第51話 幸せシュガー生活 ☆東野咲良視点
今回は小春のクラスメイトで親友、東野咲良視点です。
私は東野咲良。
漫画やアニメやゲーム、それと筋肉が好きなごく普通の女子高生。
最近のお気に入りは、水泳をテーマにした自由な感じのやつ。
あのとても素晴らしい筋肉美は、思わず鼻息を荒くしながら食い入るように見てしまった。
ちなみにその姿を弟に見られて、怪訝な顔をされたりした。
くっ、あの非筋肉め!
こほん。
そんな私ですが、今日は親友の小春ちゃんがうちへ遊びに来ています。
「お、面白いお父さんだね?」
「私もびっくりだったよ……」
少し困ったような顔で言う小春ちゃん。
ええ、そうです。
先ほど小春ちゃんにびっくりしたお父さんが、急に彼女と握手するために課金をしようとしたのです。
…………
なんでやねん。
娘の友達を何だと思っているのか?
私まで変だと思われないか心配になるじゃないの!
「……」
「……」
そして、その後小春ちゃんとの会話がありません。
困った!
会話が途切れてしまった!
一体世の人々は部屋に呼んだ親友とどういう事をしているというのか?
……
よくよく考えれば、部屋に誰かを呼ぶなんて初めてだ。
私ってば、いつの間にかぼっち属性まで獲得していたっていうの?!
くっ。
何か……何か話題を……ッ!
「ご、ごめんなさいっ!」
「ふぇ?!」
突如小春ちゃんに謝られた。
え、ええっと、私何か粗相しちゃった?!
「と、友達の家に行くのって実は初めてで、こういう時どうすればいいかわからなくて……」
「小春ちゃん……」
実は私もです……
そうか、小春ちゃんもお友達の家に来るのとか初めてなんだ。
心なしかそわそわしているのがわかる。
どこか恥ずかしげに、そして心細い感じで瞳を揺らし、上目遣いで私を見つめる様は庇護欲を誘う。
普段大人びてる姿とは裏腹に、少し幼げなその行動はギャップから強く胸を打つ。
可愛い。
くっ!
どうして……どうしてこの身には、やおい棒が備わっていないのか?!
筋肉か?! 私には全てを解決してくれる筋肉が不足してるの?!
プロテイン……我にプロテインを……ッ!
だけど、無いものねだりをしてもどうしようもない。
私に出来るのは、この滾る思いをただ紙にぶつけるだけ。
「小春ちゃん、そのまま! しばらくそのままで!」
「え? え?」
「すぐだから! すぐ終わるから! ちょっとだけだから?!」
「咲良ちゃん?! 鼻息荒いし怖いよ?!」
◇ ◇ ◇ ◇
「ふぅ」
目の前には描き殴った小春ちゃんのデッサン。
私の中で眠るオークやゴブリンやミノタウロスが目覚めてしまって、夜の紳士向けな感じの絵に仕上がってしまった。
うんうん、なかなかの出来だと自画自賛。
……本人には絶対に見せられないけど。
「も、もういいかな?」
「う、うん! 急にごめんね?」
「どんなの描けたか見てもいい?」
「ちょ、ちょっと恥ずかしいから今度ね!!!」
「そ、そっか」
小春ちゃんの声掛けをトリガーに、頭が急速に冷えてくるのがわかる。
親友をうちに招いていながら一体何を……
これが賢者モードか……
画面の中の『くっ、殺せ!』と呻く小春ちゃんと目が合う。
くっ、あの時の私を殺せ!
……こほん。
そういえば、どうしてうちに小春ちゃんが来ることになったんだっけ?
確か悩みごとがあるんだったかな。
「私になにか相談したいことって?」
「あのね、笑わないで聞いてくれる?」
「うんうん、笑わないよ」
「実はね、お兄ちゃんに寝汗の匂い嗅がれちゃったの……どうしよう?」
…………知らんがな。
「く、臭くなかったかな? 嫌われたりしたらどうしよう?」
「待って、小春ちゃん!」
汗と筋肉は表裏一体。
地球と月の様に、植物と大地の様に、切っても切り離せない存在だ。
そもそも小春ちゃんの汗ともなると、ご褒美になるんじゃなかろうか?
