第24話 堕天使の眼差し
「えへへ……」
「…………」
にやにやとだらしない顔をする小春と共に、玄関を出る。
頭を撫でるだけでそんな嬉しいものなのか?
……
あーもう、5月も近いし、なんだか暑くなってきたなー!
「おはよぅ、あきくん、はるちゃん」
「おはようございます、先輩! 小春お姉様!」
「おはよ、美冬に……夏実ちゃん?!」
「はい! 来ちゃいました!」
家を出てすぐ、美冬と夏実ちゃんが出迎えた。
……いやいや、来ちゃいましたって。
うちから学校まで徒歩で30分はかかる。決して気軽に寄れる距離じゃない。
「夏実ちゃんって寮生じゃなかったっけ?」
「そうですよ? 30分前から待ってました!」
「……えっ?」
幼い顔立ちの女子中学生が早朝の住宅街で30分棒立ちしている姿を想像してみる。
……それ、何て罰ゲーム?
「来てたんなら連絡してよ!」
「まるで放置されてるみたいでドキドキしましたね!」
「……え?」
「え?」
どうしよう、最近の夏実ちゃんとどう接していいかわからない。
そんな夏美ちゃんはといえば、小春や美冬に積極的に絡みに行っては冷たくされては身悶えていた。
……なにあれ?
深く考えるのはよそう。
ああ、今日はいい天気だ。
俺はそっと獅子先輩にもらったスキットルに手をやった。
◇ ◇ ◇ ◇
右に小春、左に美冬、正面に夏実ちゃんを連れ立って学校を目指す。
それぞれが黒髪ロングの正統派美少女、茶髪ゆるふわ美少女、活発ロリ美少女な上、制服の上からでもその迫力がよくわかるものをお持ちである。
傍から見れば両手に花な上、花道まである状態だ。
「あいつほら、高等部2年の」
「結局全員侍らしやがって……」
「結局首輪は付けさせたままかよ」
「なんだってあんな奴が……」
「べ、別に羨ましくなんか……くそっ!」
羨ましそうに見えるだろう?
でもこれ、俺が捕獲されてるんだぜ?
取り立てて特徴の無い男子が美少女3人を侍らしている……これが世間での多くの見方だ。
「お、おい……大橋さん今日もあの3人を」
「ひ、ひぃ! やめろ! 目があったらどうする?!」
「いいから大橋さんに敬礼しろ!」
「テイマー……」
中西君? そんなところで何してるの?
敬礼とかマジやめて? 親衛隊? 何やってんの? 夏美ちゃんに言いつけるよ?
……4月19日のあの日、教室にいた一部の人の見方はそうでもないようだけどさ。
とにかく、どちらにせよ俺たちは目立っていた。
「そういえば、今日の小春お姉様どうしたんですか?」
「はるちゃん、大丈夫? 顔も赤いよ?」
2人の指摘通り、今日の小春の様子は少しおかしい。
いつもなら俺の右手を真っ先に拿捕してきた筈だ。
それが何故か福祉効果(命名:美冬)が切れてた時と同じように、3歩遅れながら大人しく着いてきているのだ。
問いかけられた小春は俺たちを見回し、そして俺の顔を見たらボッと顔を赤くして目を逸らした。
……いやいやまてまて、何だその反応は。
「はるちゃん? ちょっとこっちにきて?」
「小春お姉様、ちょっとお話しましょうか」
「う、うん……」
一瞬、周囲の温度が下がる。
ははは。
だめだぞう、美冬に夏実ちゃん。
登校中の小学生が泣き出して、犬が遠吠えし出してるじゃないか。
「えっとね、お兄ちゃんにね……」
「……うそ?! あきくんから?! それって……」
「さ、さわさわ?! がしがし、じゃなくてさわさわ、ですか?!」
どうやら今朝のなでなでの事を話しているらしい。
……うんうん、でもちょっとその表情可笑しくない?
たまに惚気話していて、俺が爆ぜろと念を送るリア充かっぽーのような顔してない?
