第27話 猛獣蹂躙
東焼豚様からレビューを頂きました!
レビュー? プロレス? 思わずヒロイン達の名前がリングネームに見えてしまう面白い仕上がりです!
この作品らしい素敵なレビュー、ありがとうございました!
人懐っこい笑顔によく似合う、ウルフショートの髪がひょこひょこ揺れている。
少し長めの襟足が尻尾を振っている様にも見えた。
不釣り合いなほどの大きい胸を張りながら廊下を歩く様子は、思わず目を見張る存在感だ。
自慢げに見せる首輪から鈴の音がな――って首輪とか自慢するものじゃないよね?
そして小柄だけど引き締まった身体は、まるで体中の元気を濃縮しているかの――……ちょっと有り余った元気を放出し過ぎてませんかね?! なんだか肌がピリピリするんですけど?!
「……ふぅん?」
「な、何?」
まるで仲の良くない犬と出会いストレスでぐるぐる回るわんこの様に、俺たちの周囲をいぶかし気に回りながら、不躾にねっとりとした視線をぶつけてくる。
「やだ、この子怖い……っ」
「……っ!?」
まるで怯え、甘えるかのように小鳥遊秋葉が俺の影に隠れる。
少し身体を震えさせながら、健気にギュッと制服を掴んできた。
……
こ、これはまさか……夢にまで見た伝説の【キャー怖い】ッ?!
俺の胸が理性に反して高鳴って、キュウって締めつけられるかの様だ。
「先輩?」
「ア、ハイ」
そんな浮かれる俺を、虹彩の消えた黒い瞳が貫いた。
あまりの恐怖に俺の股の間がキュウって縮みあがるかの様だ。
へ、ヘタレなんかじゃないんだからねっ!?
「この人が、小鳥遊秋葉さん?」
「あ、あぁ」
夏実ちゃんの質問に、俺の背後がビクリと震える。
小鳥遊さんはまるで俺を信頼してるからと言いたげな表情だった。
俺の制服を掴んだまま、恐る恐ると夏実ちゃんを見る。
「あ、あなたは?」
「中等部2年の乾夏実、先輩の部活の後輩です」
「その後輩が、秋葉に何か用……?」
震え、怯えるかのように夏実ちゃんとやり取りする様子は、その儚げな印象も相まって、思わず『大丈夫だよ』なんて言って守りたくなってしまう。
……いや待て、実際に守らなくちゃならないんじゃないか?
思い出すは4月19日。
気絶した人とかいたよね? 中西君とかゴツイ男子でも震えっぱなしだったし……
小鳥遊さんといえば、今にも風が吹けば倒れてしまいそうなくらい華奢な子だ。
まぁその、振られたとはいえ一度は好きになった女の子。せめてちょっとくらい良い所を見せたいって思うのは……分かるよね?
「あの、夏美ちゃ――」
「はぁ~~~~~~~~~~」
ジロジロと小鳥遊さんを見ていた夏実ちゃんは大きなため息をつく。
どこか気が抜けたような、そして失望に似た色が込められていた。
「先輩、この女は嘘をついていますよ」
「――えっ?」
「そんな、酷いっ!」
どこか馬鹿にするかのように、失意混じりに言い捨てる夏実ちゃん。
そして絹を裂いたかのような悲鳴に近い声で抗議をする小鳥遊さん。
「おい、あれって……」
「ハーレムの彼女と新しい女との間のいざこざ?」
「どんだけ股掛けする気なのよ……誠意みせろっての」
「そもそもあの男のどこがいいかわかんないんだけど?」
……いけない、このままだと小鳥遊さんまで周囲の変な目に晒されてしまう。
「大橋くん……」
うん、そんなに頼りにされちゃ応えないわけにはいかないよな!
潤んだ上目遣いとかズルいと思うな!
ちょ、チョロいわけじゃないんだからねっ!
「ちょっと、夏――」
「はぁ~~~~~~~~~~」
俺を盾の様にする小鳥遊さんをもう一度ジロジロと見て、大きなため息を零す。
「この女に先輩の良さがわかるはずがあり得ません」
そして確信と共に、失笑しながら断言した。
「夏実ちゃん、それってどうい……」
「酷い! 秋葉だって――」
「黙れ、男に媚びるだけのメス豚」
「「ひぅっ!」」
一瞬にして、周囲の温度が下がった。
ミシッとガラスが軋みをあげ、俺達を見ていたギャラリーも唖然としている。
その殺意にも似た気を直で受け、俺と小鳥遊さんの悲鳴が漏れた。
「あれ、今日ってこんな寒かったっけ?」
「鳥肌が止まらないんだけど……」
「ね、早く行こう? なんだかここに居ちゃいけない気がする」
「おい、誰か獅子先輩を呼んでこい! 早急にだ!」
もし何も無い平原で、ばったりと牙を血で滴らせた狼に遭遇すると、こんな気持ちになるのだろうか?
その恐怖で、滴らせたらいけないものを滴らせたかもしれない。
うん、ちょっとジわって湿らせちゃった……
これはまさしく餓狼の狩りだった。
「ねぇ、先輩? 自分は別に先輩が彼女作ってもいいんですよ?」
「え?」
「自分というペットを受け入れてくれさえすれば、ですけどね♪」
くすくすくすと、夏実ちゃんの瞳はまるで獲物を甚振ろうかと言う、愉悦の色に揺れていた。
「お、大橋くん、ちょっとこの子何言ってるかわからないんだけど……」
「そ、そっかぁ」
俺も何言ってるか全くわからないんだけどね?
