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ある朝ツン過ぎる妹が急にデレ始めたので、幼馴染と後輩に相談したら(※物理的に)修羅場になったんだけど!?  作者: 雲雀湯@てんびん2026年アニメ化決定
第2章―3 それぞれの5月6日 眠れる龍は思い出の夢を見る

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第49話 巨獣の咆哮 ☆加藤清真視点

今回は、剣道部のエース虎殺しこと加藤清真視点です。


31/2/18 PM ラストに権力を使ったかのようなシーンを追加しました


 俺は加藤(かとう)清真(きよまさ)


 剣道では全国有数の腕を自負しており、神速の突きから【虎殺し】なんて異名を持っている。

 ほんの2週間前までは我が世の春ともいえる状況だった。



「もう来るんじゃねーぞ! お嬢に感謝しとけよ!」


「……はい」

「……うぃ」



 それがどうしたわけか、警察署から刑期を終えた受刑者の如く出署してきた。

 隣には苦難を共にした銀髪頭が一緒だ。


 GW最終日の朝の風が身に沁みる。



 何故こんなことに……



 発端はバイトをしないかって誘われた事だった。


 雑誌で取材を受けることもあるし、そのツテからだ。

 日給3万円、可愛い女の子と知り合えるかもという甘い言葉に釣られるのは仕方ないだろう?


 それだけじゃない、現場に来たアイツの顔!

 オレから小春さんを奪ったアイツの顔が歪んでいく様は痛快だった。

 アイプチで必死に二重に戻した目蓋も、ヒクヒクして喜んでたね!


「お嬢って、どのお嬢だろう?」

「お、おいやめろ!」


 隣の銀髪頭が酷い顔色でボソリと呟く。

 昨日を思い出し身体が震える。


 正直昨夜の事は思い出したくない。

















 オレたちは昨夜、夜の街を追い掛けられていた。


 狼達に。


 ……


 いやいや、そんな事あるわけないって?


 ははっ。



 俺の方こそ、んなわけねぇって言いたいよ!!


 気付いたら、宍戸ビルの廊下で倒れていたんだ。

 バイト仲間は倒れていたにも関わらず、何故か健康状態が良くなって困惑していた。

 オレはといえば、目蓋が一重に戻って嘆いていた。


 一体何故?!



「くそっ青パーカーがやられた! 赤パンツに続いてもう6人だ! どうする、銀髪?! かちょー?!」


 互いに名前がわからないので、それぞれ見た目の特徴で呼ばれている。

 てか、何でオレがかちょーなんだ?!


「とにかく、どこか人の多い屋内へ! さすがにそこまではっ!」


 狼達は群れからはぐれた草食動物を狩るかのように、1人また1人と始末していく。

 それだけじゃなく、まるでどこかに誘導されているかのように追い立てられ、軽くホラーじみていた。


 何でこんな目に?!


 小春さんを誑かしたあの男……あいつにやられて以来全くついていない!



「お前ら、こっちに来るんじゃねぇよ!」


「ぷげらぁっ?!」

「三十路半ズボンッ?!」


 頭皮が薄くなりかけている半ズボン男が宙を舞った。


 くそ、既に回り込まれ……え?



「ぎ、銀塩の実働部隊……ッ!」



 ぬぅ、っと影から染み出るように現れたのは、見るからにカタギじゃない屈強な集団。

 ざっと見た感じ20人……いや30人はいるか?


 銀塩ってことは俺たちの味方?

 いやでもさっき三十路半ズボンさんが……


「お前たちは(デコイ)なんだよ、ちゃんと役目を果たしてもらわねぇと困る、なっ!」


 囮だって?!


「うげあぁっ?!」

「サーベルポスターっ?!」


 今度はアイドルポスターを丸めて刀剣(サーベル)()にしていた男が飛んだ。

 実働部隊と言われた彼らは、その全員が動きに隙がなく、そして鍛えられた力を使うのに躊躇がなかった。


 この……っ!


 一体何者なんだ?!

 どう見ても暴力を生業にしていそうな連中と、NPO団体が結びつかない。


「お前らは、囮の役割をこなしてればいいんだ、よっ!」


 そして彼らの商売道具(暴力)が、何のためらいもなくオレにも振るわれた。

 大上段から鋭く面を狙う、打ち下ろしの様な一撃だ。



「くっ!」



 ドガッ!!


