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ある朝ツン過ぎる妹が急にデレ始めたので、幼馴染と後輩に相談したら(※物理的に)修羅場になったんだけど!?  作者: 雲雀湯@てんびん2026年アニメ化決定
第3章

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第73話 動き出す歯車②


 あの後、剛拳心友会の方々には早々に解散してもらった。


 うん、ご近所からの目が痛かった。

 あれを賑やかでいいわねという、母や美冬のおばさんは器が大きいと思う。


 俺はそんな目から逃れるかのように、いつもより気持ち足早に通学路を歩いた。


「そうそう先輩、大体この地域で"獣"に手を出そうとしていた武闘派は押さえましたよ♪」

「そうじゃないところは話し合いで穏便に済んだよぉ、あきくん」

「わ、わたしだって校内で色々お話したもん!」


「そ、そうか」


 なにそれ武闘派とかおっかない。

 あと小春に美冬は肉体言語でお話とかしてないよね?



「イッチニーサンシー」

「「「「ゴーロック、シチハッチ!!」」」」

「ニィッニーサンシー」

「「「「ゴーロック、シチハッチ!!」」」」



 学校も近づいてくると、朝練でランニングをしている人たちにも出くわす。


 柔道着姿の部員を先頭に野球、バスケ、サッカーといった様々な部活の連中が綺麗に隊列を……って、あれ一体何部だ?

 随分ごちゃまぜだけど、やたらと整然としてるし……うちの部活同士ってそんな仲良かったっけ?


「やぁおはよう、秋斗君。あれは部活連合だよ」

「おはようございます、龍元先輩」


 いつの間にか校門までやって来ていた。

 そこで風紀委員と一緒にいた龍元先輩に声を掛けられた。


「"獣"への警告と見回りを兼ねてるんだ」

「へ、へぇ」


 一体、いつの間にそんなものが組織されたのだろうか?

 この間うちの部員達を鼓舞していたのは見てたけれど、規模が膨れ上がってません?!


「お嬢様、各地からの報告と気になる事が――むっ!」

「ありがとう、忍。どうした?」


 そこにやってきたのはスーツ姿の若い女性、忍さんだ。

 よく先輩の傍で見かける目元が涼しげなお姉さんで、クールビューティーという言葉が良く似合う。


 相変わらず音も気配もなく現れる様はまるで忍者。


 背後に数人同じような人を控えさせているとこを見ると、立場のある人なのだろう。


 ……でも俺、何か睨まれてない?

 何か粗相をした記憶はないのだが……

 美人なお姉さんにそんな目で見られるとちょっと怖い。


「失礼。お嬢様、嵯峨が爪牙の虎太郎と接触しました。素手で猛獣数体を相手取る、裏の世界では有名な実力者です」

「なんだって?!」

「恐らく我々を始末する為に――」


「う~ん違うよぉ、目的は"獣"の工場移転の護衛と手伝いだよ」


「――なっ?!」

「美冬?」


 何故か美冬が龍元先輩との話に割って入った。


「10年以上前から"獣"の顧客だったみたいで、嵯峨先生とはズブズブみたい」

「そんな情報、どこで?!」

「御庭番衆の人たちの手が空いてる人にちょっとね~」

「いつの間にっ?!」

「うふふ。はい、これ報告書。裏も取ってるよ~」

「こ、これは……ッ?!」


 書類を受け取った忍さんの顔がみるみる青褪め動揺する。

 背後に居る部下っぽい人が同情の眼差しをむけている。


「忍さん、別に私達は規律違反は何もしていません」

「そう……高度な現場判断が求められただけです」

「ごめんなさいごめんなさい早くあのノートを返してください」

「誰にだって知られたくないものがある……わかりますよね?」


 ええっと、美冬さん?

 一体何を渡したの?

 あと控えの人達の怯えようは何?!


 いやその、うふふじゃなくて。


「フォルダとファイル名、それだよね~?」

「し、知らない! 何のことか知らない!」

「そうなの? じゃあ龍元先輩に――」

「わーーーっ!! わーわーわーーーっ!!!」


 これでもかと騒ぎ出す忍さん。

 見ていていっそ哀れなほどの狼狽ぷりだ。


「あ、ありえない! そう、これはタダの偶然だ!」

「部屋のタンスの下から2段目右奥の白いバインダー」

「……え?」


「『彼女は白い百合。私は誘われた蝶。その花弁に――』」


「ぎゃーーーーーーーーーーーっ!!!!!」



 冷静沈着、頼れるクールビューティーのお姉さん。

 そんなイメージはどこへやら。


 両手で顔を覆い座り込み、いやいやと頭を振りながら大声を上げる。


 あ、人の耳ってあそこまで真っ赤になるのね。


「だ、大丈夫かい、忍?」

「後生……後生やで、堪忍やで……」

「し、忍?」


 そんな忍さん近付く美冬は、どうみても獲物にトドメを刺そうとする暴れ熊。

 スマホ? 何か見せてるのか?




「~~~~~~~~~~ッ???!!!」




 可聴領域を超えた悲鳴だった。

 人間追い詰められると超音波出せるんだ……


 忍さんの顔は羞恥や懇願を通り越し、恐怖の色を浮かべている。


「な、何が望みだ?!」

「うふふ」


 ぽやんとしたにっこり笑顔を浮かべる美冬は、忍さんに抱きついた。


「なっ! いつの間に?!」

「忍さん、いかにもお姉さんって感じで素敵ですよね~」

「ちょっ! 離し……え、うそ?! 離れなっ、どうして?!」

「ため息でちゃうねぇ~、ふぅぅ」

「ひゃんっ! うひゃうぅっ! ちょぉおっ!!」


 切なげな声を上げる忍さん。

 あーその美冬(ベア)ハッグ、回避不能で引き剥がせないんだよね。

 それと、変なところに息とか吹きかけてない?


