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ある朝ツン過ぎる妹が急にデレ始めたので、幼馴染と後輩に相談したら(※物理的に)修羅場になったんだけど!?  作者: 雲雀湯@てんびん2026年アニメ化決定
第3章

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第71話 ハードボイルド2nd ☆東野刑事視点 

今回は悪を許さぬ熱血刑事、東野康司視点です。


 薄暗い駅前の繁華街を部下と2人で歩く。

 表の明るい世界と違いジメジメとしているそこは、まるで異世界へ迷い込んだみたいだ。



 こういった場所に来ると、思い出すことがある。



 それは今でも脳裏に焼きつく苦い記憶。

 まだ社会の事があまりよくわかっていなかった、学生時代の話だ。


『バカな! こんな値段はおかしい!』

『ああ゛? じゃあ別に買わなくていいよ。他にも欲しい奴がいるんだからな』

『ま、待っ……くっ!!』


 人の欲につけ込み、法の隙間を泳ぎ、金儲けの為に無辜(むこ)の民を食い物にする。

 こんな事があってはならない、許せないと思った。


 そいつは初めて俺が認識した、紛うことなき()だった。


 だから俺は刑事を志した。



 おっと、俺の名は東野康司。

 世に蔓延る全ての悪(転売屋)を駆逐すると、心に固く誓った刑事だ。


 全てのアイドルファンが適正価格でチケットを買える日が来ると、頑なに信じている。



 現在、市民からの通報を受けて現場に向かっている最中だ。

 なんでも集団での喧嘩だか、野獣がどうとか、なんだか要領を得ない内容だった。


 しかし、俺たちはそれにピンと来た。


 これは"獣"が関わっている案件だと。


 それは依存性が高い、向精神薬でありドーピング薬だ。

 アスリート達を中心に、密やかに出回っている。


 不思議な事に現状調べた限り、成分は取り立てて違法性があるというわけではないらしい。

 脱法ドラッグというべきモノなのだろうか?


 俺はこの"獣"が許せなかった。


 結果を出したいという人の欲につけ込み、法の網をすり抜けたこれは、まさに憎むべき悪(転売屋)と一緒だ。

 アイドルという存在を深く愛する者として、(転売屋)のせいでチケットを購入できず泣いた者として、当然だろう?



「東野さん!」

「な! コイツは凄ぇな……」


 部下がまるで、街中で推しのアイドルと出会ったかのような驚きの声を上げた。


 その場所はまるで台風か何かの災害に襲われた様になっていた。

 アスファルトは割れ、ビルの壁には真新しいヒビが入り、フェンスは飴細工の様に変形している。

 ここで怪獣が暴れたと言われても納得の惨状だ。


「本当に喧嘩……ですかね? ヤクザの抗争といわれた方が納得します」

「さてな」


 どれだけマナーの悪いファンのコンサート後でも、こうまではなるまい。

 ファンたるもの常にマナーを守り真摯に、誠実に、胸を張って応援しなければならない。


 治安の悪化なんてもってのほかだ。


 俺はアイドルファンとして、この宍戸の地にコンサート会場を誘致してもらう為にも、この事件を速やかに解決する必要がある。


「東野さん、あそこに人が!」

「何?!」


 部下が指差すところには数人の男が倒れていた。

 ご丁寧に、隅の方に並べられていた。

 全員ジャージ姿で、ロードワークの最中だったのだろうか?


「しっかりしろ、何があった?! おい、本部への連絡と救急車だ!」

「は、はい!」


 外傷は……特に目立ったものは無い。


 気絶しているだけか?


