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ある朝ツン過ぎる妹が急にデレ始めたので、幼馴染と後輩に相談したら(※物理的に)修羅場になったんだけど!?  作者: 雲雀湯@てんびん2026年アニメ化決定
第2章-2 ゴールデンウィークと悩めるクマさん

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第43話 そして俺は福祉を呷る

滝藤秀一様とSeica様かられびゅーを頂きました!


素敵なれびゅー、ありがとうございます!


「あ、あああああきくん! 男の人がねっ、一緒に遊ぼうとかねっ、色々ねっ、そんなの初めてであたしねっ」

「おい、落ち着けって」


 美冬はあわあわ取り乱していた。

 初めてされたナンパで混乱したのだろう。

 運がよかったな、あいつら。美冬が本気出して(暴れ熊モード)なくて。


 だけどあの銀髪頭、どこかで見たような……

 そういや何であいつは震えながらナンパしてたんだ?


 そんな考えをよそに、出尾たちを観察してみる。


 手ぶらの出尾に、アシスタントと思しき若い男が数人。

 彼らは光を集める板とか、大きなカメラを支える三脚等を手に持っている。

 お試し、という割には随分大掛かりだ。


 あ、1人若そうだけど課長(かちょー)と言いたくなるような老け顔が1人。

 あいつもどこかで見たような……?



「ちょっと出尾、あんた何やってんの!」

「……これはお嬢」


 そうやっていぶかしんでいると、俺達に話しかけてくる若い女性がいた。

 野暮ったい大きな眼鏡にひっつめ髪、そして大きな胸。どこかもっさいところが以前の美冬に雰囲気が似ている。


 身分がある人なのか、苦手な人なのか、出尾の表情が一瞬苦々しく歪んだ。

 無意識なのか、出尾は左膝を庇う様な動きをした。



「あんたが影で何かこそこそやって、うちの評判が悪く……え、何この子?!」

「いい素材でしょう? だから撮ってみ――」

「あなたちょっと来て! こっち! いいから!」


「え? え?」



 まるで嵐のような慌しさと有無を言わさぬ強引さで、美冬を彼女の軽バンの車へと連れ込んでいった。

 ……色々大丈夫か?

 いや、出尾が苦手としている人ならきっといい人に違いない。


「(出尾さん大丈夫ですか?)」

「(あまりよくないな、さっきの奴に連絡しろ)」


 その出尾は、相変わらず何を考えているかわからない笑顔で、アシの男と小声で話していた。

 見るからに怪しいっての。


 …………


 まぁ美冬の事だし? いざとなったら自分1人でもなんとか出来そうだし?

 あーもう、だけどさ、それでもモヤモヤす――



「あ、あきくん」

「……へ?」


 思わずモヤモヤとか全てが吹っ飛び、変な声が漏れてしまった。


 それは美冬であって美冬でなかった。

 いつもよりぱっちりした瞳や、ほんのり色づいた頬、それにいっそ蠱惑的とも言える唇。


 どこか自信なさ気にもじもじするところ所作だけが、辛うじて美冬なんだと認識できた。



「どうよ!」


「凄い……」



 美冬を変身させたお姉さんが、ドヤ顔で大きな胸を張る。

 その美冬も満更じゃなさそうだ。

 俺はただ、貧弱な語彙で頷くことしか出来なかった。


 これがプロ……



「へぇ。これは見違えたね、とても撮りがいがあるよ」

「そ、そうですか」

「早速だけど撮影の方に取り掛かっていいかい?」

「は、はいっ」


 出尾が美冬を撮影へと促しに来た。


「それとお嬢、次の仕事の事でアシスタントが聞いておきたいことがあると」

「なによ、そんなの後でも……ああ、わかった! すぐに済ませて後を追うわ!」


 お嬢と呼ばれたお姉さんは、どこか鼻息を荒くした課長(かちょー)ぽい男と一緒に、打ち合わせのため移動した。




  ◇  ◇  ◇  ◇




「そこで少し左から振り向くような姿勢で」

「こ、こうですか?」


 パシャパシャと、恥ずかしそうにしている美冬がカメラに収められていく。

 光を集める銀板を持ったアシスタントの視線も感じているのか、普段以上に緊張してそう。


 なんだよ。

 モデルなら堂々としてればいいのに、これじゃいつもと変わらないじゃないか。

 あと皆やたらと胸見すぎじゃねぇか?

 普段モデルとかで見慣れてるんじゃねーの?


 そんな目に晒され撮影されている美冬が、どこか遠い世界に行ったように感じてしまう。



「次は衣装も変えてみようか?」

「え? でもこの服は……」

「大丈夫、こちらで用意しているから」


 アシスタントの男の1人から紙袋を手渡されている。

 あわあわした美冬が、どうしようって目で見てくる。


 ……なんだよ、別に俺に聞かなくてもいいだろ。


 そっと目を逸らしてしまった。


「バンの中で着替えるといいよ」

「……はい」


 機材を積んでもゆとりがありそうなほどの大きさを誇るバンに美冬が吸い込まれていく。

 まるで遠い場所に旅立っていくかのようだ。


「(おい、ちゃんと仕掛けといたか)」

「(ばっちりな。何かあったらこれをネタに脅せば……)」


 バンに案内したアシスタントが、何か聞き捨てならない事を囁きあう。

 ……何か変なことするんじゃないだろうな?