「ば、ばかな! 動揺していたとはいえ忍さんが腕を取られた?!」

「300人組み手無傷勝ち抜きの忍さんを?!」

「あの子、情報収集能力だけじゃなく組み技まで規格外だって言うの?!」

「いや、でもあれはその、ちょっと……」


 他の御庭番衆の方々からも驚愕の声が上がる。

 すごいな美冬。

 だけど、その、手つきとか妖しくないか?

 ほら周囲を見て?

 体育座りする男子が量産されてるよ?


「ふふ、良い声。ねぇ忍さんって恋愛経験は豊富?」

「ゃめ、あん……っ、離し……え?」

「無垢な男の子に手ほどきしたいとかって、思ったりしない?」

「ちょっ、どういう……」


 羞恥で赤くなっていた顔が、どんどん絶望で青くなっていく。

 傍から見ればどう見てもアウトな会話である。


 流石にそろそろ放ってちゃだめっぽい。


「ねぇあきくん、忍さんが良ければ味見――」


「こら、おふざけは止めなさい」

「やぁああぁあぁんっ!!!!」



 美冬の頭を撫でながら、ふにゃふにゃになったのを見計らって忍さんから引っぺがす。

 美冬(ベア)ハッグは強力とはいえ、こうなれば引きはがすことは容易いのだ。


「あきくんのいけずぅ~、昔から意地悪なとこあるんだからぁ~」

「はいはい」


 丹念に頭を撫でまわすと、びくんびくんと身体を震わせる。

 腰に力が入らなくなったのか、俺に縋りついてくる。


 まぁなんだ。

 とても人に憚られるような状態になっているのがわかる。


「うそ……忍さんでも剥がせなかったのに」

「あれぞまさに手玉にとる……」

「美冬さんでも敵わない相手……」

「一体どれほど……」


 ほら、周囲の反応が……あれ? 畏怖? それもおかしくない?

 ま、まぁそれはともかく。


「大丈夫ですか、忍さん」

「あ、あれだけ抵抗しても抜け出せなかった極めを腕一本で……ッ?!」

「忍さん?」

「こ、これで勝ったとか貸しを作ったって思わない事ね、大橋秋斗!!」

「アッハイ」


 何故か忍さんには敵視されてしまった

 うぅ、理不尽だ。



「むぅぅぅぅ」


 小春?

 なんでそんな羨ましそうな目で睨むの?





  ◇  ◇  ◇  ◇




「嵯峨先生は本日もお休みなので地理の時間は自習になります」



 そんな担任の言葉でホームルームが〆られる。

 ここ数日、"獣"に関係していたと思われる嵯峨先生は学校に来ていなかった。


 詳しい事はわからないけど……警察沙汰になっているのかもしれない。

 ともかく柔道部の皆とか、身近な人たちが関わって無くて幸いだ。


「おと……大橋さん、ちょっといいかな?」

「宇佐美さん……美冬じゃなくて、俺に用?」

「うん……厳密に言えば大橋さんじゃなくて妹さんにだけど」

「小春に?」


 話しかけてきたのは、美冬の友人である宇佐美さん。

 最近、小春がちょこまか動いていたのは知っていた。

 もしかして宇佐美さんと何か関係が?


「これを」

「うわっ?!」


 渡されたのは大量の便箋と百合の花束や手作りっぽいお菓子。

 はて、これは一体?


「妹さんにね、うちの部とかで色々話をしてもらったの」

「話?」


 肉体言語じゃないよね?

 ていうか、便箋の封にハートマークのシールが貼ってあるんだけど、これっていわゆるラブレターじゃ。


 ……


 小春にラブレターね。


 うん。


 やー、実兄としても可愛いと思うよ?

 客観的に見て顔もだけどスタイルも良いと思うし。


 だけどなんだ。

 ほぼ毎朝布団に潜り込んでくる(小春)が他の奴にと想像したら――


「ご、ごめんなさい、大橋さん」

「いきなりどうしたの、宇佐美さん」

「これ全部うちの女子部員からなの……」

「……え?」


 女子部員から小春にってこと?

 いったいどういう事が……


「その……妹さん、色んな人に対してお姉様とは何か、女たるともお姉様を目指さなければいけない、お姉様は妹を可愛がる義務があるとか、そういったお姉様論を説いて回って、その、部内にヅカブームが訪れてしまって……」

「ヅカ? お姉様?」


 宝の塚とかそういうヅカ?!

 小春なにやってんの?!


「あのね、受け取って貰うだけで良いって言ってるし、そのね……!」

「ああ、うん。わかった」

「ありがとう」

「おう」


 最近大人しくしてたと思えば、こんなことをして……


 だけどまぁ、そんな危ない事をしていなくてよかった。



 廊下や教室をざっと見回してみる。


 うん、どことなく歪みが薄れているような気がする。




 ……


 この時俺は、そんな事を呑気に考えていたのであった。



いつも応援ありがとうございます。


裏設定的な物ですが、美冬が忍に見せたのは彼女が取ったお嬢様コレクションスナップの一番のお気に入りの、「中学上がってちょっとした頃に、真剣を使って素振りをしたのはいいけれど、髪の長さを考慮せず自分の髪を切ってしまい、半泣きになっているけど、別に髪切れたのは気にしてないもん!」と強がる時の写真です。はい、どうでもいい感じなので本編で書きたかったけどカットしました。


面白い!

続きが気になる!

更新頑張れ!

ストロングのゼロだ!!

って感じていただけたら、励みになりますのでブクマや評価、感想で応援お願いします。


今夜は週末なので休肝日で!!

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