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ある朝ツン過ぎる妹が急にデレ始めたので、幼馴染と後輩に相談したら(※物理的に)修羅場になったんだけど!?  作者: 雲雀湯@てんびん2026年アニメ化決定
第4章

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第105話 哀しみを背に、悪を狩る男―中西― ☆若視点

今回は剛拳心友会の若視点になります。


 オレは若。


 若草山という苗字に剛拳心友会の跡取りという事から、皆に若と呼ばれている。


 恥ずかしながら、オレはスランプに陥っていた。


 伸びぬ実力に鬱屈とした閉塞感に悩まされ、かつてはクスリに手を出そうともしてしまった。

 あぁ、そうだ。人生の汚点ってやつだ。


 だが、そんな俺を救ってくれた女神が居る。


 かの拳帝の孫娘、拳姫・夏実様だ。


 "獣"に手を出そうとした俺を叱責し、物理的に屈服させ、そして真理を説いていただいた。

 おかげで、今の剛心空手会にブルマーを穿いていない奴はいない。


 何故ブルマーなのかは……

 ははっ、正直俺もわかっていない。

 だが夏実様を信奉するものは皆、色は違えとブルマーを着用している。

 皆とお揃いのモノを身につけることによって、言い知れぬ一体感というモノがあった。


 ――個にして全、全にして個になる、武道の秘奥の1つだ。


 故に彼らは『群れ』と自らを称していた。

 事実、彼らは集団戦に於いて無類の強さを発揮した。

 恐らく国内でアレに匹敵する勢力が果たしていくつあるか……


 群れ――言いえて妙だと思う。


 個人で戦う空手だけでは、決して至れぬ高みに引き上げてもらった。

 おかげで何度も失敗していた、剛拳心友会継承儀式すら易々とクリア出来るようになった。


 実際、一皮向けたと思う。


 そんな群れだが、集団でなく個人の実力も重視されている。


 中でも拳姫四天王と呼ばれる幹部の強さは別格だ。


 そして今日、うちの道場では御前試合がなされていた。

 御前試合といっても、多忙な夏実様の代わりに特大ポスターが飾られているだけである。



「うぉおおおぉおぉっ!!」

「おっと!」


「ぜあぁああぁあぁあぁっ!!」

「ふっ!」


 俺は何度も特攻を仕掛けていた。

 だが(ことごと)くが容易に回避され、いなされてしまう。

 相手には余裕があった。


 ……強い。


 正直強いのはわかっていた。

 相手は新進気鋭の若手格闘家、星加流――拳姫四天王の1人だ。


 俺と同じ外様でありながら、唯一"獣"の誘惑に負けなかった男だ。


「く、若がまるで子供の様に!」

「遊ばれてる……それほど力の差が……」

「頑張れ、若ー! 俺たちの分までー!」

「見ているだけしか……いや、違う、他にも出来ることがあるはず……唄って応援だ!」


「「「「うぉおおおぉおぉんっ!!」」」」





♪♪♪


 お願い Summer Berry 強くなりたい

 お願い Summer Berry 負けたくない


 制服? スク水? やっぱブルマー!

 今は廃止 だけど通販売っている

 家族にバレる? 隠しとおせ!

 ロリ? ペド? いいえ、Summer――……


♪♪♪




 ここはうちの道場、つまりホームだ。

 道場の皆の歌が、声援が、俺の背から力を分け与えてくれる!



「おぉああぁあああぁぁっ!!!!」



 力は最高に漲っていた。

 これなら敵わぬまでも、一矢報いることだって……!


 腰を落とし、構え、流派最大の奥義の構えを取る。



「活殺ッ!征獣――」

「――ごめん」



 ――え?


