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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
第四章:エルフと魔王と魔導王国【帝歴716年】
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幽霊と入国と関所

「貴女が、領主の妹?」

「えぇ、だから口添えすることくらいは出来るわ。恩人ですのもの。迷惑でなければ返させて欲しいわ?」

「迷惑だなんて、こちらこそ頼めるならお願いするわ」

「決まりね。関所に着いたら兵士達には私から話をする」

「よろしくリーエン。呼び捨てでもいい?」

「構わないわ。そっちは……」

「そういえば自己紹介がまだだったわね。私は神王国で魔女をしている幽玄の魔女、シャオリーよ」

「魔女……人族の魔女は凄いのね……あのブラックボアを倒しちゃうんだから。よろしくねシャオリー」

「ブラックボア? あぁ、あのボス猪ね。残念、私は人族じゃないわ。種族としては幽霊族っていうの。精霊族と人族の中間みたいな種族よ」

「幽霊族? へぇ、聞いたことないわね……でも精霊族に近いならあの魔法の威力も納得だわ。じゃあ――」


「はいはい、二人とも。話の続きは馬車でにしましょう。貴女、けが人だということ忘れないでね?」


 リーエンがさらに聞こうとしたところで師匠から待ったが掛かった。


「そうそう、話なら移動しながらでも出来るってね。あ、私はアーネ、人族の冒険者で神王国の方で活動中。今は護衛の任務中だけどこいつらとはしばらく一緒に暮らしてた仲だ。よろしくな」

「あたしはサリファです! 聖王国から来ました人族です!」

「ルルティナです。出身は神王国の人族でシャオリー先生の弟子です。よろしくお願いします」

「私はこのシャオリーの師匠でシュナス。そっちの支えている精霊族の子がドリー。ドリアードよ」


 アーネ、サリファ、ルル、師匠と順に自己紹介をし、ドリーは最後に頭を下げた。


「じゃあ私とルル、サリファで後ろの馬車に乗るから、前の馬車にはシュナとシャオ、ドリーそれからリーエンが乗るといい」

「ありがとう。ドリー、看病はお願いね。私は御者台に座るから」


 コクッ


「まぁ、いいでしょう。はい、みんな乗った乗った」


 馬車に乗車してエルフの関所へ向かう。

 馬車で移動すれば十数分の距離なので、そこまで遠くない。


「ねぇ、シャオリー。さっき精霊出してたでしょ? あの子は?」


 後ろからリーエンが声をかけてきた。

 エアリスのことか……どうする? 自己紹介する?


『しておきましょう。隠すことでもないですし』


 エアリスはそう言うとふわりと身体を抜け出して外で実体化する。


『初めまして、エアリスと申します』

「お、おぉ!? 喋った……いやさっきも喋ってたけど……へぇ、見たことのない精霊ね」

『私は風の大精霊、守護精霊とも言いますが、今はマスターを主人にしています』

「へぇ。この子の力を借りてさっきの魔法を使ったの?」

「そう。エアリスの力で近くに居なかった風の精霊を集めてね」

「どおりで。私の呼びかけには全然答えなかった風の精霊があんなに来るわけねぇ」

「私も聞きたいんだけど、エルフの魔法を後で見せてくれないかな? 人族の物とは違うって聞いているけど」

「いいわよ? 怪我が治って落ち着いたらね。助けてもらった恩も返せるしね」

「ありがとう……と、関所が見えてきたわね」


 関所に近づくと門の前に待機していたエルフの兵士が近づいてくる。


「旅の者か? すまないが今我が国では入出国を制限している。許可の無い者は通すことができないのだ。この先の交易都市に用があるならば少し戻った三叉路を南西に向かえば遠回りだが鉱山都市ガルマへ行ける。そこから迂回するといいだろう」


 兵士は少し困った顔してそう告げた。

 確かこのエルフの国を抜けた先には交易都市モルガナがあったはず。

 なるほど、交易都市に向かう旅人が何人も来たんだね。だから慣れたように応対してくれるのか。

 そんなことを考えていると後ろからリーエンが乗り出してくる。


「ここは私に任せて」


 そう言って彼女は馬車を降りると兵士の元へ近づいて行った。


「ん? 君は……」

「御苦労さま。お兄様へのお客様なの。通してもらってもいいかしら?」

「ッ!? リ、リーエン様!? どうして外に……しかもその怪我は!? それにルサイス様へのお客様というのは……?」

「詳細は直接お兄様にお話しいたします。私が外に居る理由だけれども、別に貴方達の職務怠慢というわけではないわ。私がこっそり抜け道を使って抜けだしたのです。その時に彼女達に助けていただきました。私の恩人であり、お兄様へのお客様です。私が許可します。通してあげてください」

「…………分かりました。リーエン様が嘘を付くとは思えませんし、その怪我も治療済み、彼女達が行ったのであれば、少なくとも悪い者たちではないのでしょう……」


 兵士は私達の方へ向き直ると真面目な顔をする。


「本来であれば何人足りとも入れてはいけないのが門番の鉄則ではありますが、リーエン様の提言もありますので、領主ルサイス様へ伝令を走らせます。許可が下りればすぐにご案内致します。申し訳ありませんがお待ちいただけますか?」

「分かりました。こちらこそ申し訳ありません。関所の横の場所に停めて待たせていただきますね?」

「はい。構いません。リーエン様は――」

「私もここで一緒に待つわ。怪我も回復しきってないからね。彼女達、腕もいいのよ」

「分かりました。伝令にリーエン様のことは」

「伝えて構わないわ。後で怒られるでしょうけど、仕方ないわよね」

「畏まりました」


 兵士は関所の内側へ戻っていく。


「さて、あとはお兄様次第だけど、多分大丈夫よ。というわけでお話でもして待っていましょう?」


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