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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
第三章:師匠と先生と大樹の秘密【帝歴716年】
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幽霊と暴風と雷神鳥

 雷神鳥(サンダーバード)

 風雷山脈に住まう魔の主。山脈の主。暴風の災厄。風精の王。

 伝承によって様々に呼ばれるが、その姿を現すことは滅多になく、現れた時は国が滅ぶとも国が栄えるとも言われている。


「師匠……あれが本当に雷神鳥何ですか……?」

「さぁね。私も見たのは初めてだから。でも文献に載っている姿よりも大きいわね。文献が正確ではないのか、それとも……」

「雷神鳥に何かが起きて巨大化している?」

「推論になるし、違うかも知れないけれど……」


「考察も良いけどさぁ! 二人ともッ! アイツ、こっちを完全に狙い定めてる! どうするよ?」


 アーネが斧を構えて身構える。


「アーネ、貴方は遠距離の空を飛ぶ相手に攻撃できる?」

「……ドラゴンと戦うことがあるかと仕込みはしてきたが……そもそも、あの身体、物理的に攻撃通るのかね?」


 確かに、さっきから雷を放電しながらこちらを見据えているあの身体を見るに、身体も雷で出来ていると考えれば効かないかもしれない。


「師匠、この山脈の道が使えるのはあとどのくらいですか?」


 懐から懐中時計を取り出して時間を確認する師匠。


「おおよそ1時間もないわね。祭事が終わればだんだんと元に戻っていくから」

「ここを越えて麓までは?」

「さっきのペースで40分くらい」


 20分しか余裕がない。

 戦っても山脈を越えられなければアウトだ。

 雷神鳥を退けつつ、山を越えるためには……


「……師匠、お願いがあるんですが」

「あまり無茶をしちゃダメよ? ちゃんと追いついてくること」


 私が何か言う前に師匠は全てを理解してくれているようだ。


「師匠、私が何をするか分かって……?」

「誰の師匠だと思っているの? この状況、雷神鳥から逃げながら山を降りるのは厳しい。なら、誰かが足止めするしかないでしょう?」

「ま、シャオならそう言うだろうと思ったよ。誰かの為なら自分がってタイプだからね」


 アーネも分かっていた様子。

 ふと足元のローブが引っ張られる。

 残していたエメが前足で引っ張っている。これは向こうで呼びだしている合図か。


「オーバー」


 合言葉を伝えると開いていた耳が閉じて、口を開けた。


「あーあー、これ繋がってるの?」

「はい。あ、サリファさんちょっと離れて」

「はいはーい」

「コホン、先生。先生ならきっと一人で行くと考えていると思います。そして、きっと先生は一人で片づけられる。でもですね? 心配して待ってる人だっているんですから、無事に帰ってくることが先生の役目ってことは忘れないでくださいね」


 ルル……


「あーあたしはそこまで察しが良くないから分からないけれど、シャオリーさん! 力になれることがあったら言ってください!」


 サリファ……


「あ、ドリーも頑張ってって言ってるみたいです」


 ドリー……

 はぁ、私は人の心配ばかりで自分のことは後回しにしていた。

 でも、それはきっと間違いで、心配、助け合うのは相互に、互いになんだってこと、忘れちゃいけなんだな。


「無事に戻るから。ありがとうみんな。だから皆はこのまま馬車で山を下ってほしい。大丈夫。追いつく方法はあるから。むしろこれは、私一人じゃないと成立しない方法」

「そんな方法があるのね。まぁ貴方の事だから大丈夫でしょう。行っておいで!」


 バンっと背中を押されて倒れかける。

 あまり力も強くないのに精いっぱいの応援。

 師匠の優しさが、胸にジンと響く。


「……はい! 行ってきます!」


 幽霊としての力を全開にし、浮遊して上空で睨みを聞かせている雷神鳥へ飛翔する。

 下を見れば2台の馬車は速度を上げて峠を目指している。

 雷神鳥は馬車の動きに気づいて稲光を発した後、蒼い雷撃を飛ばそうとした。


「コール"防御魔法陣(プロテクション)(アース)"」


 その雷撃の向かう先、馬車と雷神鳥の間に地属性の防御魔法陣を展開する。

 雷撃、風属性を防ぐなら地属性の魔法。

 魔法陣に弾かれた雷撃が空中へ放電する。

 雷神鳥の眼が、私を捉える。

 どうやら私を敵と見定めたようだ。それでいい。


 ジッと睨みを利かせる雷神鳥。

 その瞳から感じるのは、怒り、悲壮、諦観……?

 なに? 感情が、心が押し寄せるように胸の内に入り込んでくる……?


 そういえば、この雷神鳥は、魔獣なんだろうか?

 その姿は雷で出来た鳥。鳥の姿をした雷……

 鳥の姿をしていても、降り立った時からコイツの鳴き声を聞いていない。

 私は……そういう存在を、知っている……


「お前は、貴方は、()()なの……?」


 雷神鳥は何も答えない。

 精霊は声帯を持たない。故に、鳴き声など響かない。

 鳥の姿を得た風の、雷の精霊。いや、この規模、存在するのか分からないけれど、大精霊と呼ぶべき存在なのかもしれない。

 だからなのか? 即座に戦闘仕掛けて来なかったのは?


「貴方は、何に怒っているの? 何を悲しんでいるの? どうして、諦めているの?」


 答えない雷神鳥は、一度距離を離し、一層雷撃を帯電させる。

 語る言葉は持たない。そう言っているように。


「……コール、"魔素眼鏡(マナスコープ)"」


 相手のマナの流れを読み取る魔法陣を眼鏡のように眼の前に展開する。

 これは魔法ギルドにあるような古代魔法陣を再現できないか思考錯誤した魔法陣。

 効果は体内のマナを見ることができるのみで、適性までは発見できない。

 が、これはこれで相手の使おうとしている魔法が分かったりするから便利だ。


 その魔素眼鏡が映し出したのは溢れるほどに満ちている風のマナ。

 流石雷神鳥。これほどのマナを抱えているのは滅多に居ない。


「……それが、貴方を苦しめている元凶なのね」


 雷神鳥の風のマナの中に、混ざるようにドス黒い渦が巻いていた。

 闇魔法の黒とは違う。美しい漆黒の黒ではない。

 ドス黒く、濁りきっていて、何も引き立てず、ただ汚すだけ。そんな黒色。

 あれが何なのか分からない。

 でもあれが雷神鳥を苦しめているのなら。


「私は、この手が届く範囲で、助けを求めるのなら、例え相手が誰であっても……」


 雷神鳥を倒すんじゃない。

 私は、この雷神鳥を助けて見せる。

 腰からエクリプス・ヘリオスを展開し、即座に魔法が使える状態にする。

 雷神鳥も、威嚇するように放電していた雷撃を収め、その力を集中しているようだ。

 戦うしかない。そして、戦いでしか彼、彼女を解放することはできない。そう確信できる。

 幽霊族故か、それとも相手が精霊だからか。

 傷つけることだけが戦いじゃない。この戦いは守るための戦い。


「助けて見せるから!」


 その決意を胸に、雷神鳥へ挑む。

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