第59話 頑張らないと
宇佐美さんや中西君のことなど、気になる事はあるがそろそろ中間テストが近い。
そういうときに限って部屋の掃除をし出してしまったり、ついついゲームに没頭してしまったりする。
俺だけじゃないよね?
「うぬぉおぉおおぉぅっ回復間に合わねぇえぇ!! って、季節龍さんナイス自己バフ!」
『今のうちに立て直して! 綿毛らいおんさん全力で攻撃を!』
『おk、リソース技とか全部ぶっこむよー(o゜ロ゜)ノ』
そんな現実逃避していたオレは現在、レアモブを発見したはいいのだが、綿毛らいおんさんが他の余計なモブを引き連れ大混乱になってしまったのだ。
割とこういうカオスな戦闘は嫌いじゃない。
むしろ逆に燃える。
あ、流れ弾で綿毛らいおんさんが死にそう。
さすがにタンクの季節龍さん支えるので手一杯だぞー。
『いやぁ、ごめんごめん((人´Д`;』
『一体どれだけモブをトレインしたんだい』
「さすがに全滅するかと思ったわ――って、これ! 新星の大盾ドロップしてる!」
『『ッ?!』』
新星の大盾はアーティファクト級の超々激レアアイテムだ。
タンク職にとっては持っているだけでステータスになる。
『これ、売りに出してお金を分配したほうがいいかな?』
「えっ? 季節龍さんが使いなよ」
『(*゜▽゜)*。_。)*゜▽゜)*。_。)ウンウン』
『いや、しかし……』
「いいからいいから」
こういうところ、季節龍さんもう少し欲張りになってもいいと思うんだよな。
俺と1つしか変わらないのに、大人に見えてしまう。
あ、そうだ。
せっかくだし、大人な2人にちょっと聞いてみよう。
「代わりと言っちゃなんだが、ちょっと話を聞いてよ」
『それはかまわないが……』
『俺も聞いてていいもの?σ(・・?) 』
「ああ、綿毛らいおんさんも聞いて欲しい」
話というのは、宇佐美さんの奨学金や中西君の留年の件である。
俺が気にする事ではないかもしれないのだが、何故か気になってしまっていた。
何となく、嫌な歪みのようなものを感じたのだ。
くそ! 目に見える歪みならわかるのに――って、何でそんなものがわかるんだ、俺?
『ちょっと常識的に考えてありえないよね~( ̄へ ̄|||) ウーム』
『おかしな話だね。私も調べてみたけど、そういった前例は聞いた事がなかったよ』
「だよなー。知らないうちに何か妙なことが起こってるんじゃないかって思ってさ」
鎌瀬高との試合は俺も無関係じゃないんだよな。
やるからには全力を尽くすけどさ。
……勝てるとも思えないけど。
そういや俺も、嵯峨先生から試合に勝――
「いやぁぁあああぁぁああぁあぁっ!!」
えっ、小春っ?!
「相談の途中でごめ、妹が!」
『また妹さんか。オータム君……お疲れ様』
『おっつー、またねー!(@^^)/~~』
尋常じゃない叫び声だった。
2段飛ばしで階段を降りて小春を探す。
「小春、大丈夫――」
「み、見ないで!!」
「ご、ごめん!!」
小春が居たのは脱衣所だった。
バスタオルを巻いていたとはいえほぼ裸だ。
いや、うん。これは俺が悪い。
兄妹とはいえ、そんな姿を見られたらキマリが悪い。
悪いと思うが、突然のことで硬直してその場から動けないでいた。
「ちょっと、どうしたのよ?」
「おがあ゛ざん゛ん~~っ」
「あ、その! えっと、だな!」
悲鳴を上げた風呂上りの妹に、それをガン見するかのように硬直している兄。
そんな構図が成り立っているところに母親がやってきた。
最悪だ。いつも間が悪い所を母に見られてるような……
母に駆け寄る小春が、何事か真剣な顔で呟いている。
違う、違うの!
見てない……覗いてないから!
「はぁ~~~~っ! もぅ……秋斗!」
「ちょ、お母さん!」
「は、はひっ!」
「小春の事どう思う?」
「やめて、やーめーてー!」
「どう思うって……」
人喰い虎?
いやいや、そういうことじゃないよな。
「2キロ太ったって言って、あんな声出してたのよ」
「ぎゃーーっ!!」
「……」
う、うーん?
いつもと変わらんと思うが……?
「だ、ダイエットする! 待っててね、お兄ちゃん!」
「お、おぅ」
何をどう待てばいいのだろう?
