第40話 流星墜落
美冬がモデル?
なんだよそれ。
イケメンに煽てられて舞い上がってるだけじゃねーの?
大体、色々急に変わりすぎなんだよ!
誰だかわかんねーくらい綺麗になったと思ったら、急にベタベタしてきて、気迫でクラスメイト気絶させたりするし!
昔はもっと俺の後ろに――
『あきくん、置いていかないで!』
――ああ、くそ!
自分でも八つ当たりじみた感情だとわかっている。
そんな思いを振り切ろうとするかのように、早足で駅前に戻ってきた。
「あ、しまった」
ついカッとなり勢いで店を出てきたので、鞄を忘れてきてしまった。
それだけ頭に血がのぼってたんだろう。はぁ。
まぁいいや。財布は元から持ってきてないし、スマホはポケットの中。鞄の中にあるのは紳士漫画くらい。
……それはそれでまずいな。あれは人格を疑われるくらいの――
「いやっ! 離してっ!」
「この! それいくらしたのか、わかってんのか?!」
「知らないっ! ていうかこのバッグ偽物の安物だし!」
「てめ、それ露店で49800円もしたんだぞ!」
「露店で本物が売ってるわけないでしょ!」
「なっ!」
高校生くらいのカップルの痴話喧嘩が聞こえてきた。
その声の大きさから人通りの流れを止め、周囲から何事かと遠巻きに視線を集めてる。
注目される理由は他にもあった。
男の方は銀髪プリンの頭にヒップホップとか好きですと言いたげな服装、いかにもオラつくのを趣味にしてそうだ(偏見)。
まぁそれだけならその辺でもよく見かけるだろう。
だが、女の子の方がこれでもかと、注目を集めてしまうほどの美少女だったのだ。
「いい加減にしろよっ!」
「きゃっ!」
ざわっ!
美少女が突き飛ばされて尻餅を付く。
さすがの事態に周りの喧騒が激しくなる。
「ああ゛っ?! 見せもんじゃねぇぞ?!」
ざわつく見物人を威嚇するかのように吼える銀髪男。
中々の気迫だ。
周囲は目が合い絡まれては敵わないと一斉に目を逸らす。
俺もそれに倣って無視して立ち去ろうとしたが……出来なかった。
「ちょっと顔が良いからって、いい加減に――」
「やめとけよ」
気付いたら、手を上げようとした男の手を掴んで止めていた。
はぁ、何やってんだろ、俺。
「誰だ、お前は!」
「お、大橋くんっ?!」
「大丈夫? 小鳥遊さん」
揉めてる女の子は小鳥遊紅葉さんだった。
いかにも女の子らしいデザインのカットソーに、ひらひらのティアードのスカート。
私服姿は初めてだけど、相変わらず可愛らしい。思わず目尻が下がる。
そりゃ、これだけ注目を集めてしまうのもわかる。
あれ、美冬が着てたものとちょっと似て……今はそれはいいや。
「てめぇ、俺が誰かわかってんのか?!」
「大橋君、謝ったほうがいいよっ! 相手は鎌瀬高の熊殺しの狂犬、星加流だよっ?!」
「えっ?」
誰、それ?
「星加流といえば、高校生格闘家の……」
「1人で20人を相手にして圧勝だったとか」
「熊と戦って勝ったというあの……」
「俺、試合であの絶技・抜刀牙見たけど凄かったよ」
へ、へぇ? 有名? なんだ?
格闘家? 熊殺し? 抜刀牙?
周囲のギャラリーも騒いでいる。
なにそれおっかない。
「てめぇ、覚悟は出来てるんだろうな? ああ゛っ?!」
ギンッ!
そんな擬音が聞こえて来そうな勢いでメンチを切られた。
何で俺より背が高いのにわざわざ下から覗き込んでくるんだろう? その体勢、辛くないのかな?
「おいおい、狂犬のガン飛ばし、これだけ離れてても凄み感じるんだけど」
「俺も今ブルってきた……あいつ、死んだわ」
「誰か救急車呼んだ方がよくない?」
「それより警察の方が……」
……えーっと?
なんで皆騒いでるんだ?
気迫? 怖い?
う、うーん……確かに?
凄くガタイがいいのにチワワみたいな気迫だし?
か、可愛い? う、うーん……
「何か言ったらどうだっ?!」
「……あー、その体勢首がつらくない?」
ピシッ!
周囲のざわめきが一斉になくなり静寂が訪れる。
それは空気が凍るような音だった。
目の前の銀髪男はチワワのようにプルプルと震え、茹蛸のように顔を真っ赤にしている。
あ、ここもっと気の利いたことを言うとこだった?
