【外伝】聖王国の聖職者【帝歴7??年】
エンバルディア聖王国。
大陸の東側に存在するあたしの母国は唯一神アルヴ様を奉じている国で国民の半分程はアルヴ様の加護を持っている。
その加護のおかげで神聖魔法、他国では光魔法と言われているけれど、その魔法が使える人が結構いる。
あたしは教会に隣接する孤児院で育った。
孤児院と言っても院長先生は優しかったし、周りの子達も先輩達も優しかった。
すごく居心地がよかったと、今でも思い出す。
孤児院では毎日礼拝の義務があって、アルヴ様にお祈りをしている。
そのおかげか早い子で5歳くらいからアルヴ様の加護を授かって神聖魔法が使えるようになる子も出てくる。
そして覚えた神聖魔法を使って、教会の手伝いをしたり、主に身体が悪い人の治療や話相手になる仕事をして、お礼という名前の食べ物や雑貨を貰ってくる。
そこから一人立ちする子も出てくるし、孤児院で年少の子の世話をする。
そしてあたしはというと7歳の頃にアルヴ様の加護を授かった。
周りと比べると平均的から少々遅い時期だったけれど、授かった加護の力が強かったみたいで、お祈りの最中に空から光が降り注いで周囲が唖然としていた。
すぐに教会の偉い人に会いに行くと、院長先生が聖都クロスフォートへの馬車を手配し、そしてそのまま馬車に揺られて気づけば聖都に着いていた。
そこで一番大きな教会に案内されたあたしが紹介されたのが大神官の位を戴くゲルトホルン大司教だった。
その周囲には数人の上級神官が立ち並び、大神官様はあたしの加護の強さを確認するために、この場で神聖魔法を使ってみなさい、と言った。
ちなみに神官の位は大神官、上級神官、中級神官、下級神官、神官見習いと五段階に分けられていて、大神官は教会内でも6人しかいないらしい。六大神官達による話し合いと聖王様の判断で教会を運営しているそうだ。
さて、神聖魔法の使い方なんて知らなかったあたしだけど、周囲には先に加護を貰った同期や先輩が魔法を使うときに祈りを捧げていたのを思い出して、その場で跪き見様見真似で祈りを捧げた。
アルヴ様、加護を与えて下さりありがとうございます、と。
その祈りが通じたのか目を瞑ったままなのに目の前に光が溢れてきた。
たまらず目を開くと、そこには光り輝くカードが宙に浮かんでいた。
キョロキョロと辺りを見回すと院長先生も大司教様も目を見開いて驚いている。
どうしたものかと思っているとそのカードはあたしの方に近寄ってきた。
そっと手を出すと手の平に吸い込まれるように光るカードが収まった。
カードに触れた瞬間、これはアルヴ様が授けてくれた神具であると、そう理解する。
「神具……クオリア……未来を見通す眼……」
自然とそう呟いた自分にも驚いたが、それを聞いてさらに驚いたのは大神官様だった。
「今、神具と、神から授かったものだと言ったか?」
「……はい、声が聞こえて、これは神具『クオリア』、未来を見通す眼、だと」
「……ふむ」
大神官様は考え事をするように顎に手を当て、俯いた。
そして、考えがまとまったのか傍にいる上級神官の一人に声を掛けて部屋を出て行った。
どうしたものかとオロオロする院長先生と、呆然とするあたしだが、そこに声を掛けられていた神官が近づいてくる。
「ゲルトホルン様より、貴方を導くように仰せつかりました。上級神官で元聖職者のミーリアン・アルヴ・ゼンヴァインです。クラレンス院長、この子を中央の教会で預からせていただけませんか?」
「……は、はい。私に異論はございません。サリファ、貴方もいいかしら? これから中央の教会でご奉仕することになるのだけれど?」
「……はい。大丈夫です。いつかは出ていく場所だと教えられてきましたから。神官様、よろしくお願いします」
突然の申し出に戸惑う院長だが、相手は上級神官、しかもゲルトホルン大司教の命令だ。
院長に断れるはずがなかった。
むしろ、あたしに確認を取ってくれただけ良心的だろう。
こうしてあたしは慣れ親しんだ孤児院を離れ、中央の教会預かりとして、聖職者見習いとして修業することになる。
聖職者は教会の外で神聖魔法を使う職業らしい。
具体的にどう違うのか聞いてみたが、どうやら神官になれるのは男の人だけらしい。
女性の場合は"巫女"と呼ばれ、階級による差は存在しない。
神官や巫女の仕事は教会の内部で働いたり、命令したり、そういう仕事なのだと教わった。
じゃあ聖職者はというと、各所に派遣されては神聖魔法による癒しや攻撃魔法で依頼を解決するらしい。
別の国で聞く冒険者みたいだなと思った。
実際、ミーリアン様は似たようなものだと言う。
聖王国に冒険者は存在しない。だから代わりに教会が動かなければならない。
そのための実働部隊が聖職者らしい。
難しいことは分からないけど、私は勉強して外に出て人を助けることがお仕事のようだ。
