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ある朝ツン過ぎる妹が急にデレ始めたので、幼馴染と後輩に相談したら(※物理的に)修羅場になったんだけど!?  作者: 雲雀湯@てんびん2026年アニメ化決定
第2章-1 虎殺しな彼と堕天使な彼女

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第31話 黄金の手 ☆中西君視点

今回は秋斗と同じ柔道部員、中西君の視点です。


 俺は中西。

 柔道部所属の高等部2年だ。


 下の名前?


 はは、ただの中西でいいさ。

 今の俺はそう……夏実様の忠実な下僕だ。


 え? 夏実様?

 知らないのか?


 あぁ、いや。知らない方がいい事ってあるよな。


 それでも?


 そうだな……柔道部の偶像(アイドル)、かな。


 ロリコン?


 うっせ! 知らねーからそう言えるんだよ!

 震えて? いや、ねーから! 震えてねーから!

 あ、いや……震える程尊い、かな……


 知ってるか?

 人間って覇気だけで気絶させられるんだぜ?


 あ、信じてねぇな。


 ともかく!


 俺たちは夏実様に忠誠を誓った。

 夏実様の手となり足となり動くことが喜びだ。


 わかるかなぁ?


 強力なリーダーに率いられる一体感ってやつ?

 矮小な人の身が、その統率によってひとつの大きなモノへとなっていく感覚。

 どうして狼が群れを作り狩りをするか……それがちょっとわかった気がする。

 こればかりは体験しないとわからないだろうな。


 最初は俺も恐怖から付き従っていたが……


 ふっ。


 今では皆で自主的に集まって訓練したりする。

 集団行動や護衛術が主だったものだ。

 ベースはもちろん柔道で、場所も柔道場だ。


 もし夏実様にお褒めの言葉一つでも貰えたら、訓練に力も入るというもの!

 あ、でも呆れられて冷たい目線で見られるのもいいかもしれない。


 くっ、悩ましい!


「そこ、隊列乱れてるぞ」

「悪ぃ、夏実様の事考えてた」

「なら仕方ねぇか」

「思い出すなぁ、4月19日を」

「あ、おい、やめろ!」

「ななななな夏実ちゃん怖い夏実ちゃんこわいなつみさまなつみさまなつみさま」



 チッ!


 まだトラウマを信仰心に昇華できていない奴がいるんだぞ! 変に刺激するんじゃねぇよ!


 俺たちは訓練を一時中止し、夏実様が住む寮に向かって額を地面に擦り付けて祈りを捧げた。


 祟り神を手厚く祀る事によって、守護神になって貰う――

 これはそういった類の儀式みたいなものだ。


 ったく、あの日を思い出して恐慌に陥るとはまだまだ訓練が足りないな。

 俺なんて割と早い時期にゾクゾクびくんびくん出来るようになったぞ?

 早くこの領域まで登ってくるんだ。

 新たな世界が広がるぞ! 嗚呼!

 あふん。



「この役立たず」

「豚の餌になれ」

「今すぐ去勢してこい」

「靴の裏を舐めろ」

「靴のそれはアウトじゃないか?」

「そうだな、ご褒美になる」

「そ、そうか」


 そして俺たちが夏実様に罵ってもらいたい言葉を祝詞として捧げていたとき、事件が起こった。



 ガタンッ!



 勢いよく柔道場を開け放ったのは我らが女神(夏実)様だった。




「自分に力を貸してほしいっす!」




 一も二も無く視線がぶつかり合う。



「「「「了解です(イエス、ユアハイネス)!!」」」」



 俺達は再び大いなる存在(夏実様)のもとで、一つの大きな存在になった。


 さぁ、訓練の成果を見せる時だ!










 大橋さんを探してほしい――



 それが夏実様のお願い(命令)だった。


 大橋さんと言えば、夏実様のご主人様だ。

 まったくもって訳が分からない。


 どうやって夏実様を心酔させ、あまつさえ隷属させたというのか?


 一度だけ聞いてみたことがある。



『自分を塵芥(ちりあくた)のごとく粗雑に扱ったり、路傍の石程度にしか考えてないところですかね?』



 まるで恋する乙女の様に、頬を染めてそんなことをおっしゃった。


 まったくもって訳が分からない。


 どうやったら夏実様をぞんざいに扱えるんだ?

 命が惜しくないのか?


 いや、だからこそのご主人様なんだろう。



 こんな余計な事を考えるくらい、大橋さんの居場所はあっさり見つかった。


 どうやら1年剣道部の加藤を中心に、柔道部で4月19日にあの場所に居なかった連中たちによる陰謀のようだ。

 見つけたときには既に話し合い(私刑)は終えられており、ボロボロにされた大橋さんがいた。


 俺は、いや俺達は顔面蒼白になった。



「いいから逃げろ! 早くっ!!」



 気付けば叫んでいた。


 無知とは恐ろしい……そして罪だ。

 俺達は教化の必要性を再認識した。






「どうしてお兄ちゃんがこんな目に遭ってるのかな?」



「ひどい、あきくんが何をしたっていうの?」



「自分、通販で買ったものを色々試してみたいんですよね」





 だが遅かった。

 絶望した。


 そして俺達は跪いた。

 腰が抜けたとも言う。


 ふっ。


 降臨された御三柱の覇気にあてられ腰を抜かすのは自然の道理。

 ならば、いかに見苦しくない様にその礼を尽くすか、それに尽きる。

 早速訓練の成果が示せてよかった。


 ただ跪くだけじゃ芸がない。

 どれだけ忠誠を捧げ信仰しているかを知らしめねばならない。

 俺のこだわりは、(こうべ)を垂れる角度。

 手刀を下ろせばすぐに首を――な、なにいいぃぃいぃいいっ?!