 オレは己の左腕を竹刀に見立て、何とか受け流す。

 だがあまりの威力に、左腕が痺れて上に上がらない。


 くそっ!


「この攻撃をいなすか。その課長っぽい顔……そうかお前が……だがまだまだ青いな」


 俺が何だよ! てか課長って何さ?!


「だが、背中や脇がお留守だぞ?」


「ふんぅっ!」

「むんっ!」


「なっ?!」


 先に言い訳しておく。

 1対1なら例え左腕が動かなくても、何とか対処する自信があった。


 だが複数相手、それも背後からの奇襲というのは試合では経験したことが無かった。


 くッ……!


 オレは覚悟を決めて身を強張らせるが――



 パパパパシンッ!



 何かを受け止める乾いた音が連続で響く。


「なっ?!」

「えっ?!」


「大丈夫か、加藤くんっ!」



 ()は、オレの背後から襲い掛かってくる拳4つ全てを平然と受け止めていた。

 同じ剣道部員の……あれ、名前なんだっけ? 正直雑魚ばっかだったので名前は憶えていない。



「こいつ、全て真正面からっ?!」

「バカな!」

「全員林檎を握りつぶせる握力があるんだぞ?!」


 ……えっ?!


 俺、受け流すだけで腕が潰れたんだけど?!



「軽いな」


「てめっ!」

「くそがっ!」

「ナマ言ってんじゃっ――」


「全身を地面に縫い付けられそうな夏実様の覇気に比べれば、これらの攻撃は軽すぎるっ! たわわで綿菓子の様にふわふわなおっぱいのように軽いッ!!! 童貞だから触った事ないけど!!!!」



 キュヒュヒュヒュッ!


 何かの風切り音が響く。


 腕から繰り出されるは煌めく狼の牙。

 一瞬にして、オレの背後に居た4人が地に倒れる。


 嘘だろ?!

 あいつこんなに強かったっけ?!

 あと、その童貞だっていう宣言は必要だったか?!



「ちっ、こいつらが報告にあった”狼ども”――なっ?!」



 どこからともなく姿を現したのは、うちの剣道部員と見覚えのある柔道部員。

 何故こんなところに?!



「がっ!」

「うぐっ!」

「ぶへぁっ!」



 それは狼達の狩りだった。

 まるで羊の群れを狩るかの如く、実働部隊の数人が、一瞬にして宙を舞って地に伏せる。


「加藤くん、もう大丈夫だ。あいつらに脅されてたんだろう? あとは俺たちが何とかする、逃げろ!」

「え、その、オレはっ」


「「「「うぉおおおおぉぉおおぉおぉおっ!!!」」」」



 言うや否や、部員たちは倍程数がいる実働部隊に立ち向かっていく。


 数や体格も負けているというのに、まるで1つの大きな生き物の様に互いを補い合う様子は、あまりに見事で見惚れてしまう。

 その何かに突き動かされているような連携は、慣れているというより、とてもよく訓練されている様子だった。


 実働部隊の連中はいかに暴力に慣れているとはいえ所詮は個。

 大きな群れの前には、ただただ為す術もなく数を減らし(狩られ)て行く。



 …………


 いやいやいや。


 なんで一介の高校生が、部活で対集団戦を意識した訓練されてんの?!







「オ前たチ! ナニを遊んデんダッ!!!」





「「「「ッ!!!!」」」」


 空気が一瞬にして変わった。


 ピリピリと肌をひり付かせ、まるで戦場に立っているのかと錯覚する。


 現れたのは巨人のような大男。

 身長もオレより頭3つ分くらい大きい。

 外国人か? その肌は黒かった。



「ボブさん!」

「こいつらただ者じゃねぇ!」

「ただの高校生のはずじゃ?!」









「イイワケはイインだヨ、Fucking(クソが)ッ!!!!!!」








 ゴォアッ!!



「「「「ッ!!??」」」」



 あまりの迫力に大気が震える。

 それはまさに野獣の咆哮だった。


 お前たちはオレ(野獣)のエサなんだよと宣告するその叫び声に、生物としての本能からか驚きすくみあがってしまう。


 こいつはヤバイ。 


 明らかに一線を越えた者しか持ち得ない、独特の()のようなものがあった。


 隣の銀髪頭もガクついている。

 銀髪頭だけじゃない、味方であるはずの実働部隊も恐怖からか縮みあがっている。

 そしてオレも足が震え……くそっ、情けない!