最初は戸惑ったけれど、自分にもできることがあると思えば頑張れた。
神聖魔法は基礎のヒールはすぐに覚えられたし、効果もかなり高いと期待された。
しかし、ヒール以上の回復魔法は使えず、範囲回復のエリアヒールも、効果のより高いハイヒールも使えない。代わりにヒールの回復効果は上がっていき、他の人のハイヒールよりも効果があるらしい。
むしろ消費マナの事を考えれば、効率が良く敢えて他の回復魔法を覚える必要がないとさえ言われ、だったら別に他の魔法は覚えなくてもいいかなと、勉強しなかった。
あたしに期待されたのはどちらかというと神具の扱いについてだった。
使い方は神具の名前と一緒に流れ込んできたので、知っている。
ただし、幼い私のマナの総量ではできて週に一回が限界だったため、訓練や検証がなかなか進まなかった。
とはいえ、ミーリアン様は根気よく教えてくれて、回復魔法のヒールを含め、聖職者として仕事をするためのあらゆることを教えてくれた。
ミーリアン様は元聖職者で、大人の事情で神官になっているらしい。
だから現役時代はとても優秀な聖職者だったと、周りの人が教えてくれた。
そしてあっという間に十年が過ぎて、私はミーリアン様の養子になった。
聖職者としての力をつけて見習いを卒業するためには後見人が必要になる。
しかも神具を使えるあたしには孤児院の院長先生という肩書では弱くて危険があると、判断されたらしい。
幼少期から教えを受けていたミーリアン家のゼンヴァイン様ならば肩書も問題ないらしい。
ミーリアン家は聖都の評議会の一席を持つ家柄で、所謂他国で言えば貴族に相当するくらい凄いらしい。
聖王国は王政を敷いているが決議は評議会を通して検討され、その最終承認を聖王様が行うという珍しい方式を取っている。
聖王様は教会と政治の二つの決定権を持つ存在だけど、話し合うのは国民であるべきだと考えている。
その考えは素晴らしいし、私も共感している。
ただ、教会と王国、二つが分かれている必要があるのかと、たまに思う。
どっちも聖王様が一番偉いのに?
とはいえ政治に口を出せる評議会所属の十三家の権力は強大だ。
あたし、はおまけで神具を守るために、十七歳からあたしの名前はミーリアン・アルヴ・サリファになった。
それから国内で聖職者として、時には人を癒し、時には魔獣を討ち、経験を積んでいった。
それと同時に月に一度、クオリアによる予言を行い、それをミーリアン家を通じて評議会へ伝えるというのもあたしの仕事になった。
クオリアの予言は2種類存在する。
一つは個人について視るもの。
一つは未来について視るもの。
個人については極近い未来を見ることができ、ある程度方向性を決めることができる。
誰かが近い将来、危険に会うとか、どこに居るとか。
もう一つの未来については漠然とした、遠くも近くもない未来を視る。
これはあたしの意思が介在しない、神様が見せたい未来を見せるものと、あたしは思っている。
月に一度行うのはこっちで、これは結構マナの消費量が大きい。
その日も毎月の事と思い、聖都の自室で未来を視ていた。
「……今日はなんかよく視えないな……どうしてだろう? ん?」
いつもなら鮮明に見える光景が今日に限って暗く、淀んだようだった。
やがてそれが、周囲が暗いせいなのと、視える未来がぼやけているせいだと分かった。
今まではこんなことはなかった。今回に限って一体何が……そう思っていると、
空に掛かっていた雲がゆっくりと動き、紅に光る大きな月が見えた。
白銀でも黄金でもない、真紅の月。
そして周囲には見知らぬ人たちが倒れ、膝をつき、立ち尽くし、空を見上げる。
場面は飛んでさっきと同じ場所。
紅い月は消え、代わりに目の前にそびえる氷の柱。
まるで樹木のように、天に向かって伸びるその氷樹がどんどん遠ざかっていく。
馬車に乗っている。
周囲には耳の尖った女性や黒のローブを着た女性が何か叫んでいる。
声は聞こえない。クオリアが見せるのは未来の映像だけ。
そして気づけばあたしは自室のベッドに倒れていた。
あの光景は、なんだったんだろうか。
今までの未来とは違う。それだけは分かる。
場所は、きっと国外。耳が長い種族と言えばエルフ。
エルフが居るのは西の魔導王国だったはず。
魔導王国に行けば分かるのだろうか?
いや、あたしは魔導王国に行かなければならない。
あれは、あたしが視た景色だ。クオリアが写すのは未来のあたしが視た景色。
その未来予知を評議会に報告し、やがて辞令が下された。
「"国外にて活動を許可する。魔導王国へ向かい、未来を確かめ報告せよ"」
評議会はこれを歴史に残る大きな事件と捉えた。
そしてそれを確認し、報告せよと。
あたしに拒否権はない。命令である故に、なにより、未来があたしを呼んでいるから。
そしてあたしは、彼女に出会った。
小柄で、でも頼りがいのある優しい魔女に。




