第130話 参戦表明 ☆獅子先輩視点
俺は宍戸。
学校では獅子先輩とか呼ばれている。
らいおんの鬣の様なあごひげがチャームポイントなごく普通の四留高校生だ。泣きたい。
俺は今、宍戸ビルのとある会議室に居た。
そこには主要な体育系の部活の部長、鎌瀬高の主将、龍元御庭番衆の面々、それに先日の夏祭りの一件で夏実様に心酔した武装集団やらマフィアやらの外国人の有力者が数人が集まっている。
ちょっとした宴会でも開けそうな大きさがある会議室なのだが、どんどん肥大化していく夏実様信奉者のお陰で手狭になってきている。
「今日の議題は先日の夏祭りの事件についてです。お手元の資料にある通り――」
ホワイトボードの前ではスーツを着た女性――龍元お庭番衆の百地忍さんが進行している。
その顔は渋い。
どうやら先日の夏祭り関係で色々あり過ぎたようだった。被害こそほぼ無かったものの、偽乳を始めとしたた組織が複数入り込んで交戦したのだ。ちょっとした軍隊並みの勢力とぶつかったと良いってもいい。もはや戦争さながらだった。あれを祭りと言い切ってしまえる大橋さんや夏実様たちが恐ろしい。
「続いて経費関連、そして増えた人員の報告についてですが、ご存じの通り現在活動費はほぼすべて美冬様の指示のもと投資で賄われており――」
大橋さんや夏実様は強大だ。群れも大きくなった。
だが群れの組織としての運営能力は大橋さんや夏実様のあずかり知るところではない。連絡機構はそれなりのものを構築しているが、何分急ごしらえなところがある。まだ学生の部活動の延長の範疇と言ってもいいかもしれない。
それに脛に傷を持つものも少なくない。
なんだったら前科持ちがいることも把握しているが……夏実様という存在の前では法なんて些細なことで、それに大橋さんはそんな彼らを含め夏実様ごと許容している。それに今回交戦を仕掛けられた相手のいくつかの併呑した。なんて言う器の大きさだろうか。
大橋さんがいるからこその群れだ。オレ達はその恩恵にあずかっているだけに過ぎない。何かあったらまた大橋さんの手を煩わせてしまうことになる。
つまり、群れの組織としての運営の整理、それが急務だった。
「――以上、現在のやり方では大きくなり過ぎた群れの運営に『ほ、報告します!』……え?」
その時、突如慌てた様子のスーツの男性が入ってきた。龍元の人間だ。
「結季お嬢様から、大橋さんが例の宍戸アリーナ開園前特別企画への協力を承諾していただいたと!」
「「「「なんだって?!」」」」
思わず席を立ち上がってしまった。
「開園前の特別企画っていえば……」
「世界中のVIPがあつまるという……」
「裏世界の頂点を決める闇の祭典……」
俺だけじゃなく周囲の誰もが立ち上がり騒めいていた。
宍戸アリーナ開幕前日特別企画サバイバルデスマッチ『ザ・ビースト』――それは、こけら落とし公演の目玉であるパイク=ダイソンも参加する非合法な裏格闘掛け試合だ。裏社会ではたびたびおこなわれてきたものである。
ルールはただ1つ、参加者全員の中で最後まで立っていたものが勝者となる。あらゆる武器の使用、攻撃による禁足事項もなく、なんでもありのルールだ。1対1で戦う必要もなければ、何なら舞台だって決まっていない。
アリーナではなく、宍戸の街全体がリングだ。町中に仕掛けられたカメラからその戦う様子を見る。
つまり、あらゆる局面を利用し、真に強いものを決めるために戦いだ。
ザ・ビーストは非合法だ。だが、同時にとても有名で、勝者には惜しみない栄光が与えられる。
パイク=ダイソン、そもそも彼がボクサーから格闘家に転向したのは、このザ・ビーストに参加するのが目的だと言われている。
もちろん、観客や賭けに参加できるものも限られている。世界的な著名人も来るだろう。
正直なところ、この地方では力や資産を持っている宍戸家や龍元家では参加資格があるのか危うい。おそらく、ここのところ銀塩を始め、様々な組織を潰してきたから、それが評価されたのだと思われる。
だからこそ今後の発展のためにも、ザ・ビーストの興行は成功させねばならなかった。その中で一番の問題が警備だった。大橋さんがVIPの警備をしてくれるとなれば心強い。
「それだけじゃなく、美冬様から大橋さんが事務所を作ってくれと……」
「「「「な、なんだって?!?!」」」」
今度は全員が席を立ちあがってしまっていた。中には連絡に来てくれた龍元家の者に詰め寄るものすらいる。
事務所を作れ……意味が分からない。いや、わからなくもない。だがそれはあまりに不遜だ。
視線を移すと、どういうことだと百地忍さんが電話をかけている姿があった。
「お嬢様?! お嬢様、一体大橋さんに何を言って……は?! 拳帝乾征獣郎の行くための手土産のためのバイトのつもりで?! え、本人は人員整理や警備のつもり……それって!」
その声はひときわ周囲に響き、皆を戦慄させた。
大橋さんは本気だ。
事務所を作れ、手土産にする――それはつまり組織としてきちんと整備し、そして正々堂々とザ・ビーストの参加者を叩き潰す。そう言っているに他ならない。しかも本人が手を下す必要が無いとまで言っている。
「おいいいい宍戸の柔道部のおおおお!! てめぇ、パイク=ダイソンの何してくれたんだああぁああ?!」
そして丁度その時、星加流がやってきた。こけら落としの試合への参加打診をしていたのだが……百地忍さんを始め、周囲の皆と目が合い頷きあう。美冬様から話がきたということは、きっとそういうことなのだろう。俺は代表して前に出た。
「良いところに来た、星加流。早速だがこの事務所への参加署名と宣誓書へのサインをお願いしたい」
「は?! ザ・ビーストへの参加と群れ事務所への帰属……ていうかこれ、ハイかイエスか喜んでしか書いてないのだが?!」











