第111話 7.19祭り② 幹線道路封鎖 ☆龍元結季視点
今回は先輩こと龍元結季視点になります
駅前までの道を、小走りで急ぐ。
「くっ、時間に遅れてしまうっ!」
急いで家を飛び出したものの、浴衣だと走る速度は制限されてしまっていた。
それにせっかく結った髪や帯が乱れてしまうのも頂けない。
前日から変なところが無いようにと、何度も何度も確認したのだ。
「うぅ、忍に送ってもらえたら良かったのに、皆どこか行ってしまっているからなぁ」
私こと龍元結季は、友人である秋斗君達と、今日は一緒に夏祭りに行く約束をしていた。
思えば突発的にではなく、事前に誰かと約束をして遊びに行くのなんて初めてだ。
先日の学校帰りので、ででででデートみたいなものともまた違う。
しかも夏祭りだ。特別なイベントだ。
そして、いつもと違った自分を見て欲しいという思いもある。
準備期間は十分、この日のためにと気合をいれた。
だけど、気合を入れすぎたが為に遅刻しかけて本末転倒な状況に陥っていた。
「うぅ、変な所ないかなぁ?」
小走りで急ぎながらも、自分の恰好が気になってしまう。
長い髪をアップに結い上げ、選んだ浴衣は白地に紫のアジサイを彩ったもの。
依然として女の子らしいもの、可愛いものを着ることに抵抗がある。
そもそも昔秋斗君とは男同士だと思われていたのだ。そして私も自分に女子だという自覚が薄いのもわかっている。
だから、華やかな色や柄の浴衣は選べなかったのだが……これはこれで地味過ぎないだろうか?
ちなみに最初は忍と一緒に選んでいたのだが、忍が持ってくるのは浴衣だというのに異様にフリルやレースがあしらわれたものばかりだった。
いや、確かに可愛いとは思うが、私に似合うとは思えないし、それになんだか子供向けの様な気がする。
忍はやたらとむしろそこが、ギャップが、ロリかわエロやろ……はぁはぁ、と鼻息が荒くて怖かった。
そんなわけで選んだのがこれなのだが……うぅ、変に思われないだろうか?
……そもそも秋斗君の周りには、女性らしい特徴を持つ女子が多すぎる気がする。
自分の胸を見ると……なんていうかその、彼女達と比べて歪なんじゃないかと思ってしまう。
「あぁ、もうっ!」
今日は楽しい夏祭りの日なのだ。
こんな暗い事をウジウジ考えていてもしょうがない、気持ちを切り替えて早く待ち合わせ場所に――
「お、お嬢様?!」
「え、忍? どうしてここに?」
「ここは危険です! どうかお戻りください!」
そこは山の手の住宅街から、繁華街へと続く幹線道路との交差点だった。
この地域で最も交通量が多いその道が、何故か龍元御庭番衆に手で封鎖されていた。
何故……?
この道は山間の地方都市である宍戸と、他の都市とを繋ぐ、物流の大動脈と言える道だ。
たとえ1日封鎖しただけでも、この宍戸の地に置いて数十億円規模の損失は免れないといえる。
――まさか、重大な事故でも起こっているのだろうか?
「この先で我ら御庭番衆と、裏世界でも有名なザ・梵とドン・ドリアが交戦中です……っ! 危険ですから早くここから」
「は、はぁ?」
「のわぁああぁあぁあぁっ!!」
「くそっ、こいつら強いっ! それぞれ推定脅威度20000~30000匹……っ?! 拳姫四天王クラスが2人とか……誰か応援を……っ!」
「応援って誰を?! どこも皆苦戦してるという情報しか……っ!」
「はっ! こんな片田舎でこれほどの手練れが居るとはな」
「うちの組織が崩壊したと聞きましたが納得……ですが、私を相手にするにはまだまだですねぇ」
それは、まるで破戒僧の様な恰好をした長髪のおかまっぽい男に、全身から吹き出物が出ている小太りの男だった。
彼らは武装双した龍元御庭番衆精鋭200人規模を相手取り、まるで遊ぶかのように蹂躙していく。
圧倒的だった。たった2人を相手に足止めすら出来ていない様子だった。
「忍、あれは一体? 彼らは何をしようと?」
「わ、わかりません! ただいきなり現れて私達を殲滅すると――くっ、こうなったら夏祭りの警備に回していた御庭番衆を呼び戻して応援を……!」
「え? 警備?」
「夏祭りの運営に支障が出るかもしれませんが、背に腹は――」
龍元家は宍戸の地の運営に深く関わっている。
夏祭りともなれば、大きく人、モノ、金が動く。それらに人員を派遣している当然か。
つまるところ――目の前のオカマっぽい破戒僧と吹き出物デブが、夏祭りの邪魔をしているということがはっきりわかった。
「ふっふっふっ……」
「お、お嬢様?!」
一体私が慣れない浴衣選びにどれだけ苦労したと?
一体私が初めての友人との夏祭りにどれだけ楽しみにしていたと?
それを邪魔をしている? 夏祭りが無くなる? 全ての努力が無駄になる……?
「忍、髭落とし!」
「え、はい、ここに……ってお嬢様?!」
カツカツと下駄を鳴らし、龍元家に伝わる銘刀を抜き去りバカどもを見据える。
お嬢様逃げてと方々から声が飛んでくるが知った事ではない。
「おぃおぃ、可愛らしい女の子ですねぇ。だけどオイタはいけません。お嬢様の我が儘でこんなところに来て、どうなるかわかってるんだろうなっ?!」
「ぐふふ、お嬢様だってよ! そういう子を自分の手で汚すのが何より好――」
「――フンッ!」
「――え゛?」
「あだばっ?!」
「「「お嬢様っ?!」」」
一太刀斬り上げると共に、バカ2人が宙に舞う。
辛うじて、とっさに峰へと持ち替える理性は残っていた。
ゴン、と顔から地面に激突した2人は、ドクドクと血で地面を染め上げている。
ピクピクと身体を痙攣させるを見るに、死んではいないだろうし、あまりに呆気無さ過ぎるし、拍子抜けだった。
こんなの先月の大橋小春と比べたら……いや、それより、この程度の手合いに苦戦するなんて、御庭番衆の質が下がっているのか?
「か、片方だけでも、軍隊1個中隊に相当するといわれている猛者がまとめて一撃で……?!」
「お嬢様の剣、見えたか……?」
「ふぉっふぉっふぉ、お嬢様、またより強くなられましたな……」
「忍、これで封鎖解除されるな? 急いでいるのだが……」
「あ、はい! 誰か、車を回して!」
慌しく御庭番衆が動き出し、引き摺るようにしてバカ2人とバリケードが撤去されていく。
ものの数分で何事も無かったかのように幹線道路はいつもの姿を取り戻した。
地面に広がるバカ2人の血だけが、先ほどまでの事を物語っている。
「お嬢様、車です! ……あぁ、血は後で洗い流させます。チッ、汚ぇ花火だぜ」
「忍……?」
とにかく、これで待ち合わせの時間に間に合いそうだ。
ん、浴衣乱れてないよね? 変じゃないよね?
うぅ~、なんだか落ち着かないなぁ!











