第124話 7.19祭り⑮ 告白 ☆中西君視点
中西君視点になります
オレは不思議な充足感と、己の変化に戸惑っていた。
頑なでささくれ立っていた心が、根古川のおかげで解きほぐされていくのを感じる。
「……どうだ?」
「いつもの中西先輩の髪型ですね。そ、そっちのほうがカッコいい、です」
「そ、そうか……」
「はい……その、この間はブルマーに驚いて、手が出てしまってごめんなさい……」
「いや、あれは……あれは、オレも悪かった。いきなりあんなものを見せられても困っただろう」
「わたし、群れの人達が武装の1つとして装備しているだなんて知らなくて……」
「あぁ、思いのほか使えてな……そうか、今は標準装備になっているのか」
なんだか心がくすぐったかった。
少しお互い食い違うところがあるものの、オレのブルマーは根古川に認められたみたいだ。
そう思うと、やたらと胸が高鳴ってくるのがわかる。この気持ちは嬉しさ……そう、オレはどうやら嬉しいらしい。
つい先程までの自分と比べると、真逆ともいえる心境に、ただただ驚くばかりだ。
まったく、根古川にはオレの妙なところばかり見せてしまっているというのに……だというのに、変な気負いもない。
「全てをさらけ出す、抜き身の付き合い、か」
「中西先輩?」
「ふふ、なんでもない。大橋さんの言葉が、今やっと少しだけ理解出来ただけだ」
「そうなんですか?」
それはまさに、大橋さんがオレにアドバイスしてくれた言葉の通りだった。
あの時のオレは、驚いた根古川に平手打ちを食らい警察に補導されかけ、荒れていた。
だが、それはオレの弱さゆえの事だったんだ。
情けない部分を全て見られてしまった今、もはや根古川には何の気負いもない。自然体で接することが出来る。
この気持ちと向き合う時が来たのだ。
自分の気持ちを整理するかのように、ゆっくりと言葉を吐き出していく。
「根古川、聞いて欲しいことが……いや違うな、言っておきたいことがあるんだ」
「中西、先輩……」
柄にも無く緊張しているのがわかる。
言いたい言葉があるのに、喉の奥で絡まって中々出てこない。
そのくせ互いの視線は絡み合い、どうしたわけか心拍数のみが上がっていく。
「オレ、は――――ッ?!」
「え、なにっ?!」
ドォオォオオオオオオオオオォォォン!!!!!!
「うわ、何だアレは?!」
「爆発? え? 黄金の光……?」
「光に当てられた人が宙を舞って……どうして皆恍惚とした顔を?!」
「くそ、なんだか体中が福祉に包まれたような感じに……一体何が起こっているんだ?!」
ここから少しはなれたところに、突如、光が降臨した。黄金の――後光のような、ひどく見慣れた光だ。
まるで安らかさと尊さが同居したような、まさに福祉といわんばかりに光り輝く。
それは皆を包み込むかのようにドーム状に大きく広がりながら、こちらに近付いてくる。
一体誰がこの光を発しているかだなんて、考えるまでもなかった。
「大橋さん……」
「え? え? 大橋先輩が?!」
現れたのは確かに大橋さんだった。
しかしその様相は、今までのオレの知っているものとは違っている。
大量の福祉を浴びすぎたせいか、髪は大橋さん自身が発する黄金に染まっており、まるで今の心境を表すかのように逆立っていた。
そう、それは――
「怒髪天を衝く……」
「え?!」
怒りだった。大橋さんのその瞳とオーラは怒りと……そして哀しみに彩られ、真っ直ぐとオレを射抜いている。
どういうことかわからなかった。
確かにオレは、大橋さんに楯突いたり、色々と暴れまわって迷惑をかけたかもしれない。怒りを感じることは当然とも言える。
しかし哀しいとなると、途端に理解が追いつかなかった。
ゆっくりと、黄金の気を纏わせ、感じたことの無い闘気と共に近付いてくる。
確かなのは、それらの感情がオレに向けられているということだった。
「くっ、離れてろ、根古川」
「中西先輩っ?!」
咄嗟に根古川を背に庇う。
思えば、まともに正面から大橋さんと対峙したのは初めての事だった。
ブルりと身体が震えてしまう。
いつも、その背中や戦い様を離れたところから見ているだけだった。
そのあまりに強大な気迫に、思わず後ずさりそうになるが――背後にいる根古川がいることを意識すると、自然と足は止まってくれる。
――フッ、どうやらオレは、これ以上根古川に無様なところを見せたくないらしい。
そんな自分が可笑しくなり――目の前に黄金の光が走った。
「イチャイチャシヤガッテ!」
「――がはッ?!」
「な、中西先輩?! 大橋先輩、どうして?!」
それは綺麗な浮き落としだった。
袖を引かれたかと思うと体勢を崩し、ろくに受身も取れぬまま遥か宙空へと投げ飛ばされ、地面へと激突する。
近くのマンションが眼下に見えたので、相当高く放り投げられたのだろう。
それだけオレへのダメージも大きい。
情けない話だが、その一撃で戦闘不能に陥ってしまった。
「立て、中西」
「ぐっ……なっ、これは?!」
「え……えっ?!」
大橋さんが黄金の光を発する手刀でオレを切り裂いたかと思えば、次の瞬間、身体の痛みは全て吹き飛んでしまっていた。
これは確か、先月嵯峨を一刀両断した約束された福祉の拳……?
