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ある朝ツン過ぎる妹が急にデレ始めたので、幼馴染と後輩に相談したら(※物理的に)修羅場になったんだけど!?  作者: 雲雀湯@てんびん2026年アニメ化決定
第2章―3 それぞれの5月6日 眠れる龍は思い出の夢を見る

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第53話 迷える龍は思い出の夢に溺れる ☆龍元結季視点

今回は龍元家令嬢、龍元結季視点です。


最後の龍元結季の独白を少し変えました。


 この地に古くから君臨する、龍元家の第一子。


 それが私、龍元結季。



 幼い頃からその肩書きは絶大で、誰しもが顔色を伺い唯々諾々と従った。

 小さな私はそれを当然と受け入れ、それに恥じない教育を受けていた。

 そして驕らず、龍元の家名を汚さないよう、人一倍努力もした。


 龍元家の跡取りとしても、随分と良く出来た子供だったと思う。


 ……ただ1点だけを除いて。




『何故、お前は女に生まれたんだ?』




 それが父の口癖だった。


 生憎と両親の間には、女の私しか産まれなかった。


 龍元家は男子が継ぐ。

 それが昔からの決まりごと。


 だからだろうか?


 幼い頃は男子として育てられた。

 別にそのことに不満は無かったし、私自身もそうあろうとした。


 剣に薙刀に弓、武芸を習うのは楽しくさえあった。


 髪だってずっと短かった。

 スカートを初めて穿いたのは中学の制服だ。


 だけど、どうしたって私は女子の身。


 やはりその事が原因で、両親の仲は最悪だった。

 一方的に母が虐げられていると言っていい。

 さらに父は外に女を作り、どうしても男子が欲しい様子だった。


 家庭はとっくに崩壊してたのだろう。




『お前が男なら!』




 そんな落胆した父の目ばかり見て育った。

 私がそれなりに秀才だったというのもあるのだろう。


 結局父は私という人間でなく、龍元家の跡取りとしか見ていなかった。


 思えば随分早い反抗期だったのかもしれない。

 いつしか屋敷を抜け出して、少し離れた公園によく行った。


 そこで初めて同世代の子供に出会った。


 彼らはとても楽しそうで、輝いて見えた。

 わたしもその中に入りたかった。

 だけど、どうしていいかわからなかった。


 今まで育った環境が、その子らと随分違ったのだろう。


 私は異質で浮いていた。


 話し掛けてくる子は、誰もいなかった。



 ――寂しい。



 とても寂しかった。

 皆が楽しく遊んでいるのに、自分だけ仲間はずれになっていた。


 そこで初めて、孤独だと自覚してしまった。


 ああ、そうだったんだ。


 他の子供と交わることの無い英才教育。

 顔色を伺うばかりの周囲の大人たち。

 健全といえない関係の両親。


 そう、今まで私は寂しかったんだ。


 知らず熱いものが頬を伝う。


 だけど私はジャングルジムの上で、ただ彼らを眺めるだけしか出来なかった。

 とても楽しそうな彼らを、眩しい宝物の様に……



 だからその時、自分が話し掛けられているなんて思いもしなかった。





『そこからなにが見えるんだ?』





 その男の子だけは他と違った。



『別に』

『じゃあ一緒にケイドロしようぜ! ジャングルジムが牢屋な! 一匹、二匹、合いの子、とってんにげるは――』

『え? え?』


 そして私を、強引に輪の中へと連れ出した。


 あれだけ悩んでいた自分が馬鹿だと言うかのように、いともあっさり眩しいところへ連れて行ってくれた。

 思えば下らない遊戯だと思う。

 だけど誰かと一緒に遊ぶ楽しさというのは、想定外のものだった。


 この子は一体何者だろう?

 思えば誰かに興味を持つのは初めてだ。


 それから、屋敷を抜け出して彼と――アキトと遊ぶのが楽しみになった。

 他にも仲良くなった子がいた。


 だけどアキトは特別……そう、親友になっていた。


 だからこそ、喧嘩もよくした。

 時には殴り合いにも発展した。


『ユーキはみふゆをねらいすぎなんだよ!』

『トロいやつからねらうのはじょーせきだろ!』

『そうだけど、そうじゃないっていうか、あーもう! うがぁああぁああっ!』

『っ?! この!』


 とてもびっくりしたのを覚えている。


 当時の私は小さな子供だというのに、大人達からは普段ご機嫌伺いをされるような身分だった。

 あの父親にさえぶたれたことの無い私を、ぶってきたのだ。

 自分が特別な存在かもという、幻想じみたものをぶち壊された感じだった。



 アキトだけは、私に対して本気でぶつかって来てくれた。


 その時、確かに私は救われた。

 正しく彼はヒーローだった。


 きっと彼は心根の奥底を分かってくれる……そんな思いがあった。


 だからこそ憧れ、自分の中で特別な存在になるのに、さして時間は掛からなかった。


 そして今も――




 ――って!




