幽霊と分析と聖職者の戦闘術
聖職者。
聖王国で採用されている魔法職の一つで、魔法使いや魔女と同類とも言えるし、そうではないとも言える。
彼ら彼女らが使うのは属性魔法ではなく、光魔法のみと言われている。
信仰する神が光神アルヴだからか、光属性にのみ適性のある者がよく出てくるのがかの国の特徴だ。
光魔法は師匠の文献を読んだ限りではそこまで攻撃的な魔法は多くないらしい。
多くないだけで無いとは言わないが。
「それじゃあとりあえずあたしが使える魔法をお見せしますね」
そう行ってサリファが取り出したのは杖だった。
魔法使いや魔女が使うものとは違い、先端が十字になっている。この世界でも宗教関連は十字なんだろうか?
「~~~~……~~~~……"ヒール"」
サリファは最初よく分からない言語を喋っていた。最後の言葉ヒール、回復魔法だというのは分かるけど。
チラっとルルを見るとルルは特に気になっていないようだ。
「ん? あぁ、もしかして先生はエンバルディア語を聴くのは初めてですか?」
私の視線に気づいたルルが教えてくれる。
そうか、これがエンバルディア語か。エンバルディア聖王国での共通言語。
「これがそうなのね。サリファは普通に会話できていたから」
話しているうちに白い光がドリーを包む。先程の運動で多少拳にダメージが入っていたのか。
白い光が手や足を癒していく。
「これが基礎の魔法、ヒールです」
「光魔法の基礎、回復魔法ね。なるほどなるほど。それはエンバルディア語で唱えないとダメなの?」
「いえ、光魔法が使えるのは聖王国の人だけではないので。基本的にはその人が唱えやすいものならばいいのではないかと」
その辺りの認識はこちらと同じなのね。
「ヒール以外の回復魔法は?」
「あたし、ヒール以外は使えないんですよ……」
「え? 基礎でしょ?」
「はい、基礎です。基礎しか、回復はできないんです……」
ショボーンと落ち込むサリファ。地面に手で円を描いてる。
「回復はってことは他に何か出来るんでしょ? そっちは?」
そう聴くとパァと顔を明るくして飛びあがった。
「そうです! あたしの得意分野は回復なんかじゃないのです!」
まぁ、回復に関しては今まで魔法に頼ったことないし、薬で充分だと思ってたからなぁ。
事実余り使ったことないし。
「へぇ、じゃあ何が出来るの?」
「光魔法は汎用性の高い魔法です! その中でも私はこの魔法を修めて極めて聖職者になったんです!」
そう言って今度は杖の先端にマナを集中し始めた。
白いマナの燐光、黒いマナの闇と対になる輝き。
「これは私が一番得意な魔法なんですけどね! 魔法陣の腕としてはシャオリーさんには敵わないかもですけどね!」
魔法陣の紋様は私の知らない紋様だった。文字もアルル文字でも魔法文字でもない。
それでも、見た事のない魔法陣に私の関心は一気に上がった。
なるほど、これが聖王国式か。
「……"ホーク・レイ"!」
サリファが魔法陣を描き終わり、魔法を唱え終ると魔法陣から白い鳥が空へと飛びあがる。
「これは……白い鳥、の……召喚魔法?」
「いいえ、召喚……とはちょっと違います。召喚は契約した魔獣や動物を呼びだす魔法ですが、これは先程のシャオリーさんが土精霊を召喚した魔法に近いかもしれませんね!」
「ということはその鳥は……光の精霊?」
白い鳥はしばらく空中を旋回した後、ドリーの元へ飛んでいく。
ドリーは指を空へ伸ばして白い鳥を呼びよせる。
白い鳥はドリーと見つめ合い、ドリーもまた、鳥と何かを話すように表情を変えた。
精霊同士のテレパシー、念話だろうか?