そして汗とはすなわち筋肉であり、筋肉は全てを解決してくれることから、すなわち筋肉でもある汗が既に問題を解決している――
「何も問題ないよ!」
「え、でも?」
「逆に聞くけどさ、小春ちゃんはお兄さんの汗の匂い嗅いで嫌いにな――」
「そんなこと絶対ない!」
力強い宣言である。
お兄さん、結構いい筋肉してたもんね。わかるよ。
うんうん。
小春ちゃんと2人、無言で頷きあう。
「それにしても小春ちゃん、お兄さん大好きなんだね?」
「うん……えへへっ」
はにかみながら、幸せそうに私に笑いかけてくる。
やっぱり。
小春ちゃんは、見た目と中身が結構ギャップがある。
何だかいつも大人っぽい感じに心掛けているのが、背伸びしている様にも見える。
「もっと可愛い系の髪型とか服とか着てもいいのに」
だから、そんな本音がポロリと零れてしまった。
それを聞いた小春ちゃんは、少し困った顔をしてこう返してきた。
「わたしね、小さい頃からクラスで浮き気味だったんだ」
「小春ちゃん?」
わかる。
美人過ぎて、近寄りがたいオーラあるものね。
だけど急にどうしてそんな話を?
「ずっとね、傍にいてくれたお兄ちゃんが(※ただの兄妹です)、年上系とかそういうのが好きだから(※主に紳士コレクション調べです)」
そう言った小春ちゃんの顔はどこか照れ臭そうで、そしてとても幸せそうな顔をしていた。
お兄さんに対する強い気持ちが、これでもかと伝わってくる。
……健気や。
これは健気さんや。
お腹の奥がキュンとする。
私がお兄さんなら、思わず禁断の扉をこじ開けてしまうこと間違いない。
ていうか、私もこんな妹が欲しい!
「そっかぁ、お姉さん系かぁ」
「歳ばかりはどうしようもないよね」
どうしようもない年下という現実に、その表情が翳る。
いけない! 小春ちゃんにそんな悲しい顔をさせるなんて!
考えろ……考えるのよ、咲良!
ええっと、ええっと!
思い出すのはGWで小春ちゃんの家にお勉強会をした時。
お兄さんも巻き込んでの話。
『お兄さんって、どんな人がタイプなんですか?』
『あー、3年の龍元結季先輩とか?』
『『『ッ!?』』』
その意見には私も納得だった。
龍元結季先輩。
鎌倉時代から続き、江戸時代には藩主としてこの地一帯を治めた名家中の名家の1人娘。
それだけじゃなく成績も全国トップクラスで、スポーツでもいくつかの表彰をされている。
学際のミスコンに出場していないのに連続でグランプリに輝いており、振った男は数知れず。
性格も朗らかで親しみやすく、憧れる人は後を絶たない。
まさに物語のヒロイン然とした美少女、それが龍元家令嬢、結季先輩。
「そう言えば、お姉さんといえば3年の龍元結――」
「あ?」
ゴォアアアァアァァアアアアアァッ!!!!!!!
何か大きな圧力じみた風が、私を駆け抜けていった。
……
…………ゃん
………………………………らちゃん!
「咲良ちゃん!!」
「は?! 今、そこに虎が?!」
「急に倒れて……え、虎?! 大丈夫?!」
「う、うん、多分……?」
あれ? 私生きてる? よね? 夢?
何で虎に食い殺された夢を見たんだろう?
「あ、そうだ。お姉さんと言えば龍――」
「たつ?」
……
なんだろう、私の生き物としての本能的な部分がその続きを言ってはいけないと囁いている。
だけど、言い始めた以上引っ込めるのも……たつ……たつ……あ、そうだ!
「たつきって弟がいるんだけどね!」
「弟さん?」
「ちょっと待ってて!」
「えっ」
そう、弟だ。
リアルお姉さんとして、オネショタ先導者として、弟については避けられない。
強引に小春ちゃんを連れて弟の部屋にノックもせず乗り込む。
「たつき!」
「な、なんだよねーちゃ……っ?!」
私の弟、たつきは私より背が小さく、声も高い。すっごいなで肩だし、腰も妬ましい位細い。肌も白いしさ!
