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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
第三章:師匠と先生と大樹の秘密【帝歴716年】
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幽霊と元始と古代魔法陣

「いやー急にウィリアム殿下から話が会った時はびっくりしたよ」

「本当よ。来るなら事前に連絡くれてもいいんじゃない? シャオ」


 翌日、私達は王城の地下、魔法図書館に来ていた。

 ドリーとサリファの力は昨日のでだいたい分かったし、分かってもらえたと思う。

 サリファに


「あれ? ルルさんはいいんですか?」


 と言われたけれど、ルルは別に見る必要がない。

 私の弟子だしルルのことはドリーも知っている。サリファが知らないがそこは問題ない。

 戦闘になれば嫌でも知ることになるだろうから。


「いやーごめんごめん。急な旅だったからね。久しぶり、シャルク、フィーア」

「久しぶり、シャオ」

「それで、私が来た理由だけど」

「分かってる。シュナスさんとアーネのことだよね?」

「えぇ、ここに寄ったことは知っている。貴方達も会ったのでしょう?」

「あぁ、僕達もアーネには会ったよ。これから山脈を越えるなんて言うから耳を疑ったけど」

「そりゃ私達も山脈を抜ける道のことは知っていたけれど、方法や時期は知らなかったからね。あのアーネがどこで知ったのかは分からないけれど」


 やはり、アーネは接触していたんだな。


「それで、アーネは何か言っていた? 師匠の目的とか」

「いいや。僕達には『すこーし魔導王国に行ってくるから。お土産は何がいい?』ってさ」

「ちょっと散歩に行く、って感じだったわね」


 アーネも早々ボロは出さないか。アレでも冒険者としては一流だからね。


「なんとなく察しているかもしれないけれど私達も師匠を追いかけて山脈を越えるつもりよ」

「私達、ね。それで後ろのお仲間さんか。まさかドリーまで森を出てくるなんてね」


 フィーアが私の後ろで待機しているドリー、ルル、サリファに眼を向ける。

 ドリーはフィーアに手を振り返し、久々の再会を喜んでいるようだ。

 ルルは魔法の本を持ってきては読みふけっている。

 サリファは……物珍しそうに本棚を見て回っているようだ。


「えぇ、ドリーが出れるように手を尽くしたわ」

「方法について興味あるけれど、きっと私には出来ないことだろうから別にいいわ。気が向いたら教えてね」

「ウィリアム王子に教えることになってるから一部なら直ぐに分かると思うよ」

「……ということは、転移魔法陣が完成したって言うのは本当なのね」

「えぇ」


 座っていたイスから近くの本棚の上へ転移して腰掛ける。


「今の私はここから近距離はもちろん、深霧の森まで転移可能よ」

「……いい。もう突っ込まない。貴方も大変ね。こんなとんでもないのが師匠じゃ?」


 ルルの方を見たフィーアが疲れたように肩を落として声を掛ける。


「いいえ? 毎日が刺激的でとても楽しいですよ。先生の魔法理論はこの国にはない新しい理論でそれにあやかれる環境というのはとても貴重です」

「確かに。シャオの魔法は独特というか理論もすごいからね。精霊に魔法の制御をさせて術式を高速化させたり、魔法陣を分離して組み合わせたり」


 割と普通のことやってるつもりなんだけどなぁ。

 元の世界に居た頃は前任者が残したプログラムを見て、なんでここで同じ処理を流してるの! 一つに纏めて外に出せばあっちでも使えるのに! とか。これ細分化する必要ある? 変数持たせれば一つで良くない? 見たいなプログラムばかりで時間取れれば直してたし。


 魔法陣も同じ。一つの魔法に一つの魔法陣なんてやっているから数も増えるし描くのも大変なんだよ。

 固まった処理は一つの塊にして呼び出せばいい、と最初に思ったときは何で誰もやっていないんだろうか。と思ったくらい。

 後々考えれば、あれは職業柄思いついただけで、こういう仕事してなかったら私だって思いつかなかっただろう。そういうことだ。


「まだまだだけどね。私の知る限りの魔法を解明して、吸収して、使えるようにならないと。世界一の魔女の道は遠い」

「世界一の魔女、ね。貴方の目標だもの。追いかけなさい。どこまでも」

「ありがと」


「そうそう、世界一といえば」


 シャルクが横から思い出したかのように声を出す。


「何?」

「世界一の魔女に近づけるかは分からないけれど、"古代の魔女"の話、聞いたことある?」

「"古代の魔女"?」


 なんだろう。古代ってことは古代魔法陣関連かな?


