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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
第三章:師匠と先生と大樹の秘密【帝歴716年】
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幽霊と朝日とカボ村の依頼

 タルワールと分かれて既に双月が空に登った頃、ようやくカボ村へ付いた。

 カナーン村へはこのカボ村ともう一つのグルタ村を経由して行くのが最短らしい。

 カボ村と聞いたときはカボチャでも育ててるのかなとちょっと思ったけどそんなことはなく、そもそもこの世界にカボチャという野菜は存在しない。

 カボチャっぽい野菜でタルボというのがあるけれど。


 そんなカボ村は人口120人程の村だが宿屋も数件存在している。さっきの行商人のように旅人が寄って宿泊することも多いらしい。

 私達もその中でも割といい方の宿屋に宿泊した。

 宿屋の親父さん曰く、この村一番の宿屋らしい。


「へぇ、あんたらが魔獣を倒したんか!」


 宿屋の一階で食事をしていた私達に、他に客が居なくて暇なのか親父さんが話しかけてきた。

 よくあの街道を通ってこれたな。とかそんな話を皮切りにマンティコア・ブルを討伐した話になって、私達が倒したことを知った親父さんはこれは奢りだとさらに料理を運んでくる。


 ドリーもルルも私もそれほど多く食べるタイプじゃないが、サリファは別らしい。

 運ばれてくる料理を黙々と食べている。


「……よくそれだけ入るわね」

「おいしいものはいくらでも食べられますから!」

「そう」


 呆れてため息を付くとドンっとテーブルを揺らしてまた料理が運ばれてくる。


「がっはっは! いいねお嬢ちゃん! いい食べっぷりだ!」

「すいません。なんか食べ過ぎてるみたいで」

「いいっていいって。あの魔獣が居たせいで行商が来なくて困ってたんだ。これはお礼だよお礼」

「ありがとうございます」

「おう。まぁ、もう一つ困ったこともあるんだが……」


 チラっとこちらを見る親父さん。

 あぁ、これは話を振って欲しいということか。


「何かお困りごとですか?」


 親父さんの顔がニカっと歯を出して笑う。


「いやー実はな? 神王都方面とは逆の道は二つ伸びているんだが、一つはグルタ村。もう一つは"朝日の森"って呼ばれてる場所なんだ」

「朝日の森?」

「あぁ。あそこは明朝、朝日の登る頃にだけ入り口が出てくると言われているからそう呼ばれているんだが、最近あそこからおぞましい声が聞こえると木こりの親父が言っててな。なにやら化け物を見たって言うんだ」

「化け物、魔獣ですか?」

「いんや、それが人の形をしていたらしい。魔獣で人型なんて聞いたことないから誰かを見間違えたんじゃないか? って聞いたんだ。でもその時、親父しか森には入っていないってんだから不思議な話だ」

「それは、どんな人だったんですか?」

「あぁ。青白い肌にボロボロのマントを羽織って、足が地面から浮いていたんだってよ。しかも、追いかけようとしたら木の中へ消えていっちまったんだってさ」

「……なるほど」

「そんで親父は不気味がって木を切りに行けなくなっちまったんだってよ。かわいそうだろ? だからさ、あんた達、よければ見に行ってくれないか?」

「……困っているのは分かりました。でも私達もカナーン村へ行かないと行けないので」

「あぁ、カナーン村へ行くのか。それなら朝日の森を抜ければ半日くらい短縮できるぞ。街道は森を迂回するからな」


 ……さて、どうしたものか。


「先生、困ってる人がいるそうですよ?」


 分かってるよルル。そんな顔しないで。

 悩もうとした瞬間にそんなこと言って。私の答えが決まってるの知ってるくせに。


「分かりました。お引き受けしましょう」

「ほんとか!? いやー助かるよ。木こりの親父にはお世話になってるからなんとかしてやりたかったんだ」

「まぁ、私達は冒険者じゃないですから。報酬とかはせびりませんよ。あ、ただお願いが一つ」

「なんだ? 出来ることならやるし用意するぞ?」

「これを」


 そう言って懐から要石を取りだす。


「この石をここの床に埋めさせていただけないですか?」

「……別に構わんが……なんだいこれは?」

「私の魔法の補助具ですよ。旅をしながら設置して回っているんです。親父さんの家なら信頼できますから」

「……おう! そんなこと言われたら断れねェなぁ! いいぜ。置いといてやる! だから調査の方を頼んだぜ?」

「はい。あ、調査した結果はどうすれば?」

「あぁ。それなら森の反対側に小屋がある。そこにいる爺さんに伝言を頼めば、火喰い鳥を飛ばしてくれるからそれで頼むわ」

「火喰い鳥?」

「あれ? 知らんか? 火を喰う鳥だ。一度食べた火の味は忘れんから村々の伝言に使うために各村には火喰い飼いが居るんだよ」


 そんな鳥が居るのか。さすが異世界。伝書鳩もファンタジー。


「分かりました。それじゃあそれで」

「おう。今日はゆっくり休んでくれ。明け方に森の道が拓くらしいからな。朝飯は用意しとくよ」

「ありがとうございます。じゃあ今日は早めに寝ましょうか。サリファ、そろそろ食べ終わって」

「ふぁい」


 口に物を入れたまま喋らない。まったくもう。


「じゃあ皆、明日は森の調査だから早めにね」

「はい」

「ゴクッ! 分かりました!」


 コクコク


 ……さっきの特徴、まさか……でもこの世界に()()は居ないはずなんだけどな?

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