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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
外伝:人と世界とを繋ぐ物語Part2
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【外伝】キャラバンの商人頭【帝歴716年】

「タルワールさん、解体した肉や素材の梱包と積込終わりました。いつでも出発出来ます」

「分かった。先頭はそのまま進行を開始してくれ。護衛は護衛リーダーに任せる。俺は後始末してから行く」

「分かりました!」


 言伝てを伝えに来た若い奴の背中を見送りながら、すぐ横の山に目を向ける。

 解体したマンティコア・ブルは肉や骨、皮等使える素材は取れるだけ採ったが、内蔵類はどうしても処分に困る。

 だからといって放置すれば魔獣を呼び寄せる餌になる。


 先ほど部下に集めさせた木々を内蔵の山に載せてある。

 乾燥しているし問題はないだろう。

 内臓の山の近くまで移動して、懐から紙を取り出す。

 そして中身を確認し、地面にその確認した内容を書き写していく。


「……ここはこう、か。ふむ、意味は分からないが小さく書きやすいな」


 そして地面にそれを描き終える。

 すると周囲に赤い燐光が満ちてきて、やがて回転を始める。

 そのマナの奔流はやがて大きな炎の渦となり、周囲のモノを焼き尽くす。


『フレイムトルネード』


 火属性の中級魔法。

 中程度の詠唱や、大きめの魔法陣が必要だが、火力と範囲が広く、火属性の魔法を使う者に愛用されている魔法。


「……やはりこの魔法陣は便利だな」


 魔法ギルドで公開されていた魔法陣を呼ぶ魔法陣。

 本来は書くのも大変な魔法陣を別の小さな魔法陣で呼ぶことで時間を短縮できる。

 商人をしているが、魔法ギルドにも登録している私は所謂魔法商人という立場も持っている。

 魔法ギルドに登録している理由は魔法の適性があったからというのもあるが、魔道具の取り扱いが可能になるのが大きい。

 この魔法陣は数年前に公開されていて、つい先日、見つけて使用料を払って手に入れたものだ。


「まさか、こんなところで作者に出会えるとは、な」


 作成者の名前はヴィ・シャオリー。

 先ほどは幽玄の魔女と名乗っていたから二つ名が着いたのだろう。

 見た目はだいぶ若い少女といった姿だったが、あれほどの魔法を開発し、マンティコア・ブルを討伐できるだけの実力があるのならば、見た目通りの年齢ではないだろう。

 エルフや他の種族なのかもしれない。

 1年前に王族の病を治した深霧の森の魔女といい、この国の魔女は優秀だな。


 魔法陣から魔法陣を呼ぶ。

 最初に聞いたときは何の意味があるんだ? と疑問に思ったが、職員の説明を聞いて合点がいった。

 大本の魔法陣がどれほど大きくても、一定の大きさの魔法陣で発動が出来る。

 そして、その魔法陣は相手に見られてもなんの魔法か特定ができない。

 これは魔法を使ったことのある者ならその優位性に気が付かないはずがない。


 今はまだ広く知れていないが、いずれ多くの魔法使い、魔女が目を着けるだろう。


「とはいえ、魔法ギルド登録の魔法陣では商売にはならないがな。その権利は彼女の物だ」


 だがここで知り合いになれたのも神様が良い縁を運んでくれた結果かもしれん。

 商売の神メルスよ、この縁、大事にさせていただきます。


 燃え盛る山を眺めていると、遠くから蹄の響く音が聞こえる。

 通ってきた街道の方を見ると、数頭の馬に乗った騎士が駆けてくるのが見えた。

 騎士は火を焚いているこちらに気が付いたようで、真っすぐにこちらへ向かってくる。

 近づいてきた騎士は馬から降りて兜を外し、礼儀正しく一礼する。


「失礼、私は神都の騎士団の者だがこの焼いているものはなんでしょうか?」

「これは騎士様。こちらは魔獣の内臓です。討伐した後素材をはぎ取ったので使えない部分を焼いて処分しているのです」

「なるほど。これだけの大きさ、ずいぶんと大物みたいですね」

「はい。マンティコア・ブルです」


 騎士は目を見開いて驚愕の顔を浮かべる。

 無理もないだろう。マンティコア・ブルは騎士団が派遣されるレベルの大物。

 それが騎士団の手を借りずに討伐されたと言われれば驚かないわけがない。


「討伐したのは商隊の護衛でしょうか?」

「いえいえ、我々の護衛はせいぜいシルバーの冒険者ですから。マンティコア・ブルの討伐は出来ません」

「では、誰が?」

「魔女様ですよ。騎士様」

「……魔女、ですか」


 ここで私はまたこの騎士の驚く顔が見れると思った。

 しかし、騎士が浮かべたのは一瞬の逡巡と納得したという笑みだった。


「騎士様は、あの魔女様をご存じで?」

「……そうですね、私の知っている魔女であるならば、友人です。彼女は腰から本を下げていませんでしたか?」


 確かに、あの幽玄の魔女は腰から本を下げていた。おそらく、魔導書の類だろうが。


「えぇ、えぇ。確かに。下げておりました」

「なるほど。彼女たちならば討伐することは容易でしょう。彼女たちは?」


 やはりこの騎士様は知り合いのようだ。私は魔女としか言っていないのに彼女たちと複数人だと確信している。いや、相手がマンティコア・ブルだから複数人と仮定したのかもしれないが。


「はい。このまま道なりに進むそうです。今頃は村に着くかその手前といったところでしょう」

「そうですか。ご協力ありがとうございます。私はこのことを本体へ伝えに行きますのでこれで」

「はい。ご心配ありがとうございます」

「いえ。騎士としての務めですから。では」


 馬に跨ってきた道を戻っていく騎士様。

 証人として騎士に会う機会は幾度とあったが、あそこまで礼儀正しい騎士は珍しい。

 しかもあの幽玄の魔女と友人という。


「あ、騎士様の名前を聞いておくべきだったか」


 少し話しただけだが、彼はきっと大物になる。

 コネを結んでおきたかったが、まぁいいだろう。それだけの器があればまた、出会う機会もある。

 燃え尽きた山を崩し、土に還す。

 これで魔獣が寄ってくることはないだろう。

 周囲を見ると既に大体の馬車は出発しており、残るは私の馬車と後方護衛の護衛グループだけだ。


「待たせてすまなかったな。我々も出発しよう」


 

更新遅くなりました。

5月は仕事が多忙で余裕がなく……

6月は少し余裕が出来るはずなのでもう少しペース上げれると思います。

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