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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
第三章:師匠と先生と大樹の秘密【帝歴716年】
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幽霊と魔獣とポラリス

「ふん♪ ふん♪ ふんふふん♪」


 サリファの鼻歌が馬車の後ろから聞こえてくる。

 神王都を出立してからずっとあの調子だ。

 手には作ってあげた魔陣書"ポラリス"を抱いている。


「まぁしょうがないですよ。先生の作った魔陣書はそれだけ魅力的なんですから」

「そう言ってもらえるのは嬉しいけどねぇ。貴方もそうなの?」

「はい! この魔陣書、"カシオペア"は私の宝物ですから」


 ルルに渡した魔陣書の名前、カシオペア。

 特に意味はなく、思いついた星とか星座の名前を付けてみたのだが、カシオペアとポラリス。

 意味ありげな名前になってしまった。


「まぁ、喜んでるならいいか。と、あれは……?」


 街道を次の村へ向けて進んでいると、道の分かれ道の部分に馬車が溜まっていた。

 近づいてみると行商人から乗り継ぎ馬車まで数台が立ち往生しているようだ。


「どうしたんですか?」


 近くに居た御者の青年に声を掛ける。

 気づいた青年はこちらに近寄って来た。


「あぁ、あんたらもこの先のカボ村に行きたいのかい?」

「えぇ。今夜はそこで泊まろうかと思っていたから。何かあったの?」

「カボ村に行く街道に魔獣が出たんだって話だ。聞いたことあるかい? "マンティコア・ブル"が出たんだよ」

「マンティコア・ブル……それは厄介ですね」


 マンティコア・ブル。

 マンティコアは元の世界でも聞いたことのある怪物の名前だ。

 とはいえこの辺りは似たような言葉を寄せているようで、実際のマンティコアとは違うらしい。

 この世界でのマンティコアは獅子の顔を持ち、山羊の顔と狼の顔を肩から生やし、尻尾は蠍の尻尾で鷲の羽根を持つ。

 キメラとかキマイラとかなんかそういう特徴もある気がするけどそこはいいか。


 ブルと言うのはその中でも亜種らしい。

 マンティコアのブルはかなり面倒な特徴を持っている。

 通常のマンティコアの弱点は火属性なので大抵は魔女や魔法使いと冒険者の合同パーティによる討伐が行われる。

 しかし、このマンティコア・ブルは各顔の部分に4つの属性の弱点を持ち、それを同時に攻撃しなければならない。

 仮に、1つずつ攻撃した場合、別の部位から一斉に攻撃を喰らう。そしてその間に攻撃を受けた部位が再生すると言う厄介極まる特徴だ。


「ここを迂回するならあっちの道を進めばゴダラ村の方に行ける。あんたらはどうする?」


 正直言えば迂回は避けたい。ゴダラ村の方角へ行くと風雷山脈へ行くためのカナーン村に着くルートがギリギリになる。

 そうなると山脈を越えれない可能性があり、師匠を見失うことになる。それはダメだ。


「私達でマンティコア・ブルを討伐してみましょうか?」


 そう提案すると青年は酷く驚いた顔をした。


「あんた、魔女みたいだけど一人じゃ無理だ。知っているだろう? マンティコア・ブルの特徴を」

「えぇ。でもそれでもなお私にはそれを可能にする方法があるわ」

「……そうか。まぁ俺は止めやしない。仮に討伐出来れば俺達も助かるからね。成功したら、一杯奢ってやるよ」


 ヒラヒラと手を振って去っていく青年。

 どうやら本気にはしていないようだ。


「先生、やるんですか?」

「えぇ。ここに居る人、困ってるみたいだし。それに遠回りしたら師匠に追い付けなくなる」

「分かりました。二人とも、聞いてた?」


 後ろを向くとドリーとサリファが眼を輝かせていた。


「シャオリーさん! 早速この子の出番ですね!」


 シュッシュッ!