◇ ◇ ◇ ◇
「ということが昨夜にあってさ。小春の奴、今朝は早くから走って登校したみたいだわ」
「それで今朝はるちゃん一緒じゃなかったんだね~。あ、それでこの子も見てみてよ、あきくん」
「お、おぅ」
翌日の教室、俺は何故か美冬にファッション雑誌を見せられていた。
「さっきの清純そうな黒髪ロングの子はね~、お偉いさんと枕営業して仕事取って来るって有名なんだよ~。こっちのふわふわな髪の子は頭もお股も緩くて彼氏が8人もいて、よくデートでかち合って修羅場になるんだって~」
「そ、そうか」
「あ、この小鳥遊さんにちょっと似てる線の細い感じの子は、総額1000万円以上も貢がせてたって自慢してたらしいよぉ」
何故かモデルの子達の裏の顔を、ひたすらレクチャーされていた。
控えめに言って知りたくも無かった。
それを話す美冬はいい笑顔だった。
ゴシップとか好きだったっけ?
へぇ、その小柄な子は遊びすぎて、父親のわからない子を3度も中絶を……
え? 全然好みじゃないよ? ていうか色々おかしくない?
付き合うならどの子って?
あははぁ、どの子もご免被りたいかなぁ。
あの、美冬さん?
その不満気な顔は何?
わがまま? 俺わがまま言ってるの?!
最近美冬の事が理解しづらいなぁ!
「それよりもさ、俺たちも勉強したほうがいい雰囲気じゃない?」
「あ! 来週末から中間テストだっけ?」
中間テストも近付いてきたこともあり、教室の中はどこかピリピリした雰囲気で教科書を広げている生徒が目立つ。
俺たちの様に、雑誌を広げてのほほんとしてる奴はいない。
「赤点取ったら踏んでもらえない」
「赤点取ったら罵ってもらえない」
「赤点取ったら視界に入れてもらえない」
「おい、視界に入れてもらえないのはダメじゃないか??」
「敢えて無視されるなんて、そんな意識されてるとかご褒美過ぎる」
「そ、そうか」
……
中西君たち柔道部員も、集まって教科書と睨めっこしている。
って、何をぶつぶつ言ってんだ?
集中力を高める儀式?
時折夏実様という単語が聞こえるが……まさか、あいつ等ロリコンに加えて変な性癖に目覚めたんじゃ……
「でもあきくん。最近授業中静かでみんな集中してるから、なんとなく今回良さそうな気がするんだよね~」
「そうだな」
それ、美冬のせいだけどな。
まぁ成績が良くなるなら、それはそれで。
俺も今回は頑張りますか――っと、その前に。
「あきくん、どこいくの?」
「トイレ」
◇ ◇ ◇ ◇
ジャー。
「ふぅ」
用を済ませ、最近小春に無理矢理持たされているハンカチで手を拭く。
今までハンカチとか面倒くさいと思ってたが、あったらあったで便利だ。
しかもこれ、凄くふわふわしていて水気をしっかり吸ってくれる。
それこそ手に付いた匂いまでも吸収するほどに。
肌触りもいいし、これに関しては小春に感謝だな。
ん?
あれは……
「……まさか……そんなこと……」
「龍元先輩、何やってるんですか?」
「う、うわぁあぁあぁっ! 秋斗君……じゃない、大橋君!」
「お、おわぁ!」
トイレを出て教室に戻る途中、挙動不審な龍元結季先輩がいた。
こそこそとして、まるで覗きをしているみたいだ。
あまりの驚き様に、俺もビックリしてしまう。
「あの、先輩――」
「(静かに!)」
「(こくこく)」
話しかけようとするも、人差し指を立てて静かにと言われた。
ちょっと子供っぽい仕草に、普段のイメージとのギャップでドキリと胸が高鳴る。
お姉さんなのに子供っぽい。
わかるだろうか? このギャップの攻撃力の高さを。
しかもそれを、俺だけに見せてくれるというレアリティの高さを!
それだけじゃない、良家のお嬢様だというのがより一層――
「痛みが耐えられなくなった時、それを飲めばいい」
「はい、ありがとうございました」
「(っ!)」
妄想の海に溺れそうになった時、それを遮るかのように、目の前の扉から現れた2人が意識を掬いあげた。
あれは、嵯峨先生と美冬の友人の宇佐美さんだ。
「(あれは……?)」
「(さぁね、私にもまだよくわからない)」
話から宇佐美さんが、嵯峨先生に何か貰ったようなのだが……一体どういうことだ?
痛み? 怪我のことか?
だけど、どういうわけか知らないが、宇佐美さんの怪我は治ったはずじゃ?
その2人が気になるのか、先輩は2人にくぎ付けだ。
そして不意に口を開いた。
「大橋君、キミは確か柔道部だったよね?」
「そうですけど……それが何か?」
「もしかして……例えば無茶な試合結果を残せとか強要されたりしていないかい?」
「えっ?」
鎌瀬高との試合のことだろうか?
「そうなんだね?」
「どうしてそれを?」
「詳しい事は分からない……だが、異常な状況だ。きっと何か裏がある」
「裏?」
「ああ……だから大橋君、気を付けるんだ。あとは無茶はダメだぞ」
「は、はぁ」
そう俺に忠告した先輩は、最後まで嵯峨先生と宇佐美さんから目を離さなかった。
一体あの2人に何があるというのか?
「私もね、頑張らないと……変わるんだ」
「先輩?」
呟く先輩の言葉の意味は、俺にはわからなかった。
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