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ある朝ツン過ぎる妹が急にデレ始めたので、幼馴染と後輩に相談したら(※物理的に)修羅場になったんだけど!?  作者: 雲雀湯@てんびん2026年アニメ化決定
第3章

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第58話 未だ見えぬ歪み

ネット小説大賞7の毎月応援イラスト3月分に、当作品のヒロイン大橋小春が当選いたしました!

筆者としても、イラストになって出来上がるのが今から楽しみです。

これからも頑張って更新していきます!


 キーンコーンカーンコーン――



()ぅー……」



 チャイムの音を目覚まし代わりに、意識を覚醒させられる。

 ぐらぐらと世界が回るような感覚が気持ち悪い。


 たしか、小春と美冬に無理やり飲まされて――って、今何時だ?


 9時36分……やべ、1時限目サボりになっちゃったんじゃ?!



「目が覚めたか?」

「龍元先輩! ……え、頬が?」

「キミの妹はなかなかのお転婆だね」

「なっ?!」


 ガラリと保健室のドアを開けて入ってきたのは、龍元結季先輩だった。

 その頬は、ほんのり赤くなっている。


 ていうか、小春のやつ何やっちゃってんの?! 


「す、すいません、うちの妹が……」

「そんな謝らないでくれ。むしろアレは私が悪かったんだ」

「いえ、きっと小春がやらかしています!」

「そ、そうかい?」


 なにせ小春はこんな所(学校)で飲む福祉を飲ませるような奴だからな。


 一体何をやらかしたのやら。

 思わず眉をしかめてしまう。


 そんな俺を見ていた先輩は、くつくつと思い出し笑いのように肩を震わせた。


「先輩?」

「いや、失礼。キミの妹は、やはりキミに似ていると思ってね」

「俺に?」


 マジで?

 全然似てないと思うんだけど。


「あき……大橋君、そのだな……」

「ん、俺ですか?」

「実は、その――」


 どこかもじもじしながら、歯切れの悪い感じだ。

 何か言いにくい事を言おうとしているのはわかる。


 流れ的にどう考えても小春の事だろう。






「わ、私だな、その、実は――」


「お兄ちゃん、大丈夫?」







 タイミングが良いのか悪いのか。

 やってきた小春が先輩の言葉を遮る。


 走ってきたのか少し息が上がっている。


「むっ」

「……ふんっ」


 来るなり鋭い目つきで睨む小春。

 それを受けて立つ先輩。


 おいおい、勘弁してくれよ。


 目に映るのは小春と先輩――際立つ巨乳と無乳のコントラスト。


 そういえばどこか先輩に違和感あると思ったら、胸が無……小さいんだな。

 小春や美冬、それに夏実ちゃんと世間的には規格外な大きさのモノに囲まれているせいか、逆に新鮮だ。


 あの3人は胸同様どこか自己主張も激しいし、そんな慎ましい所がその――


「どうして無関係の先輩がここにいるんですか? お兄ちゃん、行こ」

「無関係じゃないぞ。あき……大橋君が具合が悪くて保健室を使う旨を伝えたのは私だ」

「く、ぐぬぬ」

「ふっ」


 ――って!


 おーい、二人ともそのへんでやめるんだー。

 背後に虎と龍が見えてるぞー。


 廊下から悲鳴声や人が倒れる音が聞こえてきてるからなー。


 保健室に入ってこれないぞー。


 うん、先輩も3人に負けないくらいキャラが濃いのは間違いないな。


「むー! この女、どこかちょっと歪んでそう」

「おい小春!」


 いきなりそんな罵声を浴びせられた先輩は、ビックリしたのか眉を物凄く歪めてる。


 一体先輩のどこが歪んでるっていうんだ?

 ジロジロ見るのは失礼だと思いながらも観察してしまう。


 人形めいた精巧で綺麗な顔立ち。

 絹の様にさらさらで艶のある長い髪。

 気品のある佇まいはお嬢様というよりお姉様というって言葉がよく似合う。


 そして何より――



「(体幹が)綺麗だ」


「「んなっ?!」」



 驚いている仕草でさえ所作に無駄な流れが無く、理想的なフォームをしている。

 小春や美冬、夏実ちゃん達と違って胸に余分な脂肪がないのでなおさらだ。


「き、きき、キミはまたも……ッ! くぅ~っ! こ、これで失礼するっ!」

「あっ、先輩!」


 あれ、俺変な事言ったっけ?

