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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
第三章:師匠と先生と大樹の秘密【帝歴716年】
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幽霊と調査と正体

 朝日の森へ向かうため、まだ銀月が沈みきっていない早朝、私たちは宿屋の一階へ集まっていた。


「おはようさん。こいつは餞別だ。持って行ってくれ」


 宿屋の親父さんが渡してくれたのはサンドイッチだった。

 綺麗に切りそろえられた食パンに挟まれているのは新鮮な野菜とお肉。


「昨日の残りの鶏肉で悪いんだけどな。朝日の森でお昼を過ごすと思ったんで作っておいた」

「ありがとうございます。助かります」

「何、こっちが依頼した側なんだ。これくらいどうってことないさ。それより昨日の話、要石、だったか? 床に置くんだろ?」

「えぇ。どこかいい場所はありますか?」

「掘り返すこともないだろうし、お客が来れる場所じゃない方がいいんだろ? なら厨房でどうだ?」

「ではそこで。よろしくお願いします」


 厨房は割ときれいに掃除され、道具も手入れが行き届いていた。

 親父さん一人で運営している割にはしっかりしているなぁ。


「女房が居たんですが、早くに亡くなりまして。一人娘は冒険者になると神王都の方へ出かけてます。たまに仕送りを送ってくれるんですがね」

「そうだったんですか。もしかして、昔は奥さんが料理を?」

「分かります? えぇ、料理の好きな女房でして。一人になってからそのありがたみに気が付きました。この厨房は女房の形見のようなものなのでずっと綺麗に使っているんですよ」

「なるほど。いいんですか? そんなところにこれを設置して?」


 石を見せながら聞いてみると親父さんはニカっと笑って答えた。


「何、女房だって邪険にはしませんよ。むしろ人の役に立てるならって喜びそうだ」

「そうですか。その奥さんとは気が合いそうです。では……」


 厨房の一部の床が石床になっており、そこを一枚剥がして穴を掘る。


「埋めちまっていいんですか?」

「えぇ。他の場所も人気のない場所に埋めたりしてるから」


 要石の設置が終わった後、親父さんには悪いけれど外に出てもらい、魔法陣を展開する。


「ん?」


 展開した魔法陣に妙な引っ掛かりを感じた。

 こう、円形に広がる魔法陣が別の何かにぶつかって窪んでいるような……


「この方角は、朝日の森か」

「先生、何か問題が?」


 近くに待機していたルルが訪ねる。


「朝日の森、やっぱり何かあるみたいね。魔法陣が阻害された。多分、あの中に転移はできないわね。結界みたいなものが貼ってあるみたい」

「それは、ただ事ではありませんね」

「えぇ。別に引っかかることもあるし……気を引き締めていきましょう」

「分かりました」


 ◆


 親父さんに別れと感謝を告げて、朝日の森へ馬車を飛ばす。

 日が昇る前に入り口に着いておきたい。


「それにしても、朝日が昇る頃だけ開く入り口ってのは、なんなんですかね?」

「さぁね。でも、行ってみれば分かるでしょう」

「結界なんて張ってる森です。自然なものか、人工的なものか……何かがあると思った方がいいでしょうね」


 馬車を走らせていくと背の高い木々が見えてきた。


「あの辺りね。私の魔法陣もあの辺で干渉しているみたい」

「……普通の森に見えますけど、確かに木々が密集していて入る場所がないですね」

「もう少し行くと親父さんが言っていた入り口の場所があるらしいから、とりあえずそこまで行って見ましょう」


 言われた場所まで来たが、入り口らしき場所はない。


「ここのはずなんだけど……何もないわね」

「朝日に入り口が出来るって話ですから、もう少し待ってみましょう」

「そうね」


 しばらく待っているとやがて太陽が昇り始めた。太陽の光が森の木々を照らし始めるとざわざわと木々が揺れ始めた。


「これは……何が起きているの?」


 森に太陽の光が当たると木々が揺れて横へ動いていく。通れるような隙間がほとんどなかった森にぽっかりと馬車が通れるような道が出来た。


「こういうことだったの」

「すごいですね。木々が勝手に動くなんて」


 クイクイ


 袖を引かれた方を見るとドリーが地面を指差していた。

 そっちを見ると地面に文字が書かれている。


『このき、せいれいが、やどってるの』


「この木、精霊が、宿っている……?」

「精霊、ですか?」

「そうか、なるほど。精霊。あの木達は木であって木じゃないのよ」

「どういうことですか?」

「そうね。多分、中に入れば分かるわ」


 森の中へ馬車を走らせると予想が確信に変わる。


「これは……森に魔素が溢れてる?」

「そう。この森は魔素が強くて、自然が出すマナが強く結びつきやすい。だからここには精霊が産まれやすい環境なんだと思う」

「それと木々が動くのとどう関係が?」

「さっき言ったこと、覚えてる?」

「木であって木じゃない、ですか?」

「そう。この木に見えるもの。全部が全部じゃないけれどこれらは魔素が精霊と結びついて木の形を取っている木の精霊なのよ」

「ここにあるのがですか?」


 眼に見える木々すべてではないが、幽霊族としての感性か、精霊たちがざわついているのが分かる。

 入り口が朝日で開くのは精霊たちが起きる時間がその時間だから。

 密集して見えるのは本当の木の間に精霊たちが生めるように存在しているから。けど、


「そう。でも、精霊がここまでくっきりと見えるのはちょっと異常かな」


 木々をよく観察すれば本物の木と精霊の木、それぞれの違いが分かる。

 本物の木には虫が寄っていくが、精霊の木には虫が寄り付かないようだ。


「確かに……あ、もしかしてここで見た人影って」

「えぇ。恐らく精霊だったのでしょう。木々へ消えたというのも、その木が精霊なのだとしたら納得」

「でも、そこまで青白い顔って分かるものなんですか? この前出てきた地の精霊も顔は分からなかったのですが?」

「確かに、本来ならそうなるはずなのよ。だから、これには何か裏がある」

「先生、楽しそうですね」

「そう見える? 確かにそうかもしれない。多分これには魔法が関わっていると思うし、きっとそれは私の知らない魔法だと思う。未知の魔法に触れ合えるからかな」

「怖くは、ないんですか?」

「未知のものが?」


 コクンとルルが頷く。

 未知のものが怖い。確かに元の世界ならお化けとかよく分からないものが怖かったかもしれない。

 でもこの世界に来て、魔法という未知に出会ってから、未知とは楽しいものだと、そう思うようになったのかな?


「怖くは、ないわね。恐れるよりも好奇心が勝ってしまうみたい」

「……先生は、強いんですね」

「そんなことないよ……ん?」


 話しながら歩いていくと道の向こう側にユラユラと浮いている人影が見える。

 青白い顔にマントやフードのような服みたいなものを着込んでいるようだ。


「どうやら、向こうから現れてくれたみたいよ」


 さて、幽霊もどきの正体を解き明かしましょう。


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