「うぅ……」

「気が付いたか?!」

「ひっ! 狼が忍者に導かれてっ、怪獣がっ……あれ? 人……間……?」

「おいおい、俺は狼じゃねぇ、紳士だぞ」


 狼……そういえば銀塩が捕まった時も、やつらそんな事を言っていたな。

 それに忍者に怪獣? わけが分からないな。

 まさか、こいつら――


「クスリやってないだろうな、お前ら」

「ッ?!」

「……おい」

「"獣"はもう持ってねぇ!」


 ビンゴ。

 やはり、"獣"絡みの事件だったか。


 服用していた者は"獣"の存在を隠す傾向がある。

 今まで散々探して見つかってなかったが……俺は運がいいぞ。

 この調子なら倍率が8倍を超える次回のチケット抽選も当たるに違いない。


 俺は警察手帳を取り出し、相手に見せる。


「詳しい話を聞かせてもらおうか」

「なっ! サツ?! べ、別に"獣"は違法じゃねぇだろ! タバコや酒とかと一緒だ!」


 男はいきなり取り乱し始めた。

 違法じゃないというなら堂々としていればいいのに。


 だが、この男の気持ちもわからなくもない。

 俺もかつて違法じゃないからと転売屋に……高額過ぎて買わなかったが……


「君、結構鍛えられているな。何かやってるのか?」

「あ、あぁ。これでもプロの格闘家だ」

「そうか。格闘技は好きか?」

「当たり前だろう!」


 叫ぶ彼の目には、確かにそれを愛する光があった。

 彼に何があったのかわからない。


 ならばこそ、俺は生きて行く上で(アイドル)心から愛するもの(ファン)を持つ者として、彼に聞かねばならない。


「どうしてそんな薬を使った?」

「そ、それは……ッ!」

「自分でも、良くないものだというのは分かっているんだろう?」

「……」


 そんな意地悪な質問をしてみる。

 もし自分が転売屋で買ったチケットでコンサートに行ったとしたら……心のどこかにシコリが残り、純粋な気持ちで応援出来なくなるに違いない。


 きっと彼も同じ気持ちが残っている。

 揺れる瞳がそう俺に語り、確信する。


「星加流……あいつは天才だった……オレの方がずっと真面目に練習してきたし、ずっと頑張ってきた! だけど! だけど……全然歯が立たなかった……」

「……そうかい」


 アイドルでもそうだ。

 候補生として、何年も研鑽を積むも、ぽっと出の若い才能あふれる相手がステージに上りセンターを取ったりする。


 表舞台に上がるものだけが全てじゃないのだ。

 俺はその事を定期購読している会報で知っている。


 だけど――


「今、お前さんはそいつ(格闘技)に胸を張って好きと言えるか?」

「……っ」

「そんなズルした勝利に意味があると思うか?」

「けど……いや、でも……」


 アイドルの中には自分に投票してもらうために、誰かにお金を渡して不正をする人もいる。

 実際そういう娘が上位の成績を収めたこともあった。


 だが、その娘は心の底から喜んだ顔をしていなかったのを覚えてる。


「そんな勝利に意味が無いって、自分でわかってるんじゃないか?」

「け、刑事さん……ッ!」


 ああ、そうだ。


 すべての人が頑張っただけ評価されるわけじゃない。

 センターを取る娘がいる一方で、取れなかった娘もたくさんいるのだ。


 だが取れなかった娘が悪いとか、魅力が無いとかそういう話でもないだろう?

 次こそはと頑張る娘の魅力もまた、尊いモノだというのを、俺は知っている。


 推しの子が奮わなかった次回の選挙で、頑張れとばかりに定期貯金を切り崩して応援したものだ。


「自分の頑張りをぶつけ、そしてセンター(勝利)を掴む……その輝きに憧れ、その世界に飛び込んだんだろう?」

「お、オレは……オレはぁあぁっ……」


 嗚咽を漏らし涙を流す。

 それはとても綺麗な涙だった。


 センターを取られ悔しくて悔しくて……だけど次こそは負けぬという、不屈の炎から零れ落ちた涙と同じだった。


 彼女(アイドル)達の一人一人にドラマがある様に、きっと彼にもそういったドラマがあるのだろう。


「なに、そういった安易な方法があれば躓いてしまうのも分かる。だけど、輝かしいステージへの憧憬を忘れていないんだろう?」

「あぁそうだ俺は! あの四角いステージの上で、己の意地をかけてぶつかり合う、その姿に憧れたんだった! 勝利とかじゃない、頑張り努力し戦う、その姿にこそ憧れたんだ!」


「そうか、それはよくわかるよ」

「け、刑事さん……ッ!」


 そうだ。


 勝利する(センターを取る)者だけがアイドルじゃない。


 一方で負ける者がいるのは当然だ。

 だが、それら全ての悲喜こもごもがアイドルとしての魅力を引き立てる。


「ふっ、頑張れよ。そうやってセンター(勝利)に向かって突き進む姿こそが、応援したくなるんだ」


 俺は総合格闘技とか微塵も興味もないし、心底どうでも良いと思っているからこれ以上関わる気はないが、お前にも応援してくれるコアなファンとかいるんじゃないか? 知らんけど。

 あー、アイドルの事を考えてたら、早く帰ってこないだのドームツアーのBD見たくなっちゃったなぁ。


 後は部下に任せて――


「待ってくれ、刑事さん!」

「ん?」


「オレ……オレ、"獣"について全部話すよ! 聞いてくれ!」

「……いきなりどうした?」


「こ、こんなのにも真摯にオレの事を分かってくれて……考えて話してくれた人は刑事さんが初めてなんだ!」

「おいおい、買い被りすぎだ。俺はただ、アイドル(頑張ってる奴を)ファン(応援するのが好き)なだけださ」


「け、刑事さん……くっ……うおぉおおおおおあああああぁぁあぁっ!」


 そう言って彼は咆哮し、滂沱の涙を流す。


 ……


 今、どこに感動するところがあったんだ?


 は!


 まさかあふれ出るアイドルの魅力が俺を通じて彼が薫陶を受けたとか?!