「いい度胸だ、オラァッ! 骨の1~2本は覚悟しやがれ!!」
「お、大橋くんっ?!」
「ん?」
それは、何の予備動作もなく放たれた拳だった。
まるで剣の抜刀術のようなキレと素早さで大きく弧を描き、そしてブーメランのようにすぐさま手元に引き戻される。
抜刀牙。
そんな単語が頭に思い浮かんだ。
「んなっ?! 俺の絶技・抜刀牙を避けただとっ?!」
「え? だって遅いし」
美冬の捕獲能力に比べれば亀の歩みもいいところだし。
「て、テメェーッ!!!!」
激昂し、両手で抜刀牙を放ってくる。
左右から高速で繰り出されるそれは、あまりの速さに残像を残すほど。
しかし――
「おい、あいつ誰だよ……」
「最速必中の抜刀牙って今まで避けられたことあったっけ?」
「一発KOしてるとこしか見たことねぇよ……」
「いや、でもあれってアレに似てね……」
そして弧を描くように繰り出されるそれは、どうしてもあるものを連想させられた。
「駄々っ子パンチみたいだな、それ」
「……プッ」
思わず小鳥遊さんが噴き出した。
「確かに、似てるよな……ぷふっ」
「ちょ、やめろよ! もうソレにしか見えねぇって!」
「だって、さっきから全然当たらないし……ぶはっ! もうだめ!」
「やべ、もう駄々っ子にしか見えねー、ぎゃははははははっ!」
小鳥遊さんを起点として、まるで引き起こされた波が伝播するように、笑い声が広がっていく。
クスクスと忍び笑いをするものから、ぎゃははと大声を上げて笑うものまで様々だ。
銀髪男は羞恥に耐えて、プルプルとより一層チワワの様に震えだす。
あっるぇ、別に煽ったり馬鹿にしたつもりは無かったんだけど?
「でべぇーっ!! ぼー、ぜっでーゆるざでえええーーーっ!!!!!」
笑いものにされた銀髪男は、もはや言葉にならない咆哮をあげながら突進してきた。
その姿は牙を剥いた狂犬。
銀の頭が煌めく様はまさに流星――
「よっ、と」
「ああ゛……あべばでばでヴぉだばっ?!!?!」
しかし俺の出足払いの要領で、流星は勢いよく地面へと堕ちていった。
……顔からスライディングとか、見てるほうが痛々しい。
「お、おい大丈――」
「お、大橋君すごぉーい!」
「た、小鳥遊さんっ!」
それを見た小鳥遊さんが、感極まったという感じで抱き付いてきた。
「ちょ、ちょっと小鳥遊さん!」
「ふふっ! 大橋くんって凄く強かったんだ! あの熊殺しの狂犬、星加流を子犬扱いなんて!」
華奢でやわらかな身体があちこちに押し付けられる。
身長差からか、俺の顔を覗き込むと自然となる上目遣いは、いっそ凶悪なまでに可愛らしい。
さらにそこから蠱惑的な瞳で見つめられ、熱い吐息が肌をくすぐられる。
これだけの美少女にそこまでされたら――
「あいつ上手くやりやがって」
「ちょっと、何羨ましそうに見てるのさ!」
「でもあの狂犬をあそこまであしらえるか?」
周囲からは羨望や揶揄の声が聞こえてる。
だけど、どうしてだろう?
小鳥遊さんは誰もが羨む美少女だ。
そして、俺が一度は好きになった女の子。
「ね、大橋君。大橋君が良かったら――」
「いや、その……」
だというのに、何も心が――
「あきくん、何やってるの?」
「ひ、ひぁっ!」
「み、美冬!」
――心にまるで液体窒素(※-196℃)を浴びせられた衝撃だった。
その冷気の余波は銀髪男も直撃し、ビクンビクンと痙攣させている(※シバリング)。
「どうしてあきくんと小鳥遊さんがそうなってるのかな?」
「ひっ……お、押隈さん?」
「何でここに……い、いや、これは違うんだ」
自分で言っていて、まるで浮気を見つかった言い訳だな、なんて思ってしまった。
周囲の視線も痛い!
ああ、もう、くそ!
シバリングは、寒いときガチガチ歯が鳴ったり震えたりするアレです。
面白い!
続きが気になる!
更新頑張れ!
ストロングだからゼロだ!
って感じていただけたら、ブクマや評価、そしてお好きな福祉のフレーバーの味は感想で応援やらお勧めお願いしますっ。
今夜のお供はトリプルレモンでっ!











