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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
第三章:師匠と先生と大樹の秘密【帝歴716年】
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幽霊と精霊と古の契約

 風の精霊殿に戻ると守護精霊の彼女が出迎えてくれた。

 その両腕で一羽の鳥を抱えながら。


『ありがとうございます。おかげで弟を助けることが出来ました』

「ううん、貴方の拘束魔法が無ければ私だってあの魔法を使うことは出来なかった。だから貴方のおかげでもあるから。胸を張って」

『……はい、ありがとうございます』


 そう言って風の魔法で作った揺り篭に眠っている風の守護獣を乗せた。

 ……あの魔法、後で教えてもらおう。


「さて、色々教えてもらおうかな?」

『はい。私で答えられることであれば』


「じゃあ、どうして貴方は話せるの?」

『そうですね。一般的な精霊や精霊族は言葉を発する器官をもたず、念話で会話しているのはご存じですよね? 出なければその質問はありえませんから。私が会話しているこれもその念話です』

「でも、私にはその受信するための器官がないわ。それにこの感覚は耳で聞いているように思えるのだけど?」

『その認識で間違いはありません。私が念話しているのは貴方の周りにいる風の精霊達です』

「風の精霊?」

『はい。この空気中に存在する風の精霊に念話で語り掛けています。言葉がどうして伝わるかご存知ですか?』

「それは、空気の振動で……まさか!?」

『素晴らしい。話が早くて助かります。風の精霊に貴方の耳に対して振動を送っているんです』

「いや、それは私だって考えたけど、精霊の数が足りないはず」

『外ではそうでしょう。でも、この場所は違います。ここは精霊に満ちている』


 言われてみれば、小さな微精霊と呼べる存在をあちこちで感じる。

 ここが風の精霊殿……精霊の住処ということか。


「なるほど。ここ限定で、貴方だからこそできる芸当なのね。風の守護精霊、または大精霊と呼ぶべきかしら?」

『お気づきでしたか。そうです。私は外の世界では四大精霊と呼ばれていました』


 元始の魔女についてシャルクから聞いた後、彼女について少し調べていた。

 四大精霊。

 火の大精霊、水の大精霊、地の大精霊、そして、風の大精霊。

 かつて元始の魔女が使役したとされる4体の強大な力を持つ精霊達。

 彼らの力を借りれば天変地異さえも起こせると言われているらしい。


「これほどの力を持った精霊だもの。関連付けてもおかしくはないでしょう?」

『そうですね。なら、ここを創ったのが誰かも気づいているのでは?』

「ここは、元始の魔女が作った場所なのよね? 山脈の中にあるということは、他の4つにも大精霊が住んでいる。そして、精霊殿がある」

『その通りです。我々は主の命でここで時が来るのを待っていました。そして、今がその時です』

「どういうこと?」

『主は言いました。"この場所にいずれ魔法を極めようとする者が訪れる。その者が善であれ、悪であれ、お前たちが認めたならば、魔法陣を託せ。その後のことは自由にするといい"と』

「……元始の魔女の古代魔法陣……」


 やっぱり、ここにあったんだ。7つの古代魔法陣が。


『私の願いを聞き届けていただいた貴方ならば、この魔法陣を託すに足る人物だと、私は思います』

 風の大精霊は手を胸の前で組んで、眼を瞑った。


 ~~♪ ~~~♪ ~~♪ ~~~♪


 歌とも、音楽ともとれる不思議な音色が周囲を満たす。

 すると中央にあった台座から濃い緑色の燐光が溢れ出した。


『……これが主が残した"風の元始魔法陣"、その力は天候操作。雨を呼び、風を起こし、雲を掃う。大いなる風の力です』


 天候操作、なるほど。これが山脈の秘密か。この力を使えば常に山を風と雷と雨で覆うことができる。

 祭りの時だけ道が開くのも、もしかすると順序が逆なのかもしれない。

 道が年に一度開くことを、忘れないために後から祭りが開かれたとか?