 こんな奴、唯の高校生が相手になるはずが――



「人間の様に2本足で立つな」

「紐無しバンジーしてこい」

「とっとと去勢しろ」

「エサとして生ゴミを差し入れされたい」

「おい、生ゴミはダメだろ」

「夏実様の食べ残しがあったらご褒美になる」

「そ、そうか」



 だが彼らは、まるで童女に罵ってもらいたいと言いたげな恍惚な表情で、罵声を祝詞の如く呟いていた。

 咆哮なぞどこ吹く風と、泰然としている。


 って、こいつら何言ってんの?!

 咆哮のショックで頭がおかしくなっちゃった?!


 思わず……ええっと名前がわからない剣道部員に話しかけてしまう。



「おい! 気がおかしくなるくらい怖いのはわかるが、正気に――」


「え、怖い?」



 そいつは心底わからないという顔で、キョトンとオレに答えた。



「なぁ、あいつ怖いか?」

トイプードル(子犬)に吼えられても別に……」

「本当の恐怖を知ってしまえばなぁ」

「アレはいつ思い出しても……夏実ちゃんこわいなつみちゃんこわいなつみさま夏実様夏実様……」


「中西君、副部長がまた!」

「チッ、まだ信仰心に昇華出来ていないのかよ。ほら、あいつを見ろ!」



 一斉にボブと呼ばれた黒い巨人に目が向けられる。


 その瞳には恐怖が一切無く、むしろ暗闇の山中で同族を見つけた安心感みたいなものさえあった。


「あれ、怖いか?」

「……(ブンブン)」

「あれ、どう感じる?」

「……同じ、人間……」

「そうだ、怖くない。怖くないぞぉ?」

「おで、大丈夫! おで、戦える!」







「オマエラ、フザケテんジャネェエえぇエエェッ!!!!!」






 おちょくられているとも言えるやり取りに激昂したのは、黒い巨獣だった。

 再度の咆哮を皮切りに、まるで暴走した重機のごとき迫力で柔剣道部員に襲い掛かる。


 うん、アレはオレだって怒る。

 アイツラ命が惜しくないのか?!


「フォーメーション牙だ!」

「オレが正面をいく!」

「中西、牙の指揮はお前が取れ!」

「任せろ!」



 驚いたことに、ボブ(人間重機)の攻撃を数人がかりで真正面から受け止めた。

 そして手の空いた奴が攻撃の隙を狙い痛打を加えていく。



「チョコマカとコノッ! FUUuuUuUUCK!!!!」



 繰り広げられているのは、巨獣と狼の群れの戦い。

 どちらもが牙と爪を存分に振るい、クルクルと攻守が目まぐるしく変わっていく様は、まるで互いに円舞曲(ワルツ)を踊っているかのよう。


 ……うちの部活ってこんな訓練していたっけ?!


 おかしくない?! ねぇ、ちょっとおかしくない?!



 状況は拮抗していた。

 賞賛すべきは8人を相手に一歩も引かないボブ(巨獣)か、はたまたそれに食らいついている柔剣道部員達か。



 果たして、先に痺れを切らしたのはボブ(巨獣)の方だった。





実働部隊共(Troop)! 見テナイで、加勢シロ!」




「「「「なっ?!」」」」


 さしもの部員達も身を強張らせる。

 ボブ(巨獣)1人相手に、何とか拮抗している状態だ。

 これに実働部隊の20人強が加われば、この場の趨勢は決してしまう。


「……」

「……」

「……」


 互いが緊張感でもって睨み合う。


 だがどうしたわけか、いつまでたっても状況が変化しない。



「オイ、オレの命令(Order)ガ聞ケ……Who's?!」











「あはっ♪」









 死屍累々。

 鮮烈な紅の化粧が似合う、幼い戦乙女(死神)がそこにいた。

 その足元には、血まみれの実働部隊の山。


 状況が動かないんじゃない、動けなくなっていたのだ。


 その童女はさも当然とばかりに、その山頂に君臨していた。

 敬意を表するのが当たり前とばかりに部員達は膝をつく。



 って、誰この子?!

 なんで皆跪いてんの?!


「中西先輩?」

「はっ!」








「楽しそうに遊んでるっすね?」









 グゴオオォオオオオアアアアァアアアアァアアッ!!!



