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ある朝ツン過ぎる妹が急にデレ始めたので、幼馴染と後輩に相談したら(※物理的に)修羅場になったんだけど!?  作者: 雲雀湯@てんびん2026年アニメ化決定
第3章

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第76話 食い違う歯車


 裏路地に入っていった宇佐美さん達を追いかける。


 そんなに時間も経っていないし、すぐ追いつけるだろうと思っていたが――甘かった。


 随分と入り組んでいてまるで迷路だ。

 太陽があまり当たらず、湿っぽい独特の空気はまるで異世界じみている。


 あと、腹いっぱい食べたばかりなので横腹が痛い。


 ……宇佐美さん達、大丈夫かな?


「きゃっ!」

「おっと!」

「あ、あなた、は! こ、はる、おねえ、さま、のっ!」

「大丈夫? ちょっと落ち着いて」


 あてもなく走っていると、曲がり角で人にぶつかった。

 可愛らしい悲鳴を上げたのは1人の女の子。


 先ほど宇佐美さんと一緒に居た子だ。


 息を切らしている様子を見るに、どうやら走ってきたらしい。


 宇佐美さんはどうしたんだろうか?


「宇佐美先輩を助けてください!」

「えっ?!」


 どうやら厄介なことになっているらしい。

 この子が息を切らせていた事から、それだけ大変な状況に居るというのが容易に想像できる。


「私が悪いんですっ! 小春お姉さまのお役に立ちたくて勝手に……っ」

「わかったから落ち着いて? 大丈夫、俺が何とかするから」

「交渉とか情報とか聞きだせる相手じゃなかったの!」

「いいから、表に出て誰か呼んで来て」

「は、はい!」


 そういって、全速力で駆けていった。

 さっきまで息を切らせてたのに、さすが陸上部。


 あまり詳しいことは聞けなかったけど、宇佐美さんが危ない目に遭っているというのだけはわかった。


 それにしても一体何をしようとしてたんだ?

 "獣"絡みの何かだと思うが……


 とにかく宇佐美さんだ。


 今も逃げてるとしたら猶予は残り少ないかもしれない。

 それに闇雲に探してもダメだろう。


 しかし二徹の眠い頭じゃ、どうすればいいか妙案は思い浮かばない。


 よし、こういうときは深呼吸だ。


「すぅ……はぁぁぁぁぁ」


 目を瞑り大きく息を吸い込み、眠気を吐き出すかのようにゆっくりと息を吐き出していく。

 よし、ちょっとすっきりした。


 何か手がかりになるものでもないかと、目を開け――


「……ん?」


 なんだこれ?

 路地裏のあちこちに違和感を感じた。


 地面にうっすらと半月状の点々としたものがある気がする。


 ……もしかして。


 普段人が足を踏み入れない場所だからか、人が駆けた足跡か何かか?


 なんでそういうのがわかってしまうか、自分でもわからなかった。


 だが、きっと宇佐美さんの逃げた方向に違いない。

 そんな妙な確信があった。





  ◇  ◇  ◇  ◇




「ハッ、ハッ」


 見えない糸を辿るかのように路地裏を走る。


 気分はまるで警察犬だ。


 満腹の身にはちょっと辛いがそうも言ってられない。


 本当にこの道で正解かどうかの不安もあったが……それはすぐに、あまりよくない結果で証明された。



「んん~~~~ッ!!!!」



 宇佐美さんのくぐもった叫び声が聞こえてきた。

 誰かに口元を押さえられているのだろうか?


 どちらにせよ、こんな場所でその声は嫌な予感しかしない。


 まずは状況を確認しないと……

 物陰からこっそりと様子を伺えば、そこには嵯峨先生と3人の男達がいた。


 宇佐美さんはといえば、その3人によって取り押さえられている。

 どう見ても、今から婦女暴行が行われようとしている風景だ。

 童貞には刺激が強過ぎる。


 嵯峨先生、本当にこんな犯罪じみたことを……?

