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第6話 浴場で戦湯


「こんな時間までどこに行ってたの、お兄ちゃん?」

「あーいや、それはだな……」


 お前は浮気を問い詰める彼女か!


 玄関先で鬼の……いや人食い虎のような形相で、俺に問い質そうとしてくる小春。

 一体何故、妹にそんな事を聞かれなきゃならんのだ。

 頭が痛くなってくる。


 しかし馬鹿正直に、美冬の部屋に行ってたなんて言えるはずがない。

 いくら俺でもそれくらいの分別はある。


 というか、言った後の展開が怖い。


 へタレと言ってくれるな。怖いものは怖い。

 よし、ここは適当に誤魔化してやり過ごそう。


「べ、別に、どこだっていいだろ?」

「よくない!」


 はい、無理でした。


「もしかして事故に巻き込まれたりとか……色々心配したんだからね……」


 そんな事を言い、涙を浮かべながら勢いよく俺の胸に飛び込んできた。

 ふわりと長い髪が舞い、いい香りを振りまきながら俺の鼻腔をくすぐってくる。

 必死に背中に腕を回し、おなかの辺りに小春の柔らかいものをぐいぐい押し付ける。


 …………


 いやいやいや、変な気持ちになったりしてませんよ?!


「お兄ちゃん、お兄ちゃん……」


 なんだろう、夢にまで見たシチュエーションなのに全然嬉しくない。

 むしろ昨日までの態度と違いすぎて困惑と緊張に加え恐怖すら――


「……あの女の匂いがする」

「えっ?!」


 そう言って顔を上げた小春の、見る者を底冷えさせる冷ややかな視線が突き刺さった。 

 甘える子猫が一転して人食い虎のそれに変わる。



 怖っ! なにこれ怖っ!



 視線が冷た過ぎて身体の震えが止まらないんですけど!

 あ、でもやっぱこれでこそ小春だな。

 安心あんし……ってなるわけねえよ!


 大体あの女って誰? どの女? まさか美冬の事?!


「またあの女と会ってたの?!」

「え、えーと、小春さん?」

「答えて!」

「み、美冬と居たよ」

「どうして?!」


 こちらの方がどうして?


「どうしてって、幼馴染だし普通に遊んだりするだろう?」

「私とは遊んでくれないのに!」

「いや、そりゃあ」


 そりゃそうだろう。

 見かけるたびに悪態つくか舌打ちする相手と遊びたい奴が居たら、是非教えて欲しい。


「お風呂! お風呂行ってあの女の匂い流して!」

「お、おい」

「ああ、もう制服どうしよう……消臭剤足りるかな?」


 どうしてこうなったとか、消臭剤いくつ使う気だとか、色々突っ込みたいところはあるけれど、小春の剣幕に圧されて風呂場に押し込まれた。

 いいか? 逃げたんじゃないぞ?


 だから、風呂場に入ってからわざわざお湯を張ってるのはあれだ、そう、気分! 気が向いただけなんだ! 本当だぞ?!




 ……


 …………


 ………………………………


 ふぅ、でもお湯を入れつつ半身浴みたく入るのもなかなかいいもんだよな。

 なんだか身体も変に力が入っていたらしい。それが解れていくのもわかる。



 ――ガチャリ――



「っ?!」


 脱衣所の扉を開く音が聞こえた。

 再び自分の筋肉が強張るのがわかる。


 お、落ち着け俺!

 風呂場にはしっかり鍵を掛けているから大丈夫だ!


「お兄ちゃん、着替え持ってきたよ」

「お、おぅ、悪いな」

「えへへ、これくらいはね」

「…………」

「…………」


 よ、よぉし。風呂場乱入などというイベントは回避できてるぞ。

 曇りガラス越しに映る小春のシルエットは……特に鍵をこじ開けるとかないな。


「………………すぅ」

「………………」


 ……ふぅ。

 よく考えたら小春は実妹だぞ。

 いくらなんでも、この歳で一緒にお風呂なんて――


「…………はぁ……ん……すぅ……はぁはぁ」

「………………………………」


 え、えぇぇええぇぇっとおおぉぉおぉぉお?!


 な、ななななにやってんすか、小春さぁん?!


 それは一緒にお風呂よりもダメなんじゃないっすかねぇぇええぇ?!


 曇りガラス越しに映る小春さんは……はい、顔に何か布キレを当てていますね。腰がもぞもぞ揺れています。

 はい、何を為されているかワタクシには見当もつきません。

 ですが、心のどこかでアウトーッ! という叫び声が聞こえます。


 何でだろう?

 お風呂に入っているのに震えと冷や汗が止まらないんだけど……


「あー、小春? そ、そろそろ出たいんだけど?」

「え?! あ、うん、わかった……きゃっ!」

「だ、大丈夫か?」

「へ、平気!」


 声を掛けるとドタバタガッシャン、小春は大きな音を立てて慌てふためいた。

 うん、何をしていたかは特に聞くまい。


 ていうか聞きたくない。聞くのが怖い。


 脱衣所の様子は――当たり前だけど普通だ。さっきと変わってない。

 脱いだところが若干弄くられた跡があったが……きっとあれだ、さっき言ってたとおり消臭してたに違いない。

 あはは~せっかちなやつだなぁ、いまからせんたくするっていうのにぃ(棒読み)。


 そこから何か無くなっていないか、確認する勇気は俺にはなかった。


 …………


「お兄ちゃん、あがった?」

「お、おぅ、あがったぞ」


 着替えたのは寝巻き代わりにしているTシャツと短パン……なのだけれど、誰か一度袖を通した後があるな。

 俺がそんな風に訝しげな顔をしていると――


「マーキングよ」

「あ、はい」


 だ、そうです。


 マーキングって何かな?

 どうしてそれをする必要があるのかな?

 やっぱり深く考えちゃダメなことなのかな~? どうかな~?


「それよりお兄ちゃん、喉が渇かない? お風呂上りのジュースとか飲まない?」


 廊下で不自然に差し出してきたコップの中には、シュワシュワ気泡をあげている液体。

 状況的に考えて、どう見ても飲む福祉。


 どうかな、って思いますね!


「い、いや炭酸はいいかなっ!」


 脱兎の如く自分の部屋へ逃げ帰り、ガチャリと鍵を掛ける。


 怖いっ!

 急激なこの変化が怖いっ!

 俺の(チキンな)ハートがついていけないっ!


 っていうか俺、一体何やっちゃったの?!


 この日ほど、部屋に鍵がついてるのに感謝したことはなかった。 












「おにいちゃん」

「おにい?」

「…………あにき」

「オニイちゃん……」

「お兄ちゃんっ」

「…………」

「あきと………きゃーーーっ!!!!」

「あきと……裏切り……コロ……」


 その日の夜、隣から時折、女の子って浮気された時こういう風に殺気を込めるのだという声が聞こえて来て、なかなか寝付けなかったのは別の話である。


面白い!

続きが気になる!

ストロングはゼロだ!

って感じていただけたら、ブクマや評価、感想で応援お願いしますっ。


今夜のお供はシークァーサーで。

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