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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
第三章:師匠と先生と大樹の秘密【帝歴716年】
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幽霊と山越と魔導王国

「よっと……」


 転移先に設定していた風雷山脈、魔導王国側の山道入口に出る。

 振り返れば山の上は未だ雷雨が鳴り響いており、上空は強い風が吹いていた。


『あの魔法陣が地脈にある限り、ここの山の環境は変わりません。地脈のマナを使っているので切れることはありませんから』


 エアリスが身体の中から声をかけてくる。この感覚はドリーと一緒になった時と似ている。


「そうなの。でもまぁ、あの精霊殿にはいつでも私達なら飛べるし、あそこの要石が壊れない限りはこの山脈はいつでも越えられるわ」

『主とは違った形でマスターもすごい方ですね……主は"空は繋がっている! だったら飛べばいい!"と山脈も海も飛んで越えていましたよ』

「その元始の魔女さんの話はとても興味あるし、その考え方も嫌いじゃないかな。私だって飛ぼうと思えば飛べるけど速度が出ないから諦めただけで」

『主はこの大陸の端から端なら一日で飛んでいました』

「やばいね、元始の魔女さん……」


 エアリスと彼女が知る主様、元始の魔女の話や、私の話をしながら待っていると、蹄の音を立てて山道を下ってくる2台の馬車が見えた。


「あ、来た見たい。少ししたら紹介するからそしたら出てきてね」

『はい、マスター』


 ◆


「シャオ! よかった……無事だったのね」


 馬車から私を見つけるなり御者台から飛び降りて駆けつけてくる師匠。

 続いてアーネ、ルル、サリファ、ドリーと降りてくる。


「ごめんなさい、師匠。心配をお掛けしました」

「……まぁ、貴方のことだから、大丈夫だとは思っていたけれどね。それとこれは別。心配なのは変わらないから」

「そうですよ先生。師匠もアーネさんもソワソワしてて途中で何度馬車から降りて駆けつけようとしたか……空の方で雷が鳴るたびに不安そうでした」

「私は加護の方が戦えって呼んでいる気がして……それにシャオなら大丈夫って信じてたからね」

「ふふふ、そういうルルちゃんだってずっと魔陣書を開いていつでも動けるように準備していたくせに~」

「……サリファさん、人の事を言えますか? 知っていますよ? アインを飛ばして警戒していたの」

「あ、あたしはほら、偵察が仕事のようなものだし……」


 ワイワイと騒がしく声をかけてくるみんなの間を抜けて、ドリーがまだ抱きついている師匠ごと抱きしめた。

 あぁ、心配をかけたんだなって、申し訳ない気持ちと、無事に帰ってこれたという安心感が混ざり合い、温かい気持ちになる。


『マスター、愛されていますね』


 ビクッ

 とドリーが後ずさった。

 精霊族である彼女にはエリアスの声が聞こえたのだろうか?


『聞こえているみたいですね。マスターに感情が向いていたから受信してしまったようですが、本当に愛されているんですね』


 茶化さない。茶化さない。

 でもまぁ、このままドリーを警戒させるわけにはいかないか。


「あー心配してくれてありがとう。みんな。詳しい話は後で話すけど、まずは紹介したい子がいるの。出ておいで、エアリス」


 エアリスを呼ぶと私の身体から深緑の光が漏れ出して宙で集まり、形を作る。

 それは精霊殿で見た少女の姿ではなく、少し成長して14,5くらいだろうか。前は小学生くらいにも見れたけれど。

 それに服の裾部分にも緑色の風をあしらった意匠が入っているし、ただ下に伸ばしていた髪はウェーブが掛かっている。

 耳の上こめかみのあたりから後ろに羽が生えており、それとは別に背中から一対の羽が生えていた。

「……あぁ~この姿を見るのは私も初めてだけど、一応紹介するね。風雷山脈の地脈に存在する風の精霊殿に居た風の守護精霊。その昔、元始の魔女に仕えていたそうだけど、縁あって今は私と契約しているの。名前はエアリス。よろしくね」