 先輩は顔を真っ赤にし、だけど何か思い悩むような複雑な表情で保健室を出て行った。


 後で謝ったほうがいいかな……?


「お兄ちゃん? 今の言葉どういうことかな?」

「ちょ、小春?!」


 そして小春の顔は怖かった。





  ◇  ◇  ◇  ◇







 放課後、俺は早々に部活へ顔を出していた。

 教室にいても先輩との事について噂されるだけだし……


 なので、柔道場に着いて早々夏実ちゃんに愚痴っていた。



「そんな事があったんですか、先輩」

「夏実ちゃんは朝練してたんだって?」

「そうなんですよ。皆やたらやる気になっちゃって」

「へ、へぇ、それであれなんだ」



 柔道場では部員達が修行をしていた。


 そう、修行。


 断じて練習などという生易しいものじゃなかった。


「ぐぁああぁあぁあっ!」

「ちゃんと受身を取らないからそうなるんだ!」

「くそっ! 気合なら負けねぇえぇっ!」

「骨折程度で俺の練習は止めらんねぇよ!!」


 その組み手は異常な光景だった。


 身体に装着してる養成ギブスみたいなのって何?

 組み手で投げられた人が逆海老反ってるの怖いんだけど?!


 あと骨折はちゃんと病院に行こう?!



「あれは(うち)から持って来た、全身に負荷をかけて約120kgの重石をつけるの同じ効果が得られるギプスです」

「120kg?!」


 それって大人2人分位の重さだよね?!

 そもそも夏実ちゃん何でそんなの持ってるの?!


 おじいさんの道場?

 普通の道場でそんなの使わないよね?!


「くっ! 薄皮切れただけだ、もう一度!」

「もっと切っ先から目を離すな! 死ぬぞ!」

「練習で死ぬならそれまでなだけだ! 今度は本気で来い!」

「お前、俺が……わかった、その本気に応える」


 そして道場のもう一方の区画の練習では、真剣が振るわれていた。


 ……


 え?! それ本物?!

 ていうか、どこから持って来たの?!

 切り傷いっぱい付いてるように見えるんだけど?!


「動体視力を鍛える練習です。真剣を使ったほうが、緊張感が出てたまりませんよね♪」

「あぁ……」


 堪ったもんじゃないな……


 あ、真剣振ってるのは剣道部員の人達なんですね。

 慣れてる人が振ってるから安心あんし――じゃねぇよ?!


「ああ゛ぁあ゛ああぁぁあ゛あ゛あぁあ熱く……ない゛いっ!!!」

「騒ぐな! 騒ぐと熱くなるぞ!!」

「集中だ、集中! 心頭滅却!」

「油がなんぼのもんじゃーい!!!」


 ……


 で、アレは何?

 グツグツしてるタライの中で何してんの?!


 何か揚げ物してる時と同じ音してるんだけど大丈夫?!

 じゅぅう、じゅわぁって!


 揚がってない?! ねぇあれ揚がってない?!


「油風呂での精神修養ですね。タイのお坊さんとかで有名な」

「漫画の中の話だけじゃなかったのよ?!」


 どちらにせよ普通の精神状態の人間がやることじゃない。


 一体何が彼らをそうさせるというのか?

 ていうか、明らかに高校の部活でやるレベルを超えているよね?!


 明らかに練習とか修行の域を超えて苦行だよ?!


「先輩、苦行というなら比叡山の千日回峰行くらいじゃないと、ちょっと……」

「え、なにそれ?!」

「知らないんですか?! 千年の間に50人ちょっとも成功してる荒行ですよ?!」

「も、っておかしいよね?!」


 悟りでも開きたいのかな?


 あの、夏実ちゃん?

 その手に持ってるの何?

 やたらとトゲトゲしいから。

 死人出ちゃうから

 やめよう? ね?

 モルゲンステルンとか意味わかんないから。

 ドイツ語で明けの明星とか英語読みでモーニングスターとかそんなトリビアいらないから。


「だって、中西先輩が厳しい練習をしたいって……」


 うんうん。

 だから練習しようね?

