第25話 開戦の狼煙
設定変更
2年前振られたときに何がしかのやり取りがあった先輩の名前を龍元結季に、
その振られた相手、岩鳥秋葉の名前を小鳥遊秋葉に変更いたしました。
2人とも本格的にまだ登場していないし大丈夫だよね?;
「先輩、また後ほど!」
「お兄ちゃん、またね」
「お、おぅ」
昇降口で教室が違う小春と夏実ちゃんと別れて、それぞれの教室を目指す。
「あ~きくん、えいっ!」
「み、美冬」
2人の姿が見えなくなってすぐ、美冬が腕を組……採捕してきた。
今朝は小春の様子も変で、誰も採捕してこなかったから油断してた。
美冬ハッグ--
どういう理屈かは分からないが、がっつりとホールドされた腕はどうやっても動かすことが出来ない。
唯一自由の効く指は、美冬が艶めかしく絡めてくる。
緩急をつけてにぎにぎしてくるそれは、まるで意思を持って生きている別の生き物みたいで、その、なんていうかちょっとエロい。ぶっちゃけちょっと興奮する。
「チッ、見せつけやがって」
「他の2人とも個別であんな風にいちゃついてんのか、くそ!」
「でも押隈さんとあいつ、付き合ってるわけじゃないんでしょ?」
「やっぱり押隈さん、弄ばれてるの?!」
…………
そう見えますよねー。
世間的にも童貞的にもこれはよくない。
今日こそは、せめて美冬にくらい、ガツンと言わなければ!
よくよく考えれば美冬は、俺の人生で一番言葉を交わしてきた女の子だ。
誠心誠意話をすれば、きっとわかってくれるはず……ッ!
「なぁ、美冬」
「なぁに、あきくん?」
「腕、恥ずかしいからやめてくれないか?」
「……………………え?」
「……美冬?」
俺の腕を外したかと思えば、1歩2歩後ずさり、まるでよろめくように距離を取る。
そしてその顔は、信じていた大切なものに裏切られたという絶望を、これでもかと鮮烈に彩っていた。
ブルータスに襲われたカエサルもこんな顔をしていたのかもしれない。
今の俺もそれに近い顔してると思うんだけどね! ね?!
「そう……だよね……あたしみたいな子が隣にいたら恥ずかしいよね……」
「え、ちょ、違っ――」
「ごめんね、ごめんねあきくん、ごめ……ひっく……ごめ……うぅ」
「み、美冬? 美冬さん?!」
そして美冬は、これぞこの世の終わりといった表情で、大粒の涙を零し始めた。
ごめんなさい、ごめんなさいと懇願するかのように俺に縋る姿は、周囲にどう映るか説明するまでもないだろう。
「ひどいな、言い方ってものがあるだろ」
「大体、大橋じゃ押隈さんレベルと釣り合わないだろうがよ」
「美冬ちゃん可哀そう……大橋は事故れ」
「てか三股とか去勢したほうがいい」
周囲の視線や囁かれる言葉が胸に痛い。
そういえば小学生の頃も似たような事があったっけ。
あの時は確か――あーもう、くそっ!
「美冬っ!」
「あ、あきくんっ?!」
強引に美冬の手を取り、逃げ込むかのように教室を目指す。
色々目立った気がするが……まぁ今更か。
ガラッっと、荒々しく教室のドアを開ける。
朝の穏やかな時間を破る闖入者は誰かと、視線を集めた。
そして喧騒に包まれていた教室は一瞬、静寂に包まれた。
…………
「おいぃいいぃっ! 押隈さんが涙目だぞ! 何したんだよ大橋さんんんんっ?!」
「みふゆっち、みふゆっち大丈夫なの? 大橋さん一体どうして……ッ」
「中西……あ、この、逃げやがったな!」
「ともちゃん、ともちゃん気をしっかりして?! まだ……まだ何も起こってないからっ!」
え? 何この反応?
廊下までの時とは全然違うんだけど?!
まるで俺が許されない大罪を犯したかのような、糾弾に近い物言いをされている。
あ、もしかして美冬の涙ですかね?
あははー、皆のトラウマスイッチになってるんですねわかります。
大丈夫、大丈夫だから。ね? ほら、気絶しないで?
未だ止まらぬ涙を流しながら俯く美冬の手を引き、席に座らせる。
教室中から、まるで爆弾処理を見守るかのような緊張の眼差しを受けた。
いやおかしいだろう……とツッコミたいが、その気持ちはよくわかる。
……そういえば、昔の美冬はよく泣く女の子だった。
そんでもって、いつも俺が悪いなんてことにされてたっけ。
それから、俺がいつも――
「美冬、悪かった」
「……ふぇっ?!」
――幼い頃座り込んで泣く美冬にやったのと同じ様に、席に座る美冬の頭を見下ろしながらくすぐる様に撫でた。
昔と変わらない、ボリュームのある滑らかな癖っ毛を、さわさわと指の間で遊ばせる。
あの頃と同じ様に、たちまち涙が引っ込んでいく。
俺も、ホッと安心のため息をついてしまう。
そして、その零れそうな大きな垂れ目がちの瞳を大きく見開き、頬をこれでもかと上気させ、喘ぐかのように小さく声を漏らして涎を垂らす様は、淫奔に塗れてい――
……
ん? あれ?
