第30話 憧れの女の子 ☆東野咲良視点
今回は小春の級友、東野咲良視点です。
私の名前は東野咲良。
漫画やアニメ、ゲームが好きなごく普通の女子高生。だと思う。
家は普通の4人家族で、生意気盛りの弟が1人。
昔は可愛くて私の服とかよく着せてたんだけど、最近は恥ずかしがって嫌がるのがちょっと寂しい。
教室でも物静かで1人でいることが多く、休み時間はラノベや漫画とか読んでいてその世界に没頭することが多い。
そんな私だけど、仲良くしてる女の子がいる。
同じクラスの大橋小春さん。
切れ長の大きな瞳に、綺麗な鼻筋。その相貌は正に美少女!
スラリとしたスタイルなのに、人目を引く巨乳!
いつも堂々と胸を張る姿は、女の子でも憧れちゃうよね。
そんな彼女との出会いは去年の冬。
クラスのやんちゃな女子グループに絡まれて、掃除やら荷物運びやら雑用を私1人に押し付けられそうになっていた時。
私は校則ギリギリの髪色や制服、派手なメイクに囲まれて半泣き状態だった。
『群れてやってることが狡いのよ。どうせなら自分を磨いて、代わりにやってくれる男子でも引っ掛けたら?』
その一言は強烈だった。
大橋さんと言えば、モテることでも有名だった。
更にはそのグループの子達の彼氏から言い寄られて不快だから引き取れ、とまで要求してた。
ふふっ。
あの時の彼女達の悔し顔は、今思い出しても胸がスッとする。
当然、助けてもらったことにお礼を言った。
『わたしが憧れてる人の真似をしただけよ。思い返すと恥ずかしいから、お礼なんて言わないで頂戴』
なーんて、顔を赤らめながら恥ずかしそうに言うの!
大橋さんの方が狡いと思わない?!
美人な上に、そんな可愛いところがあるなんて!
思わず、【やおい棒】を生やせないか調べたりして、訓練しちゃったりしたね!
私の好きなラノベや漫画の姫騎士のように『くっ、殺せっ!』なんて言わせてみたい!
それくらい、私は彼女に萌えてしまった。
そんな普段はキリリっとして、ともすれば冷たい印象を受ける彼女だけど、ときどき乙女な一面を覗かせたりする。
『すぅ――……えへへへへ』
たまにお手洗いや人がいない放課後の教室とかで、男物のハンカチに頬ずりしたりにおいを嗅いだりするのを見かけている。
とても愛おしそうで安心しきった顔は、その持ち主に全幅の信頼を寄せているのがわかる。憧れてる人のものなのかな?
『彼氏のハンカチですか?』
『か、彼っ?! ち、ちちちち違うわよ!』
ははぁん。
好きだけど、思いは伝えてないってところかな?
こんなに綺麗なんだから、ちょっと押せば男なんてすぐオチると思うんだけど。
『どうせわたしなんて異性に見られてないし、多分嫌われてると思うから……』
その言葉がにわかに信じられなかった。
嘘でしょう?
うちの学年ダントツの美少女なのに?
私なんて『お姉様』って呼ぶ練習までしてるのに?
聖母様が見てるのに?!
時折、寂しげで影を見せる彼女の表情にもグッときて、気付けば好きなラノベの姫でもあり騎士団を率いる騎士でもあるキャラのコスプレ衣装を作っていた。
出来れば夏は一緒に東京に行って欲しい。
『くっころ!』て言って欲しい。
ちなみにコスプレ制作では背丈の似ている弟に全面的に協力してもらっている。涙目で『お姉やんのアホ!』という弟にも不覚にもキュンとしてしまった。
おかげで最近スマホで頻繁に『オネショタ』と検索をかけてしまい、新たな扉を開きつつあった。
そんな感じで、少々腐りつつある道を邁進しながら大橋さんを見守り愛でていた。
それは高校に上がり、新たに変わった制服が馴染み始めた頃だった。
彼女に変化があったのだ。
『~~~♪』
『大橋さん、彼と進歩があったの? 良い事あった?』
『え? え? その、ない? とは思うけど……』
『彼との変化あった?』
『わ、わたしね、変わろうと思ったの!』
詳しくは何があったのか分からない。
だけどその幸せそうな笑顔は、思わず百合で舗装された道へと踏み外してしまいそうになるくらい綺麗だった。
男子の半数位、見るだけで前かがみになっていた。
ぶっちゃけ私も、男子がシュッシュする気分がわかってしまった
くっ、やはりやおい棒……ッ!