「「「「ッ?!?!?!」」」」


 オレは意味がわからなかった。

 脳が理解することを拒否したと言ってもいい。


 身動きできないほどの()が身体に圧し掛かった。


 確かに今、そこに巨大な餓狼のようなものを見てしまった。


 なんだこれ、腰が……手の震えと汗が……あっあっあっあっ!




「ちちちち違いますごめんなさい、後5分で「2分ですかね?」聞いたか、お前ら! 2分だ!!」


「「「「お、おぉおおおおぉおおおおぉおっ!!!」」」」



 嘘だろう?!


 この覇気の中動け――特攻っ?!




「C、Crazyyyyy(オマエラおかしいよ)!!!!!」



 あ、ボブさん。

 それは完全に同意です。


「2分過ぎたら去勢します!」

「紐なしバンジーじます!」

「豚のえざになります!」

「夏実様の靴の裏舐めまず」

「おま、それご褒美だろうが!」

「ああああ罪深くてごめんなざいっ!」


 何故か妙に興奮した顔でよくわからないことを口にしながらボブ(巨獣)に襲い掛かる。



「Ouch! Oops! Cut it out! NOOoooooOOOoooo!!!」



 蹂躙。


 それは先ほどと打って変わって、一方的な蹂躙だった。


 躊躇も容赦も無く、ただただひたすらにボブ(巨獣)打ちのめさ(狩ら)れていく。


 え、あの女の子も参せ……あいつら何でボブをそんな羨ましい目で見てるの?!

 その子に足蹴にされるのってご褒美なの?!


 ちょ、まって!

 その子の攻撃凄くない?!


 軽く蹴飛ばしただけで、ボブが2階のビルの看板に吹っ飛んでんだけど?!



 ……


 訳がわからなかった。


 ほうほうの体という言葉がよく似合う感じでボブ(トイプードル)は逃げ出していった。

 まるで引き潮の波が引くかのように、部員(狼達)童女(幼い死神)の姿もそこに無かった。


 そしてオレと銀髪頭は、現場に駆けつけた警察に保護された。











「お前たち、本当にクスリとかやってないんだよな?」

「信じてください! 本当に狼と小さい女の子の死神が!」


 事情聴取の時そんな言い方をしたのが不味かったのか、薬物検査を受けることになって翌日の朝というわけだ。


 これが昨夜の出来事だった。





















「お前ら、本当にお嬢に感謝しろよ? 薬物反応も無かったし、お嬢のお陰で逮捕されないんだからな」


 お嬢と聞くと彼女(狼の女王)を思い出し、ぶるりと身が震える。


「あの、お嬢って、小さい狼のような女の子だったりしませんよね?」

「は? お前は何を言ってるんだ?」


 確認までに刑事さんに聞いてみるも、怪訝な顔をされた。


 しかし、オレ達が逮捕されるとかの瀬戸際だったって?

 警察権力に介入できる何かの力が働いた……?


「あ~、俺たちのような大人にとって、お嬢様って言えば1人しかいないんだ」

「え?」


 どういうことだ?


「鎌倉時代から続く、かつてこの龍元藩8万2千石のお嬢様――」


「東野刑事、わがままを聞いてもらってすいません」

「――と、これはこれは。お嬢様の――」


 お嬢様という言葉が嫌いなのか、ピクリと柳眉が動く。


「――いえ、龍元結季さん」

「っ!」


 息が止まった。


 彼女は知っていた。

 うちの学園の有名人だ。


 芍薬の様にスラリとした佇まいで、歩いてこちらに向かってくる様はまるで百合の花。

 大和撫子――それ以外に形容のしようがない美少女。



 スゥっと彼女の目が細められ、オレを見据える。


 ――ゾクり、と。

 巨獣や餓狼ではない、もっと別の逆らい難い気迫に背筋が凍り付く。



「宍戸高1年の加藤清真だな?」


「な、何故オレを?!」


「話を聞かせてもらうよ」


 返事の代わりに、オレは跪くことで応えていた。

 あれ、そんなつもりは全然なかったのに……

 もしかしたら、あの小さな死神より……


 って銀髪頭?! お前なに五体投地礼してるの?!


今回も長くなっちゃった; 結構削ったのですが……



面白い!

続きが気になる!

更新頑張れ!

ストロングなのがゼロだ!

って感じていただけたら、ブクマや評価、感想で応援お願いしますっ。


今夜は週末だし休肝日でっ!

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