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ある朝ツン過ぎる妹が急にデレ始めたので、幼馴染と後輩に相談したら(※物理的に)修羅場になったんだけど!?  作者: 雲雀湯@てんびん2026年アニメ化決定
第3章

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第69話 うちのお嬢様が一番可愛い!前半 ☆百地忍視点


 闇と一体化し、夜の街を翔ける。


 今いる場所は30階建ての高層マンションの屋上。

 ロープ1本で10数メートル降下し、音も影もなく目標のベランダに到着する様は、まさに忍者だろう。

 そして息を忍ばせ、窓に近付き聞き耳を立てる。


 私は百地(ももち)(しのぶ)


 戦国時代、天正伊賀の乱によってこの地に逃げ延びてきて以来、代々龍元家に仕えているお庭番衆の一族。

 いわば忍者の末裔ですね。


 幼い頃より常軌を逸するほどの訓練を積み、人間離れした技を身につけた私にとって、先ほどの曲芸など児戯も当然。

 この力を龍元家とこの地の平穏の為に使う――それが私達お庭番衆の矜持であり自負なのです。


 現在その龍元家令嬢、結季様の命で"獣"の出所についての調査中なのですが……


 それにしても不思議です。

 今までどうやっても足取りが掴めなかった"獣"の情報を一体どこで……


 やはりお嬢様は凄い。

 どうやってその情報を入手したのか。

 そもそもお嬢様には耳に入れていない案件だったはずなのに……


 ともかく、そのお嬢様から直々の命、是が非にも遂行しなければ!



『一体どうなっているんだ?! 予定では……くそっ! わかってる! だが数字の面ではしっかり数字を出しているだろう?!』



 それはベランダにまではっきりと聞こえる大声だった。

 1人暮らしにしては随分広い4LDKのリビングでは、ホスト風のチャラそうな金髪男がスマホ越しに声を張り上げていた。

 相手は誰だろうか?


 いや、今は情報収集に専念しないと。


 ここ数年密やかに、だが確実にとある薬物が宍戸の地に浸透していた。



 通称、"獣"。



 極端なまでの集中力向上と細胞の活性化促進、それと痛みへの鈍化を促す。

 いわゆるスマートドラッグを標榜していた。


 スマートドラッグといえば、コンビニなどでも売ってる、目を良くするブルーベリーのサプリメントもそれにあたる。

 だが"獣"は、そのあまりに強力な効果と強い依存性が問題視されていた。


 この地に未だ多大な影響力を持つ龍元家としても捨て置けない。



『こちらだって想定外だ! 教師としての立場も最早危うい! そもそも少なくとも2~3年はわからない筈だった! 一体どこの諜報機関が嗅ぎまわってる?!』



 そう言って、彼――嵯峨佳央は苛立だしく通話を切った。

 どうやら嵯峨にとってもこの状況は予想外の事のようだ。


 もちろん、我々お庭番にとっても予想外だ。


 数年にわたって調査して掴めなかった手がかりが、この数日で一気に事態の進展を見せた。

 その様はまさに燎原の火の如し。


 一体誰が調べたのだろう?


 是非うちのお庭番にスカウトしたいくらい。



『せっかくの隠れ蓑だった銀塩が潰れたのも手痛い……こうなったら2nd(セカンド)ステージに進行した獣闘士(ビースト)共を呼び寄せ――誰だ?!』



 しまった、見つかった!

 なるほど唯のバイヤーというわけじゃないか。

 これは私の失態……いや収穫でもあ――



「ッ?!」




 パスンッ――チュイン!




