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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
第三章:師匠と先生と大樹の秘密【帝歴716年】
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幽霊と森人と精霊の研究

 エルフ。

 この世界では多くの種族が存在している。

 その中でも亜人族と呼ばれる種族がおり、エルフはその中に分類される。

 他の亜人族であるリルズは小柄な身長で、成人しても人族の子供と同じくらいになる。

 特徴としては手先が器用で神王都でも一部のお店で働いていたのを見ている。

 ドワーフはずんぐりな体格で肌が日焼けしたように黒い。髭をがっぷりと構えていて、男性は髭の立派さが男らしさの象徴だとか。

 アーネの斧を鍛えたのもドワーフの職人らしい。ちなみに女性は髭が生えない代わりに髪がとても長いとか。

 シャーンというのは所謂獣人と言うのが一番近いと思う。

 耳や尻尾、爪に獣の特徴を持っていて、猫や犬、狼とその種族は様々らしい。


 エルフは魔導王国内に国を持っており、基本はそこで暮らしている。

 森に囲まれた国だが、内部はだいぶ発展しており、木の上で暮らす、なんてことは全然ないそうだ。


 そんなエルフだが外に出ることは稀だ。

 冒険者になるエルフもいるそうだが、基本は国内で一生を過ごす。

 ヴィリアム殿下から頼まれた書状もそういうこともあり、直接国へ届けなくてはならない。


「……エルフの、魔女?」

「あ、はい。確かに私はエルフですが……? 魔女……人からしたらそういうことになるのかもしれないですね……」

「あ、すいません。自己紹介もせずに。私は幽玄の魔女ヴィ・シャオリーと言います」

「いえ……私はエルフの精霊術師……人の世界では魔女という括りになりますでしょうか……精霊術の研究をしています。名前はロゥ・マーリンです」

「精霊術師、つまり精霊魔法について?」

「その認識で間違いありません。エルフの中では精霊術と呼ばれていますが、外の世界に当てはめれば精霊魔法という括りでしょう。故に私は外の世界では魔女ということになるかと」

「そうですか。マーリンさん、実はこの近くのカボ村というところからこの森の調査を依頼されまして。少しお話を伺いたいのです。よろしいですか?」

「そういうことですか。分かりました。どうぞ、中へ。お連れの方もどうぞ」


 案内されるままに家の中へ入ると、木の香りと馴染みのない薬の香りだった。


「これは、薬っぽいような……貴方も薬を作るの?」

「薬、そうね。これはエルフの国で作っている薬よ。でもエルフや人用じゃなくて精霊用のね」

「精霊に、薬?」

「まぁ、それはいいじゃない。それよりも貴方も、ってことは貴方も薬師なの?」

「えぇ。師匠の影響でね。それなりには作れるわ」

「そう。じゃあもし持っていたらでいいんだけど、"蒼鱗の粉末"とか持ってたりする? あれが今調合している薬に必要なのよ」

「……今手元にはないわね。家にならあるけれど」

「そう。それじゃあ仕方ないわね。ちなみにお家はどこ?」

「ここからだと北東の深霧の森」

「あぁ、やっぱりとても遠いわね」

「取ってきてあげましょうか?」

「いや、そんな遠いところへは」

「一瞬で行って帰ってこれるとしても?」

「……どういうこと?」


 ここまで一度も眼を合わせようとしなかったマーリンはようやく興味を見出したようにこちらの顔を伺う。


「言葉通りの意味よ。この森の結界、貴方が展開しているのよね? みたところこの地も地脈の影響が強い場所のようだし、エネルギーは地脈か、または木の精霊たちに集めてもらっているか……」