「小鳥遊秋葉、あなたは自分達を率いる器じゃない」
群れ? 群れって何?
「あ、あなた一体さっきから何を言――」
「もういいから黙って去れよメス豚。今なら許してあげますよ?」
「だ、誰がメスぶ――ひぁっ……!」
ゴウッ!
まるで心臓を射抜ぬくかのような勢いで睨み付ける夏実ちゃん。
小鳥遊さんは、俺の制服がぐっしょりと変色するくらいの手汗をかいていた。
その足は産まれたての小鹿のようにガクガクだ。
倒れようとすまいと、より一層の力を込めて俺の制服に皺をつくる。
……
あはは。
小鳥遊さんってば、そのくらいの気と視線で参っちゃうなんて華奢だなぁ。
周囲の人達だってほら――
「あれ? 寒気がするのに何で汗びっしょりなんだ?」
「早く教室に戻りたいのに、腰が抜けて……くそ、なんでだ」
「何で? 何で足が動かないの?!」
「保健室と養護教諭に連絡を! いいから早く!」
――あれ? 俺の感覚って微妙にズレ始めてる?
「聞こえてました? メス豚先輩?」
「ひ、ひぃいっ、い、いや……っ!」
腰を抜かし、尻餅をつきながら、手足をバタバタさせながら廊下を後ずさる小鳥遊さん。
その姿は非常に滑稽でもあり、非常に哀れでもある。
周囲を見渡し誰かに助けを求めようとするが、誰もが目を背け、関わる気がないと行動で示している。
その辛さは(非常に遺憾ながら、最近特に)よくわかる。
……なら俺がなんとかしないと。
「夏実ちゃん、待て!」
「ッ!?」
それ以上追い詰めるなと、夏実ちゃんの腕を取って止める。
振り返った顔は、どうして止めるんですか? という疑念で溢れていた。
いやいや、普通止めるだろう?
「イジメはダメでしょ?」
「……っ! でも先輩、あの女は――」
「夏実ちゃん、いい子だから」
「――ふぁ……ッ!」
落ち着いて? いい子だからね?
ほら、周囲の人たちが怖い目で見てるでしょ? ね?
そんな思いを込めて、空いている手で夏実ちゃんの髪を優しく撫でた。
ひと撫でする度に、周囲の凍てついた空気が氷解していくのがわかる。
「はわ……あぁ……らめぇ……」
夏実ちゃんの態度も身体も氷解し、力が抜けて柔らかくなっていく。
手の平からは風邪を引いたかのような熱と、ピクピクと震える振動が……え?! 大丈夫?!
「……ひ」
「な、夏実ちゃん?!」
「ひゃあぁぁああぁんーっ!!」
まるで遠吠えに似た嬌声をあげ、その場にへたり込んだ。
力なく俺の足に縋りつく様は、まさに青色吐息。
それは完全な服従のポーズを、全身で表していた。
あ、ちょっと!
お腹をわざわざ見せないでいいから!
「せんぱぁい、それ、反則ですぅ……ッ」
…………なんでやねん。
頭撫でただけやがな。
思わず心の中でそんな突っ込みをいれてしまう。
「あ、あなた達、ちょっとおかし――」
「……あ゛?」
「ひっ!」
あ、こら! 夏実ちゃん、おいたはメっ!
ほーら、いい子! いい子ね! なでなでだよぉ? 正気に戻っ……正気ってなんだろう?(哲学)
「あっあっあっあっ、そんっ、ひゃああああんっ」
艶やかな喜悦の声を上げる夏実ちゃんを撫でながら、俺は諦観した顔でこう言うしかなかった。
「あー、小鳥遊さん、逃げて?」
「…………っ!」
慌ててその場を逃げ出す小鳥遊さんを見送り、そこに残されたのは俺と夏実ちゃんだけだった。
「せん、ぱい……っ、き、鬼畜の所業です……っ!」
……鬼畜って何だろうね?
ん?
中西君? そんな目で俺を見ないで? ていうかテイマーって何?
獅子先輩? さん付けはやめて? 割とマジで!
2人とも、避難誘導は完璧にしたから安心しろって?
あはは。
お疲れ様です――なんて言うと思ったか、このやろう!!
◇ ◇ ◇ ◇
「なんっ、なのっ、あれ!」
全身から嫌な汗を噴き出しながら、小鳥遊秋葉は走ってた。
その表情は青褪めており、まさに這々の体。
「あんの、お子様っ! 絶対秋葉の方が可愛ッ――」
「ねぇ先輩? 聞きたいことがあるんだけどいい?」
「――え?」
「わたしね、虫を探してるの。とても厄介な羽虫を」
それは、思わず彼女をも唸らせる美少女だった。
手入れの行き届いた長い髪、切れ長でクリッとアーモンド形の瞳に、スッキリ通った綺麗な鼻筋。
何より一目を引く大きな胸に、それに対比するような引き締まった腰。
同性であっても見惚れてしまう美貌はしかし、剣呑な瞳が妖しく煌く。
窮地を脱したかと思えば、さながら虎子なき虎穴に入り込んでいたのであった。
「お兄ちゃんに付く変な虫、知らないかな?」
「あっ、あぁぁあ……ッ」
――この日、保健室の備品から予備のショーツが1つ使われたという。
面白い!
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ストロングってゼロだ!
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今夜のお供はドライでっ!











