第21話 4.19事件の裏側 ☆ガールズトーク
今回はヒロイン3人に焦点を当てた回です。
そこは校舎の裏手だった。
北側にあるが日当たりは悪くない。
園芸部が植えた季節の花々や、飼育委員等で飼われてる兎や鶏の小屋もある。
他にもいくつかのベンチがあり、朝こそ人気は無いものの、お昼時には人気のスポットの1つだ。
しかし今はお昼休みだというのに、そこは無人だった。
その一画に人影が3つ。
まるで決闘か立ち合いかの様に、ピリピリとした空気を醸し出している。
花も緊張しているのかどこか葉をピンと張りつめ、兎や鶏も息をひそめていて物静かだ。
そこに不釣り合いな明るい声が響く。
「先輩って素敵ですよねっ♪」
「へぇ?」
「ふぅん?」
『コ、コケッ?!』
小柄なショートカットの美少女のセリフに、長い黒髪の美少女とゆるふわ茶髪の美少女が冷たい眼差しで反応する。
それに応じて、周囲の温度が一気に下がる。
寒の戻りもかくやという急激な気温の低下のせいで、菜の花や水仙の花弁がダラリと下がり、兎は身を震わせ鶏は堪らず鳴き声を上げた。
「つまりあんたは、おにぃを狙うメスガキってこと?」
「どういうことかなぁ? 場合によってはあたしも黙っていられないんだけど?」
「……あはっ!」
『コッ?! コッ?!』
植物さえ萎れさせ、死角にいるはずの動物さえ震え上げさせる殺気を受けてなお、ショートカットの小柄な美少女は歓喜に身を震わせていた。
「えへっ、お姉様たちもすっごく素敵ですっ♪」
「喧嘩売ってるの?」
「ちょっと説明してくれるかなぁ?」
「あはっ、違いますよぅ」
胡乱げな目をして、小柄な美少女に詰め寄る2人。
ズシン、ズシン――
彼女たちが一歩一歩踏み占めるたびにそんな音を幻聴し、植物の葉や花弁、動物たちの肩がピクリと震える。
それは正に死の行進だった。
気の弱い人なら、先ほどの教室と同じように気絶してしまうかもしれない。
「妹さんに押隈先輩、本調子じゃないでしょう? それと身体も重くなってますよね?」
「っ?!」
「ど、どうして?」
「だって――」
その小柄な美少女は踊るように、そして挑発するかのように2人の前でくるりと回り、胸を張る。
ぷるんとその豊かなものが震える。
「自分達、一緒じゃないですか♪」
と、唄いながら胸を持ち上げた。
「あんた、まさかおにぃにっ!?」
「そんな、あきくんとっ?!」
「あはっ!」
『コッ――』
その日一番の気が解き放たれた。
それは正に夜叉のごとき人食い虎の殺気に、羅刹もかくやの暴れ熊の闘気だった。
校舎から何かガタっという音が聞こえてくる。
花壇のマーガレットだけでなく、校舎の隅の方で生えているシロツメクサまでもが首を垂れる。
動物たちは本能なのか、互いに隅によっては頭を寄せ合っていた。
だが小柄な美少女は身を震わせ、より一層喜びを表現するだけだった。
「妹さんに押隈先輩も何か勘違いしていますよぅ」
「どういうこと?」
「わかりやすく言ってくれるかなぁ?」
そう詰問された彼女は、うっすら頬を染め上げ、まるで恋する乙女が秘した胸の内を告白するように謳った。
「自分、先輩のペットになりたいんです」
「……は?」
「……ふぇ?」
予想外の発言に、虎と熊の気がしぼむ。
兎や鶏は嵐が去ったかと彼女たちの方向に顔を向けて様子を伺う。
「だって先輩、全然自分の事を女子として見てないんですよ? 下心全く無し! そんな方他にいます? ありのままを見てくれる先輩……あぁ、だから自分は今はカノジョなんて地位には微塵も興味がないんです!」
「それを信じろって?」
「それはちょっとぉ」
