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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
第三章:師匠と先生と大樹の秘密【帝歴716年】
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精霊と前世とウンディーネの話

※今回と次回はマーリンが語り部です。

エルフとしての私は120年程しか生きていない若輩だが、精霊族としての私は数百年を生きていたと思う。

思うと言うのは精霊族、ウンディーネだった私にとって、時間の流れというのは意識するものじゃなかったからね。

私が生まれたのは森の中の湖だった。

今の聖王国領にあった森でね。今は……もうないんだ。

あぁ、別に感傷に浸っているわけじゃないよ。気にしないで。


ウンディーネとしての最初の記憶は水の中、泡のような揺り篭で目覚めた記憶だった。

ウンディーネを見た事があるかい?

ないか。特徴としては蒼い透き通る水のような髪をしていて、水で出来た羽衣を生来羽織っているのさ。

それ以外は人族と変わらない見た目だね。

もっと精霊見たいな不確かな存在だと思った?

そこのドリアードもだけど精霊族は人族に限りなく近づいた精霊、というのが私の結論だ。

だから元になった精霊の力を持っているだけで人族の特徴の方が強いとも言える。

声は出せなくて、常に念話で会話していたよ。

水の中だったし、それが自然だと思っていた。


ウンディーネだった頃は水の魔法、所謂精霊魔法が身体の一部のように使えていたんだ。

エルフになった今でもエルフには珍しく水の魔法に長けているのは、前世の名残かな。

エルフってのは風と地属性に適性があって、火はほぼ居ない。水は居なくもないけれど珍しい気質かな。


とはいえ精霊族の時は感じていなかったが、エルフになった今なら分かることもある。

当時の私は実につまらない人生だったのだな、と。

あーいや、精霊族全般がそうだとは言わない。気を悪くしたのなら謝るよドリアード。


ドリー? あぁ、それが君の名前か。

精霊族に固有名、か。実に君は面白い精霊族だね。


いや、精霊族に個人という感覚は無いんだよ。本来はね。

うーんなんというか、一にして全、全にして一。感覚も記憶も種族の中で共有されるんだ。

そうだね、各個人の見た事、感じた事が図書館に常に入っていて、それを誰でもいつでも閲覧できる。

と言ったら分かるかい?


クラウドきょうゆう? いや、私には君が何を言っているのか分からないが伝わったのならいいや。

そういうわけで私と言う自我を認識したのはもっと後のことなのさ。


そこのドリーは分かったみたいだね。

あぁ、そうさ。私達のウンディーネの集落は、壊滅したんだ。

私以外のウンディーネは全滅したのさ。


精霊族の殺し方を知っているかい?

土地を壊せばいいのさ。そうすれば精霊族は魔素もマナも受け取れなくなる。

どこの世にも悪い人ってのはいるものでね。

私達の集落のあった森を焼き払い、湖を蒸発させようとしたのさ。

当時のそいつらが何を求めて、何をしようとしていたのかは分からないけれど。


おかげで私達の生活圏は壊滅。

仲間もマナ切れで水に還っていったよ。

それでも何人か生き残っていたんだ。でもヤツらは弱った私達に狙いを付けた。

精霊攫い。

精霊族ってのはマナが無くなると大地に、自然に還るんだ。

ウンディーネなら水に、イフリートなら火に、ドリアードなら木に。


でも世の中好事家も多くてね。精霊族を収集する奴もいる。だいたいは貴族だがね。

奴らは生き残った私達に魔法使いを送りこんで、氷の魔法で仲間を凍らせていったんだ。


感覚を、記憶を共有する私達にとってそれは恐怖以外の何物でもなかった。

水辺が少なく、逃げることもできない中、冷たい冷気が身体を覆っていくんだ。

霜が、氷が身体を這い上がって、氷に閉じ込められる感覚。

そして意識が遠のいて、やがて消えさる瞬間まで、私達は感じ取った。何度も、何度も。


ウンディーネの氷像。

ウンディーネの体内のマナを元に溶けない氷として愛用されているらしい。


……この話はあんたにも辛そうだ。すまないね。

とにかく、私以外のウンディーネは拉致られたのさ。

私は当時一番若くて幼かったから、湖の奥の小さな池に隠れて潜んでいたんだ。

木々が守ってくれた。隠してくれたから見つからなくて済んだ。


その間、仲間が氷漬けになっていくのをずっと感じていたけどね。

それから300年くらい、私は一人でそこで過ごして、やがてその池が枯れる頃、ゆっくりと水になって死んだ。


すまないね。この辺りは私も語るのは辛い部分でね。それにそこのドリアードにも苦い部分があるようだ。

少し、休憩を挟んで今度はエルフとして転生してからの話をしよう。



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