 一瞬、何が起こったか理解出来なかった。

 気が付けば、ズダァアアァン! と床に叩きつけられ、天井を見上げていた。


「嘘だろ、活殺征獣拳が……」

「大橋さんと拳姫様以外に見破られるものが……」

「これが……これが拳姫四天王……」


 道場の人々がしきりに信じられないと囁きあっている。


 オレは混乱していた。

 ただ、俺の目を申し訳無さそうにみる星加流の姿がそこにあった。



「なんかその、唄はなんていうか……ほんとゴメン……」



 オレに向けられたはずの応援歌の力が、彼にも流れ込んでいた。

 オレよりも、多くの力を受け取ってしまっていたようだ。


 星加流、拳姫四天王の1人、群れの上位者……そう、道場の皆も彼の方がヒエラルキーが上だと言うのが、無意識の内に理解していたんだ。


 確かに一皮剥けた。

 あの時よりも強くなった。


 そして、世の中には強者がたくさん居ることを知ってしまった。


 オレは未だにスランプを抜け出せずにいた……




  ◇  ◇  ◇  ◇




 痛む身体を引き摺って、夜の繁華街を歩く。

 すでに時刻は日付も変わろうかという頃合だ。


「くそっ!」


 あの後、御前試合が終わった後も1人で稽古をしていた。


 強くなったと思っていた。

 だけど、周囲はオレ以上の速度で成長していた。

 その事実に焦りばかりが募っていく。


 剛拳心友会は800年の歴史を持つ。

 時の朝廷や幕府に影で召抱えられた、殺人拳を継承する一族だ。


 素手による殺人術は、それは権力者に重宝された。


 剛拳心友はある種のブランドだ。

 だから、何よりも強さを求められる。


 ふらふらと繁華街を抜けると、そこは人気のない倉庫街だった。

 普段ならば通らないような場所だ。

 だけど、この場所に惹きつけられたのは、きっと戦場の香りを嗅ぎ取ったからだ。

 先ほどの御前試合で、俺の神経は研ぎ澄まされていた。


 最近銀塩や"獣"が壊滅したせいで、荒くれ者を纏め上がる頭がなくなって治安が低下していると聞いている。


 きっと、その手合いのものなのだろう


「なんだぁてめぇ!」

「俺達が最強暴走族宇流賦(ウルフ)だと知ってのことかぁ?!」

「たった一人で舐めてんのかあぁん?!」


「……騒がしい連中だ、いいからかかってこい」


「よくほざいたぁ!」

「覚悟は出来てるんだろうなぁ?!」

「キィエェェエエエェッ!!」


「なっ?! あの人は?!」


 そこに居たのは、50人は超えるバイクに乗った集団だった。

 全員が釘バッドや肩パッドで武装している、昭和の暴走族か! とつっこみたくなる集団だった。


 対するのはたった一人の男だった。


 リーゼントに短ランボンタン、絵にかいたような昭和の不良という出で立ちの男だった。

 え、何? 何か昭和テイスト流行ってんの?


 ……て、あれ拳姫四天王の1人、中西さんじゃ?!


 まずい!


 群れの真骨頂は、全員で一体になっての集団戦闘だ!

 いくら拳姫四天王といえど1人じゃ……!

 8人……いやせめて5人いれば、あんな奴ら目じゃ――くっ! 1人より2人の方が幾分かマシな筈だ!



「加勢する、中西さ――」


「……お前らがいると、彼女(アイツ)が危ない目に合うかもしれない」


「へぶっ!」

「あばっ!」

「うぎゃっ?!」


「――え?」


 一瞬の出来事だった。


 50人はいたであろう暴走族が、次の瞬間、全員地に伏していた。


 まるで無だった。無想より転じて生を拾うかのごとき技だった。


 明らかに、人の限界と言う壁を突き破った者の所業だった。


 馬鹿な……こんな芸当、大橋さんやそれこそ拳姫様クラスのモノじゃないとできない……ッ!

 明らかに以前見た時より強い……一体どうやって?! その秘密を知りたい……ッ!



「若、いたのか。もうここは済んだ。帰れ」

「な、中西さん教えてくれ! どうやってそんな強……さ……を……」



 振り返った中西さんの瞳を見て、何も言えなくなってしまった。


 なんて……なんて哀しい瞳なんだ。

 強敵(とも)や愛しい人を喪ってしまったかのような、悲しい瞳だ。


 彼をそこまでさせるほどの出来事があったというのか……ッ?!


「こんな強さ、知らないほうがいい……」

「い、いや、でも――」

「……くどいぞ」

「――っ!!?」


 有無を言わせぬ迫力だった。その顔は、媚びぬ、引かぬ、省みぬという強い意志を感じさせた。

 そして、俺の身を案じているというのがわかった。


 こんな思いをするのは、自分ひとりで十分だと――



「それでも……俺には守りたい(やつ)がいるんだ……」



 泣くような笑みを浮かべ、中西さんは去っていった。


 その背中に、かける言葉は持ち合わせていなかった。


「くそぉおおぉおおぉっ!!」


 俺の慟哭や闇夜に消えていく。


 悔しくて、少し泣いた……


新連載の方もよろしくお願いしますね。

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