ちなみにその理由は、噂になっていたので誰しもが気付いていた。
ある日大橋さんがデレデレになりながら男の子と手を繋いで登校したからだ。
『大橋さんが男と一緒に手を繋いで歩いていたってマジかよ』
『あんまりパッとしない感じのやつだろ? 俺の方が……ショックでけぇ』
『確かに大橋さんの彼、髪とか服装とかだらしない感じがするよね。垢抜けないっていうか』
『あ、でも気付いた? 凄くいい筋肉してるよね? 顔立ちもちゃんとすれば……』
『ぅそ、てことは身体に惚れた?!』
男子も女子もキャーキャーと悲鳴を上げながら噂話に没頭した。
私もその話題に混ざりたかったけど……その……クラスでそれを話すには相手に不自由していた。
その現実に少しだけ泣いた。
それからも、大橋さんの噂は絶えなかった。
相手の男の子が色々やらかしたからだ。
高等部2年の物凄い美少女と取り合いしてる時は驚いた。
肩まで伸ばした明るい色のミディアムヘアのゆるふわパーマ、大きくてトロンと垂れて零れそうなくらいの優し気な瞳。
大橋さんに負けず劣らずの巨乳を最大限の武器にして彼に迫る様子は、天晴とさえ思った。
大橋さんが急に元気を無くしてた事もあった。
二股じゃなくて三股の光景を見た時は、私もショックだった。
隣のクラスの加藤くんなんかすごく憤慨していた。
『小春ほどの女は、俺にこそふさわしいのに!』
その台詞はどうかと思うし、さすがに自意識過剰じゃないかな?
加藤くんといえば高等部編入組で、入学わずか10日足らずで色々な浮名を流している人だ。
たしかに、中等部の子に首輪をつけて引き回すというのは衝撃的だった。
しかもその相手が、学内妹にしたいランキング1位の子だったのも衝撃的だった。
まだまだ見た目は幼いけれど、あと1~2年もすれば相当な美少女になりそう。
おっぱいも凄く大きかったし。
大橋さんじゃなくても焦るし、ショックを受けてしまう。
そりゃあ頬の1つも引っ叩きたくなるだろう。
加藤くんの焦りもこの頃ピークを迎えていた。
『入学時から綺麗になっていったのって俺の為じゃないのかよ?!』
同じ考えの人を集めていたと思う。
どうみても勘違いだが。
だけど、加藤くんたちが大橋さんを何か景品かステータスなのか、物の様に扱ってるのが気に食わなかった。
そんな彼らをよそ目に、私は大橋さんに言った。
『あのね、私でよければ相談に乗るよ?』
『東野さん……あのね、男の人が好きで喜ぶものってどういうのだろう?』
その返事は想定外だった。
どこまでも彼の為にという心が、私の乙女回路を暴走させた。
それはもう、布教した。
持っていた秘蔵のコレクションの全てを吐き出した。
一番反応が良かったのがオネショタだというのは意外だった。
なんでも彼のコレクションの中で多いジャンルらしい。
そこまで深い仲なのかな、と考えて、私のドキドキも最高潮だった。
『いい? ポイントは非日常よ? いつもと違う自分を演出するの。つまりギャップ。だからコスプレが大正義なの』
『あ、あはは……わたしにはまだハードルが高いかも』
そんな事は無いと思う!
大橋さんのスタイルだからこそ着てもらいたいものがいっぱいあるんだもの!
