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ある朝ツン過ぎる妹が急にデレ始めたので、幼馴染と後輩に相談したら(※物理的に)修羅場になったんだけど!?  作者: 雲雀湯@てんびん2026年アニメ化決定
第2章-2 ゴールデンウィークと悩めるクマさん

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第42話 そのお守りはきっと……


「……はい、お話をお受けしようかと……はい、はい……」


 その後、美冬は出尾に電話を掛けてお試し撮影を受ける旨を伝えた。

 ……何で番号知ってるんだ?


「あきくん、日取りは後で連絡するって」

「そうか」


 なんとなく、釈然としない思いに襲われた。


 あぁ、くそ。











 その日の夜、隣の部屋からドッタンバッタン騒がしい声が聞こえてきていた。


「くぅ、この! 結び目が! もぅ!」


 俺はそんな小春の騒ぎをBGMにして、ネトゲでチャット中だ。



『宍戸ライブウォーク? 生憎と知ってるのは"ししラブ"の愛称くらいだね』

『知ってるぜ~、ししラブは俺もちょくちょく読んでるしヽ(・∀・ )ノ』

「マジか。2人とも同じ地域に住んでたのか」


 相手は頼れる兄貴な感じの季節龍さんと綿毛らいおんさん。


 もちろん、美冬の件についての相談だ。

 まぁリアル情報が漏れるとあれなんで、色々とボカシながらだけど。

 こういう顔が見えない相手とのチャットは、案外気楽に相談しやすい。


『で、スカウト? なんとなく胡散臭いイメージがあるけど……』

『うちの姉ならそういうの詳しいかもなんだけどなぁ(σ-ω-o)ンー』

「さすがにわからんかぁ」


 貰った名刺を眺めてみる。



 ――宍戸コーポ企画出版 フォトグラファー 出尾蘭人



 宍戸グループと言えば不動産建設から生鮮食品小売業、印刷や出版まで幅広く手掛けるこの地域の一大企業だ。

 そこに勤めてるというだけで、ある種のステータスになるらしい。


 いわば勝ち組の代名詞だ。


 ……あー、そーかよ。




「お兄ちゃん、いい?」


 コンコンと控えめにノックされた。

 俺の考えも中断させられる。

 騒ぎはもういいのだろうか?


「ん、ちょっと落ちる」

『力になれなくてすまないね』

『おっつー、またねー! 悩み過ぎたら飲む福祉を呷ればいいよー!(@^^)/~~』


 綿毛らいおんさんは高校生に何てものを勧めてるんだ。

 そして小春は俺の返事を待たず、部屋に入ってきた。



「なんだよ、小は……る?」


「どうかな? 夏物出してたら見つけちゃって。去年のだけどね」



 浴衣だった。藍色の朝顔が描かれた可愛らしい柄だ。

 見て見てと言わんばかりに俺の前でくるりと袖と裾を翻す。


 普段は大人びた雰囲気な小春の幼げな行動に、思わず目を奪われてしまった。


「帯もね、自分で着付けたんだよ」

「それは凄いな」

「えへへ」


 帯って結構難しいんじゃなかったっけ?

 そんな感心した俺の顔に満足したのか、小春は頬をだらしなく緩ませる。可愛い顔が台無しだ。


「お兄ちゃん、わたしは着付けをできます」

「そうか」


 そう言って俺に向きなおした小春は真剣な表情を作る。


「いつ脱がしても大丈夫です」

「そうか」


 何言ってんだ、こいつ?


 そう言いながら、小春はもじもじと身体をくねらせながら俺へにじり寄る。

 俺は福祉を飲んでいないというのに頭が痛くなってきた。


 ……そういえば小春も宍戸ライブウォーク愛読してたんだっけ?


「小春、これ見てくれ」

「ん、何? 名刺? って、うそ! ししラブの出尾さんじゃない! どうしたの?!」

「知ってるのか?」

「モデル魅力を120%引き出す凄腕カメラマンだよ! この人がモデルを撮るようになってからししラブの売り上げが1.5倍に伸びたっていうくらい、凄い人なんだから!」

「……そうか」


 小春が興奮気味に、如何に凄い人か伝えてくる。

 あーそうですか、実力は確かでしかもイケメンですか。


 ここでもその爽やかなイケメン笑顔を思い出されてムカムカする。


「……お兄ちゃん?」

「なんでもねぇよ」


 む、顔に出てしまったか?


「でも、腕はいいけど私生活はだらしないって噂があるんだよね」

「どういうことだ?」

「柄の悪い人たちとつるんでたり、女の子も何人も泣かせてるとか……お兄ちゃん、まさか他の女絡みで――」


 すぅ、と小春の目が細められる。

 その背後に見えるのは人喰い虎の如き闘気。

 浮気を許さぬ女の――って違う!


「お、俺じゃねえよ。美冬が――」

「――ふゅーちゃんが? どういうこと?!」

「スカウトされた」

「スカウト?! ……へぇ」


 チクチクと肌を刺すような小春の気が、急に霧散した。

 しかしその目の虹彩は消えており、どこまでも虚ろで全てを吸い込みそうな黒をしていた。


 あ、これ見たことある。

 逆らっちゃいけないやつだ。


「この名刺、借りていい?」

「あ、あぁ」


 ぶんどるように名刺を取った小春が、足早に部屋を出る。


 トタトタトタ、バタン。



「――ふぅ」


 部屋に戻った音を聞いて、息をつく。

 ……小春も美冬も女の子の考えている事は、よくわからん。


 ん?