「東野さん……相変わらず凄いですね」


 いつの間にか連絡を終えた部下が、何かえげつないものを見る目で見ていた。

 信じられないものを見る目でもいい。


 おいおい。


「俺は別に凄くないさ」


 凄いのはアイドルだからな。







  ◇  ◇  ◇  ◇







 その後の取調べで色々わかったことがある。


 彼は宍戸の格闘技ジムに所属する、去年デビューした新人だったようだ。

 当初は破竹の勢いだったが、彼以上の大型新人の星加流? その存在に軽々と追い抜かれ、つい"獣"に手を出したようだ。


 他にもどうやら、"獣"をやってる奴をピンポイントで嗅ぎ分け、やめるように通達しそれを奪い取っていく道着姿のグループが居るらしい。

 そして、道着姿の連中と一緒に忍者も同じく調べているらしい。


 そんな馬鹿げたことが本当にあるのか?


 "獣"の服用者なんて俺たち警察でもわかっていないというのに、そいつら一体どういう捜査力をしているんだ?


 ともかく、情報には感謝せねばなるまい。


 格闘技の世界もアイドルの世界と同じように、実力主義の世界だ。

 目に見える形で差を見せられて焦ったのだろう。


 そこで踏ん張れるかどうかが、輝けるかどうかに繋がってくる。

 俺も前回センター落ちした推しを応援する為に、各ドームツアー全てのチケットを申し込んでいる。


 きっと彼にも見守ってくれている人が居るはずだ。


 是非頑張って、お天道様に胸を晴れる生き方をして欲しい。




「148円になります」



 事件がひと段落し、そんな自分へのご褒美とばかりに飲む福祉を買った。

 ダブルメロンか……どんな味だろう?


 ドームツアーのおっかけ資金で懐が寂しいが、飲む福祉はそんなお小遣い事情にも福祉的だ。


 おっかけに意味があるのか? と問われれることがある。

 ライブとは生き物なので、その全てが違い、違った魅力がある。

 ファンとしてその全てを余すべく無く見なければならない。


 それは愛する家族についても言える。


 天使であるうちの娘は日々違った姿を見せる。

 これはファン()として最高の(アイドル)とも言える。


 街の平和を守るのも娘の為と言ってもいい。



「ただ今帰ったぞ」


「やめろよ、ねーちゃん!」

「あ、こらたつき!」


 おいおい、姉弟喧嘩か?

 うちの天使に何かあったら、たとえ息子といえど容赦……しな……









「んなっ?!」




「お父さん!」

「~~ッ!?」










 い、一体どういうことだ?!


 リビングには天使達が居た。

 そう、天使が2人。


 1人は娘の咲良。

 そしてもう1人は、咲良によく似た一回り小柄な子だ。


 まるで姉妹のようなその2人は、互いにそれぞれに魅力を引き出しあい、相乗効果か娘の咲良は普段の数割り増しで輝いて見えた。


 くっ!


 その輝きに呼応し、ペンライトを振って表現したい!!



 しかしもう1人の子、あれは誰だ?!


 ふりふりした服を着せられている……あれは咲良のものだ。

 俺が選んだものだが、派手だとか色々文句を言って着てくれなかったやつだ。


 うん、これは咲良に似た彼女に非常に似合ってる。

 俺の目に狂いが無かったと自画自賛するくらいだ。

 だけど、どこか何か違和感が……


 いや、まさか……ッ!?



「たつき、なのか……?!」


「~~っ!!」

「お、お父さん、これはね……?」



 あまりの事に、ショックで膝を付いてしまう。


 息子が、息子がまさかこんな……女々しいところがあるとは思っていたが……



「…………ってきなさい」


「ぼ、ボクは好きでこんな格好をっ!」

「私がたつきに無理やりっ!」



 そう、違和感を感じるのは当然だった。



「早く、たつきのサイズに合うものを買ってきなさい!!」


「え?」

「お父さん?」



 胸が全く無いので、胸部の膨らみなど衣装のシルエットが台無しになっている!

 くぅ! あれは咲良の体型ならばこそのもの。

 そもそもだ、たつきにはたつきの良さを引き出す衣装が他にあるはずだ!



「男の娘、大いに結構! だが、その魅力を引き出すにはもっと良い衣装があるはずだ! よし、今すぐ買いに行くぞ!」


「ちょ、まって! こんな姿で外に出たく――」

「お父さんっ?!」











 俺は東野康司。


 学生時代からアイドルが好きな、しがない刑事だ。


 どうやらこの日から息子が反抗期に入ったようだ。


 ははっ。


 子育ては難しいなぁ……


いつも応援ありがとうございます。


面白い!

続きが気になる!

更新頑張れ!

ストロングでゼロった!!

って感じていただけたら、励みになりますのでブクマや評価、感想で応援お願いします。


今夜のお供はダブルメロンでっ!!

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