 話に聞いていたとはいえ、実際にこういう場面を見てしまうとショックを隠せない。


「全く、逃げ足だけは速いな。君にはしてやられたよ」

「んぐ~ッ!」


 苛立たしく吐き捨てる嵯峨先生が、宇佐美さんを睨みつける。

 その眼光に怯えて悲鳴を漏らそうとするが、押さえられた口元からはそれを許されない。


「よく押さえとけよ。そいつの足の怪我のフリに見事に騙されたからな。"獣"を渡して懐柔するはずがこんな様……そうだ、先生を騙す悪い生ン徒にはお仕置きが必要だな」

「んん~ッ!!」


 男達が醸す空気が変わる。

 明らかに淫蕩に塗れ、欲望を満たす気配だ。


 このままだと宇佐美さんの身が危ない。


 だが、俺1人出て行ったところで――


「やれ」

「~~ッ!!」


 もし、乱暴去れているのが小春や美冬、夏実ちゃんといった身近な人物だとしたら……

 そんな事を考え、宇佐美さんの服に手が掛けられたのを見て、俺は飛び出していた。


「そこまでだ! 今警察に通報した!」

「誰だ!?」


 俺はスマホを掲げて、通報したことをアピールする。

 実際にはそんな時間は無かったが、牽制にはなるだろう。


 事実、どうしたものかとこちらの出方を伺っているように見える。


「お前は大橋秋斗……!」

「嵯峨先生、もうやめましょう? 今ならまだ――」

「黙れ! 俺を陥れたのは全てお前の指示だろう!」

「ええっと……?」

「宇佐美よりまずお前だ! 獣闘士ども、男の方を壊せ!」

「嵯峨先せ――うわっ!?」



 ヒュッ、と顔の横を何かが通り過ぎた。


 それが投げられた刃物のようなものだと気付くのに時間がかかった。


 俺が避けられたわけじゃない。

 これは警告であり、彼にとっての遊びだ。


 目の前で狼の様に眼光鋭い商社マンのような男――が嗜虐に満ちた目でニヤついている。



「ガキが……オイタが過ぎるぞ?」

「っ?!」


 気が付けば男が目の前にいた。


 猛虎の如き獰猛な笑みをうかべ、まるで嬲るかのようにわざとゆっくり掌底を放つ。


 くっ!


 吃驚して、思わず大げさに後ろに飛んでしま――



「野郎相手に胸に飛び込まれる趣味はないんだがな」

「え?」



 飛んだ先には、熊のような大男が待ち構えていた。

 俺を捕まえようと熱い抱擁をかわそうとしてきて――地面に転がるようにして、それを避けた。


「おと……大橋さん!」


 宇佐美さんが悲痛な叫び声を上げる。

 だが地面に倒れるような形になった俺は、3人の男(虎、熊、狼)に囲まれた。


「これまでだな。後は2人ともお前達の好きにしろ。オレは先に行く」



 ここに趨勢は決した。


 嵯峨先生達は勝者の顔で俺を見下ろす。

 もはや興味が無くなったのか、どこかへ去っていった。


 残った男達は俺をどう料理しようか、手ぐすね引いて待っている状態だ。

 暴力を振るい、人を壊すことに快感を覚える人種なのだろう。


 だが、不思議と恐怖は無かった。

 もしかしたら眠気で感覚が麻痺しているのかもしれない。


 感じたのは、そう――



「歪んでいるな」


「「「ッ?!」」」



 "獣"とはすなわち何らかの薬物だ。


 それらを異常摂取し続けた彼らは、どこか痒そうにしていたり足が()りそうになっていたり、だるそうにしていた(※肝機能障害です)。

 きっと、そういった物質を解毒分解する肝臓が弱っているに違いない(※他人事じゃありません)。


「矯正、しなきゃ……」


 なんていうかカサブタがちょっとだけ剥がれかかってたり、奥歯に海苔が挟まってしまっていたり、本棚で1つだけ上下さかさまになっているのを発見したときの様に、気になって仕方がなかった。


 そして気付いてしまったからには、戻したくなるのが人情だ。



「なっ?!」

「がっ!!」

「うぐっ!」

「大橋さん?!」



 身体は勝手に動いてくれた。


 起き上がった勢いそのままに身体を回し、右手、左手、右足の順で振りぬき、男達のヘソの右上辺りに当て身を入れる。

 その様子はまるで独楽(こま)の回転だ。


 どこか遠い意識のなかで、自分の身体が何かに操られるかのように、3人の男達と踊っていた。


 そしてそのまま体勢の崩れた熊のような大男のもとに潜り込み、浮腰をかけて残る2人の方に投げ飛ばした。


「ぐえっ!」

「あがっ!」

「ぐふっ!」


 3人纏めて地面に倒れ――


「あ、れ……」


 ――俺も地面に倒れてしまった。



大橋(お父)さん!」



 ははっ。


 ニ徹した上に、甘いパフェを腹いっぱい食べての全力疾走、そして今の大立ち回り。

 はしゃぐだけはしゃいで、電池が切れてしまう子供と一緒だ。


 つまり体力が尽きてしまって、とても眠い。



「宇佐美、さん……だい、じょうぶ……」

「う、嘘……待って、目を開けてッ?!」


 駆け寄ってきた宇佐美さんに抱き起こされるが、身体に力が入らないようだ。

 この間の保健室の時といい、なんだか情けないところばかり見せてるな。


「ねむい、だけ、だから……」

「いや……いやぁあああぁぁああぁあああっ!!」


 大げさだよ、宇佐美さん。ちょっと寝るだけだから。


 今度からは二徹でのゲームはやめよう――そんな事を思いつつ、俺の意識は暗転した。


いつも応援ありがとうございます。

平成最後の更新となります。

令和もよろしくお願いしますね。


面白い!

続きが気になる!

更新頑張れ!

ストロングったゼロで!!

って感じていただけたら、励みになりますのでブクマや評価、感想で応援お願いします。


今夜のお供はトリプルレモンでっ!!

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