第104話 哀しみの中西君
昼休みの教室は非常に騒めいていた。
その原因は昭和のヤンキーと化してしまった中西君だ。
机の上に足を投げ出し、周囲を威嚇するかのように睨みつけている。
まるでナイフみたいに尖っては、近付く者皆傷付くぜと言わんばかりだ。
皆は遠巻きにそれを見つめ、どうしていいか分からないといった状態だ。
ぶっちゃけコスプレか何かと言われた方が納得する様な姿なので、笑えばいいのか恐れればいいのかちょっとわからない。
周囲の皆もそんな感じの表情で、なんとかしてくれと言わんばかりの視線を俺に送ってくる。
……何故俺なんだ?
それはともかく中西君はどうしたというのだろうか?
「中西君……」
「あ゛ぁ?」
俺に気付いた中西君の、纏う空気が変わった。
席を立ちあがると肩をいからせ、下から顔を覗いてくる。どこからどう見てもヤンキーのガン付けだ。
「大橋ぃ~、俺はおめーのせいでエライ目にあったんだよぉ~」
「……っ!?」
「「「「なっ?!?!?!」」」」
そして、ペッと噛んでいたガムを俺の顔目掛けて吐き出した。
べちょりと頬を伝って床に落ちる。
教室は騒然となった。
「へぇ中西くん、あきくんに一体何をしたのかなぁ~?」
「美冬?」
と、同時に教室に冷気が吹き荒れ始めた。
「おい中西、お前何をしたか分かってるのか?!」
「中西、お前命が惜しくないのか?!」
「誰か中西を……いや、美冬様を取り押さえろ!!」
「無理よ! 宇佐美さ……だめ! 気絶してる!」
夏だというのに窓ガラスには霜が張り付き、ミシミシと嫌な音を立てる。
そして美冬は殺気混じりの凍気をこれでもかと中西君にぶつけ、クラスの女子の悲鳴と気絶を誘発していた。たまに思うけど美冬のそれ人間技かな?
「強い気が発せられたと思ったら、中西先輩っすか……へぇ……ご主人様に何をやったんすか……?」
「夏実ちゃん」
今度は小柄な女子と共に、突風が吹き抜けてきた。
「おい、夏実様を誰か止めろ!」
「どうやってだ?! 獅子先輩?!」
「ダメだ、ボールにもフリスビーにも反応しない……獲物を狩る殺戮スイッチが完全にはいってやがる……っ!」
「逃げろ、中西君! ていうか何やってんだあれ?!」
夏実ちゃんだった。
昼練していたのか柔道着姿なのだが、一緒に来た獅子先輩たちは何故かボールやフリスビーを持っていた。
興奮した夏実ちゃんは闘気を隠そうともせず、周囲に五体投地を強要していた。うんうん、獅子先輩たち綺麗に並んで跪いているけど練習したのかな?
「お兄ちゃん?! 何か急にお兄ちゃんの肌から他人の体液の匂いを感じたんだけど?!」
「小春?」
いつの間にか小春が現れた。
「あ、あれ小春様……?」
「いつの間に……?」
「どうやってあの位置に……?」
「誰かみたか……?」
あたかも今までそこに居たかのような瞬間移動だった。あれ、柔道部の部室から結構距離離れてるんだけど……新しい能力とかに目覚めてないよね?
「誰だい、校舎で殺気を撒き散らしているのは?! 確かに校則で禁止されていないが!」
「結季先輩」
そして慌ただしく廊下からやってる来る人影があった。結季先輩だった。
……なんていうか、普通に登場したので地味だった。
「中西君、説明してくれるかなぁ~?」
「ちょっと、お兄ちゃんに何してくれたの?!」
「中西先輩、ご主人様の手を噛んでどういうつもりっすか?」
「え? ちょ? 昭和のヤンキー?! これは一体どういう状況なんだい?!」
一体どうしてこんな状況になっているのか、混乱していた。
小春、美冬、夏実ちゃんが発する殺気は濃密だった。
余波だけでクラスの女子が悲鳴をあげて気絶をし、意識のあるものはガクガクと震え腰を抜かしている。獅子先輩たちは跪いていた。
それだけの殺気をまともに受けながらしかし、中西君は平然としていた。
「お、おい、中西のやつ……」
「あの気をまともに受けて平然と……?!」
「ばかな! オレちょっとチビってるくらいなのに?!」
「一体どうしたってんだ?!」
俺も困惑していた。
目の前でガン付けをしている中西君の瞳が、どこまでも哀しみを讃えていたからだ。
まるで今にも泣きだしそうで、それでいて悟りを開きそうな不思議な瞳だった。
「大橋ぃ~、お前の言う通りにした結果が……くっ……くそぉっ!!」
「中西君……」
「「「なっ?!」」」
そして俺の襟を掴んで揺さぶってきた。
傍から見れば一見カツアゲしてるような光景だ。
ある意味それは正しかった。
やるせない想いを、それをどうにかするための答えをよこせと言わんばかりの行動だ。
何がそこまで――
「あきくん、ちょっとそこをどいてね。中西君とお話があるから」
「お兄ちゃんどいて、そいつ誅せない!」
「あはっ、中西先輩……命が惜しくないみたいっすね♪」
「あ、こら!」
どうにか話を聞きたかったが、それを許してくれる3人ではなかった
「やぁん!」
「あんっ!」
「きゃんっ!」
「なっ?! ななななな……っ!」
「いいから大人しく、俺の事は良いから大人しく、な?」
しょうがないので中西君の手を振りほどき、3人の頭を押さえ撫でつけ押しとどめる。
ふにゃふにゃになった3人は腰が抜けたのか俺に縋りついてくる。
うんうん。
結季先輩が物凄い顔で見てるから離れて?
何でって顔をしないで?
ほら、すごく対面的に悪い構図だよね?
「くそっ、なんで大橋は……見せ付けやがって……っ! オレは……オレはぁ……っ!」
「な、中西君……!」
そんな俺を見て、中西君の肩が大きく震えだした。
号泣、いや、漢泣きだった。
「ぢぐじょおぉおおおぁぉぉおっっ!!!!」
「な、中西くーんっ!!」
まるで夕日に向かって走るかのように教室を去っていった。
「ど、どうしてあきくん?!」
「お兄ちゃん、ナメられたままでいいの?!」
「先輩、これは粛清が必要っすよ?!」
「いいから」
詳細はわからないが、おそらく根古川さんが絡んでいるのだろう。
色々アドバイスを言ってきた手前、中西君ああなってしまった責任感を感じてしまう。
あと何より、あの正常じゃない歪みを感じると放っておけない。
それにしても中西君……泣くくらいなら、最初からブルマー穿いてデートに行かなきゃ良かったのに……
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この作品から飲む福祉要素を取っ払ったような感じのやつです!
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