反応おかしくない?
「んっ、んーっ、はぁ、はぁ……ご、ごめんなさい、あきくん、あたし……っ」
「だ、大丈夫か?」
本気で大丈夫か?!
あ、頭撫でただけだよな?!
「んぁんんんー……っ!」
ピクりと大きく身体を震わせ声を押し殺し、もうダメとばかりに縋りついてきた。
俺の制服の胸元を、美冬にくしゃりと握られ皺を作る。
「ご、ごめんなさい、あきくん。あたしが我儘でした……も、もう許してください……」
あっるぇえぇ?!
どうしよう、どう突っ込んでいいか分からない……
「公開調教……」
「熊って人に懐くんだ……イヌ科だしな……」
「手のひらだけで美冬ちゃんを文字通り手懐けるなんて……」
「わ、私もちょっとやってもらいたいかも」
「ともちゃんっ?!」
ああ、もう、どうしてこうなっちゃってるかな?!
中西君? 今更戻ってきてな……やめて? 拝まないで跪かないで祀り奉らないで?
俺は教室の内と外との反応に戸惑うばかりだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「――いとあはれ、とありますが、昔は花と言えば桜でなく梅を」
「(おい、聞いたか? 大橋さん手のひら一つで押隈さんを)」
「(しっ! やめろよ、それは知ってるし授業中だろう)」
「(あ、あぁそうだった、すまん)」
「(まったく、目をつけられたらどうすんだ……)」
今日も今日で、我がクラスは非常に授業に集中していた。
雑談など許されないといった雰囲気だ。
い、いやぁ、今度の中間楽しみだなぁ!
ちなみに、うちのクラスは非常に授業がしやすいと教員たちの間で評判だそうです。
あはは、なんでだろうね?
授業がない休み時間はといえば、ひそひそと今朝の美冬頭なでなで事件が囁かれていた。
確かにあれは俺もびっくりしたよ?
だけどね?
調教じゃないよ?
屈服とかさせてないから
躾け?
違うから。モノにしてなんかないから。俺、童貞だから。
言い訳したくて話しかけようとするも、何故か皆は目も合わさず、近寄ると避けていく。
古代アテナイの陶片追放ってこういう事なのかな?
……胸が痛い。
しかし、その当事者は俺だけじゃない、美冬もだ。
もしかしたら美冬も同じ目に合ってるかもしれない。
さすがにそれは心配だ。美冬は――
「あ、あの、北川さん、ちょっと聞きたい事があって……」
「お、押隈さん?! え、えぇ何かしら……?」
「北川さん彼氏いたよね? こないだその、初めてのってその……」
「それは……え? えぇぇええぇぇっ 押隈さんそれって?!」
「待って! まだだから、でもその心構えとか……」
「ちょ、どういうこと? あ、私も話に参加してもいいよね?」
「わ、わたしもこの手の事は友達によく相談されてるから!」
「こ、後学の為にあーしも話に入っていい?」
「う、うん……」
…………
あっるぇぇえ?!
何か変な事になってない?!
女性陣が妙にノリノリなんだけどぉ?!
あと男子の視線が……うわ、なんだかすんごく形容しがたい顔をしてる。
こういう時はあれだ。
トイレに行こう!(現実逃避)
……
「あいつ例の……」
「誰も侍らしてないってどういうことだ?」
「きっと新しい女の子引っ掻けに行くつもりよ」
「うそ、やだ。目が合ったら妊娠しちゃうっ!」
教室から出ると、それまでと違った視線と囁きが投げかけられた。
……
平穏って何だろう?
約束された安住の地……それは男子トイレの個室かな……?
トイレに向かう俺の視界はぼやけていた。
だからだろうか。
その子が一瞬誰か判らなかった。
「大橋君、だよね? ……久しぶり」
「……ッ!」
鈴を鳴らすような耳に心地よい声。
まるで儚げで今すぐ消えてしまいそうな相貌に華奢な身体。
少しくすんだ赤い髪はツインテールで、まるで天に誘う羽の様に見えた。
「小鳥遊、秋葉……さん」
「覚えていてくれたんだ?」
そう言って、天使の様な彼女は見るモノ全てを蕩けさせるような笑顔で――
「ふふっ」
――俺だけに微笑んだ
「ど、どうして?」
一瞬にして封じ込めていた過去の記憶や感情があふれ出す。
バクバクと心臓はフルスロットルで暴れっぱなしで、感情はハンドルの壊れた車のように縦横無尽に胸を駆け巡る。
つまり、俺は正常な判断が出来なかった。
「大橋、秋斗……くん……っ!」
「え……?」
気付けば俺は彼女に、小鳥遊秋葉に、かつて好きだった女の子に、一度振られた相手に――
――唇付近に、何かの物理的接触をしかけられていた。
これが後に猛獣大戦争と言われる事件の幕開けであった。
面白い!
続きが気になる!
ストロングがゼロだ!
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今夜のお供は初めてのキスの味というトリプルレモンでっ!