「オラの気を分けてやった。身体が半分に引きちぎられても動けるはずだ」
「大橋さん……」
「大橋先輩……? 中西先輩……?」
そういって、再び大橋さんは構えを取った。
まだまだやれるだろう? そんな事を言いたげな目だ。
大橋さんの意図がつかめない。
だけど、何が言いたいのか理解しようとして、よく観察をする。
目の前にいる大橋さんは、穏やかな福祉の中、怒りで目覚めたスーパー大橋さんとも言える存在になっている。
「大橋さん、一体何に怒ってるんだ……? オレと違って力もあって、可愛い彼女が3人も――」
「小春、美冬、夏実ちゃんのことかーーーーっ?!」
「ぐあああっ?!」
さらに大橋さんの気が膨れ上がった。
それはさながら福祉と怒りの水蒸気爆発を引き起こし、周囲のテントや屋台を人を吹き飛ばしながらも、商品は綺麗に着地させ、巻き込まれた人を健康にしていく。
「な、爆発がっ?!」
「ああっ、商品が吹き飛ん――あれ、整頓されて……?」
「ひ、膝が痛くない?!」
「ど、どうなってるんだ?!」
オレも混乱しているが、周囲も混乱しているようだった。
それはそうだろう、突然吹き飛ばされたと思った商品や料理がきっちりと整頓されて、身体の体調も万全になれば困惑しないほうが可笑しい。
わからない……一体、大橋さんは何に怒って……
「中西君、君は何をやってるんだ? 何を言ってないんだ……?」
「な、に……?」
「ひっ!」
そう言った大橋さんの視線は、根古川に注がれていた。
まるでオレを非難しているかのような顔。怒り、そして哀しみ――失望とも取れる瞳。
「中西……」
「大橋さん……っ!!!」
あ。
そうか、そうだったのか。
今オレは、大橋さんが何を言いたいのか理解した。
「オレ、は……オレはぁあああぁぁぁぁっ!!!!」
叫ぶ。そしてブルマーを脱ぎ、オレの心を悟られまいと、夏実様で覆って自分から目に背けていた部分を曝け出す。
ゴゥ、とオレからも闘気が溢れ出す。
今まで抑え込んでいた気が、心が、全て解放される。
爽快な気分だった。
思えば単純なことだった。
それらに全て言い訳を重ね、目の前の困難なことから目を背けていたにすぎない。
あぁ、そうだ。大橋さんは、そんなヘタレていた俺を怒り、絶望し、哀しくなっていたんだ。
だって、あれほど親身になってオレの相談に乗っていてくれたじゃないか……ッ!!
ならば、撃つべきことは、発するべき言葉は一つ……ッ!
拳を握りしめ、大橋さんへと突撃する……ッ!!
「おおおぉおはしさあぁぁぁあああぁあん、オレはぁあああぁああぁぁあぁっ!!!!」
「なぁぁぁあぁかぁぁぁあぁにぃいいぃぃしぃぃぃぃっ!!!!」
「根古川のことがああああぁぁあ、好きだああぁああぁぁああぁっ!!!!」
「リア充、爆発しろぉおおおぉおおぉおぉおおぉぉっ!!!!」
「せ、せんぱいいぃいいいぃいいぃぃっ?!?!」
そして、特大の黄金の爆発が起こる。
オレに向かって解き放たれたそれは、たやすく身体を宙へと巻き上げられ、打ち上げ花火のように高く、より高く、成層圏まで押し上げられて行く。
普通の人なら死んでしまうところだが、大橋さんの福祉の光に守られ、この綺麗な地球を眼下に収める。
――ふっ、人はちっぽけだな。オレも、根古川も……だけど……
だけど、それゆえにこの胸の想いは尊く、この星にも決して負けないものだと悟る。
隕石もかくやという状態になったオレは、落下するとともに自分の想いを根古川に言葉に出してぶつけていく。
「根古川ぁああぁぁああぁ、オレと付き合ってくれえぇええぇえぇええぇっ!!!」
「え? え? え? あ、はい、よろしくお願いしますぅうぅうぅぅっ!!」
「ちくしょおおおおおおおめでとおおおおおおっっ!!!!!」
こうして大橋さんの絶叫という祝福の中、オレと根古川は恋人同士になることになった。











