第122話 7.19祭り⑬ 女神降臨 ☆偽乳視点
偽乳たちの3人称1元視点になります
偽乳という組織の設立は、およそ100年前のアメリカにまで遡る。
元々は、真っ当なミルクを売る会社組織だったらしい。
やがてミルクだけでなく日用品や調理品なども共に売り出していき、様々なニーズに応えようと品数を増やしていく。
コンビニの先駆けともいえる形態であり、多少の混乱はあったものの、当時の人達にも非常に受けが良く、どんどんと規模を拡大していく。
様々な物を取り扱うようになって、もはや元が何の店かの原型を留めぬほどになり――これに目を付けたのが当時のマフィア達だった。
当時は禁酒法時代、娯楽や嗜好品へのニーズがかつてないほどにまで高まっていた。
拝金主義に取り付かれた偽乳の経営者は、マフィアのそういったニーズにも応えて行き――そしてマフィア達の様々な弱みと金を握ることになる。
これにはマフィア達も困った。
たかが一介の商人に首根っこを掴まれている状態だ。
しかし、いくら金で支配されていても、その暴力を封じ込めることは出来ない。
マフィア間で対偽乳同盟が結成されるやいなや、その日のうちに偽乳の経営者は殺害され、とあるマフィアのボスが社長の座に着いた。
だが、そのマフィアのボスもすぐ姿を消されることになる。
他の利権に目がくらんだマフィアに殺されたのだ。
それほどまでに偽乳の生み出す金は魅力的だった。
そして偽乳は、トップが変わったところで経営に揺ぎ無いほどの経営システムが構築されていた。
ゆえにその座を巡って、血で血を洗う争いが絶えず起きていく。
――偽乳のトップは強くなければなれない。
偽乳を纏め上げるのに必要なのは、とにかく力だった。
それも原始的な暴力としての力を必要とされた。
マフィア達はその力を外部から雇い入れ抗争を繰り返し、いつしか偽乳は、その性質を変質させていく。
――ただ強いものが、偽乳の全てを支配し、享受できる。
庇を貸して母屋を乗っ取られる、とでもいうのだろうか?
いつしか偽乳は誰であろうと、強ければ支配者になることができ、そのお零れに預かる者たちという構図へと変わっていったのだった。
偽乳にとって強者は絶対であり、トップに頂くものであり、探してでも据えつけ、崇める。
そんな歪な社会を構成していった。
ゆえに常に強者を求め、この宍戸の地に現れたのは必然だった。
そして先代トップは中西と名乗る少年に瞬殺される。
彼の歯牙にもかけない圧倒的な強さに、偽乳構成員達は、かれこそ闇の世界に君臨する帝王として迎え入れるべきだと沸き立つのは当然だ。
金、女、薬、武器、賭博、娯楽……偽乳はあらゆる物を与えることができる。
ましてや相手は少年、すぐに靡く担ぎやすい御輿に見えた。
「What the hell is that?!(一体なんなんだ?!)」
「This the absolute funny!(こんなの絶対おかしいよ!)」
「Mommmmmmmy!!(マミッちゃう!!)」
「This city is crazy!(この街は狂ってる!)」
しかし軍隊並みの完全武装した彼らは、道着姿の学生達に圧倒され、何が何だかわからないという状況に陥っていた。
「あー、よっしゃいくぞー!
タイガー! ファイヤー! サイバー! ファイバー!
ダイバー!バイバー!ジャージャー!
ファイボー!ワイパー!」
そして今、突如戦場に飛び込んできた男によって、ペンライトによるパフォーマンスを見せられている。
訳がわからなかった。ただただ恐ろしかった。あの男は狂っているとしか形容できない。
いくら命知らずが多い偽乳であろうと、丸腰で実弾飛び交うど真ん中へ、さも悠然と歩いて来ただけでなく、踊りだすなど、正気の沙汰とは思えない。
今目の前で争っていた道着姿の連中でさえ、どういうことかと困惑しながら、彼の動向を見守っている。
『あいつ、いったいどんなクスリをキメてんだ?!』
『おかしい、帝王様もブーメランパンツ見たいなのはいてたし、なんか色々おかしいよ!』
『大体なんでアイツラ銃弾とか素手で弾き返すの?!』
『おぃ見ろよ、道着のガキどもが……っ』
『何なんだよ、あれは?!』
突如、敵として戦っていた彼らから、熱が生まれた。
それは一種の信仰じみており、大きなうねりとなって伝播し、1人、また1人と中央の男に合わせて踊りだしていく。
「く、くそ、身体が……身体が勝手に動いてしまう……ッ!」
「あいつの踊りは何なんだ……推しを……夏実様を……讃える……尊い……ッ!」
「この思い、身体を使って表現したくてたまんねぇ……!!」
「あぁあぁぁぁ、我慢できねぇ! オレは! 実は小春様の気に当てられるほうが好きなんだーっ!」
