや、オレの事を救ってく――」

「あなたは! 小さな物事に囚われた俺と違ってこんな……ッ! これが拳姫四天王の器……どれだけ俺は狭い世界にいたんだ……ッ!」

「いや、ちが……」

「謙遜とかやめてくれ、俺が惨めになる! ……そうだ、気付いていた! 俺達の歌が、その力が、あなたへも微かに流れていってた事を!」

「そ、それは……」


 あれってやっぱりその……


「さすが拳姫四天王……」

「外様で唯一"獣"の誘惑に屈しなかった……」

「若でさえ認める……」

「その証拠に歌の恩恵、群れを率いる素質……」


 違う!


 そう言いたかったが、オレも自分に戸惑っていた。

 もう引き返せない……そんな泥沼に嵌りつつある感覚を振り払うかのように天を仰ぎ……

 そして少し泣いた。


更新遅くなったのは歌詞が難産だったせいです。


一体どうして、なんで歌詞なんて書いてるんだろ……

なろうで現実世界恋愛の作品を書くには、歌詞制作スキルは求められるようです(

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