なるほど、これは所謂精霊召喚魔法、つまりサリファは……
「そっか。ということは貴方は光精霊魔法の使い手ということね?」
「はい! 私、回復系は素質が無かったんです。時間系は以前お見せした"神託"、あれは固有魔法の類ですけど。そんな私でも光の精霊との親和性だけは高かったみたいで」
「なるほどね。でも、さっきの魔法陣。内容は読めなかったけど紋様の規模からしてただ鳥型の精霊を出すだけじゃないんじゃない?」
「さっすがシャオリーさん! そこまで分かるんですね! この子は実は私と感覚を共有することが出来て、この子が見たこと、聞いたことを私に教えてくれるんです!」
へぇ、つまり、この鳥が眼となり耳となりってサリファに情報が集まるってことか。
「それは凄いわね。もしよければ後で魔法陣の作りを教えて欲しいくらいだわ」
「えーと、うーん……じゃあ交換条件でどうでしょ?」
「交換条件? 何かしら?」
「……私にマナの扱い方を教えて欲しいんです!」
「マナの?」
「はい、実は私、得意って言いましたけどこの子くらいしか出すことが出来なくて……それでも仲間内じゃ鳥を出せるのは才能あるって言われてたんですが……シャオリーさんやドリーさんを見ているとまだまだだなって」
確かにマナの込め方にムラがあったし、魔法陣を作るのももっと早くできるはずだとは思った。
それはマナの扱いに自信が無かったから慎重になっていたってことかな。
伸び白は、あると思う。チラっとルルとドリーを見ると静かに一回頷いた。
「分かったわ。弟子ってわけには行かないけれど教えるくらいはして上げる。代わりに私にも教えてね」
「はい!! ありがとうございます!」
やったー! とジャンプしてはしゃぐサリファは本当にうれしそうに笑っていた。
「さて、と。これでパーティー構成は見えたかな」
私を中心に前衛をドリーに任せて、中衛は私が状況を見て適宜、後衛にルルを置いて魔法に特化してもらおう。サリファはどちらかと言うと偵察かな。今のままだと攻撃の手段がほぼないからね。
「サリファ。ちなみに攻撃手段は?」
「これです!」
サリファは杖を前に出してくる。それはつまり
「その杖で……殴る?」
「結構固いんですよ?」
やっぱり攻撃手段ほぼ無いのね……
「分かった。とりあえずサリファ、後で勉強会をしましょう」
「勉強会?」
「そ。貴方は私に精霊召喚魔法陣を教える。私はマナの扱い方を教えてあげる。それに合わせて、貴方のその魔法を改良しましょう」
「改良……そんなことができるんですか?」
「私の手に掛かれば魔法陣を分解し再構築するくらいわけがないわ。そのために、貴方のその魔法陣を研究させてね」
「……はい! よろしくお願いします! シャオリー先生!」
「……先生?」
「はい! ルルさんがいつも先生って言っているので!」
まぁそれは弟子だし……
ルルを見るとニコニコとサリファを見ている。なんだろう、妹弟子が出来たつもりなんだろうか?
「……そういえばサリファ。貴方って何歳?」
「え? 私ですか? 16ですけど?」
「16?! え、本当に!?」
「む、あれですか。私がもっと大人にでも見えましたか? 残念でした! まだ10代です!」
「そんな歳で聖職者になれるの? シスターとかより上の役職よね? 確か」
「はい! 聖職者は魔法職でも結構上位なんですよ! 私は出来る子ですから!」
自分で言うことか。
にしても16歳か。
予想以上にルルと歳が近いな。
ルルはというと予想していなかったのか、ちょっとだけ驚いた顔をしていた。
「……もっと大人かと思ってました」
ルルの視線がサリファの胸にいっている。
サリファの胸は……良く見れば大きい。
16歳と言われれば成長著しいとは思う。
ルルの肩に手をポンと置いて顔を近づける。
「ルル、貴方はまだ伸び白がある……」
「先生……」
「私は、もう、ダメだから……」
幽霊になった私には成長も何もない。というか既に成長期は終わった身だ。
「先生、私、頑張る」
何を頑張るの? ルル?