「チッ、はずしたか」




 目の前には消音機付きの拳銃を持った嵯峨。

 いつの間にここまで……

 しかもこいつ、躊躇なく撃って来た。


 とっさに躱すことが出来たのは、日々の訓練の賜物だろう。

 ここはベランダ、逃げ場も遮蔽物もない。

 偶然が続くことはない。


 そして私を逃がしてくれるほど甘い相手ではないようだ。


 学園の教師と言う話だが、相当場慣れしている。

 次は外さないとばかりに、銃口が部屋の明かりにきらめいた。



「くッ!」

「んなっ?!」



 言い訳をするとしたら、そこしかなかった。

 私はベランダから宙へと身を躍らせた。


 後先考えない行動に、自分でもびっくりだ。


 ふわりと空を泳ぐ刹那の時間に、胸ポケットにある手帳をおさえる。

 そこにあるのは仕えるべき龍元の姫、結季様の写真。


 結季様との出会いは私が7つの時だ。


 初めて龍元邸に出入りした時でもあり、結季様の3つの時の七五三の時でもある。

 その時の結季様は紋付き袴――男児の恰好だった。


 歪んだ当主()のせいで中学に上がるまでは男の恰好をしていた。

 あれだけ美人なのに、何とも不憫――

 そう思ったものだ。


 それだけじゃない。


『お前は龍元家の当主になるのだ! 誰よりもッ! 強くッ! ならなければ、ならないッ!』

『ぐっ、あぁぁ……』


 龍元家は武門の家。

 まだ幼い結季様は、まるで公開虐待かと言わんばかりの修行が課せられていた。

 我ら御庭番集に課せられるものよりハードだった。


 もちろん座学も言わずもがな。


 この地を牛耳る龍元家の権力は絶大だ。

 それは経済的に君臨している宍戸家すら凌ぐ。


 この基盤を守るためにささげられた生贄――


 それが私の結季様に対する印象だった。


 幼いうちからその心を殺し、家の為、当主の為に良くあろうとする姿は見ていて痛々しかった。

 どうやっても、求められることは男であること。

 女の身ではそれが叶わぬと悟っている賢しさが、それを知りながら頑張る姿が、より一層憐憫を誘った。



『しのぶ、おんなのこってなんだろうね? わたしもかみが長くなればおんなのこになるのかな?』



 中学に上がる前の結季様が、ふとそんな事を言った。

 小学校までの結季様は男児の恰好をしていた。

 発育が遅かったのもあるだろう。

 美少年と言われれば納得するような相貌だった。


 そして、仲の良かった男の子がいるのを知っていた。


 アキトくん、だ。


 結季様本人は意識していなかったのかもしれない。

 特別に思っていた事は確かだった。


 自由にならぬ身とはわかっている。


 だけど、せめてその心は自由であるようにと願ってきた。



『アキト君がMMOに興味があるらしいんだ』


 私たちは総力を挙げて、サーバーやキャラクターを探し出した。


『あきと君を呼び出そうとしている教師がいるとか!』


 前後の事件関係をこれでもかと洗い出し、関係者の弱みを握るべく徹底的に調べ上げた。


『あ、あああ秋斗君といいいい一緒に"獣"について調べることになったんだ!』


 はっきり言って衝撃だった。

 てっきり学生のお遊び的なものだと思っていた。

 それで結季様の気が済むならと。


『そうか、すまない。でも一緒に何かできるなんて、子供の時以来なんだ』


 その笑顔が、私の胸を撃ち抜いた。

 うちのお嬢様が一番可愛い!


 萌える!


 あの笑顔をこれ以上見られないなんて、あってたまるか!




「おぉおおおぉおおおぉおおおおっ!!!!!」




 気合一閃、持っていたロープをマンションの傍に植えている木に絡ませた。


 ぐいん、としなって大きな音を立てて枝が折れる。

 その勢いのまま駐輪場の屋根のひさしを目指す。


 バキバキバキッ! それほど頑丈でない素材のそれは、簡単に壊れてしまう。

 だが、随分衝撃を殺せた。


 ゴロゴロどったん、そのまま地面に転がった。



()ぅ――」



 全身を強く打った。あばらも何本か折れているだろう。右手も……ダメだな、当分不便な思いをするか。

 だけど幸い、足は無事だ。

 痛みにさえ我慢すれば、帰還するのは――


「ああ、いたいた。いましたよ嵯峨さん」


 だが、狙い済ましたかのようにスマホをもった男達が現れた。

 全員獣の様に塗れたような目をしている


「へへ、イイ女じゃねぇか」

「好きにしていいってさ」

「オレ最後のぐってりしたのがいいな」

「相変わらずイイ趣味だな、お前」


 最悪。

 気付けばかなりの数の男たちに囲まれていた。


 こいつら嵯峨の子飼いの重度中毒者か?

 目が正気じゃない。

 連絡を受けて私を捕まえに来たらしい。

 数は……10、20……もういい、数えるのも馬鹿らしい。


 万全の状態なら逃げられたかもしれないが、これでは……



『し、しのぶ! しのぶはそばに居てね! ホラーばんぐみ見たから怖くなったわけじゃないからね!』



 脳裏に浮かぶは幼き日に、心霊写真の番組を見てトイレに行けなくなったお嬢様。

 ああ、ごめんなさいお嬢様。

 忍はせめて迷惑をかけられないよう――



「その行動は歪んでいるな」



 え?



「あべしっ!」

「ひでぶっ!」

「おいもっ!」

「ばびしでひでぶっ!」



 突如、男達が宙を舞った。

 何だ今のは?!

 いや、誰がこれを?!


