幽霊と雷撃と防戦一方
雷神鳥の身体が揺らめく。
瞬間、景色が遠退いた。いや、私の身体が後方へ吹き飛ばされている。
雷神鳥の身体の揺らめきは、目で追いきれない程の速度で突撃された残像。
一瞬のことで身体を幽体化(透過)させるのが遅れてしまったがために吹き飛ばされたようだ。
なるほど、師匠が言っていたことが今になって身に染みる。
幽霊の身体だって万能じゃない。
昔、氷に閉じ込められた時も発動を予知できずに不意打ち気味に凍らせられたせいで閉じ込められた。
幽体化状態では物に触れることができない。だから常に幽体化しているわけにはいかない。
それこそが弱点。
「……ローブに対雷付与をしていてよかった」
予め掛けておいた対雷付与のおかげで突撃された際に生じた電撃を空中に逃がすことができた。
雷神鳥の身体は常に電気を帯びている。
「……とりあえず、一つずつ検証していきましょうか」
空中で前に進むよう働きかけ、その後方へ吹き飛ばされる力を相殺する。
静止し、改めて雷神鳥と対峙するが距離はだいぶ離れた。
逆に都合がいい。と、雷神鳥に目を向けると既にそこに雷神鳥は居なかった。
「? どこに……」
その時、背筋が凍えるような悪寒に襲われ、瞬間浮遊状態を解除して落下する。
バチッと上空で音が響いた。
雷神鳥が上空に移動しており、こちらに向けて追撃の電撃を放とうとしている。
「……ッ!」
エクリプス・ヘリオスのページを捲り、目的の魔法陣のページに手を当ててマナを流す。
声を出す時間さえもない、瞬時に発動する魔法陣の色は緑。
防御魔法陣・風。
雷神鳥と自分を遮るように魔法陣が展開したと同時に、雨のような雷撃が降り注ぐ。
「くっ!! コール!! "石槍弾雨"!!」
その雷の雨に打たれながら魔法陣を展開し、石で出来た槍を弧を描くように掃射する。
その向き先は天に構える雷神鳥。雷の雨を避けて、石の雨が天へと昇る。
しかし、その石の槍を雷神鳥は避けなかった。その必要がなかった。
石の槍はその雷の身体を突き抜けてさらに上空へと昇って行った。
「……やっぱり物理攻撃は効かないか……アーネやドリーじゃどうしようもなかったね……」
石槍弾雨は魔法ではあるが、その実態は石を飛ばす魔法。
つまり石は普通の物理攻撃になる。
「……そろそろ魔法陣が持たないか。ここの地脈の力が借りれればいいんだけど……」
まだこの山脈に要石は設置していない。
物理が効かない相手には魔法を撃つしかないけど……
ビリビリと痺れる感覚が手に伝わってくる。
この幽体化状態の身体に電撃のダメージが出ている。
つまり、あの電撃は幽霊である私に効果のある攻撃と言うこと。
別に驚くことじゃない。
精霊族の中には私のように攻撃の効かない種族もいる。
ただそんな相手にも通用する攻撃があるときいたことがある。
炎の身体や水の身体を持つ者には物理攻撃が効かないと聞くし、この身体の大元は精霊族だ。
神に近いという程だし、持っていても不思議じゃない。
幽霊的な弱点、除霊や宗教的な退魔技術が無いこの世界でも、無敵じゃないと言うことか。
「……そうなるとちょっと厳しめか……」
『こちらへ……』
「……ッ!? この、声は?」
頭の中に響くような声が聞こえる。
これは、まるで精霊同士がやると言う……
足元から、力を感じる。
いや、もっと下、地面の下から……?
この感覚は、地脈を使って移動した時と同じ感覚?
『こちらへ……』
声は下から……魔法陣も持たない。
「行くっきゃ、ないでしょ!」
魔法陣が消えかけている。時間もない。
下から漏れてくる力を導線にその根源へ意識を向ける。
大地の底へ、地脈の中へ……
パリンと魔法陣が割れる音がした。
「"転移"ッ!」
光の中へ後ろから吸い込まれる感覚。
雷撃の光が遠ざかるのと同時に背中から暖かい光を感じる。
そして眼の前が見えなくなるほどの光の奔流を抜けた先、視界が戻ると……
「ここは……」
そこは石で出来た遺跡、のように見える。
ザラつくような石ではなく、表面を磨かれた加工された石。
それが敷き詰められ、積みあげられ、作られた、神殿?
中央には祭壇のように積みあげられた儀式場があり、数段の段差がある。
その儀式場は四方に支柱があり、それを中心に魔法陣が4つ展開されている。
これは、火、水、風、地それぞれの魔法陣?
そして連結型で繋がれた中央の魔法陣。
この場所は、一体……?
『あぁ、よく来てくれました……』
声が聞こえて振り向くと、そこには一人の、少女が浮かんでいた。