 魔陣書を開いて、後ろの空きページを魔法陣に向ける。


「"コール……コピー&トレース"」


 魔法陣をそのまま写し、書き取る。

 これで"風の元始魔法陣"を登録することが出来た。


「それにしても、地脈の中にこれだけのものを作って、貴方のような精霊を扱うなんて、本当にすごい魔女だったのね。元始の魔女ってのは」

『えぇ、主は少し、世間ずれしていましたが、良い人でした』

「……そう。ところで、貴方はこれからどうするの? ここでこれまで通りにずっと?」

『主からは、魔法陣を託した後は好きにするように言われています。その、もしよければなんですが……』

「……うん。私も実は言おうかと思っていたんだ」

『では?』

「えぇ。私と一緒に行かない?」


 右手を伸ばして彼女を誘う。

 彼女と話していて、とても気が合うような気がした。

 それに、この精霊殿にずっとというのは寂しい気がしたし、今の外の世界というのも見てほしいと思った。


『ありがとうございます。それでは契約を……続いて詠唱してください"汝、風の大精霊シルフィア"』

「"汝、風の大精霊シルフィア"」


『"古き盟約は今果たされた。新たな盟約と共に我に使えよ"』

「"古き盟約は今果たされた。新たな盟約と共に我に使えよ"」


「『"契約(コンストラクト)"』」


 風のマナの奔流が周囲を包む。

 溢れた緑の燐光が私の身体の中へ吸い込まれていく。


『……これで契約は完了しました。合わせてお願いがございます。主』

「うーん、別の呼び方にしない? 例えば……"マスター"とか」

『マスター? はい、主がそう望むのであれば、これからはマスターと呼びます』

「あと固い固い! さっきみたく砕けた感じで話して?」

『……はい、わかりました。よろしくお願いしますね、マスター?』

「おっけ! と、ところでお願いって?」

『はい。シルフィアは前の主につけて頂いた名前です。良ければ新しい名前が欲しいなと』

「契約の時に名前を入れていたけれど?」

『あれは、古き契約から新しき契約へ切り替える術式ですから。古い名前じゃないと効果がないんですよ。でも新しい契約には新しい名前が必要ですから』


 そういうものなのか。

 しかし、名前、名前かぁ。


「……風……シルフィード、シルフ、シルフィアーネ……だとアーネが知り合いにいるから……別名? 確か前に読んだ本で……エアリアル……エアリス……うん、貴方の新しい名前はエアリスがいい」

『エアリス……はい、その名前、気に入りました』

「じゃあ改めて、よろしくね? エアリス」

『こちらこそよろしくお願いします。マスター』


 互いに握手を交わして、ニコリとほほ笑む。


「そういえば、彼、守護獣くんはいいの?」

『彼はマナを消費しすぎていますから。この場所でしばらく休息をとる必要があります。彼にはここの風精霊に言伝を頼んでおきますから、目が覚めたらまた考えましょう』


 確かに、暗黒マナを散らす時に風のマナも大量に放出させてしまった。

 精霊にとってマナの欠乏は危ない状態だろう。

 風のマナで満たされているこの場所以上に癒せる場所などない。


「分かった。地脈の中のここなら私の魔法で飛んでこれるし、度々様子を見にこよう」

『ありがとうございます』

「そういえば、ここを出たらエアリスと話せなくなるのか」

『あぁ、それは心配ありません。私はマスターの身体の中に居候する形になりますから。私が中に居る間は会話も出来ますよ』

「そうなの?」

『はい。人の身体の中、特にマスターのような魔女、それも、特異な身体であるマスターだからこそできることではあるのですが』

「ふふ、この身体のことはおいおい話してあげる。まずは私の仲間を紹介するね」

『楽しみです』


 さて、そろそろ師匠たちを追いかけないと。でもここから飛んだら時間掛かるしなぁ……と、そういえば。


「ここって安全よね?」

『? えぇ、外から侵入する方法は多くありませんから』

「ならここがいいかな。ちょっと端っこの方、借りるね」


 精霊殿の隅に要石を設置して、エクリプス・ヘリオスを開く。

 もう何度目かになる作業でだいぶ慣れてきた。

 ここは山頂に近いから地脈の流れを辿って……すでに展開している魔法陣がある、向こうが神王国側ね。そこからちょうど反対側が魔導王国。


「大地に還り、大地より生まれ、巡り、廻る力の輪。今ここに束ね、未来(あす)を繋ぐ道を照らせ。我臨むは大地の道。行く道、往く道、さぁ――天狗道(とおりゃんせ)


 地脈に作るのも悪くはないわね。

 道を繋ぎやすい。


『マスター、これは?』

「私が作った大規模転移魔法の魔法陣よ。この魔法陣が繋がっている場所なら私はどこへでも転移できる。精霊やそれに近い私の身体でしかできないけれど」

『……マスターが魔法を創るところは先ほども見ましたが、これは、前の主のように発想が飛んでますね……』

「前の主、元始の魔女かぁ。ねぇ、あとでその話も聞かせてくれる?」

『一部、秘匿情報もありますが、それでよければ』

「えぇ、よろしく。じゃあ、行きましょうか。私の身体の中に入って。魔導王国側の山道の出口へ飛ぶから」

『分かりました』


 そしてスヤスヤと眠る守護獣を横に、風の精霊殿を後にした。


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