「へぇ、そこまで分かるの。面白いわね。人の魔女も大したものだわ」

「残念ながら、人族じゃないものでね」


 そう言って私は浮遊・透過状態でマーリンの顔へ手を伸ばした。

 伸ばした手はマーリンの顔を通り抜けて、顔が貫かれたような状態になった。

 さすがのマーリンも驚いたのか眼を見開いて口をパクパクと開けている。


「あ、貴方は……何?」

「……それを教えるのは、貴方の持っている秘密と交換ね」

「……秘密、つまりはあの子のことを知りたいのね?」


 マーリンが指差すとそこにはさっき追いかけてきた喋る精霊の子が漂っていた。


「そうね。彼女のこと、貴方の研究のこと、いろいろ知りたいの。私だって、いろいろ教えて上げれると思う。私達、いい研究仲間になれると思うのだけれど?」


 マーリンは押し黙って考える。やがて、顔を上げるとため息を一つついた。


「分かった。教えるわ。確かに貴方は他の人族とは違うようね」

「ありがとう。じゃあ早速取りに行ってくるから、一つだけ許可が欲しいんだけど。この森の結界の下を通す感じで魔法陣を展開してもいい?」

「何をする気?」

「転移の魔法陣を展開するのよ」


 こいつは何を言っているんだ? というような顔をしていたが、とりあえずは許可をくれたので魔法陣を展開する。


 範囲は結界よりもちょっと大きく、森からはみ出すくらい。これでカボ村から展開した魔法陣と重なるから転移が可能になった。


「ちょっと行ってくる。他に欲しい素材はある?」

「じゃあ、もしあればこれをお願い。この辺りじゃ手に入らないのよ」


 マーリンが渡してきたメモを見て、それらが全て家の倉庫に保管してあったのを思い出す。


「えぇ。これなら揃えられるわ。じゃあちょっとだけ待っててね」


 眼を瞑り、足元からマナを大地へと送り込む。

 魔法陣が反応し、地脈からエネルギーを吸収、循環させて地脈の通り道を確保する。

 連鎖的に繋がった魔法陣へとマナが送り込まれ、やがて深霧の森の魔法陣へそれが行き届くのを確認したところで目的地を強く思い描く。そしてそのまま呪文を唱える。


「"転移(ジャンプ)"」


 身体が大地へ吸い込まれるような感覚。それでいて激流に身を任せ、川を下っているような、そんな感覚が全身を駆け巡る。

 深い深い水の底から這い上がるように空気を求めるように上昇すると、そこは見慣れた大樹の家の玄関前だった。


「おぉ……本当に成功した。いや自信はあったけれど」


 実際、長距離の転移は初めてだったわけだが、無事に成功したようだ。


「さて、あまりゆっくりもしてられないな。えっと必要なものはっと……」


 メモを見ながら必要なものを袋に詰め込んでいく。

 そしてそれを担いでもう一度、今度は元いた森の中の家をイメージして、跳ぶ。


「"転移(ジャンプ)"」


 今度は少し慣れた激流の感覚に身を任せ、再び浮上するとそこにはルルとドリー、マーリンが来る前と同じように立っていた。


「もう、帰ってきたの?」

「えぇ。はいこれ。頼まれていたものよ」


 マーリンは恐る恐る袋を受け取って中身を見る。


「……確かに、私が指定したものが全て入っている……」

「転移してきたからね」

「……それだけの長距離の転移。あんたも地脈の力の使い方を知っているようだね。本当に、何者?」


 ……どうしようか。正直彼女に精霊族と人族のハーフってのは通じない気がする。

 彼女は精霊と精霊族の研究がメインのようだし、ごまかしは今後の関係にひびが入るだろう。

 ちょうどルルも居る。ドリーは最初から知っているし……

 話してしまおうか。マーリンを私は信じることにしよう。

 根拠はない。でも、彼女から悪意は感じられない。

 たまには直感を信じてみるのも、悪くない。


「ちょうどいいから、私のことを先に話しましょうか。ルル、貴方もいい機会だから聞いていきなさい」


 疑問符を浮かべるルルは、近くのイスに腰掛けると聞く姿勢を整える。

 チラっとマーリンをみるとドリーにもイスを勧めて座っていた。

 問題ないのだろう。


「じゃあまずは、私の生まれた場所の話をしよう。こことは違う、異世界の話を」



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