 さすが柔道部の顔、高等部のヌシ、獅子先輩だ。


 五体投地礼とは恐れ入る。


 くっ。


 俺もまだまだだ。





 しかし、剣道部の加藤だったか?



 真正面からあの覇気を受けて立っていられるとは……


 中々の胆力がある奴のようだ。

 鈍いだけなのかもしれないが。


 しかし、その目はいただけない。



 大橋さんが美少女御三柱に介抱されているのを、羨ましそうに見ている。


 馬鹿じゃないのか?

 俺が大橋さんの立場なら心臓を止める自信がある。


 身動きできない状態で飢えた虎、熊、狼の前に身を投げ出してるようなものだぞ?

 命知らずなんてものじゃない。

 何を考えたら、そんな危険な真似を――――えっ?





『――かちょー、お前は歪んでいやがる』





 それは唐突に起きた。


 御三柱の覇気を受けてなお悠然と立ち上がり、むしろ涼しげに歩みだす。

 夏実様達の覇気も何かを待ち望み、そして恋焦がれるかのようなソレへと変わる。


 すごいな、大橋さん。


 夏実様達の気とか、今までの比じゃないぞ?

 え? 縋りついてきた夏実様たちを振り払って?! 嘘だろう?! そんな恐れ多い!!


 ……


 おお!


 向こうの柔道部の奴ら、相手が舐めていた大橋さんだと思って立ち上がったぞ!

 根性あるんだな、見直したぞ!

 きっと、夏実様の良い下僕になれ――



「肩がっ?!」

「腰がっ?!」

「首や目の疲れが?!」

「水虫が悪化っ?!」



 な、何が起こった?!


 大橋さんが腕を振るい、その指先1つだけでダウンさせていく(※指圧です)。


 倒れている者を踏みつけ、何故か嬌声めいた声を上げさせる(※足踏みマッサージです)。


 逃げようと背を向けた者へは執拗なまでに、秋斗(※敬称略)の百裂の拳を連打したというのに、何故かそいつは恍惚の表情を浮かべていた(※手拳叩打法(しゅけんこうだほう)、肩叩きのあれです)。


 その光景に俺はShockだった。

 俺の鼓動は早くなり、まるで空が落ちてきて世界が変わるかのような衝撃だった。



「お、お前、小春さんをっ……!」

「その顔、色々不自然だ」

「な、何を?!」



 それは見事な小手返しだった。


 剣道部エース【虎殺し】の加藤が繰り出す疾風の突きを、まるで亀の歩みを避けるかのようにかわし、そして文字通り赤子の手を捻り上げるかごとく、その手を捻って軽やかに宙を舞わせ転倒させた。


 何その神業? そもそも俺、その【虎殺し】の突き全然見えなかったんだけど……



「くっ、いっそころ――」

「シリコンだな」

「――え?」

「明らかに刃物を入れた跡もある……それに、顎の骨も削っているな?」

「ちょ、やめっ――」

「大丈夫だ。歪みを正し、元に戻してやる」



 後光。



 尊いものは光り輝いて見えるとかそういうやつだ。


 どうして仏像に金箔を貼ったりするのか、少しだけわかった気がした。


 大橋さんの腕は光り輝いており、まさにそれは黄金の手だった。狂った金剛石の様な煌きだった。



 その輝きが収まったとき、ありのままの加藤がいた。



 ……


 加藤……だよな?


 思い出したぞ。


 今年高等部に編入してきた、剣道全国大会連覇の物凄いイケメンがいるって。


 あれはイケメンか?


 鼻もマシュマロを潰したようにべちゃってしているし、なんだか顎やエラも張っている。

 イケメンと言うよりかは野球のホームベースの親戚と言ったほうが近い。


 まさか……整形かっ?!


 大橋さんはそれをどうやって元に戻したと言うんだ?!


 まったくもって訳がわからない。



「なにあれ加藤だっけ? あいつ整形だったの?」


「顔面崩壊してたの、あきくんが()してあげたんだね、くすくす」


「あはっ! 加藤先輩も自分達みたいに、本来の姿に戻ったんですね」



 ……


 何をしたかはわからない。

 ただ大橋さんが今見た光景と同じ様に、夏実様たちを縛る鎖を解放したということは確かなようだ。


 俺達は互いに顔を見合わせ頷きあう。


 教典作りが急務になった瞬間だった。



 ん?


 この場に1人震えている女の子がいた。


 栗色のふわふわミディアムヘアーに眼鏡をかけた小柄な子だ。

 あのリボンの色は……1年か?

 大変だ! もしかしてこの修羅場に迷い込んだんじゃ――



「き、筋肉と筋肉のぶつかり合い、男の子と男の子の……はぁ、尊い……」



 ああ、うん。逞しい子のようだし、大丈夫そうだ。


サブキャラ視点でストーリーを進めるというのに挑戦してみますた。

これはこれで面白いと思ってもらえるといいなぁ。


面白い!

続きが気になる!

ストロングはゼロだ!

って感じていただけたら、ブクマや評価、感想で応援お願いしますっ。


今夜のお供はダブルレモンでっ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ついに当事者以外から福祉服用中の主人公について語られましたねー。やっぱ部外者視点は見えかたが変わって面白い。 この回、めっちゃ面白かったです!
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