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桜の咲く頃に

作者: 狐目


 春は出会いの季節というけれど、桜という物は別れを意識しすぎてならない。

一斉にピンクの花びらが開き、1週間足らずで全て散っていく。

だからだろうか、いつしか花見をしなくなったのは。花を愛でなくなったのは。




 私は桜の満開の中生まれた。

父も母も祖父も祖母もてんやわんやで祝ってもらって幸せを背負って生まれた。

始まりは幸せの中にあった。それは間違いないだろう。




 小学校に入って数年たった春の日、初めての恋を知った。

相手は同級生の女の子、大人しい子だった。

自分もどちらかというと大人しいタイプであって、眺めてるだけで幸せであった。

しかしその頃の男女というのはそういう雰囲気に敏感らしく、

いつの間にか自分がその子を好いているという噂が広がってしまった。




 それが結果的にイジメにつながるのは時間の問題であった。

最初は無視からはじまり、教科書がなくなり、靴に墨がぶちまけられていった。

私はそのような仕打ちを受けてもいじめを無視し続けていった。

興味がなかったからだ。反撃はいけないことだと教えられていた。

そのうち反応がないのがつまらなくなったのか徐々にイジメはなくなっていった。




 私は浮かれていた。非暴力非服従のガンジーの精神は正しかったんだと、

自分の正義に酔っていた。




 そして冬が過ぎ、春が訪れる少し前。彼女は泣いていた。

数人の女子が取り囲み、周りから見えないようになっていた。

机にいたずら書きされてるのを見て確信した。

そう、いじめのターゲットが彼女に移行してしまっただけなのだ。




 あの時、彼女が泣いていたあの時、なぜ私の体は動かなかったのか…

声を出そうにも声はでず、視線すらもそらしてしまった。

卑怯者め、卑怯者で臆病者の屑め。

私は悩みに悩んだ挙句、先生に密告することにした。




 そこから先は急転回、いじめはいけないというお題目を振りかざす先生と

ばれてしまったチクリ魔の私。

イジメはないということになり、その後男子数人がかりでボコボコに殴られた。




 そして桜の咲く丘の上、男女10人ばかりに引っ立てられて私と彼女は対面した。

ボロボロの私と彼女を囲み、告白しろと囃し立てた。

私は卑怯者で臆病者だった。彼女が好きだと告白した。

彼女はいいえと答えた。私の恋はそれで終わった。




 その後彼女は転校し、またいじめられる自分だけが残った。

桜が散り、緑に映えた時期であった。

私は金槌を持ち、当時イジメていた男子の一人を呼び出した。




 出会い頭であった。私は全力を振り絞り金槌を振り抜いた。

無様な悲鳴が上がり、彼は色々と教えてくれた。

悪かったと、彼女に(当時はよくわからなかったが)いやらしい事をしたと。

すまん、すまんと泣きながらわめいていた。

私はその彼に向けて金槌を大きく振りかぶり……




 春は嫌いだ。しかし桜は今年も綺麗に咲いている。




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