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ある朝ツン過ぎる妹が急にデレ始めたので、幼馴染と後輩に相談したら(※物理的に)修羅場になったんだけど!?  作者: 雲雀湯@てんびん2026年アニメ化決定
第1章-3 餓狼でペットな後輩

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第16話 ブラックホール


 あくる日、頭痛と共に目を覚ました。


 何の因果かペットを飼う事になったのだ。


 13歳の女の子。


 犬ならもう高齢だ。

 そんなに散歩に行きたがらないかもしれないし、歯も悪いだろうから食事もふやかす必要があるかもしれない。

 だが、老齢ゆえに気性も穏やかで、そして手が掛かるからこそ愛おしいだろう。


 猫でもいい歳である。

 運動能力も低下し、そこら中で爪を研ぐような迷惑行為も少なくなっているかもしれない。

 寝てる時間も多いだろうし、その姿に癒されることに違いない。


 だが俺が飼う事になったのは人間の女の子である。

 まぎれもなく女子中学生。

 JCだよJC。


 どういう風に愛情を注いだらいいか全くわからないし、飼い主としての責任とか微塵も取りたくない。

 普段勝手に生活してくれるから、そこは楽だなぁ……って、ねぇよ!?


 そもそも何でこういう状況になってるんだ?

 おかしいだろう?


 た、多分夏実ちゃんもちょっと気が動転していただけに違いない。

 もう一度ちゃんと話せばわかってくれるはず!


 よ、よぉし! そうと決まれば顔を洗って学校行こう!


 自分を鼓舞するかのようパンパンと両手で頬を叩き、気合を入れて部屋を出る。



 ガチャリ。



「…………」


「こ、小春?」


 俺の部屋の前には、廊下にペタリとアヒル座りをした小春がいた。

 その顔は焦燥しきっており、髪はボサボサ。

 少し乱れた制服がまるで暴漢に襲われた様にも見え、憐憫を誘う。


 ドアを開ける音に反応したのか、焦点の合わない瞳が俺を捕らえる。

 そしてこちらを見上げながら、幽鬼の如く片手を伸ばしてきた。


「お、ぉに……あにっ……」


「ひ、ひぃっ!」


 思わず身を引き、小春の手が哀れに宙を舞う。


 悲鳴を上げてしまったのは許して欲しい。

 普段なら、気遣う言葉の1つでも掛けたと思う。


 だけど小春の周りにダース単位で置かれた飲む福祉がそれを躊躇させた、ていうかぶっちゃけ怖かった。


 てか小春さん、何時からそこで座り込んでいたの?

 それって全種コンプですか?

 って、そんなに俺に飲ませたいの?!


 尋常じゃない様子の小春に、驚き戸惑う。


「こ、小春、そんなところで座り込んでいたら風邪引くぞ」


「おっ……あぅ……」


 気の利いた台詞も言えず、その場を逃げるかのように1階へ降りた。


 頭痛が酷くなった気がした。





  ◇  ◇  ◇  ◇





 最近少し暖かくなってきた通学路を1人で歩く。

 桜はすっかりその儚げな花弁を散らし、若々しい新緑を奏でてる。


 そんな晩春を感じさせる穏やかな空気とは裏腹に、俺の胸中は穏やかさとは真逆だった。  


 悩みのタネは夏実ちゃん……と、背後に居る2人。


「…………」

「…………」


 小春と美冬は仲良く俺から3歩下がって付いて来ていた。

 お、奥ゆかしいなぁ、ははっ……


 小春はどこかもどかしそうな表情で、何か言いたげで訴えるかのような瞳で俺を見つめてくる。

 美冬は何かに縛り付けられているかのような、悲壮感にも似た感情を張り付かせた顔を向けてくる。


 2人とも行動は大人しくなったものの、焦れったそうな視線を寄越してきていた。

 何か言いたいけれど言い出せない――そんな感じだ。


 まぁ何を言いたいか何となくわかるけど。

 小春とかあからさまだったし。


 なんて言うかね?


 俺は何もしてないよ?


 だけどね?

 そんな思いつめてるみたいな表情で俺の背後を付いてきている姿が、皆にどう映るかわかるかな?


「ほら、あれ高等部2年の」

「ちょっと前までぐいぐい行ってたのに、あんなに大人しくなって」

「一体どんな事をすれば、あそこまで人が変わった風になるの?」

「ああいうのを外道っていうんだね」

「調教…………」

「俺、1年の子ちょっと好きだっただけに許せねぇ」


 …………


 少し周囲に耳を向けてみれば聞こえてくる罵倒の数々。

 これをスルーして居直れるほど俺の心は強くない。

 正直、今ので目頭が少し熱くなっていた。


 ……夏実ちゃんの前に2人とも話をする必要もあるな。

 今の2人ならちゃんと話を聞いてくれそうな気がする。


 俺が足を止めると、後ろの2人もぴたりと止まる。


「な、なぁ、小春、美冬」

「お、おにぃ……」

「あきくん……」


 とりあえず声を掛けてみたものの、何て言えばいいのだろう?