「古代魔法陣って聞いたことある?」

「えぇ」

「さすがだね。その古代魔法陣を作ったとされる古代最強にして"元始の魔女"と呼ばれた魔女なんだって。それが古代の魔女」

「元始の……魔女……」


 てっきり古代魔法陣は神様達が作ったと思っていたけれど、魔女が作ったのか。

 いや、その魔女が神であった可能性も?


「それで、その古代の魔女がどうしたの?」


 フィーアが話の続きを促す。


「あぁ。なんでもその古代の魔女、あーいや、元始の魔女って呼ぼうか。その魔女が世界中に残した古代魔法陣が七つあるって話を聞いてね。世界一の魔女を目指すシャオには教えておこうと思って」

「七つの古代魔法陣……」

「へぇ、面白そうね。確かにそれを見つけて扱えるようになれば世界一の魔女って名乗れるかもしれないわね」


 なるほど。確かに漠然と世界一の魔女を目指してきた。

 正直どうすれば世界一になれるのか分からなくて困っていたのも事実。

 分かりやすい目標が出来ればその過程で人に認められるかもしれない。


「そうね。それを追うのも面白いかもしれない。漠然と、人のために頑張っていれば認められるかなと思ってたけれど」

「気が長い話ね。いや、貴方にとってはそれでちょうどいいのかもだけど」

「まぁね。それで、その古代魔法陣ってどこにあるの?」

「さぁ?」


 ガクっと危うく本棚から落ちるところだった。まぁ、浮けるから落ちないけれど。

 ずっと上にいるのも飽きたのでふわっと下に降りる。


「知らないの?」

「あぁ。そういう話を聞いただけだからさ」

「そっか」

「まぁまぁ。でもシュナスさんとか知ってそうじゃない? 追いかけるついでに聞いてみればいいじゃない。それに案外行く道の途中にあったりするかもよ?」

「そうね。気に留めとく」


 あまり長居してもしょうがないし、そろそろ戻ろうかな。


「そろそろ戻るわ。準備もしないといけないし」

「そっか。久しぶりに会えて楽しかったよ」

「私も。また今度ゆっくりとね」

「えぇ。あ、そうだ。ウィリアム殿下から預かってたものがあったんだ」


 フィーアが手渡してきたのは封書だった。


「これは?」

「向こうの国にエルフの領地があるのを知っている? そこに住むルサイス伯爵への親書だそうだ。ウィリアム殿下の知り合いらしくてね。これを渡すために旅をしていると言えば向こうで動きやすくなるだろうと」


 これがウィリアム王子の言っていたヤツか。それにしても、エルフ、エルフかぁ。

 やっぱりいるんだなぁ。


「……あれ? これ知らない文字だ」

「あぁ、シャオは見たことないのか。これはボルガード文字。魔導王国じゃ普通に使ってる文字だから覚えたほうがいいわよ」

「なるほど……聖王国といい魔導王国といい、語学勉強用の魔法陣を考えておいた方がいいかもね」

「そんなことで新しい魔法作ろうとするの、貴方くらいよ……」


 さて、これで魔導王国でやることが増えたな。

 師匠に追いついて一発殴る……もとい事情をちゃんと聞くこと。

 エルフの領地へ親書を届けること。

 ついでに古代魔法陣があれば調査、と。


「にしても貴方は国内の旅行は楽でいいわよねぇ」

「え? なんで?」

「なんでって……貴方が一年前に貰った報酬、忘れたの?」

「……あ」

「忘れてたのね……」


 そういえば貰ってたなぁ。確かにあれがあれば適当な街はフリーパスだわ。

 村とか宿場町しか寄ってなかったから使ってなかったけれど。


「たく、ちゃんとしなさいよね」

「えへへ。ごめんごめん。じゃ、本当にもう行くわ。いろいろありがとね」

「えぇ、気をつけて」

「アーネにもよろしくな」

「分かった。ほら、サリファ、そろそろ行くわよ。ルル、ドリーも」


 コクッ


「はーい!」

「分かりました。続きはまた今度で」


 さて、と。

 じゃあ旅仕度していきましょうか。


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