 エアリスはニコっと笑ってお辞儀をするとまた光となって私の中に戻った。


『ふふふ、驚きました? マスターのマナを借りて新しい身体を作ったんです。マスターの中の風の精霊のイメージを拝借しました』


 そうか、その姿、前にやったRPGのキャラがこんな感じだったっけ。


「……まさか、大精霊を使役するなんて、ね」

「害はないですよ」

「知ってる。まぁ、その子も悪い子じゃなさそうだし、仲良くしなさい」


 もちろん、そのつもり。


『あ、マスター。そこのドリアードさんが嫉妬してるよ』


 え? ドリーが?

 ドリーの方を見ると確かに顔をしかめて難しい顔をしている。


『"私とシャオの方がずっと一緒で長く居るんだから、割り込まないで?"と嫉妬の言葉を投げかけてる』


 あぁ、そうか。貴方精霊だものね。精霊族であるドリーと会話できるのか。


『えぇ。通訳が必要?』


 ドリーが必要ならね。言葉が無くても何が言いたいかは分かるから。


「なるほどなるほど。ドリー、よく思ってくれているのはうれしいけど、エアリスとも仲良くね?」

 突然そう問われてドリーも目を丸くした。


「シャオ、あなたドリーの言葉が分かるようになったの?」

「違いますよ、私じゃなくてエアリスがドリーの言葉を感じ取って伝えてくれるんです」

「風の大精霊、じゃなくてエアリスとは会話が?」

「はい。契約したからというのと、私の身体の中にいるうちなら話せるそうです」

「そう。分かったわ。さて、無事を確認したし合流も出来た。もうここから先は魔導王国領だし、先を急ぎましょう。道中、山の中で何があったのか、詳しい話を聞かせてくれるわよね?」

「はい。あ、そうだ。その前にこれを」


 暗黒マナを閉じ込めた球を師匠に渡す。


「これは?」

雷神鳥(サンダーバード)が暴れていた原因の闇属性マナとは別種の黒マナです。仮称で暗黒マナと呼んでいますが……これが何か分かりますか?」

「…………いいえ、私も初めて見る。マナに関する研究はしてきたはずなのだけれど」

「エアリスも心当たりがないそうです。ただ、このマナは西からやってきた、と」

「西、山脈から見て西ならここ、魔導王国……つまり魔導王国の異変に関係がある、といいたいのね」

「はい」

「…………分かった。これについては調査する必要がありそうね。でも旅先だと厳しいかも」

「なら、エルフに聞いてみるのはどうですか?」


 師匠と話しているとルルが割り込んできた。エルフか。


「なるほど。エルフは長寿だし魔導王国に住んでいるから何か知っているかも」

「確かに。目的地でもあるしそれが良さそうね」

「決まりですね。また一つ、エルフの国でやることが増えたけど」


 エルフの国で先王の行方の情報を探して、

 マーリンの妹への手紙とウィリアムの親書を届けて、

 暗黒マナについても調査する。やること盛沢山だなぁ。


「はいはい。じゃあみんな、馬車に乗り込んで。出発するわよ」


 師匠が手を叩きながら馬車へと向かう。

 走り出した馬車の中で私は山脈での出来事を一つずつ語っていった。

 魔導王国内を2台の馬車は蹄の音と車輪の転がる音を響かせて走る。


 目指すはエルフの国、アルスレイン。



第三章、終了です。

途中話が間延びしてしまいました。

次の第四章ではもう少しテンポを上げていきたいと思います。


この後はまた、他キャラ視点の外伝を数話挟んでからの新章となります。

登場人物が主人公について語っているシーンが好きなもので……


外伝を挟みますが次章、第四章:エルフと魔王と魔導王国【帝歴716年】

よろしくお願いいたします。


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