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ある朝ツン過ぎる妹が急にデレ始めたので、幼馴染と後輩に相談したら(※物理的に)修羅場になったんだけど!?  作者: 雲雀湯@てんびん2026年アニメ化決定
第3章

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第72話 動き出す歯車①


 あれから数日過ぎた。



『――地方を賑わせた薬物暴力事件は警察への情報提供が決め手になり、波が引いたかのように収束しています。専門家によれば薬物組織内での粛清も示唆され――』



 朝のニュースをBGMにして、もそもそとトーストを口に運ぶ。


 どうやら件の薬物事件は収まりを見せてきているようだ。

 うんうん、日本の警察は優秀だからね。


「"獣"の事件、収まってきたみたいだな」

「そうね。最近は事前に情報を知って、手を出さずに済んでいるケースもあるみたい」


 へぇ、と小春と言葉をかわす。


 最近皆、"獣"絡みで色々と動いていたようだった。


 そういった情報を知らせて、周囲に警告して回ってたりしてたのかな?

 一介の学生に出来ることなんてたかが知れているし、危ない橋は渡ってほしくない。


 そんな心配の種が減って良かったとばかりに家を出る。


 ちなみに一番アクティブに動き回っていたのが夏実ちゃんだ。

 あんな見た目小学生な女の子が事件に巻き込まれて怪我なんてしたら……なんて、考えただけでも心配になる。主に相手が。


「おはよぅ、あきくん」

「おはようございます、先輩!」








「「「「押忍! おはようございます!!!」」」」








 だからといって、むさ苦しい男達を数十人を引き連れた元気な姿を見せてくれというわけでもない。


 一体何があったの?!

 朝の住宅街でそんな事されたら目立ってしょうがないんだけど?!


「ええっと? 夏実ちゃん?」

「先輩、自分しっかりヤッてきましたよ♪」


 うんうん、何をヤらかしたのかな?


 家の前には、明らかに学生じゃないと思われる集団。

 俺たちと同世代から薄くなった頭や、皺が多く刻まれた年代の方々まで様々だ。

 その全員が道着姿。

 満身創痍といった様子だが、気力は充実しており晴れやかな顔をしている。


 彼らの前で胸を貼る夏実ちゃんは、まるで狩ってきた獲物を『偉いでしょ! 褒めて褒めて!』と見せる猫の様だ。いや、餓狼だけど。


 で、この人達は誰?


「剛拳心友会の方々です」

「そうか」


 物騒な名前だな。


「隣の府にある剛心空手会って言ったほうがわかりやすいですかね? 駅前に大きな看板があるビルの」

「そうか」


 電車からでも良く見える、この地方最大の道場入りビルだな。


「先輩に完全服従を誓いにやってきました♪」

「そうか――ってちょっと待て?!」


 何でそんな事になってんの?!


 小春に美冬?

 なんでそんなわかりみが深いって顔してんの?!


「夏実ちゃん、話が読めないんだけど……」

「彼らはうちの祖父とは古い付き合いでして、跡継ぎの若が"獣"に手を出そうとしてたんすよね」

「それを聞いて止めにいったと」

「とても充実したお話が出来ました♪」


 楽しそうに言う夏実ちゃんのお肌はどこかつやつやしていた。

 肉体言語での会話じゃないよね?


 ……怪我が無いからいいけどさ。


 それがどうして俺と関係が?


「おい、あんたが大橋秋斗か?」

「そうだけど、あなたは?」


 道着姿の男たちが深々と頭を下げている中で、1人だけふてぶてしい表情の若い男が歩み寄ってきた。

 歳は俺より少し上っぽいな。二十歳を越えたあたりか?

 まるで気配も感じさせず意識の外から接近はなるほど、腕が立ちそうだ。


「若!」

「その方は拳姫様のっ!」

「無礼になりますぞ!」

「拳姫さま怖い拳姫さま怖いけんきさまこわいけんきさまあぁあぁぁああぁああっ」


 もしかして彼が若?

