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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
第三章:師匠と先生と大樹の秘密【帝歴716年】
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幽霊と雷神と山の主

 麓から聞こえる太鼓の音色が遠ざかっていく。

 風雨に打ち付けられながら私たちの二台の馬車は風雷山脈の唯一の登山道を登っていく。

 祭事の際だけこの道が通れる。

 それはカナーン村で祭事を行うことにより、風雷山脈に住まう神が祭りに赴くため、

 その間は山脈の道に吹き荒れるこの強烈な風雨が大人しくなるから、らしい。

 実際、この道が通れるようになっていることから、関連性がないわけではないのだろう。

 風雨の神様が居たとしても不思議ではない。

 この世界には数多の神様が住んでいるのだから。


「このペースならあと数刻で頂上に着けるはず。そこからは下り道を下って魔導王国側へ入るわ」


 師匠がどこで手に入れたのか風雷山脈の地図を見てそう告げた。


「その地図は?」

「盗賊連合から買ったのよ。ちょっと高かったかな」


 私の時はなかったな……いや、私が地図については聞かなかったからかもしれない。

 あそこは依頼者を試している節があったし。


「ところで師匠、そろそろ話してもらえますか? 師匠が魔導王国へ行く目的を」


 手紙を読んだとはいえ、師匠の口からちゃんと聞きたい。

 ジッと見つめる私に最初は目を泳がせた師匠も折れて話してくれることになった。


 向こうの馬車にいるドリー達にも聞かせてあげよう。

 腰のエクリプス・ヘリオスへ手を伸ばして、作っておいた魔法を発動させる。


「コール、"風の双子猫(ウィンド・キャッツ)"」


 緑と黒の燐光が二つ、馬車の床に浮かび上がる。

 その魔法陣から現れたのは2匹のエメラルドグリーンの毛並みと漆黒眼を持った猫。


「グリ、向こうの馬車に飛び移って。エメ、貴方はここで待機」


 みゃおと鳴いてグリが走って飛んでいく。

 精霊召喚魔法の応用で風の精霊二人に形を与えた魔法。

 だから猫が飛んでも空を駆けても不思議なことはない。


 無事向こうに着いたのを確認して、エメとグリに指示を出す。


「エメ、"レコード"、グリ、"スピーカー"」


 エメは耳をピンと立ててその場で座りこみ、グリは耳を畳んで口を開けて座った。


「師匠、準備OKです。どうぞ」

「……シャオ、その猫は何?」

「これは精霊に猫の形を与えた召喚魔法で、片方の猫が聞いたことをもう片方に風を使って伝えて、音を再生することができる魔法です」

「精霊に声帯は無いはずよね?」

「エルフのマーリンが精霊に声を再生させる魔法を使っていたので、それを応用しました。闇属性で召喚した精霊は音を伝えることができるので、風と併用して音の振動を精霊同士が送受信して離れた相手に伝えることができるんです」

「……そうだった。シャオってそうやって簡単に魔法作るんだったわね……ちょっとしか離れてないのにすっかり忘れてたわ」


 ちなみにこの方法はマーリンにも伝えたが、苦笑いをしていた。

 闇属性の適性がないから再現は出来ないらしい。

 だけどヒントにはなったと言っていた。


「まぁそれは置いといて、どうぞ、師匠」

「はぁ、分かった。話すわね」


 溜息をついた師匠は峠の先を見ながらポツリポツリと零し始めた。


「まぁ、おおよそは手紙に書いた通り……読んだんでしょう? 手紙は?」

「えぇ。下手くそな手紙でしたね。もっとまとめてください」

「う……いや、こう、我ながら感傷的になっちゃって」

「まぁ。理解できたのでいいですが。先代の魔導王陛下に会いに行くんですよね?」

「そう。私の恩人で父親のような人。王を退位したと聞いたけど今どこに居るのかは分からなかった。だから魔導王国へ着いたらまずは先王陛下を探そうと思ってたの」

「目星はついているんですか?」

「いいえ。でも、魔導王国の中でも古参で独立している国があるからそこへ行ってみようと思うの。先王陛下もあそこの長は信頼できると言っていたわ」

「その国って」

「エルフ領、アルスレイン」


 アルスレイン。魔導王国建国の際にも元よりその地に住んでいたというエルフの領地。


「でも、エルフ領は閉鎖的で交流も限られているから入れるかは分からないわ。なんとか伝手を探そうとはしているんだけど」

「それなら、丁度良かった」

「丁度良かった?」

「はい。実はエルフ領のルサイス侯爵へウィリアム殿下から親書を預かっているんです。これがあれば」

「なるほど。それは僥倖。さすがは切れ者の王子ね」


 もしかしたら師匠達がエルフ領へ向かうことも予見していたんじゃないかな?

 あの王子様、どこまで先が見えているんだろうか。


「これで目的地がはっきりしましたね」

「えぇ、目指すはエルフ領。そこで先王陛下の情報を集めるわ」


 ついでにマーリンの妹さんへの手紙も渡さないと。


「このまま何事もなく峠を越えられるといいんだけど」

「……残念ながら、そうも言ってられないみたいだ」


 前方を眺めていたアーネが呟いたので私も遠目で見れば、バチバチと電気を帯びた4足歩行の動物が群れで走ってくる。


「雷狼の群れだ。こっちに真っすぐに向かってくる」


 確かに群れがこちらに向かってくるが、おかしい。


「あの群れ、私達を見ていない?」

「あれは、追われている、のか?」


 追われている? 何に?


「……この山で雷狼を追いたてる存在は、一つしか居ないわ」

「師匠、知っているんですか?」

「風雷山脈の主、神と崇められている存在、でも、神じゃない。神は姿を早々見せたりはしない。だけど、神に近い存在」


 神に近い存在。

 そういえば師匠の図書館の中に山脈に住む魔の主達について書かれていたものがあった。

 風雷山脈に住む魔の主は、風を纏い、雷を放出し、その翼は空を覆う程巨大。


 雷狼達が私達に目もくれずに山を降りて行く。

 その後ろから、空を切り裂く雷鳴が響く中、下りてくる存在。

 その名は……


「……雷神鳥(サンダーバード)


 蒼い稲妻を迸らせて、その巨大な羽と鋭い嘴を携え、雲下へ降りて来た。

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