「だけど、お2人も少しは自分の事もわかるんじゃ? 今更、先輩から離れられますか?」
「…………」
「…………」
「自分は、どんな形でも先輩から離れられませんよ。だからね、自分は妹さんと押隈先輩、お二人と仲良くしたいんです♪」
「…………わかった、信じるわ」
「はるちゃん!」
「押隈先輩は信じてくれないんですか?」
ゆるふわ茶髪の美少女は怪訝な顔をする。
「あなた、あたし達に何を求めてるのかなぁ?」
「あはっ♪」
パン、と小柄な少女は手を叩き、うっとりとした表情になる。
「妹さんと押隈先輩……自分のお姉様になってください!」
「お姉様……?」
「ふぅん、嫌だと言ったらどうなるのかなぁ?」
「うふっ、その時は……誠心誠意お願いするだけですかね~?」
小柄な美少女の目が怪しく光る。
そして、一拍の咳払いのあと――
――それと共にこの日極大の、まるで真冬を彷彿とさせる寒波がその場を襲った。
顕現するは阿修羅もかくやな瘴気を放つ餓狼。
『コ、コッコココケーーー、コケーコケーコケッ―!!!!!!』
ガタッガタガタガタガタガタッ――
『カァ、カァカァカァ、カァーッ』
ハラリ、と冷気に耐え切れなくなった水仙とマーガレットが花弁をいくつか散らす。
動物たちはこれでもかと騒ぎ始め、どこからかカラスがやってきては去っていく。
…………
「……あんた」
「……何か仲良くなれるいい方法でもあるのかなぁ?」
小柄な美少女はパンッと軽く手を叩き、キラキラした目で昂揚に宣言した。
「実はいい案があるんですっ♪」
…………
余談だが半月の間草木は元気がなくなり、兎は巣穴から一切出ようとしなくなり、鶏は卵を全く産まなくなったという。
◇ ◇ ◇ ◇
「お前たち、また歪みやがってっ!!」
それは鬼神と言うには生ぬるい蹂躙だった。
「あっ、あああっ、なるぅっ、素直なっ、素直な妹になるからあぁっ」
「頑張ります、頑張りますから傍にいいいっ」
「せ、せんぱぁい、自分の事おざなりすぎませんかぁっ?!」
まるで悪鬼を力づくで調伏する明王の如き所業。
少女たちの肩こりや体、ついでに心の歪みはたちまちに矯正されていく。
そこには先程の夜叉や羅刹や修羅の貌は無く、ただの女にされた少女達が息も絶え絶えに転がっていただけだった。
彼女達の共通する見解はただ1つ。
『『『この人には勝てない、離れられないっ!』』』
3人の美少女達の間で互いに監視、牽制しながらも、緩やかな同盟が組まれた瞬間であった。
少女たちの顔が恍惚に、淫蕩に、獲物を狙うかのように歪む。
少年の顔は苦悶に、恐怖に、何か葛藤するかのように歪んでいた。
…………
「小鳥遊秋葉」
ピシッ――
その名が飛び出したと同時に、窓ガラスが軋みを上げるくらいの冷気が発生した。
少年の震えは果たして寒さか恐怖か。
「その名前、どこから聞いたのかなぁ?」
「色々噂を聞きました。最近うちの学年でも……お姉様たち、知ってるんですね?」
年長の少女2人の間で逼迫した空気が流れる。
「……かつてお兄ちゃんが惚れた女よ」
「……そして、あきくんを弄んだ女」
「……へぇ」
少女たちは互いに顔を寄せ頷きあう。
新たな物語が動き出そうとしていた――
これにて第一章終了ですっ!
あとストックも尽きました!
次章以降の更新は不安定になるかもしれませんが、少しでも面白いと思ってもらえる様、出来る限り頑張りますっ!
これからもよろしくお願いしますっ!
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今夜のそろそろ休肝日という単語がよぎるけど、正月三が日だしトリプルレモンでっ!