偽乳達にはまるで幾度となく練習を重ねたように、熱に浮かされて一糸乱れず踊り狂う姿が、不気味に見えて仕方が無い。
『おい、日本語わかるやついるか?! アイツラ一体何を始めたんだ?!』
『振り回してるのはなんだ?! 武器……ペンライトか?!』
『油断するな、銃弾を素手で弾くような奴らだ! それでも十分凶器になる!』
『ていうか、天気がおかしくなってないか?!』
中央で踊る彼は神官であり、司祭であった。
目の前の光景は正しく祭りであり、何か良くないものを呼び出す儀式にも見える。
事実彼らの汗が熱気となって空へと昇り、雨雲となっていたのだ。
それでも一心不乱に踊り続ける彼らの想いを束ねつづけ、ある者へと捧げられ――そしてついに彼らは召喚した。
「小春ちゃん、こっちこっち!」
「ちょ、ちょっと咲良ちゃん!?」
「「「「ほわあああああああああああっ!!!!!」」」」
「な、なに?! 何なの一体?!」
その瞬間、大気が割れた。文字通り割れた。
彼らの叫びが突風となって天へと突き抜け、雨雲を切り裂き太陽を呼び起こす。
それはまるでスポットライトの様になって、その場に現れた少女を照らした。
降臨だった。
神々しくもその場に現れたのは、1人の少女。
周囲の女性と同じく浴衣に身を包むも、その美しさが際立っている。
彼らの反応に困惑している表情も悩ましく、その可憐さにより引き立てている。
道着姿男達は皆、頭を垂れ跪き、彼女への敬意を表していた。
『あ、あの娘は一体……?』
『すごい乳だ……』
『確かに、彼らが崇めたくなる美しさだ』
偽乳達でさえ、思わず目を惹きつけられていた。
彼らの口々から『女神……』という単語すら漏れ聞こえてくる。
そのあまりにもの存在感が、先程の歓声から打って変わり、辺りは沈黙を支配している。
神秘的ですらある光景だった。
なるほど、これは正しく地上にあらざる美を呼び出すための祭事だということを理解させられる。
偽乳達もこの神聖な式事がどうなるかというのを、固唾を呑んで見守らざるを得ない心境だ。
そんな厳かな空気の中、この儀式を執り行っていた司祭でもある男が恭しくも少女に近寄り、その目前で五体投地を繰り出した。
「さ、咲良ちゃんのお父さん、これはいっ――」
「踏んでください」
「……あ?」
「「「「――――ッ?!」」」」
『『『『っ?!?!?!?!』』』』
メキョ、と何かがめり込む音が響き渡った。
周囲には同時に、轟と風が吹き荒れており、どうしたわけかそれは威圧感を伴って少女から発せられている。
偽乳たちは、目の前で繰り広げられている光景が理解出来なかった。
「我がドルオタ人生に一片の悔いなし……っ!」
「お、おとうさああああああああんーっ!!!」
少女が威圧しただけで、司祭の男の周囲3メートルほどの地面が、地盤沈下したかのごとくめり込んだのだ。
『……俺は夢を見ているのか?』
『一切触れていないよな? 一体何が……』
『あれ、なぜだろう、身体の震えが止まらなく……』
『と、虎?! 虎があの子の背後に?!』
少女の不機嫌は風を巻き起こし、それは圧倒的な質量を伴い、どういう理屈か可視化できるほどにまでなっていた。
それは巨大な虎の形をとって、司祭の男を踏みつけている。心なしか男は恍惚とした表情を浮かべていた。
「ふ、ふひひ、肉球、ぷにぷに、ごほうび……」
「お、おとうさあああああんん?!?!?!?」
「お、おい、なんてうらやまけしからん……」
「あぁ、俺も踏みつけられたい……」
「くっ、夏実様は物理的に踏みつけてくれるが、気で踏みつけてくれるのは小春様だけ……っ!」
「お、おれ達もふみつけてくだしああああぁああぁ(※裏声)!!!!」
「ちょ、ちょ! 何なのよー!」
そして道着姿の男達は少女に殺到する。
ドォン!
ドゴォオオオッ!
ズォアアアァアドォオン!!!!!
動揺した少女はさらなる気迫で作られた巨大な虎を生み出し、これぞ蹂躙とばかりに踏みつけて、時に投げ飛ばしていく。
少女同様、虎の表情もどこか気持ち悪いものを見るような顔だった。
「あ、あんた達もとっとと倒れなさーい!」
『え、俺達はちが――』
『NOOOOOOOOO!!!!』
『Wow……あ、彼らの気持ちがちょっとわか――』
『何言ってんだジョニー?!』
そしてその余波は、偽乳たちをも蹂躙していく。
この日、北米大陸に100年に渡って闇の世界を牛耳った伝説的組織・偽乳は壊滅し、真乳愛好ストンピング協会が発足するのであった。
更新遅れてすいません。もう一つの連載の方のラストが近く、そちらの方にリソースが割かれていて……(言い訳
え、エタじゃないんだからね!