「ごめ! 取り巻き倒しきれずそっち行った!!」

『おk、自分に回復しながらタンク代わりするわ。殲滅よろ!』


 いけない!

 過去を回想していた隙に、画面の中のオータム(秋斗)君がコボルト達に嬲られている。

 手に持つ棒状の武器で突き刺される様はまるで……


 ……


 はっ! 今何を想像した?!


 私もコボルトの様にオータム(秋斗)君を……


「り、龍滅砲!」

『って、雑魚相手にリソース技?!』

「お、オータム君がケガ()されると思ってつい」

『怪我? ヒーラーだし自分で治せるってば』


 くっ!


 何が清廉潔白な深窓の令嬢だ!


 あの時から、私の中には人にあまり言えないどす黒い感情が巣食っている。


 秋斗君も秋斗君だ!

 私の事に気付いていないのを良いことに、心を惑わせることばかり言ってくる!


 兄貴って何だ?!

 私が秋斗君の兄貴分……ふ、ふーん、悪くないじゃないか!


 年上が好き?!

 そ、そうか! 私は年上だぞ!


 『お嬢様は後ろがお好き』?!

 し、紳士漫画か! その、そっちの方が……研究だ! 今すぐネット通販でポチろう!



 このっ!


 綿毛らいおんさんめ!

 オータム(秋斗)君と女性の好みの部位で盛り上がってずるいぞ!

 太ももか?! 太ももが好きなのか?!



『あ、妹だ。ごめ、落ちる』

「オータムく……お疲れ」

『お疲れ~(*・ω・*)ゞ』



 ……


 最近、秋斗君は妹が部屋にやってくるとすぐにログアウトする。


 それに子供っぽい嫉妬めいたものを感じてしまう。



 大橋小春。


 存在だけは知っていた。

 秋斗君とは没交渉状態だった妹だ。


 妹という事は、当然女の子。


 噂にもなっていたし、見たこともある。


 美少女、とはああいうのを言うのだろう。

 とても女性らしい特徴を備えていた。

 きっと、本来の男性(・・)なら非常に魅力的に映るに違いない。


 もしかしたら、秋斗君も妹君がやって来てすぐログアウトするのも――


 ……


 くっ!



「綿毛らいおんさん、私もログアウトするよ」

『そっかーまたねー! 俺は野良でも行ってくるよー(゜д゜)ノ』



 胸を掻きむしりたくなるような思いが溢れかえっていた。

 このままログインしていたら、何を言い出すかわかったもんじゃない。


 歪な自分を、関係のない人(綿毛らいおんさん)に見られたくなかった。



 パシッ!



 勢いよく自分の頬を叩く。


 気合を入れてからクローゼットを開き、道着を取り出す。


 目指すは敷地内にある武道場。

 かつては家臣団の練武場としても使われたという位だから、結構な広さだ。

 母屋からも遠く独特の静謐さがあるこの空間は、どこか浮世離れしている。


 そんな幽世めいた道場を、月明かりだけを頼りに上座へ向かう。


 そこに奉られているのは二振りの日本刀。




 ――裏打・倶利伽羅(くりから)角砕(つのくだき)、それと髭落(ひげおとし)




 我が家に伝わる曰く付きの夫婦刀、らしい。

 それが仲良く納められている。


 自分の両親との関係と比べると、なんとも皮肉に感じてしまう。



 夫刀の方を手に取り、鞘から抜き放つ。


 鏡の様に磨き上げられた刀身に、私の顔が映る。


 人形めいた精巧で綺麗な顔立ち。

 絹の様にさらさらで艶のある長い髪。

 胸は乏しいが、女性めいた華奢な身体。


 自惚れるわけじゃないけれど、美人の類だと思う。

 事実、龍元という肩書きがなくとも様々な男性に声も掛けられるし、女性にすら熱い視線を送られる。


 だけど刀身の中の胡乱気な目で見つめる自分が、どうしても男子として育てられた幼少期の自分と重ならない。


 一体、この娘は誰だろう?


 本当の私って何だろう?





『おれがユーキの事わかってやるよ』




 ――ッ!!


