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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
外伝:人と世界とを繋ぐ物語Part2
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【外伝】神王国の宮廷魔術師【帝暦716年】

宮廷魔術師ル・フィーアの話

「ねぇ、シャルク」

「ん? どうしたフィーア」


 シャオ達を見送ってからすぐ、自分の持ち場に戻ろうとしたシャルクに声を掛けた。


「……貴方、本当は着いていきたいんじゃない? シャオ達に」

「……それはフィーアもだろ? だけど今の僕たちは1年前と違って今の仕事がある。立場がある」


 そう、私はあの事件以降宮廷魔術師団としての地位を上げた。

 とはいえ、団長や副団長になったわけでもない。

 私の仕事は王家専属の魔術教師という立場になった。

 短い期間とはいえ、シャオの魔法を見て、シュナスさんから指導を受けた私の魔法的視野、発想の視野を伸ばすことに成功している。

 例えば、シャオは簡単にやっていたけれど、魔法陣を自動的に描く技術。あれはあの本、魔陣書と精霊との契約による複合技術の結晶。

 あの魔陣書を複製することはシャオ以外には恐らく出来ないだろう。

 いや、ガンダルヴ様くらいになればできるかもしれないが、知らなければその発想は出てこない。


 だけどヒントにはなった。精霊に肩代わりさせるには、精霊族やシャオのような幽霊族としての特性が大きく作用するが、精霊魔法というのは人でも扱う方法がある。

 魔法陣による精霊との契約は古より行われてきた魔法だ。

 その魔法陣で火精霊と契約し、鋼で作ったシンボルに刻んだ魔法陣に住んでもらっている。

 彼女に手伝ってもらうことで上級の魔法も2割増しの速度で撃てるようになった。

 他にも魔法の効率化や文法整理等、覚えた技術を今度は王族に教える役目を与えられた。


 一方で、シャルクも騎士団で出世し、一部隊の隊長に就任している。

 彼の場合、1年前の王女捕縛の戦いに直接参戦出来なかったのを悔やんでいたが、それを見たシャオが彼のハルバードに魔法陣を刻んで行った。


 それは風の精霊の力を借りる魔法陣で、一定の速度を超えて振ると風の刃を纏う"風刃(ふうじん)"、一定の速度を超えて突くと竜巻を発生させる"嵐牙(らんが)"。二つの魔法を発生させるらしい。

 それを初めて聞いたときは耳を疑ったくらいだ。

 一つの魔法陣しか刻んでいないのに二つの魔法が出せるのは、信じられなかった。

 説明を求めたが意味はさっぱり分からなかった。

 モーションセンサーの役割で精霊に縦軸と横軸と奥行きの3方向を持たせて、スピードセンサーが……と続きそうなところで止めさせた。理解できそうになかったから。

 簡潔に説明を求めると、どうやら風の精霊が向きとか方向を読んで、魔法陣に与える内容を変えているのだそうだ。

 魔法陣は書いたことをそのままなぞる。そして、入力、入れるマナの質によって、効果が変わるのは基礎知識だ。

 ランスの魔法に火を入れればファイア・ランス。風を入れればウィンド・ランス。

 その入力情報に向きを入れることによって魔法陣の内部を走るパスを分岐させているらしい。

 よくよくみれば刻まれた魔法陣は最初の部分から二つに分かれ、出力で合流していた。


 この考え方は画期的だと思った。

 二つの魔法陣が入力と出力を共通に一つの魔法陣として存在している。


 まぁそんな武器もあってシャルクの武勇も名を挙げて隊長に就任した。


「……お互い、立場上自由に動けないものね……アーネが羨ましい」

「だな。シュナスさんに着いて行ったときは俺もって手を上げようかと思ったよ」

「知ってる。私だって同じだもの。あの森や旅の期間は短くても濃い時間だったから」

「あぁ。楽しかったな」

「シャオ達は魔導王国へ向かうらしいし、しばらく会えないでしょうしね」

「まぁこの一年ほとんど顔合わせてなかったからな。アーネが偶に来てたくらいだ」

「薬師としての仕事もあるんだからしょうがないわよ」


 そんな話をしていると城の外の鐘が鳴る。そういえば騎士団がそろそろ遠征に出かけると言っていたっけ。


「シャルク、貴方、遠征行くの?」

「あぁ。この後出発だよ。準備は終わっているから、時間までに門に向かえば問題ない」

「そう。今回はどこへ?」

「魔導王国側の森や村を巡回さ。最近、森の奥や山の方から魔獣が降りてきて被害を出していると陳情を受けてね。冒険者ギルドにも依頼は出しているが、騎士団が巡回することで民に安心感を与えたいと陛下が」

「あぁ、魔獣被害の件ね。ウィリアム殿下も仰っていたわ。もしかしたらウィリアム殿下の提案かも」

「あの人はやはり、頭のキレが違うな。騎士団でも次の王はあの人だと言う話を聞いた」

「それはないわね。王には興味がない人よ。自分は兄を立てて陰になるといつも言っているし」

「知っているさ。むしろ王族としての身分を捨てたいとも聞いた。自由が似合う人でもあるよ、殿下は」


 ウィリアム殿下は第二王子で王位継承権は第一王子のヴィルハルト殿下が持っている。

 兄弟仲は良く、王位をめぐっての対立も起きていないし、サラティエ殿下の一件以来、その絆は確固としたものだ。

 他の貴族たちも理解しているようで、争いを唆そうとするものも出てきてはいない。


「……ここ一年は平和だった。この平和がずっと続けばいいのに」


 西の山向こうを見る。

 マギリス魔導王国。この一年は特に侵攻や暗躍を耳にしないが、それがかえって不気味だ。


「平和にするさ。俺たち騎士団が、君たち魔術師団が。この国を守るんだから」

「……そうね。貴方も気を付けて。シャオ達は貴方が良く頃には山を越えているだろうけれど」

「あぁ。何、シャオ達なら大丈夫さ。僕らが知る限り、彼女たちに敵う人は居ないんだから。シャオ達を信じよう」


 心配が顔に出ていたのかしら?

 流石に幼馴染には分かってしまうものね。


「ありがと。じゃあ私も自室に戻るわ。今夜はウィリアム殿下に呼ばれていてね」

「あぁ。じゃあまた、遠征から帰ってきたらまた話そう」


 一時の平和。これを恒久の平和にするために、自分にできることをしよう。



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