第17話 後輩の偏愛 ☆乾夏実視点
H30.2.11 祖父に古武術を習っていたエピソード追加
子供の頃は物静かだった。
どちらかというと、家で独り本を読んだりすることの方が多かった。
多分、自分の世界が変わったのは小学4年の夏前だったと思う。
「おい、いぬいのやつブラジャーなんか着けてるぜ!」
「うそ、まじかよ! こっち来るなよ、胸が腫れちまう」
「ちょっと男子! 大丈夫、なつみちゃん?」
「そういえばなつみちゃん特別なもの食べたりとかしてる?」
「…………」
周囲の子達と比べても、早い時期から使い始めた。
男子からは好奇と興味、そして少しばかりの異物への嫌悪。
女子からも好奇と興味、そして少しばかりのやっかみ。
どちらもその視線の先は私の胸。
それまで学校でもあまり喋る方でもなかったし、どう話していいかもわからなかった。
『夏実は筋がええのぅ』
古武術を教えて貰ってるおじい様にそう言ってもらえるのは嬉しかった。
だけど、それにもこの胸が邪魔になっていた。
どうしても打撃を打つのに邪魔になってしまう……
解決先を求めたのは本の世界。
そこに登場するキャラクターのように、そんなことを気にしないキャラを演じる事にしたのだ。
「いぬいのでかぱい、やーい!」
「んん? 実は触りたいんすかね? うりうり~」
「ち、ち、ち、違ぇしっ!!」
「なつみちゃん、また大きくなったの?」
「そうみたい。拝むとご利益あるっすよ?」
「えぇ? あ、でもそれくらいなら……尊い」
まるで仮面を被った様だった。
背は全然伸びないのに、胸だけはどんどん成長していく。
それと共に、自分の仮面に重石が付けられたかのように剥がれなくなっていった。
本当に自分は何だろう?
クラスの皆と話すようになったけど、関係は希薄になったと感じた。
「兄さんと同じ学校に行きたい」
家からも遠く、寮に入らなければならないので、少し揉めた。
最終的には兄を引き合いに出して押し通せた。
別にこの学校にこだわりがあるわけじゃなく、地元の公立じゃなければどこでも良かった。
とにかく、今までの人間関係をリセットしたかった。
「夏実ちゃん、でいいよね? 何か体操とか特別なことしてる?」
「乾さん、凄く大きいよね。やっぱり牛乳?」
「4組のあの女子見た? ものすげぇ巨乳だぜ」
「うわ、見ろよ。胸ってマジで揺れるんだ」
「校内3大巨乳入りしたって聞いたぜ」
「何だよ、それ。他の2人は誰だよ」
結果的に裏目に出たと思う。
入学時には既に高等部の先輩達と比べても、一際目立つサイズまで成長していた。
初対面の人ばかりだったので、まず見るのは自分の胸ばかり。
誰もが胸しか見ないし、その話題しか出ない。
「お? 自分のに興味津々っすか? やー、でっかいと困るっすねー、にししっ」
だから自分は仮面を深く被りなおすだけだった。
正直どこか絶望と諦めがあったかもしれない。
だけど、その人は違った。
まだ入学して桜が咲いている頃だったと思う。
校庭では部活の勧誘が盛んだった。
「おい、強引な勧誘はほどほどにしろよ。その子、困ってるじゃないか」
「なんだよ、男臭い柔道部は引っ込んでろよ」
「それとこれとは別だろう?」
自分の胸がよく目立つ為、テニスをしない第2テニス部とか、イベント振興第4東研究会とか実態のよくわからないようなところに限って声を掛けられていた。
「新入生だろ? 変な部活もあるから気をつけろよ」
初めて、自分の目を見て話し掛けてくれた。
柔道着から、どこの部活かはすぐにわかった。
幸い実家で古武術を習っていたので、忌避感はなかった。
「自分、柔道部入りたいですっ!」
「え? 夏は暑くて冬は寒いし、年中汗臭いからお勧めしないよ?」
初めて交わした会話は随分間抜けだったと思う。
この人なら自分をちゃんと見てくれると思った。
だけど自分の被った仮面の重石は胸同様、随分と重くなっていたらしい。
素直になれない時間が過ぎていった。
周囲の視線は相変わらずで、より一層大きくなった胸に集中した。
だから自分はこの仮面のせいで、嫌でも女だと意識させられる。
だけど先輩は、いつも自分の目を見て話してくれた。
下心なんて欠片も感じさせず、心底自分を異性と微塵も意識せず可愛がってくれた。
まるで女と意識してくれなくて、自分はゾクりと震えていた。
もっとそんな目で見て欲しい。
出来るなら一切女扱いして欲しくない。だけどそれだけじゃ寂しいので、ティッシュの様に必要な時だけ役に立ち、用が済んだら路傍の石のように扱われるとかが理想的だ。うちのクラスで皆から一様に購買のお使いを半ば強制的に引き受けさせられている石田君とか、憧憬の念を禁じえない。
ひょっとしたら休みの日とかでも、メールでちょっと隣町のコロッケが食べたいから買って来いとか横暴な命令が来るかも知れないと思って、いつもスマホの前で正座待機してる自分の心をわかって欲しい。最近はこれは一種の放置なのかなと思って、ドキドキしながら身悶えているのをどう伝えたらいいだろう?
