第39話 自分でもわからない気持ち
え? 美冬を?
スカウト?
本性は地味モサ眼鏡の美冬に?!
俺はその言葉が衝撃的過ぎて、理解が追いつかなかった。
「あ、あぁぁあぁあきくん、どどどどうしよう?!」
「お、俺に言われても」
理解が追いついてないのは美冬も同じようで、俺以上に混乱していた。
目がぐるんぐるん泳いで、俺のこめかみ(※人体急所)や肘の後部(※人体急所)、脇の下(※人体急所)へと移動させている。
このあわあわっぷり、久しぶりだ。
うんうん、美冬はこうでないと。
おかげで少しだけ気分が落ち着いてきた。
「とりあえず話だけでもいいかな?」
出尾、と言ったっけ。
相変わらずニコニコと、石の仮面に貼り付けたような笑顔が気に食わない。
やたらと爽やかなイケメンだし……
さっき美冬と一緒にいるところを見た時、一瞬でもお似合いだなんて思ったのは一生の不覚だ。
しかし、スカウトか。
もしその話が本当だとしたら、美冬にとって悪い話じゃないだろう。
「あきくぅん……」
顔色を伺ってくる美冬に、俺は無言で頷いた。
◇ ◇ ◇ ◇
「ここはお気に入りの店でね」
案内されたのは駅前の奥まった場所にある、隠れ家のような喫茶店。
この街にこんな店があったなんて……
物珍しいということもあり、お上りさんの田舎者みたいにキョロキョロ店内を見回してしまう。
店内に椅子は全て高級そうな革張りのソファーで、テーブルもどれもが黒光りする光沢のウッドローテーブル。
正直ちょっと気後れする。
内心びびり気味の俺とは正反対に、慣れた様子で音も無く角の席に移動する出尾。
それがやたらと様になってるところとか、余裕な態度が気に食わない。
気に食わないと言えば、歩き方もそうだ。
まるで足で呼吸をしているかのようなリズムを刻み、いかにも自分は達人ですよとアピールしている様に見える。
実際、その鍛えられた身体を見るに、何か格闘技でもやっているのかもしれない。
しかし、やたらと左側を気にしているな?
「さ、キミ達も掛けてよ」
「は、はひっ!」
「……」
何となく左膝を庇っているような……まぁそんな事は気にしても仕方が無い。
実際、この出尾という人と試合をしたらどうなるだろうか?
「私は本日のお勧めで。キミ達も好きなもの頼んでいいよ」
「は、はひぃ……ッ?!」
「……」
互いに向き合ったイメージをしてみた。
凄みのようなものは無いが、相対したと思ったら既に勝負を決められていた――そんな不気味さを感じる。
別に異種格闘戦に興味はないし、そんな事考えても意味は――
「(あきくん、あきくん!)」
「……ん?」
美冬にくいくいと袖を引っ張られた。
小声で一体なん……だこりゃっ?!
本日のお勧め 1000円
ブレンド 800円
カフェオレ 840円
etc__
た、高そうな店とは思ったけどさ!
うへぇ、コーヒー1杯で牛丼2杯は食べられるぞ?!
「あ、あたしはふれっしゅおれんじじゅーすで! あ、あきくんはアイリッシュコーヒーでいいよね?!」
「おい馬鹿やめろ! 俺は1番安いブレンドで!」
アイリッシュコーヒーって一番高い奴で1820円もするじゃないか!
あとそれアルコール入りだろうが!
……
くぅ、なんか色々引っかかったことがあったが、値段の高さにビックリしてどっか行ってしまった。
俺達が落ち着いた頃に飲み物が運ばれてきたが……正直味はわからなかった。
出尾はといえば、香りを楽しむようにして飲んでいた。
なんだか俺ばかり気にしてるみたいで、うぅん、なんかそれも気に入らない。
そんな俺の探るかのような視線に、出尾が気付く。
「気になるかい?」
「……まぁ」
「怪我で辞めたけど、実は昔ボクシングをしていてね」
ボクシング、ねぇ。
「それが何でカメラマンを?」
「目には自信があるんだ」
そう言って、出尾は右手の指でこめかみ辺りをトントンと叩く。
「最高のチャンスをカメラで切り取る――天職だと思わないかい?」
そう言って、ニコリと美冬に向かって微笑む。
やっぱり爽やかなイケメンスマイルだ。
なんだよ、自分すごいアピールか? けっ!
美冬の表情は……こちらからだとよくわからない。
「彼女はね、とても良い売りをもっていると思ったんだ」
「あたしの売り、ですか?」
出尾は飲みかけのカップを右手で弄びながら言葉を続ける。
「キミ、身長はいくつ?」
「あたしは157センチ、です。あきくんは174.5センチで体重は大体61キロ。部活がある日と無い日で大体800グラムくらい前後していて、体脂肪率は10%……」
別段、美冬は背が高いわけじゃない。いたって平均的だ。モデルと言えば背が高い人のってイメージが……って、何で俺の細かい数字まで知ってんの?! 出尾も苦笑いしてるよ?!
「そう、その身長だからこそ、身近にいそうな親近感が売りになる。それだけじゃない、そのゆるふわで優しげな顔も売りになるし、その抜群のプロポーションも大きな売りだ。その大きなものは特に、ね」
なるほど、言ってる意味はわからなくもない。
だけど、なんだか売りだのウリィだのそればっかり強調し、美冬を商品物の様に扱っているようで気に食わない。
まるで食い物にしている――そんな気さえする。
あと、こいつ美冬の胸を見すぎじゃないか? そんな珍しいものでもないだろうが。
「あと、うちの専属に宍戸千南津ちゃんいるから、会えるかもよ?」
「ほんとですかっ?!」
その美冬はといえば、宍戸千南津という言葉に食いついていた。
宍戸千南津といえば女子達に人気のモデルであり、アイドルに近いような存在である。
最近地方局の番組でもちょくちょく出てるし、その明け透けなキャラクターで人気だ。
クラスでよく話題に上っているので、そういった話に疎い俺でも知っている。
そうか、美冬もファンだったのか。
……へぇ。へー。ほー。思わず聞き入るくらいに、ね。
「ど、どうしようかな、あきくん! 宍戸千南津に会えるなら、考えちゃうよね!」
「知らねーよ!」
あーもう、なんだ、色々むしゃくしゃする。
何で俺に聞くんだよ。
「美冬のことだろう? 自分で決めろよ」
ガタッ、とソファーがずれる位苛立ちまみれに席を立ち、そのまま外に出た。
自分でも子供じみた癇癪だと思う。
あー、もう!
残された美冬が気になるが……今の美冬を誰かがどうこう出来る様なイメージはないな。
人を気迫だけで気絶させられるんだ、どうにでもなるだろう。
「あきくん……」
俺の名前を呟いた声は、敢えて無視した。
面白い!
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今夜のお供はまるごと青りんごでっ!