「何度も何度もね……耳とかも優しく……」
「え、えぇぇえぇっ?! それって直接?! 生なの?!」
「え……自分だったら今日一日まともに歩ける自信ないです……」
三獣士の視線が俺を捉える。
その瞳は悉く俺を畏怖し、敬服、心酔するものだった。
「もぅ、わたしってお兄ちゃんのモノなんだって思い知らされちゃった……」
「あきくん、はるちゃんにそんな事するなんて……想像しただけであたし……」
「先輩……そんな鬼畜な方法で実妹をオトしにかかるなんて……」
「え、えーと……」
……おかしくない? 髪と頭撫でただけだよ?
中西君まだいたの? その目やめて? しないから。報復とかしないから。その集団、解散して?
「そういえば先輩聞きました? 昨日の事件の事」
「事件? 何かあったのか?」
「あの加藤先輩が痴話喧嘩で殴られて顔面崩壊した事件ですよ!」
「へ、へぇ?」
あの、ってどのだろう?
「あ、それ、あたしも知ってる。1年の加藤清真君だよね? 高校編入組の剣道部のエースだっけ?」
「全国大会や公式戦負けなしで、虎殺しとも言われる鋭い突きが有名で、その上すんごいイケメンって噂ですね!」
「そんな人いるんだ?」
「高校編入わずか1か月足らずで様々な浮名を流してる有名人ですよ? 知らないんですか?」
何が悲しくてイケメンの情報を掴んでなきゃいけないのだ。
でも虎殺しか……それだけ強かったら三獣士にも強く出られるんだろうなぁ。
俺、公式戦とか出ても個人1回戦負けばっかだし……
「でも、そんな凄い奴が顔面崩壊する事件があったんだって?」
「そうなんですよ! 鼻の骨が骨折した上、前歯も折れたとか」
「すごい話だよね~。あたしは痴情の縺れって聞いたけど……三角関係がどうのって」
「鼻の骨を骨折に前歯破損とか、よほどのリンチを受けるかしないと中々ならんだろ」
一体どれだけの恨みを買ったのだろうか?
……果たして今の俺って3つ股状態?
いやいや誰とも付き合ってないよね?
もし俺がだれかと……
……
あれ、おかしいな……涙が……
「その加藤先輩ですけど、なんでも相手の男に報復の為に色々動いているとか」
「それあたしも聞いたよぉ。なんでもガラの悪い人たちを集めてるとか」
「物騒だな、相手の男も可哀そうに」
ま、俺には関係ない話か。
しかし、1年か……
「小春、何か知ってるか?」
「ふ、ふぇっ?! な、なにが?!」
「あ、いや、いい」
「そ、そう? うふ、うふふふふっ」
「…………」
まぁ、狙われてるのは相手の男だっていうし、小春は大丈夫だろう。
いざとなったら、妹くらい護って――
「……きゃうっ!」
「ど、どうした小春?」
「う、ううん、なんでもないっ」
「そうか?」
「…………愛を感じちゃっただけ……」
「……」
……変な電波を受信するとか、テレパシーとか、変な特殊能力に目覚めてないだろうな?
◇ ◇ ◇ ◇
通学を賑わしながら征く、秋斗と三獣士。
それを不愉快に眺める少女が居た。
「……気に入らないわ」
少し背の低い、色々と華奢で整った身体。
紅葉の様に鮮烈に色づいた、長く伸びた髪はツインテールに結われ、まるで翼の様にたなびいている。
儚げで消え入りそうな相貌は、まるで神様に愛されて過ぎているがごとく、今にも消え入りそうだ。
薄幸の美少女――そんな言葉がよく似合った。
「絶対、秋葉の方が……」
しかし儚げで天使の様に愛らしい口から怨嗟の如く吐き出される言葉は、まるで彼女を堕天使に見せていた。
虎退治の逸話を持つ戦国武将と同じ苗字なのにね、加藤君。
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今夜のお供はビターアップルでっ!