『~~~~♪』



 スマホが通話を知らせる音が鳴った。相手は美冬だ。

 ……なんとなく、見透かされるようなタイミングだったので、出るのが一拍遅れる。



「美冬?」

『今忙しかった?』

「別に」



 言葉もついついぶっきらぼうになってしまう。



『撮影だけど、明日宍戸ビルがある駅前の広場に10時だって』

「そうか」

『ど、どんなの着ていけばいいのかなっ?』

「俺が知るかよ」

『そ、そうだよねっ……』

「…………」


 ふと、あの作り物めいた笑顔の出尾を想像してしまった。

 あのエセ爽やかイケメンなら何て――ああ、もう、なんだってんだ!


「……泊まりの時のやつ」

『……え?』

「あのワンピース、似合ってた」

『そ、そっか。ふふっ』


 …………


 その後はどうでもいい話をした。

 多分普通に振舞えたと思う。

 それはそうと、何で美冬はこないだこっそり買ったキャラクター物の付箋や、付け替えたばかりのクッションカバーの柄とか知ってたんだ?


『じゃあね、あきくん。明日ね』

「あぁ」



 明日、美冬は撮影される。

 出尾の手によって。


 何故だろう、胸がもやもやする。


 ただ撮影するだけだろ?

 そしてモデルになったら、どこか遠い世界へ――


 そこまで考え(かぶり)を振った時、視界の端にあるものが映った。



 竹の鶴が描かれた瓶。

 泊りの時、美冬に貰ったやつだ。


 …………



『悩み過ぎたら飲む福祉を呷ればいいよー!(@^^)/~~』



 綿毛らいおんさんの言葉を思い出す。

 そういえば、獅子先輩にもらったスキットル(お守り)があったんだっけ。


 ゴソゴソと、学校の鞄に入れていたそれを取り出した。

 かちょーくん、だっけ。

 彼との一件で空になったままだ。


 やたらと角ばっていて富士山の麓が描かれたそれに、竹の鶴の中身を注ぎ込んでいく。


「おっと!」


 少し零れてしまい、手のひらで受け止める。

 シェリーに似た甘い香りが鼻腔をくすぐる。


 手のひらに写った自分を覗き込む。


「あ、お兄ちゃん、ちょっといい?」


 なんか俺、歪んでるな。

 そして勿体無いとばかりに零れた福祉(原液)を啜った。


「お兄ちゃん?! ちょっ――」




  ◇  ◇  ◇  ◇




「やべ、寝坊した!」


 現在9時57分、寝癖の付いた髪を撫で付けながら走る。


 ちなみに起きた時、隣で浴衣が肌蹴(はだけ)てピクピクしてる小春が居たが見なかったことにした。

 『出遅れる』『合流が』なんて寝言が聞こえたが……あいつも何か予定あるんじゃないか?


 それよりも自分の事だ。


 信号の待ち時間の合間に、少し遅れる旨は伝えておいた。

 現地では既に待っているかもしれない。


 美冬と出尾が。

 2人で。


 …………


 ああくそ、絵になるかもなんて想像するんじゃなかった!

 その嫌な想像を振り払うかのように足に力を込める。


 だから、その光景は――



「美冬!」

「あきくん!」

「あれ、キミは……?」



 出尾の背後に隠れるような美冬がいた。

 そう、いつもの俺とのポジションに。


 俺より背が高いので、美冬はすっかり隠れてしまい、まるで攫っているようにも見えた。



「これはどうい――」


「ちっ、他にも男かよ」

「なんだ、とんだビッチか」



 あまりに出尾を美冬に意識が行ってばかりで気付かなかったが、2人の前にはいかにもナンパですと言わんばかりの男が2人いた。


「出尾さーん、機材どうしましょ?」

「レフ板は折りたたみの奴でもいいっすよねー?」


 俺とほぼ同じタイミングで、撮影のアシスタントらしい人たちがやってきた。

 出尾とナンパ男達の間に入り、見事な連携で分断する。




「さてキミ達、こういうことだから彼女を売女(ばいた)扱いした事を謝ってもらおうか」



「「「ッ?!」」」




 キッ、と修羅場をくぐってきた人間独特の迫力で凄む。


 まるで首筋に刃物を立てられたような錯覚をうける。

 それはまるで、人を食い物にしてきた化け物じみたものだった。


 猛獣とは違う質のそれに、思わず俺も息を飲んでしまう。



「お、おい行こうぜ」

「……チッ」



 危機を感じたのか、ナンパ野郎共は尻尾を巻いて立ち去っていく。


 ……


 あれ、何かおかしいな? どこか不自然……そんな気がする。

 それにあいつらどこかで見たような……



「美冬ちゃん、大丈――」


「あきくん!」

「美冬」



 出尾が何かを言いかけたが、美冬がそれを遮り俺のそばに駆け寄ってくる。



「…………」



 そのニコニコした石の仮面のような笑顔が、少し歪んだような気がした。


 俺は無意識に、お守り(スキットル)の感触を確かめていた。


面白い!

続きが気になる!

更新頑張れ!

ストロングもゼロだ!

って感じていただけたら、ブクマや評価、感想で応援お願いしますっ。


今夜のお供はダブルパイナップルでっ!

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