つまり圧倒的に筋肉が不足していて、男らしくない。
と、いうことはだ。
「ちょ、ねーちゃんそれ! やめっ、脱げっ、ホントまじで! ひぎぃっ!」
「良いから大人しく! 動くとずれるから!」
ふふっ。
弟の顔をキャンバスに見立てて化粧を施していけばあら不思議!
そして強引に、迸る私のパトスを篭めて作った某作品の妹系姫キャラの服を着せれば、こうだ!
甘ロリな美少女の出来上がりだ!
『ちょ、ねーちゃん!』と涙声の抗議の声をあげるが無視無視。
弟は姉に対して絶対服従なのだ。
「小春ちゃん、お待たせ!」
「おかえり、咲良ちゃん……それと?」
「――ッ?!」
ふふん!
どうよ、なかなかのクオリティだと思う。
私も昔から妹が欲しかったんだよね。
って、たつきのやつ、やたら顔が赤くない?
はっはぁん、いっちょまえに照れてやがるな!
「あ、これ私の弟のたつき」
「え、うそ?! 男の子なの?!」
「っ!」
あ、凄い顔でたつきが睨んできた。
しかも割りとガチ泣き寸前。
……
やばいな。
なんていうか、弟だけど全然違う女の子みたいに見えてるというか、私の中のオーガやトロール、クラーケン(※触手枠です)が暴れだしてしまう。
あ、鼻血が……
「ほら、たつき……ちゃん? そんなにスカート握り締めると皺になっちゃうから」
「……え? や、その……」
そんな邪念を抱いていたら、小春ちゃんが震える弟の手を優しく握り締めていた。
「せっかく可愛いんだから、もっと笑って?」
「あの、えっと……こう……?」
「うん、素敵よ」
「……ぅっ!」
弟の顔がレッドキャップ(※赤いゴブリン系の魔物です)の帽子の様に赤く染まっていく。
「ほら、足とか仕草もこうした方がいいよ?」
「でも、オレ……っ」
「おれ?」
「その、わ、わたし……」
「そう……とっても可愛いわ」
「……っ! そ、そっか!」
小春ちゃんが弟の背後に回って、抱きしめるかのように手取り足取り女の子っぽい仕草を教えてる。
……あれです。
どうみても百合です。
幸せな砂糖まみれの生活の様に尊いです。
うん、今夜ちょっとネットで検索かけてみよう。
「咲良ちゃん、そういうことだったのね」
「へ?」
どういうことだろう?
あ!
妹キャラが可愛いってのがわかってくれたのかな?!
そうそう、小春ちゃんもそういう路線でアプローチを――
「お兄ちゃんをお姉ちゃんにすればよかったんだね」
え?
「あ、あの小春ちゃ――」
「そうだよね。お兄ちゃんが年上だってことは絶対に覆せない事なんだから、お兄ちゃんをメス堕ちさせてお姉ちゃんになってもらえばよかったんだよね。きっと私の想いを存分に注ぎ込んでも優しく受け止めてくれるよね」
「んんっ?!」
「ありがとう、咲良ちゃん!」
「え、えぇえぇ……ど、どういたしまして……」
あれ、なんか変な方向に話が……
「ね、咲良ちゃん! まずはどうすればいいだろう?」
「肌のお手入れとか、制汗――」
「制汗は無しの方向で!」
「あ、はい」
…………
お兄さん、どんまい!
きっと、筋肉が色々解決してくれるはず!
「――ッ?! あ、ごめ、季節龍さん回復ミスった!」
『大丈夫、自己ヒール間に合ったし。凡ミス珍しいね?』
「ああ、何だか急にお尻がムズムズしてな」
『何だい、下ネタかい?』
「いや悪い、俺もよくわかんねぇ」
☆おまけ
「ねーちゃん、お姉さま……じゃなくて、あの友達、またうちに来るかな?」
「小春ちゃん? あ、今度来たら姫騎士(軍服ver)の着て貰わないと!」
「…ッ! そ、そのキャラに妹いたよね! それとかないの?!」
「は! 姉妹でいちゃいちゃしてるの尊い……作らないと……」
「おれ……わ、わたしも手伝うよ!」
「……わたし?」
東野咲良(15)、弟(13)の行く道を大きく歪めてしまったことに、今はまだ気付いていない……
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ストロングもゼロだ!
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今夜のお供はダブルシークァーサーでっ!