この件を切っ掛けに仲良くなれたと思う。
今度一緒にイベント行けたらいいなぁ♪
私のアドバイスが功を制したのかな?
再び大橋さんは明るくなった。
前と比べて、誰にも負けてやるもんか、といった不屈の精神に溢れていると思う。
だって、更に綺麗になったんだもの!
ズルいよね?
更に綺麗になっちゃうなんて。
だけど、悩みが全くないわけじゃないみたい。
『顔も、髪も、好みに合わせられる。体型だって自分で気を付ければいい。でも年齢だけはどうしようもないよね。わたし、もっと早く生まれたかった……』
憂いを帯びた顔で、どうにもならない事を嘆く姿はキュンとくるなんてものじゃなかった。
年上とか年下とかどうでもいいじゃない、とか気軽に声を掛けられるような状況じゃなかった。
いっそ、見てる方が切なくなるほどの感情が私を襲った。
私の中で暴れる、この言いようのない思いをどうにかしたくて、この日のうちに漫研の扉を叩いた。
私はそんな変化を概ね好ましく大橋さんを見ていた。
だけど、そうじゃない目で見ていた人もいた。
『もう、我慢できねぇ! 俺は小春をあるべき場所に戻す!』
何を勘違いしてるのだろう?
まぁ確かに加藤君はかなりのイケメンだし、攻めより受けっぽいのは認めるけど、大橋さんが好きなのは――
――私も、この時はただのたわごとだと思っていた。
『どういう意味かしら?』
それは、見事な右ストレートだった。
言うなれば、人食い虎の猫パンチ。
人が宙を舞い、折れた歯が天井を叩く音を初めて聞いた。
加藤くんの股間へのダイビング・フット・スタンプな追撃は、女の私でも思わず股間を押さえてしまった。
その形相は夜叉という言葉がぴったりだった。
普段の姿からは想像もできない惨劇が広がったけど、同時に大好きな人を貶されれば、怒るのも道理だと思う。
愛って、女を強くさせるんだ。
……あまりのギャップで見ない振りをした人も多かったけど。
加藤くんもそんな一人の様だった。
だけど、怒らせるとこれほど怖い大橋さんをデレデレにさせながらも、美少女3人を侍らせる彼に興味を持った。
普通なら、そんな浮気まがいの事をしていたら刺されても文句言えないよね?
私なら近場でボートに乗れる湖を探してしまう。ナイスボート。
そんな大橋さんの思い人に想像の翼を広げていた時、事件が起こった。
『どうしよう、お兄ちゃんが大勢の人に連れていかれちゃった!』
どうも各方面でヘイトを集めてしまい、嫉妬に狂った男たちに連れていかれたらしい。
その中心人物の一人が加藤くんだとか。
ていうか、彼って大橋さんにお兄ちゃんって呼ばせてるの?
なにそれマニアック!
大橋さんって、どちらかというとお姉さんっぽいのに?!
それはともかく。
『私も一緒に探すから、落ち着いて!』
打算はあった。
一目、あの大橋さんが好きな人がどういう人か間近で見たかったというのもある。
大橋さんと一緒にいる女の子達も凄かった。
押隈先輩?
その人知らないって言ってるので、それほど高速で振り回したら可哀そうですよ?
あはは、私も一緒に聞き込みしますんで。
夏実……様?
そのまるで軍隊の様に付き従う男子たちは何ですか? え、群れ?
あはは、よくわかんないデス。
大橋さん?
あの、少しは抑えてあげて? その子、その、下着の交換が必要になってるよ?
あはは、私達友達……だよね?
――一騎当千。
美少女にも関わらず、そんな勇ましい言葉がしっくりきた。
彼女たちが心酔する彼ってどんな人だろう?
……
そして、彼も凄かった。
『――かちょー、お前は歪んでいやがる』
……うん、人喰い虎な大橋さんが借りてきた猫の様になる筈だ。
長くなりすぎて、福祉フィーバーまで書ききれなかった……猛省。次回に続きます。
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今夜のお供はシトラスレモンでっ!