「いきなり何をする?!」

「誰だ、お前は?!」

「俺たちを"獣兵団"と知ってのことか!?」


 その彼はたった一人、この人数がどうしたことかと言った顔で現れた。


「オレは中西――ただの柔道部員だ」


 私を庇うように前に出たのは、柔道着をつけた男子だった。

 彼は見たことある。



 ――狼。



 今回"獣"の調査を合同ですることになったチームにいた人だ。

 お嬢様の学校の部員という話なのだが……


 信じられないことに彼らの情報収集能力や統率力は、我らお庭番にも匹敵していた。


 これほどまでの実力者組織がこの宍戸の地にあったなんて驚きだ。


 しかし――


「助けって、キミ1人なのか?」

「ああ、そうだ。俺たちは未成年だからな、こんな時間に出歩いているのがばれたら補導され――」


「それなら心配要らない。オレは成人済みだからな」

「獅子先輩!」


「おで、老け顔。おで、若く見られない。普段は悲しい、でも今なら大丈夫!」

「副部長!」


「一人だけカッコつけんなよ中西」

「いきなり一人で走りだすんだからよ」

「ま、さすがに中等部の連中は帰させたけどな」


「みんな!!」


 群れ。


 そう、それは群れだった。

 よく統率されたそれは、中西と言った男子の隣に、そうあるのが自然だと言わんばかりに道着を着た男子たちが立ち並んだ。


 群れと言っても10人に満たない数だ。

 翻って相手は少なく見積もっても4個小隊で四方を囲んでいる。


 彼我差の戦力数はおよそ4倍以上。

 しかも相手は"獣"を服用し、その戦闘力は相当底上げ――



「柔道部員だぁ? お前らふざけぎゃっ――」



 風。


 いや疾風だった。


「ナイロンッ!」

「ポリエステルッ!」

「濃紺ッ!」

「いや赤も捨てがたいッ」


「「「「ハイル=ブルマ―ッ!!!」」」」



 狼の彼らは数の差も何のその、三位一体のフォーメーションで黄金に輝くショーツの如き三角形を描き、獣兵団を蹂躙していった。


 え?! ていうかブルマー?!


 変態か?!



「調子になるなガキどもがーッ!!!」

「ぐッ!」


「「「「中西ッ?!」」」」


 獣兵団のナイフを持った男に刺された!

 あの子は私を最初に助けに来てくれた……


 ああ、なんてことだ!

 私がちゃんと動け――


「効くかっ!!」

「ぐぇっ!!」


「「「「中西ッ?!」」」」


 だが、刺されたはずの中西君はぴんぴんしていた。何故……?

 疑問に思っていると、懐から紺碧の布状のモノを取りだした。


「大丈夫だ、皆。俺の身はこれが、滾る濃紺への想いが! 先日夏実様に見せていただいた紳士のほとばしりが! 萌えと言う名の情熱が守ってくれた!! もはや恐れるモノはない!!!」


「な、中西……!」

「俺も実は持ってきている!」

「予備も含めて3枚持ってきている」

「ていうか、今すでに穿いている!!!!」


「「「「うぉおおぉおおぉぉおおおおお!!!!」」」」


「「「「ぎゃぁああぁぁああぁあぁっ!!!!!」」」」



 え、えーと……


 何? 何て言ったらいいの?!


 一言で言えば強い。

 うん、本当に強かった。

 集団での戦い方は御庭番の追随を許さないくらい。


 ていうか高校生の部活の集団だよね?!

 色々おかしくない?!

 君たちそのまま御庭番にスカウトしたい、ていうかどの諜報機関とか行ってもやってけるよ?!


 ていうか、普段どういう相手を想定して訓練している動きなの、それ?!


 あと何で全員ブルマー持ってるの?!


「あ、あなた達、その力とか一体……」


「こんなの、俺達が集団でかかっても大橋さんに一蹴される程度さ」

「ああ、少しでも近づきたいね。大橋さんに……」

「夏実様達を従えるあの力……どれほどの事があれば身に付くのか」

「たかが60人ほどの相手に9人がかりとか、恥ずかし過ぎる」


「…………」


 どこからどう突っ込めばいいのか?


 大橋さん、か。


 お嬢様の幼い頃の友人でもある大橋秋斗。



 こんな彼らが足下に及ばないとか、いったいどれほどの人物なの?!


いつも応援ありがとうございます。


面白い!

続きが気になる!

更新頑張れ!

ストロングしたからゼロだ!!

って感じていただけたら、励みになりますのでブクマや評価、感想で応援お願いします。


今夜のお供はビターオレンジでっ!!

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