第50話 ハードボイルド ☆東野刑事視点
今回は犯罪組織銀塩を追っていた東野刑事視点です。
「289円になります」
値段を告げるコンビニ店員に怪訝な顔をされた。
今の俺は真昼間から魚肉ソーセージと飲む福祉を買う、くたびれスーツの中年オヤジ。
そんな顔をする気持ちは分からなくもない。
だが、今日は大きな山場を終えて夜勤明けなんだ。
こいつは数少ない愉しみ、許してほしい。
おっと、俺は東野。
ただのしがない刑事さ。
現場を分かっていないエラそうな上司と、まだまだ残ってる家のローンが悩みの種だ。
他にも頭を悩ます事件もあるが……この飲む福祉で色々モヤモヤしたものを有耶無耶にしながら、日々街の平和を守っている。
ふっ。
だが今日の俺はちょっと機嫌がいい。
自分へのご褒美ってことで、いつもは350ml缶のところを500mlに奮発した。
麻薬売春斡旋組織、銀塩――
ここ数年、急激に肥大化していた組織を潰せたのだ。
多くの年端も行かない少年少女が、クスリや性の餌食になっていた。
俺も高1の娘と中2の息子を持つ親の身。
いつその組織の被害にあわないか、冷や冷やしていたものだ。
だからそれを潰せたというのは、非常に大きい。
何よりそのおかげで、うちの娘がそんな危険に晒されないってことが重要だ。
……
それにしても不思議な事件だった。
100人近い人間が一気に逮捕されたのは衝撃だった。
それも我々の張り込みや一斉検挙とかではなく、民間からの通報だというのが驚きだ。
さらに宍戸ビルで捕まった者はやたら健康状態が良くなっているし、ビル外で捕まった者はまるで猛獣に襲われたかのようにボロボロになっていたというのも、色々と謎が残る。
全くもって意味がわからない。
しかもこの件に、街に古くから君臨している龍元家が介入してくる始末だ。
地元巨大企業、宍戸グループから話が来るならまだわかる。
何故、龍元家が口を出してくるかがわからなかった。
宍戸学園の学生は一切犯罪に関係無いから解放すべし、か。
何かあったら責任を全て持つとまで言い切ったのだ。
あの龍元家が身元引受人になると言うのだから、否やと言い辛い。
俺も昨夜、課長のような顔と銀髪頭の高校生を事情聴取したが……組織と深く関わっている様子はなかった。
疑念は残ったままだが……まぁいい、その辺は飲む福祉を飲んで忘れよう。
銀塩を潰せた事には変わりないしな。
それにしても龍元家のお嬢、凄い美人だった。
今時珍しい、品格ある清純な大和撫子。
もしSSD44なんてアイドルグループがあれば、センター争いするくらいの美貌だった。
凛然とした風格ある姿には、きっと多くの固定のファンも付くだろう。
そして引退後は女優とかに転身して、更なる活躍が望めそうなほどだ。
俺も彼女を応援する為にCDなら50枚、写真集なら30冊までなら即刻課金できる。
そして握手する為に、国内なら有給をもぎ取ってでも応援に行く。
惜しむらくは、もう少し胸があれば……C、いやB程もあれば追加でそれぞれ更に20部ずつ課金しただろう。
おっと、そんな想像はどうでもいいか。
それよりうちの娘だ。
はっきり言って、俺の娘は天使といえる。
世間的には、ちょっと地味っぽいかもしれない。
あ、でもSSD44があったら入れるくらいは可愛いな。
だから俺にとっては、目に入れても刺し込まれても痛くない。
…………
だが親の贔屓目を持ってしても、アイドルグループにはいったとしても後が続かず、良い思い出として終わりそうだ。
そして、その後業界に残ろうとしたら紳士業界のビデオ撮影に……
ダメだダメだダメだ!
きっとそういう所へ斡旋していた銀塩が残っていたら、そういう未来もあっただろう。
本当に潰せてよかったと思う。
そんなうちの娘だが、最近漫画を描く趣味が出来たのか、液晶ペンタブレットに興味津々だった。
思わず、ちょっとお高い奴を買ってあげちゃったね!
飛行機の距離での遠征1回分の出費だったが、娘の笑顔を得られたと思えばいい買い物だった。
はは!
飲む福祉は、そんな寒くなった懐事情にもとってもストロングに福祉的だ。文学的ですらある。
今日はGWの最終日か。
きっと娘も家にいるはず。
…………ふへへ。
おっと!
今のは職務質問されても文句の言えない顔だった!
それもこれも娘が天使過ぎるのがいけない。
まったく俺の娘――咲良は罪深い。
お父さんをこんなメロメロにして一体どうしようっていうのか?
って、いかんいかん。
威厳があって頼れるお父さん像が崩れてしまう。
お小遣い制で嫁に頭が上がらなくとも、娘の前では亭主関白で硬派なイメージを維持したい。
おほん。
家はもう目の前だ。
顔は……よし、緩んでいないな?
「んんっ、ただいま帰ったぞ」
「おかえり、お父さん」
「あ、お邪魔しています」
――ッ?!?!?!?!?
め、女神?!
切れ長で勝気がちな大きな瞳。艶やかで光沢のある綺麗な長い髪。そして神の如き造形美としか言いようのないプロポーション。
SSD44があれば、間違いなくセンターを争いあい、総選挙では片手の指に入ること間違いない。
龍元家のお嬢と比べても負けはしない。
そして、お嬢にはない巨大な武器を備えて……
ゴクリと息と飲み喉を鳴らす。
それ程の美少女が、帰宅したリビングに居たのだ。
ど、どういうことだ?!
いつからうちはイベントの握手会場になったんだ?!
「小春ちゃん、うちの父です。お父さん、この子友達の小春ちゃんね」
「咲良ちゃんにはいつもお世話になっています」
「……ッ!」
声にならなかった。
楚々としてペコリとお辞儀する姿には、今まで訪れたどのイベントのアイドル達よりも心が篭められていた(※友人宅にてする普通の会釈です)。
そう……その言葉にはまるで、俺の為だけに向けられたような真摯さがそこにあった(※友人の親に対する普通の挨拶です)。
くっ!
どれだ?!
どこでどれを買えば握手できる?!
CDか?! 写真集か?!
拠点はどこだ?!
引越しと異動願いも視野に入れねばなるまいっ!
10万……いや、15万円だ!
CDなら100枚、写真集なら50冊まで買う!
15万円までなら即刻握手の為に課金できる!
「あの、おじさ――」
「康司です! 僕の事は康司と呼んでください! できれば親しみを込めてやっちゃん♪と――」
「ちょっ、お父さん?! 一体何を言い出してんの?!」
「さ、サインはダメですか?! 後、さ、撮影とかっ――」
「ちょっとホントに止めてよ、お父さんっ!!!」
俺は東野。東野康司。
学生時代からアイドルが好きな、しがない刑事だ。
この日、興奮して我を忘れた姿を娘に見られたことを、無かったことにしたい。
ははっ。
アイドルはいいぞぉ。
特に写真集。
絶対に、ゴミを見るような目で俺を見ないからな!
…………
くすん。
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