 俺は2人に近付こうとして――そして出尾が目の前で挑発的に笑ってるのに気付いた。


「見てみるかい?」

「え?」

彼女と私(・・・・)の作品を」

「…………」



 …………


 画像チェックがされているノートPCに映し出された美冬は、全くの別人だった。


「うそ、だろ」


 傍から見ればおどおどして自信なさ気に写されていたその姿は、どうしたわけか物憂げで儚げな美少女として切り取られている。

 これが出尾のカメラマンとしての、プロとしての腕なのだろうか?


 そのあまりの変貌ぶりに、画面の中の美少女が美冬だとどうしても信じられない。


「私なら、本当の彼女を引き出せる」

「本当の……」


「キミは彼女と別れるべきだ」

「……別に、俺達は付き合ってないし」


「へぇ、付き合ってないんだ」


 俺の返事に、出尾はその仮面のような笑顔を卑猥に歪ませた。


 別に美冬とは付き合っていない。

 でもそれはお前に関係ないだろう?


 俺は無意識に、いつも庇うようにしている出尾の左膝を睨む。





 ワアアァァァッ!





 文句を言おうとしたその矢先、どこからか歓声が聞こえてきた。


『宍戸千南津がサインしてくれるってよ』

『うそ、ホント?! 何かのイベントか番組?!』

『きゃー! スタイルちょーすごい! しかも何あの小顔、反則!』

『あ、握手とかもしてくれるかな?!』



 俺の気勢も殺がれ、そして息が止まった。



「あきくん」

「美冬……?」



 目の前の美冬と画面の中の美冬は別物……どこかそう思い込もうとしてた。


 レースをあしらった甘い感じの白い上下(セットアップ)

 大胆に肩や足を見せているのにどこか清楚なイメージを抱かせる。

 美冬だけのために(あつら)えた様に見えるそれは、どこまでも現実離れさえして見えた。


「どうかな?」

「あ、あぁ……」


 そんな事は無かった。

 目の前に居るのは美冬じゃなくてMIFUYUだった。

 何を言っているかわからないと思う。


 プロの手により、それくらいかけ離れた存在になっていた。

 俺の手が届かないほどの存在になったかのように――



「いいね、私の目に狂いはなかった。サイズは大丈夫?」

「あ、はい。ぴったりです」

「それはよかった。それでだけど――」



 まるで出尾は美冬を攫うかのように、撮影に連れて行く。

 そして俺の方を向き、ニヤリと笑顔を歪ませる。


 …………


 そこからは惨めなものだった。


 目の前で繰り広げられるプロの世界。

 どこか輝いて見える美冬に、仕事に対して真剣な出尾。

 アシスタント達の動きはどこかぎこちないが、ギラギラした目をしている。

 彼らも目的のために励んでいるのだろう。


 何も出来ず、見ているだけの俺。



「画像チェックするけど、見るかい?」

「……いや、いい」



 見なくてもわかる。

 先ほど以上のものがあるに違いない。


 だから、見たくなんてなかった。



「次はスタジオで何枚か撮ろうか」


「「「「うーっす」」」」


「えっ? えっ? あきくん?」



 近くにある宍戸ビルに一斉に移動し始める。

 戸惑いながら先頭を歩く美冬との距離が、どこまでも遠い。


 歩くこと数分。

 俺には永劫の時のように感じられる数分。


 地方都市の余裕がある土地に建てられた20階建ての商社ビルは、まるで来るものを拒むかのような威容を誇っている。

 選ばれたもの以外は入るなと、その敷居はただただ高かった。



「キミはここまでだ」


「え?」

「えぇっ?!」


 突然の拒絶に、一瞬どういうことかと頭が真っ白になる。

 美冬も変な声を上げている。


「セキュリティの関係で、ここから先は関係者のみだ。キミの事は聞いていなかったものでね」


 そういって、関係者を表すパスカードを俺に見せた。



『宍戸コーポ企画出版 フォトグラファー 出尾 蘭人』



 貰った名刺に書かれた内容と一緒だ。

 ここから先は選ばれた者(関係者)のみ。


「そういうわけだから。今日は悪かったね」

「あ、あきくん!」

「…………」


 ニヤニヤする出尾とアシスタントが、まるで壁を作って追い込むように美冬をビルへと連れ去っていく。

 俺はただビルの入り口で立ち竦むことしか出来なかった。



「まったく! 出尾のやつにしてやられたわ! 今まで変装がバレたことがなかったのに! あれ、キミは?!」


 なんともいえない脱力感に襲われる。いや無力感か。

 今まですぐ傍に居た幼馴染(美冬)との距離が遠い。

 俺と美冬の関係は……


「ちょっとキミ! さっきの女の子と一緒に居た子だよね?! あの子どうしたの?! 出尾は?! あいつやばいのよ!」


 ポケットに忍ばせたお守り(スキットル)に手が伸びる。

 中に入っているのは、美冬に貰った竹の鶴な特濃福祉原液。

 獅子先輩も、どうしようもない時はこれを呷れって言ってたっけ。


「急がないと、あの女の子が酷い目に……ちょ、それなに飲んで――」


 少しスモーキーな香りがするそれを一気に飲み干す。

 やたら美人で巨乳のお姉さんが慌てた声を出しているが、もうどうでもいい。


 ――そして、俺の意識が暗転した。


面白い!

続きが気になる!

更新頑張れ!

ストロングはゼロだ!

って感じていただけたら、ブクマや評価、感想で応援お願いしますっ。


今夜のお供は切れ味鋭いドライでっ!

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