 それと拳姫って何?

 夏実ちゃんのこと?


「若はですね、剛拳心友流奥義の継承儀式に失敗して"獣"に手を出そうとしたんですよ」

「奥義継承?」

「飢えた虎や熊、狼といった猛獣3匹がいる檻に入れられ素手で勝つと言う、800年続く単純な儀式ですよ」

「へ、へぇ」

「3連続失敗して、自棄になって薬……ツマラナイ理由です」

「そ、そうか」


 猛獣相手に命があっただけでも凄くない?


 なるほど、だから腕が立ちそうに見えるわけだ。

 しかし、いやこれは――


「歪んでいるな」

「なっ?!」


 あっ、しまった!

 初対面の人に言うような台詞じゃないな。


「テメぇ、どれほどのものか知らないが……ッ!」


「若っ! それは!」

「活殺征獣拳を人に向けては!」

「おい、誰か止めろ!」

「無茶言うな、全員でかかっても若を止めるなんて……ッ!」


 ほら、若も怒りで顔を真っ赤にして今にも飛び掛かろうとする勢いだ。

 深く腰を落とし、半身から飛び掛かりそうな姿勢を取る。

 素人な俺でも、気が静かに練られ膨れ上がっていくのが分かった。


 だけど、どうしても歪みが気になってしまったのだ。

 右肩から背中にかけての凝り? とでもいうの?


「たとえ拳姫様のご主人であろうとッ――」



 ダンッ!



 猛獣すら圧倒しそうな勢いで地面を蹴り、射出される。

 だが、そのバランスは完璧でないように見えた。


「右肩の調子が悪そうだな」

「――えっ?!」


 俺はその向かってくる勢いを利用し、指圧マッサージの要領で伸ばした腕の親指を若の肩に合わせた。






「がっ、ぁあああぁぁあああぁあああぁあああっ!!!」






 凝りに凝った筋肉をいきなり解した為か、若は痛さで叫び声を上げた。

 うんうん、急に強く揉んだりすると痛いもんね。


「ば、馬鹿な!」

「活殺征獣拳を初見で見切っただと?!」

「拳姫様でも3発は様子を見たというのに?!」

「こ、これが拳姫様の主人……ッ」


 勢いが凄まじかったのもあり、指圧した右肩を起点に彼の足が前宙を舞う。

 おっと、このままだと地面に倒れてしまう。


 こちらに伸ばし眼前に伸びて来ていた拳を掴み、地面にしっかり立てるよう、くるりんとエスコート。


 ……どうせエスコートするなら女の子の方がいいのになぁと思ったのは秘密だ。


「大丈夫、ですか?」

「――ッ! はぁ、はぁ……ぐっ、肩がッ……なっ?!」

「もう大丈夫なハズですが……」

「こ、この怪我は治らないと言われていたのに、軽い! そ、そんな!」


 何か信じられないといった体で、おぞましいものを見る目で見られる。

 凝りというか筋肉の歪みを矯正しただけなのに……


 もしかして、練習の後に整理体操とかクールダウンとかしっかりやってないのかな?

 大丈夫か、剛心空手会。

 業界でも大手のハズだろう?


「ご、ごめんなさい、先輩!」

「へ?」

「自分がちゃんとしてなかったから……自分のミスです……許してください!」

「ちょ、夏実ちゃん?!」


 放心する若をよそに、何故か夏実ちゃんが俺に謝ってきた。

 それはもう土下座に近いレベルで頭を下げて。

 あはは、ちょっとそれ止めて欲しいなぁ。


 考えてもみて欲しい。


 見た目小学生の様な女の子にそんな事をされる俺が、周囲にどう見られるか。


「拳姫様が頭を……」

「若の技が指1つで……」

「ご主人、どれだけの力量を……」

「若、もしかしてとんでもない事を……」


 ……なんかちょっと思ってた感じと違うな?


「先輩、彼らとの話し合いが足りなかったようです。少し待っていてください」

「夏実ちゃん!」








 ズゴゴァアアァアアアアアオオォォーーーーーン!!!!