 そんな時だった。



「せ~んぱ~いっ!」



「なつみちゃんっ?!」

「ッ?!」

「あ~っ?!」


 それはまさに風のような素早さだった。

 まるで獲物に飛び掛る狼さながらの勢いで、夏実ちゃんが俺の腰に抱き付いてきた。

 小柄な夏実ちゃんの大きな胸が、俺の下腹部あたりにぐりぐり押し付けられる。



 ――おっぱいブラックホール。



 他に比類なき柔らかさで縦横無尽に形を変える双球は、俺の理性や平常心、知性といったものを根こそぎその谷間へと吸い込んでいく。

 もはや何も考えられず、頭の中に『ママ』という単語が浮かんではその谷間に消えていった。

 俺という存在を取り戻すにはそこにむしゃぶりつき、消えていったものを吸い出さないといけない気がしたのだ。ばぶぅ。


 だからそれはまさに、おっぱいのブラックホールだった。


「――ッ?!」


 殺気にも似たものを感じ、目線を上げる。

 そこには虹彩の消えた4つの小さなブラックホールが俺を見詰めていた。


 はい、こちらのブラックホールは俺の命を吸い出していそうですね。

 あはは、困ったなぁ。


 ま、まだ死にたくない!


「小春、美冬、これは――」

「先輩、これ見てください!」

「――夏実ちゃん?」


 小春と美冬の殺気をどこ吹く風と受け流し、渡されたのはキーホルダーのようにも見えるオシャレなプレート。

 よくよく見たら、俺の名前と住所が刻まれている。


「迷子タグです」

「え、なにそれ?」

「ふふっ。あ、先輩これを」

「……紐?」


 渡されたのは、ちょっとやそっと乱暴に扱っても千切れそうにない丈夫な紐。

 なんだろう? とても嫌な予感がする。


 夏実ちゃんはというと、頬を紅潮させ嬉しさを隠せないといった表情で、迷子タグをベルトというにはあまりに綺麗で短すぎるそれに取り付けていた。

 うっとりとした、喜びを隠せない童女そのものといった顔でそれを首に巻きつけていく。


 あ、チョーカーとかいう奴ですね。

 そうですね? そうだと言って?


「これで自分は名実共に先輩のペットっすね、えへっ」

「お、おに……ッ!」

「あき、くん……」

「え、ちょ、これ?!」


 手に持たされた紐の先を辿っていけば、あら不思議!

 なんと夏実ちゃんのチョーカーにくっついているじゃありませんか!


「昨日ペットショップで買ってきたんすよ」

「へ、へぇ」

「か、勘違いしないで下さいよね! こんな事誰にでもするわけじゃないんですから!」

「そ、そうだね!」


 俺にもしないで欲しいんですけどね!


 …………


 いやいやいや。


 想像してみて欲しい。


 女子中学生に首輪とリードを着けてる非モテ男子の姿を。


「あの子かなり幼く見えるけど、うちの中等部の制服だよね?」

「首輪で犬扱いとか、どんだけ鬼畜なんだよ」

「あの人って二股かけてた……うそ、2人とも捨ててその子にするの?!」

「おい、おさえろって!!」

「止めるなよ! 俺はもう人としてアイツを許せねぇっ!!」


 周囲からはもはや憐憫や奇異というより、義憤といった視線が突き刺さってくる。


 そして、目の前の小春と美冬の視線はといえば質が違った。

 怒りとも違うドロリとしたある種の渇望に瞳を濁らせ、まさに拘泥といった感じだ。


 その目の意味がわからず、それゆえに恐怖すら沸き起こる。


 だというのに――


「あはっ!」


 夏実ちゃんは破顔一笑、とても愉快で堪らないと笑い声をあげた。


「自分、妹さん達もどうせ同じだと思ってたんすよ」

「夏実ちゃん……?」

「違う! 違う! あはっ!」


 まるで挑発するかのように、首輪とリードを見せ付けて2人の前に歩いていく。


「あはっ、妹さんたち、自分は――」


「…………」


 しかし、小春は文字通り夏実ちゃんなど眼中になく、真っ直ぐに俺の方へと……え、涙?!




「お、おにぃ……バカっ!!」




 パシンッ!






 乾いた音が人気の多い通学路に鳴り響く。


 その突然の行動は周囲に沈黙をもたらした。

 滲んだ瞳でかつてのように俺を追い抜き去っていく。



 その場に残されたのは、女子中学生に首輪とつけた男と美少女の涙。



「あはっ! あはっ! 妹さん、いえ、お姉様……」


 何故か夏実ちゃんはうっとりと歓喜に身を打ち震え上がらせていた。


 俺は周囲の殺気に身を打ち震え上がらせていた。



 まま、ぼくがっこういきたくないよぉ。ばぶぅ。


※夏実ちゃんはかぶれないよう、蚤取り用の薬が入っていない首輪を選んでいます。


面白い!

続きが気になる!

ストロングっぽいゼロだ!

って感じていただけたら、ブクマや評価、感想で応援お願いしますっ。


今夜のお供は桃ダブルでっ!

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