 まずは夏実ちゃんは、人間界の練習と言う単語を理解するところかなーあははー。







「やぁ、練習に精が……出て……いるね?」







 修行とも苦行ともよくわからない光景が繰り広げられている中、柔道場に朗らかな声が響き渡……ろうとした。


 その言葉の語尾は疑問形だった。

 うん、その気持ちはよくわかる。

 ぶっちゃけ俺も今すぐ帰りたい。


 声の主は、その教師としては特徴的な金髪をかきあげながら、少し困った顔をしていた。



 嵯峨先生だ。



 嵯峨先生と言えば様々な部活に精通し、その助言によって幾多の成果を残してきている。

 それだけに色んな部活に引っ張りだこであり、顔を出せば福音を授ける天使が降臨するかのように歓迎される。



「……」

「……」

「……」

「……」



 だというのに部員達が嵯峨先生を見る目は、まるで親の仇を見るかのような憎悪に近いものがあった。


 どういうことだ?

 だけど俺も、なんとなく嵯峨先生に歪みのようなものを感じた。


 ううむ……

 首をひねっていると、中西君が嵯峨先生の前に出て行った。

 行くのは良いけど、止血くらいしよう?


「決まりましたか?」

「ああ、鎌瀬高だ」


 ザワ、と周囲が色めく。


 鎌瀬高って、そういえば今朝の呼び出しでも――



「そんなの無理だ!」



 部員の誰かの怒声が響き渡った。

 それを皮切りに、次々と不満の混じった野次が飛ぶ。


「相手は何度も全国制覇してる名門じゃないか!」

「そんな相手と試合なんて成立するわけがない!」

「大体なんで鎌瀬高がうちなんかと勝負するんだ?!」

「そんな試合なんて無効だ!」


「やめろ、お前たち! 元はといえば俺が悪いんだ!」


 だがそれを(たしな)めたのは、当の中西君だった。

 鎌瀬高と試合をするような話になってるのはわかるのだが……


「とにかく、勝てばいいんだな?」

「勝てばね。それで君の留年は回避できるよ」


 留年?!

 まだ5月なのに?!


「中西君、君はなかなか輝くものを持っている。そう……いわば青銅(ブロンズ)な生ン徒だ。活躍を期待しているよ。もし、どうしても勝ちたければ私のところに来なさい」


 そう言って気障ったらしく金髪をかきあげ、嵯峨先生は去っていく。

 その姿に、俺はどこか違和感を拭えないでいた。


 いや、それよりもだ。


「中西君、留年ってどういうことだ?」

「それは……大橋さんには別に関係が――」

「答えやがれです、中西先輩」

「ちょっと成績が悪すぎて、次の中間テストも悪かったら即留年決定、それを回避するには柔道で結果を出せということであります!」


 うん、夏実ちゃんに言われると素直に答えるんだな。


「だけど、その相手は名門強豪の鎌瀬高と」

「はっきりいって厳しい相手だ……だけど、今から猛特訓すれば……ッ!」

「それであの修行を……だけど、中間で良い点を取ればいいだけじゃ?」

「俺、勉強はからっきしで……勝てばいいんだろ、勝てばさ!」


 胸を張って言うことじゃないよね?

 だけど、勉強出来て損はないと思うぞ。


 あ、そうだ。


「夏実ちゃん、ちょっと」

「ん? なんですか先輩?」


 手招きした夏実ちゃんに耳打ちをする。

 これできっと上手くいくはず。


「中西先輩?」

「夏実様! 安心してください! 指導してもらったからには絶対勝ちますよ!」

「自分、馬鹿に生きる価値はないと思ってるんですよね」


「お前らぁ!!!! 中間まで死ぬ気で勉強するぞぉおおぉおお!!!!!!」

「「「「うぉおぉおおおおおぉぉっ!!!!!」」」」


「あと勝負で負ける奴はもっと嫌いなんですよね」


「おまえらぁあぁあぁ、次の試合が死地とこころえろぉおぉおぉおおおお(この辺裏声)!!!!!」

「「「「「うぐおおぉおおおおあああぁあああぁあああっ!!!!!!!(※ハウリング)」」」」」


 ……

 ええっと、勉強してくれる気になったのかな……?


 しかし宇佐美さんの奨学金といい中西君の留年といい、一体何が起こってるんだ?


いつも応援ありがとうございます。


面白い!

続きが気になる!

更新頑張れ!

ストロング×ゼロだ!

って感じていただけたら、ブクマや評価、感想で応援お願いしますっ。


今夜のお供はビターライムでっ!

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