もし自分が求められたら、1日中でだって椅子の代わりになって踏みつけられる事なんて想像すると、胸の鼓動が一段と激しくなったりもした。あはっ。
もしかしたらほんの少しだけ、自分はおかしいのかもしれない。
あ、でも玩具より、嫌がり抵抗する柴犬を強引に引っ張っていく動画の方が胸にキュンとくるので、その程度の愛情は注いで欲しいかも。
切っ掛けは先輩の妹さん達の豹変だった。
その理由は肩を揉んでもらった時にピンときた。
ああ。
自分も、変わりたい。
◇ ◇ ◇ ◇
「夏実、お前は歪んでいる」
「えっ?!」
強引に畳の上に突き飛ばされた。
え、なに? こんな物を扱うようにしてドキドキするんですけど?
「力を抜け」
「やっ、先輩っ」
強引にうつ伏せにされたと思ったら、自分の肩に手を置かれ……
「あぁああぁぁああああああんっ!!」
「くっ、きついっ」
いっそ横柄なまでに捏ね繰り回された。
肩を。
言葉では到底表せられない痛みと快感が自分を襲った。
「ひぎぃっ! ぁんっ! らめっ! いぃいぃぃいいっ!」
「はっ、随分硬いが手の内で転がしやすい分扱いやすい、普段の夏実そのままだっ」
「あひぃっ、らめっ……あっあっあっあっ」
「んっ、くっ、ふっ!」
一揉みごとに、身体が軽くなっていくのがわかる。
まるで生まれ変わっていくかのようだ。
なにこれなにこれ?
先輩、一体どういう魔法を使ってるんですか?!
「肩だけじゃないな、腰も背中も足も……夏実、脱げ」
「…………え?」
「聞こえなかったか? いいから脱げ。筋肉が見えにくい」
「ちょっ、ほんきですかっ?! らめぇえええぇっ!!!」
………………………………
……………………
…………
全身くまなくマッサージされた後、疲れたのかストロングな福祉のせいか、先輩は寝てしまった。
物理的にも精神的にも重く圧し掛かっていた仮面が解放され、生まれ変わったとしか言いようが無いくらい身体が軽い。
自分の悲鳴や制止に耳を貸さず、まるでモノを扱うかの如く揉み解していくのを思い返すと、お腹がキュゥって熱くなるのがわかる。
あはっ!
もっと……もっとあんな風に扱われたい!
だと言うのに先輩は――
「ご、ごめん、夏実ちゃん!」
「…………」
何ですか、その土下座は。
なん、なん、です、か、って! 聞いて、るん、です、よ!!
はぁ、はぁ。
思わず頭に血が上って踏みつけてしまった。
身体が軽過ぎて自分の感情と行動をコントロールできないみたい。
ああ、ごめんなさい先輩。自分、そういうつもりじゃなかったんです。
だからね、先輩。自分のご主人様になったんですから、そういう時はお仕置きして躾けないといけないんですよ?
もっと視覚的にもご主人様という自覚を持って欲しい。
そんな思いから帰りにペットショップに寄っていった。
選んだのは大型犬用のオシャレな首輪。
少し短めにして首が絞まりやすくなるのが拘りポイント。
蚤取り用の薬で肌がかぶれることを気にして、それが無いやつを選んだ。
一緒に購入した迷子タグに先輩の名前と住所を書き込んでいくと、まるで所有物になっていくみたい。
あはっ。
もし首輪受け入れてくれなかったら、じっくりと肉体的にも精神的にも調教して、一人前のご主人様になってもらわないといけないよね。
だけど、特に問題なく受け入れてリードを持ってくれた。
色んな道具やお薬の出番が無くてちょっと残念。
周囲の視線の先が明らかに変わるのがわかる。
あはっ、すごい!
先輩のペットって凄い!
このまま立ち尽くしていたら、強引に引っ張って登校してくれるかな?
だけど先輩に執着しているお二方がそれを――
「あはっ!」
ゾクリと身体が震え慄き、思わず歓喜の声が出る。
人を人と思わぬあの眼差し。
まるで、己の欲望を満たす為に獲物を狩るかのような意志の込められた瞳。
妹さんたちも、自分を女として見ていない!
このまま自分を狩ってくれるかもしれない。
だけど、それじゃ勿体無い。
とりあえず、ここは挨拶しとかないと――
「お、おにぃ……バカっ!!」
まるできまぐれで移り気の多い猫のように。
さっきまでの自分への興味は路傍の石ほども微塵の興味もなく、先輩を引っ叩く。
完全な無視。
「あはっ! あはっ! 妹さん、いえ、お姉様……」
きっと自分たち、仲良くできると思うんです!
おっぱい仮面\NATSUMI/
面白い!
続きが気になる!
ストロングがゼロだ!
って感じていただけたら、ブクマや評価、感想で応援お願いしますっ。
今夜のお供はシークァーサーでっ!
 