 不意に、胸の奥に宝物の様にしまい込んでいる彼の言葉を思い出してしまった。


 ただそれだけで、鼓動が高鳴り顔が熱くなるのがわかる。


 だけど同時に、その熱に水を差す言葉も思い出してしまう。



『男女の間で友情なんてない!』



 父の言葉だ。


 楽しかった思い出の時間は、唐突に終わりを告げた



 ――男女七歳にして席を同じゅうせず。



 つまるところ、龍元家存続の為の道具である私の価値を貶めたくないからだろう。


 実際私も男女の事は、頭でわかっていても心が今一つわかっていない。

 だけど、あの時確かに私と秋斗は親友だったのだ。


 あの時、私を違う世界へ連れて行ってくれたように、今の私も――




 刀を正眼に構え、意識を集中させる。


 正面にイメージするは、憧れた男の子(大橋秋斗)

 私の、かつての親友。


 とぼけた顔をしているが、それなりに可愛らしい顔をしている。

 身体は意外と鍛えられており、無駄な肉も付いていない。

 そして最近何かあったのか、彼の纏う空気が変わった。


 16歳にして、苦労を積み重ねた者のみが持つ風格が出てきている。


 その時を同じくして、彼の隣に3人の女の子が現れた。

 ハーレムだ何だと噂されるのも知っている。


 秘密裏に調べてみたけれど、交際しているというわけではない(※龍元お庭番衆調べ)。

 彼も、その誰かに心を寄せている――異性として意識している気配もない(※もちろん御庭番が裏を取っています)。


 という事は、彼女達が彼の新しい親友なのだろうか?


 きっと彼の事だ。


 かつての私の時と同じように、彼女達の修羅場を救ってあげたに違いない。



 思わずギリリと、歯噛みしてしまう。





『男女の間で友情なんてない!』





 そんなことない、彼なら……ッ!



「――ふッ!!」



 父の言葉を振り払うかのように刀を振るう。



『じゃあ何故、彼の傍に行かない?』



 だが、振り下ろした刃に写る少女(自分)がそう問いかける。



「…………」



 ……答えられない。


 いや、わかってる。

 怖いのだ。


 怖いからこそ、ゲームの世界でも正体を隠してるんじゃないか?(※権力を振りかざしつつ、ゲームとサーバーは龍元お庭番衆が調べてます)



 私は、卑怯だ。


 そして、どこか歪んでしまった。


 どれだけ思いを巡らそうと、どれだけ思いを膨らませようと、秋斗の隣に立つイメージが出来やしない。

 イメージできたとしても、子供の頃一緒に遊んでいた過去の男子めいた自分だけだ。


 刃の中の、女になってしまった自分が哀れむような目で見つめてくる。




 助け――



「――ふッ!!!」



 今度は吐きそうになる弱音を振り払うべく、刀を振るう。


 刃を挿入()れる相手のイメージは秋斗君(私のヒーロー)

 もし私が勇気を出せれば、彼は受け止めてくれるだろうか?


 黒光りする、硬く反り返った倶利伽羅(くりから)角砕(つのくだき)を握り締める。


 つい消しゴムや上履きを隠してしまっても許してくれるだろうか? 不意に君はかわいくないと言ったり、背中をつつくとかちょっかい出しても受け入れてくれるだろうか? 話し掛けられるときっと恥ずかしくてそっぽ向いてしまうけど嫌わないでいてくれるだろうか?


 こんな私でも、もう一度親友になってくれるだろうか?



 ……


 そんな思いを込めて刃を振るう。


 前から、後ろから、様々な角度から、イメージの中の秋斗君を斬り付けていく。

 その(ことごと)くを彼は受け止めて……


 ……私はこんな事でしか、この歪な思いを発散することが出来ない。


 自分で自分が嫌になる。


 そして、どうしたって彼の隣を想像する自分は、幼い(男の格好の)自分だけだ。


 ……


 何故?


 ……


 ああ、そうなのだろうか。










 きっと、私は女に産まれてしまったBL(ホモ)なんだ――









 なんて(いびつ)


 私に勇気があれば……


 床板に落ちた水滴は、果たして汗かそれとも涙か。

 自分でもわからなかった。
































「――ッ?! あ、痛っ!」

「もぅ! 急に動かないでよ、お兄ちゃん!」

「悪ぃ、急にお尻がぞわってきて……んで、小春? いつまでかかるの?」

「眉毛が整うまでよ!」

「必要ないと思うけど……」

「ダメよ!」

「そ、そうか」

「んふ~っ! 兄妹だからかな、結構わたし達似てるね♪」

「……お、おぅ」


いつも応援ありがとうございます。┌(┌^o^)┐カサカサ

感想やレビュー、ブクマや評価など、いつも「読んでいただけているんだ!」と大変励みになっております。


これで今章おしまいです。

1回分おまけの様なやつを挟みまして、3章スタートです。



面白い!

続きが気になる!

更新頑張れ!

ストロングなのはゼロだ!

って感じていただけたら、ブクマや評価、感想、キリが良い所なのでレビューなので応援お願いしますっ。


今夜のお供は完熟梅ダブルでっ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで読みました。周囲の人間の特殊突出っぷりに驚いてます。 [気になる点] ラブコメかと思いきや戦闘?シーンの多いこと。面白いです。 [一言] 続き読ませて頂きます。ありがとうございます…
[良い点] 歪みかたがすごい
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