 ドリーのシャドーボクシングの風を切る音が聴こえる。


「やる気満々ね。まぁ今回は全員の力を借りるつもりだから、よろしくね」


 三人それぞれが頷き、馬車をカボ村方面の街道へ向ける。


 ◆


 街道を走り続けると辺りが薄暗くなってきた。

 マンティコア種は凶暴だが、夜目が利く。

 そろそろ目撃情報のあった場所のはずだけど……


「サリファ。早速で悪いんだけど様子を見て来てくれる? 私の黒猫(ノワール)も付けるから」

「はい! お任せください!」


 馬車の荷台で立ちあがり、大事に抱えていたポラリスを開く。


「いくよポラリス! "コール、サモン・レイ" セットアレイ、"ホーク","ドッグ","ウルフ"」


 白い光の燐光が周囲を包み、空中に魔法陣が描き出される。

 その魔法陣は2重に重なっており、手前の物より後ろの物が少し大きくなっている。


 魔法陣の中央に白いマナが集中し、一羽の鳥が空へと羽ばたいていく。

 次に、後ろの魔法陣が120度程回転し、また白いマナが集中して今度は白い犬が地面を駆ける。

 同じようにまた後ろの魔法陣が回転し、少し体格の大きい犬、いや白い狼が地面に放逐される。


 それに合わせてエクリプス・ヘリオスを起動して私も精霊召喚魔法陣を起動し、黒猫を召喚する。

 この子の名前はノワール。

 ずっと付いてきてくれていた闇精霊に姿と名前を与えて、経験を踏ませている。

 この子はこの姿が気にいったようで、素直に言うことを聞いてくれる。


「ノワール。あっちの白い犬の背中で耳になって。何か聞こえたら同調(リンク)するのよ?」

「にゃぁ」


「アイン・ホーク、ツヴァイ・ドッグ、ドライ・ウルフ……よし、ナンバリング完了。じゃあアインは空から、ツヴァイはこのまま街道を、ドライはちょっと外れて岩場とかを見てきて」


 サリファの指示で散開する動物たち。

 これがサリファの魔法を改良して作ったポラリスの魔陣書の力。

 さっき後ろに展開していたのは私がここ一年で作った新しい魔法陣。

 その名も"配列型魔法陣(アレイ・サークル)"。

 この配列型魔法陣(アレイ・サークル)には所謂"リスト"の中のものを指定することが出来る。

 リストとは私が"コピー"の魔法で集めた様々な"形"のことだ。


 剣、槍、斧、弓、矢なんて武器から、食器、箒、丸太なんてものまで、そして犬、猫、鼠みたいな動物や魔獣なんかもストックしている。

 これの一部をポラリスにも共有してあるので、ポラリスは様々な動物や魔獣の姿で召喚することが出来るようになった。


 合わせて、今まではホーク・レイやキャット・レイ等各動物指定だった魔法も"サモン・レイ"という一つの魔法陣に統合することで処理速度を早くした。


 しかも、配列型魔法陣(アレイ・サークル)のおかげで複数の召喚にも対応している。

 配列型魔法陣(アレイ・サークル)に納められた数だけ魔法陣が展開するようになっており、3匹をセットしたなら3回魔法陣が自動で発動する。

 これにより、二つの魔法陣でいくつでも召喚できるため、3匹分の魔法陣を描くよりも低コストで運用できる。


 これが精霊召喚魔法専用の魔陣書、ポラリス。


「いやーシャオリーさん、本当にありがとうございます! おかげで召喚中も視界を自分に戻すこともできますし使い勝手が良くて!」


 そう、さっきアイン、ツヴァイとナンバリングしていたのは同調、リンクと呼んでいるが、リンクする相手を都度切り変える機能を用意したからだ。

 その中継をしているのはポラリスに約束で専属精霊となってもらった光精霊、サリファは魔陣書と同じポラリスと名付けたようだが、そのポラリスが行っている。


「それは結構。じゃあ、マンティコア・ブルを発見したら知らせて。ルル、馬車をお願い。私は荷台で警戒してるから。ドリー、出番が来たら一番槍お願いするから、準備しといてね」


「「はい!」」

 コクコクッ!


 さぁて、4人での初戦闘、マンティコア狩りと行きますか。


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