 いつものように夏実ちゃんの気が膨れ上がり、暴発させたそれはまるで狼の遠吠えの様な音を大気に撒き散らす。


 ひっ! と、それに圧倒された男達から悲鳴があがる。


 って、朝の住宅街からそんな事したら近所迷惑になるでしょ!



「さぁ、剛拳心友会の皆さん。歯を食いしばっ――」

「こら! 夏実ちゃんハウス!!!!」




「――ひゃあぁああぁあああぁんっ!!!」






 ドゴォオォオオォオオンッ!!!



 今にも飛び掛からんとした夏実ちゃんの頭を押さえ、その気を地面へと霧散するように誘導する。

 要は避雷針のように地面に力を逃す要領だ。


 その衝撃からアスファルトが割れ、陥没し、地肌が見える。


 ……何か色々おかしいな?

 それはともかく。


「こら! 一般人に牙を剥いたらダメでしょ!」

「せ、先輩彼らは元は殺人拳の……あっああぁあっ、わ、わかりましたぁ! わかりましたからぁ!」


 なおも闘争心を湧き立たせようとする夏実ちゃんを傷害事件の犯人にしないように、いいこいいこと頭を撫でてその気を散らす。


「はぁ、はぁ、先輩鬼畜ですぅ……」

「え? そうか?」


「う、嘘だろう?」

「あの拳姫様が手のひらで転がされて……」

「これがご主人様……」

「俺は指一本、拳姫様は腕一本……それだけの力の差ということか……」


 若を含め皆も納得して大人しくなってくれたようだ。


 あと夏実ちゃんそんな縋りつかないで?

 ビクビク体を震わせるのも体裁が悪いかなぁ、なんて。


 それを見て青褪めた若さんが謝ってくる。


「な、ナマやってスイマセンっした、大橋秋斗様……ッ」

「……様付けはちょっと」


 あの、若さん? 俺より年上だよね?


「お、大橋さん」

「……じゃあそれで」

「実は耳に入れて起きたいことがあります」

「何だろう?」


 なんだか禄でもないという事だけはわかる。


「爪牙の虎太郎(コタロウ)が向こうにつきました」


「なっ?!」

「若、それは本当ですが?!」

「やつは何人か手を掛けて逃亡中じゃ!」

「闇に堕ちた殺人爪牙のコタロウが?!」


 え? もしかしてその人って殺人鬼?

 何それ怖い。

 絶対関わりたくない。


「大橋さん、俺達にも対獣包囲網に加わらせてください!」

「やつは剛拳心友流の誇りを忘れた恥さらしです!」

「俺たちでは役者不足かもしれませんが!」

「足手まといにはなりません!」


 イマイチ何が起こってるか分かっていないのだが……ん? 美冬?


「安心してあきくん。皆に嘘はないと思うよぉ。彼らの裏はとってあるし、それにね、もし裏切ろうとしても……誰だって奥さんや子供、恋人に言えない事ってあるよね」

「美冬?」


 一体何を安心しろっていうの?

 ん? 夏実ちゃん? 震えは止まった?


「せ、先輩さすがですね……彼らをこうまで従えるなんて……」

「そうか?」

「是非彼らに一言あげてください」

「ええっと……」


 一体何を言えと? ううむ……

 言うとしたらこれくらいしかないよな。


「怪我しないように」


「聞いたっすね、皆!」




「「「「完全勝利(怪我しないよう)に!!!」」」」





 先程の挨拶以上の大声が朝の住宅に響き渡った。

 うんうん、近所迷惑だから声抑えようね?



「……ふゅーちゃんもわんこもなんかズルい」

「小春?」


 何言ってんの?


いつも応援ありがとうございます。


面白い!

続きが気になる!

更新頑張れ!

ストロングをゼロだ!!

って感じていただけたら、励みになりますのでブクマや評価、感想で応援お願いします。


今夜のお供はまるごと白ぶどうでっ!!

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